セント・エルモス・ファイアー(1985年アメリカ)

St. Elmo's Fire

日本でも流行ったと言われる80年代を代表する青春映画。
僕はですね、この映画、大好きなんですよ。映画としても、出来は悪くないかと思っております。
監督は『バットマン フォーエヴァー』などで知られるジョエル・シュマーカー。

まぁファッションのように流行した映画であったため、今となっては時代を感じさせる映画として、
その評価は決して高いとは言えず、軽視されがちの傾向があると思う。けど、基本的に過小評価だと思う。

決して甘いだけの青春群像ではないし、辛口になり過ぎるわけでもない。
恋愛よりも友情としてのニュアンスを強調しているようで、群像劇として良く出来ています。
たま〜に観たくなってしまう、不思議な魅力を持った映画なんですよね〜。

ベタベタではありますが(笑)、デビッド・フォスターのミュージック・テーマもドラマティックで大好きだ。
正に80年代を象徴するサウンドではありますが、自分の葬式で流して欲しいぐらい好きな楽曲なんですよね。

それはともかく、本作に出演している若手俳優たちは“ブラット・パック”と呼ばれ、
80年代半ば当時は、将来を有望視されていた若手俳優たちばかりで、
当時流行した青春映画を中心に活躍しており、実際、実力を伴った役者が多かったように思います。
しかしながら、時の流れは皮肉なもので21世紀となった今、彼らの多くは映画界のトップ・スターとは言えません。

“ブラット・パック”と称された俳優としては、
本作に主要キャストである、デミ・ムーア、エミリオ・エステベス、ロブ・ロウ、
アンドリュー・マッカーシー、アリー・シーディ、メア・ウィニンガム、ジャド・ネルソンをはじめとして、
モリー・リングウォルド、マット・ディロン、トム・クルーズ、C・トーマス・ハウエル、ダイアン・レインらがいます。

そんな彼らの輝かしい代表作と言えば、本作と『アウトサイダー』、『ブレックファスト・クラブ』でしょう。
その中でも、僕は本作が最も好きだし、感情を揺さぶられる。それだけ力のある映画だと思うんです。

この映画のテーマって、いろいろあるとは思うんですが、
大人になり切れない大人たちが体感する、世代交代の寂しさだと思うんです。
主要登場人物は同じ寮で生活し、大学卒業後も離れ離れに暮らしているわけではなく、同じ町に暮らしている。
自分勝手に生き周囲を裏切り続ける者もいれば、浮気性な心を抑えきれない者もいれば、
浮気性な恋人や挙動があやしくなる友人を心配する者もいれば、友人の恋人に想いを寄せる者もいれば、
女医に片思いをする者もいれば、厳格な家庭に阻まれ愛する人を受け入れられない者もいる。

それぞれが悩みを抱え、それぞれが迷い、行動を起こせずにいる。
そんな彼らに共通する心の寄せどころは、学生時代に毎日のように通ったセント・エルモスのバー=B
そこは夜な夜なバンド演奏があり、明け方までドンチャン騒ぎ、店員は顔馴染み。

しかし、決して楽しい日々は永遠には続かず、大学を卒業してしまえば、それは終焉を迎える。
それぞれが職業を抱え、私生活などでも様々な障害を抱え始める。お互いケンカをし、関係は破綻に近づく。

そんな壁を乗り越えた時、彼らの友情はより強固なものへと変化していきます。
そして彼らは再び、セント・エルモスのバー≠ヨ。しかし、店の前へ来て彼らは痛感します。
本作のラストで描かれるのですが、これは決して甘口なラストではありません。むしろ辛口と言っていいだろう。

店の中を見渡せば、後輩たちが数年前の自分たちのように騒ぎ、はしゃいでいる。
そこで彼らは本能的に気づくのです。「あっ、もうここに俺たちの席は無いんだ...」と。
それが一つの世代交代であり、彼らが強烈に叩きつけられる現実なのです。
まだ未練残る学生時代への懐かしさゆえ、彼らはどことなく寂しそうな表情を浮かべます。
このホロ苦さこそが、青春の感覚なのでしょうね。様々な回り道をしながらも、たどり着いた一つの到達点です。

そしてデミ・ムーア演じるジュールスの言葉が痛切に響きます。
「22歳にして、こんなに人生に疲れるなんて・・・」...強がっていても、耐え切れず漏れる本音なのでしょう。
こういったピンチを乗り越えてこそ、人生の次のステージへと進歩するのかもしれません。
そんな痛々しいまでの感情を見事にデミ・ムーアも表現していますね。

撮影当時、デミ・ムーアは薬物常用者だったらしく、
一度、あまりにおかしなテンションで彼女がスタジオ入りしたため、
監督のジョエル・シュマーカーは一度、彼女を降板させようとしたことがあるらしい。

しかしデミ・ムーアは落ちぶれませんでしたね。
その甲斐あってか、80年代後半から彼女はスターとして頭角を表していき、
結果的には“ブラット・パック”の中でも、未だに成功した女優として考えられると思います。

それまではバカ騒ぎしていれば上手くやっていけたのに、
ある時から急激にそういうわけにはいかなくなります。それは皆、社会人になってしまうからなのです。
そのギャップに悩み、彼らは苦悩し、なかなか結論を出せずに、互いを傷つけ合ってしまいます。
しかし、そんな回り道もほぼ間違いなく、彼らの人生には必要な回り道なのです。
そうして彼らは、次の道しるべ(=セント・エルモス・ファイアー)を見つけていくのでしょう。

そんな人生の岐路を80年代というバブリーな時代を舞台に描いた、青春映画の好編です。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ジョエル・シュマーカー
製作 ローレン・シュラー
脚本 ショエル・シュマーカー
    カール・カーランダー
撮影 スティーブン・H・ブラム
音楽 デビッド・フォスター
出演 デミ・ムーア
    エミリオ・エステベス
    ロブ・ロウ
    アンドリュー・マッカーシー
    アリー・シーディ
    メア・ウィニンガム
    ジャド・ネルソン
    アンディ・マクダウェル
    ジョン・カトラー
    マーチン・バルサム

1985年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(ロブ・ロウ) 受賞