スパイ・ゲーム(2001年アメリカ)

Spy Game

これは確かに何度観ても面白いベテランCIA工作員を描いたサスペンス・アクションですね。

本作製作当時は92年の『リバー・ランズ・スルー・イット』からのつながりということもあってか、
ロバート・レッドフォードの若い頃を彷彿とさせるブラッド・ピットとの共演ということで、大きな話題となっていました。
監督もトニー・スコットなので、独特な映像表現でスタイリッシュに見せてくれる作品かと思いきや、今回は少し地味。

映画は長年、CIAの工作員として世界中を駆け回って活躍していたミュアーが定年退職する日の朝、
同じくCIA職員で諜報活動を行っていたビショップが突如として連絡を絶ち、中国に身柄を拘束されたらしいと
情報が入り、すぐに副長官も集まったトップ級の会議室に呼び出され、ミュアーから事情を聞くところから始まります。

実はミュアーはビショップのことを知っていて、数多くの資料を持っていることを悟ったハーカーら、
ビショップに関する調査を命じられた職員たちは、なんとかしてミュアーから情報を聞き出そうとしますが警戒されます。
ミュアーは情報を小出しにしながらCIAの追及をかわしますが、実はミュアーにも狙いがあることが明らかになります。

トニー・スコットの監督作品としてはアクション・シーンが少ないことは否めませんが、
ミュアーの回想を一つ一つ的確に映像化しており、これはこれでトニー・スコットの悪くない仕事だと思います。

ただ、欲を言えばビショップの年齢設定ですね。映画はあくまで01年に定年を迎えるミュアーを中心に描きます。
一方のビショップは70年代半ばから工作員として諜報活動を行っていたという設定で、それをブラッド・ピットが
演じているのですが、さすがにそれにしては若過ぎる(笑)。素直に計算すると、ミュアーはビショップのことを
20年以上知っていて、長年にわたって実は上司としてビショップに指示を出していたということになるせいか、
普通に考えれば、CIAの上層部もビショップの存在を知らなかったというのは無理があり、かなり無理矢理な設定だ。

そんな最中で、ビショップは一人の女性に惚れていて、ミュアーのオペレーションから外れてしまったように描きます。
これはこれであまりに軽率過ぎる真相があるという設定で、現実的にはツッコミどころ満載な感じになっている。
まぁ・・・それでも、「これはあくまで映画だから」と開き直って楽しむ度量が必要な作品ということなのかもしれません。

とは言え、本作のトニー・スコットの映像構成はどれを取っても丁度良い塩梅で、とても良い仕事ぶりだ。

いちいち建物の屋上に日傘を立てて面会するミュアーとビショップのショットからしてカッコ良いし、
会議を中座して、ミュアーがCIA本部の廊下を歩き回りながら、ハーカーの尾行がつくなんてシーンも良い。
トニー・スコットは時としてやり過ぎてしまうこともあるのですが、本作は彼の特徴が良い方向で生かされている。

正直、ロバート・レッドフォード演じるミュアーは会議室でああでもない、こうでもないと喋るシーンがメインで
回想シーンでビショップと接触するシーンでも登場はしてきますが、ハッキリ言って彼は大したことはやってない(笑)。
一方でビショップはミュアーからの指示に従って、危険な地域で危険な任務に就くという仕事で幾多のピンチを迎える。

勝手な指示ばかり出すミュアーに対して、若いビショップがやたらと反抗するのかと思いきや、
女性についてミュアーから注意されたことを除けば、ビショップはビショップでミュアーに対して従順な部下である。
撮影当時のレッドフォードも実年齢にして60代半ばだったので、さすがに激しいアクションは出来なかったのだろう。

まぁ、実はミュアーには計画があって、会議室での混乱もある程度は想定していたということですが、
映画はそういった謎解きを前提にしているわけでもなく、あまり起伏を大きく描くこともなく、淡々と綴っていく。
それゆえ、個人的には回想形式で描く必要性がよく分からなかったというのが本音ですが、これも致命傷ではない。
観る前に僕が勝手に想像していたよりは穏やかな内容の作品ではありましたけど、これはこれで必見の一作です。

ビショップから見れば、ミュアーは伝説の工作員であり、彼にとって良き指導者であり、アドバイザーでした。
欲を言えば、このビショップとミュアーの強固な信頼関係については、もっと丁寧に描いて欲しかったかなぁ。
この辺は本作のプレゼンスを上げる意味では重要な要素だったと思うし、もっと名コンビぶりを発揮して欲しかった。
ミュアーがまるで父親であるかのようにビショップを見守っているという“距離感”は決して悪いものではないですけど。

そう、この映画のミュアーとビショップには絶妙な“距離感”がある。これがまた、良いのだ。
この“距離感”があるから良いと言えば良いのですが、これが皺だらけになる前のレッドフォードだったら、
「ホントに親子なのか!?」と言いたくなるほど似ていたので、より説得力のある映画になっていたかもしれません。

それにしても、映画のクライマックスにミュアーが敢行する彼の妻と食事するという会話がなんとも妙だ(苦笑)。
日本語訳ではありますが、「ディナー作戦、ゴーだ」なんて、どう聞いても妻との夕食の約束とは思えない会話だ。
周囲も怪しむ会話ではあるのですが、「あんな調子だもん。離婚されちゃうわけだよね」と笑われてしまう始末。
こういうこと自体がミュアーにとって追い風となっていくのですが、何気ない会話をミュアーは上手く利用します。

欲を言えば、ビショップの身柄を拘束されたということで、CIA内でミュアーに疑いの目が向けられて、
色々と調べられながらも、内部で工作活動を行う24時間の出来事を描いているのですが、もう少し観客に時限性を
意識させてスリリングに進められるように工夫はして欲しかったかな。時刻を示すテロップを付けているだけに、
もっとビショップ救出に向けて時間制限と闘っているようなスリルがあった方が、ミュアーの奮闘も盛り上がっただろう。

と言うのも、これは仕方ない部分もあるにはあるのですが、ミュアーに余裕があり過ぎるんですよね。
これはなんだか勿体ない。せっかく映画を盛り上げるために使える要素だったのに、あんまり使わないのでね・・・。

だって、本来だったら限りある時間で、米中関係の緊張を考えると救出に向けて出来ることは限られているのに、
ゆったりとミュアーがビショップについて回想するものだから、誰一人たりとも焦っている様子がないのは異様ですよ。
一応はビショップを助けられるか助けられないかの瀬戸際を描くことがポイントなので、これではあまりに勿体ない。

アクション・シーンもそこまで多くあるわけではないのですが、ラストシーンのレッドフォードはやたらとカッコ良い。
こういう姿を観ると、やっぱり本作はレッドフォードのために企画された作品だったと見てもいいのかもしれませんね。
確かに、よく言われることではありますが...レッドフォードが75年に主演した『コンドル』の後日談みたいですし。
ただ、こうして老いたレッドフォードがそれまでの映画とは違う立ち位置からスパイを表現するというのは感慨深い。

そして、かつてはレッドフォードの若き日に似ていると言われたブラッド・ピットを
まるで父親のように見守りながら諜報活動を裏で支えるなんて、レッドフォードにとっては宿命のような映画でした。

あぁ、そうそう。チョイ役ではありましたけど、シャーロット・ランプリングも出演していましたね。
確かに失礼ながらも、少々お年を召されましたけど...それでも相変わらずどこか隠し切れない色気を感じさせる。
よくよく観ると、レッドフォードもなんだか嬉しそうな表情をしていて、まるで同窓会であるかのような雰囲気でもある。

まぁ・・・彼女もクセ者であるかのように描かれているのですが、それ以上の絡みは特に無く、なんだか残念。
とりあえずのところ、シャーロット・ランプリングが相変わらずの色気を残しているのが分かっただけでも十分なのかな。

昔、某日本のテレビドラマで「事件は会議室で起こってるんじゃない。現場で起きてんだ!」って
名台詞がありましたが、本作はどちらかと言えば、その逆を描いたような映画。会議室でこねくり回せば事件になる。
そのCIAの特性を熟知しているミュアーだからこそ、色々なことの裏を読んで、様々な工作活動を重ねることが可能。
その過程で事件はドンドン肥大化していき、迫るタイムリミットを前に実は裏では壮大なプロジェクトが準備される。

少々出来過ぎなストーリーであることも否めませんが、それでも本作のトニー・スコットは良い仕事をしたと思う。
今になって思えばレッドフォードとブラッド・ピットの共演としては、最も理想的な共演の形だったのかもしれません。
さすがに2人が人質になったり、一緒になってアクションをこなすでは、映画の説得力もありませんからね。

ただ、相変わらずのカット割り、高速度撮影など随所にトニー・スコットらしさはあるけれども、
いつものスタイリッシュさを追い求めるような映像感覚とは少し違うため、そういった路線を期待されると少々ツラい。
あくまでジックリと、ミュアーがビショップをどう救出するかを描いた作品ということに焦点が集まっていて、
本来的には地味な作品だからだ。その中でもトニー・スコットが出来る最大限のことを尽くした感じがあるのが良い。

しっかし、どうでもいい話しですけど...定年退職する最後の出勤日にほぼ徹夜させられるというのは・・・
現実世界でそれやられると、最後まで組織に使われ通しな感じで、なんだかスゴくイヤな話しですね(苦笑)。。。

(上映時間126分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 トニー・スコット
製作 マーク・エイブラハム
   ダグラス・ウィック
脚本 マイケル・フロスト・ベックナー
   デビッド・アラタ
撮影 ダニエル・ミンデル
音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演 ロバート・レッドフォード
   ブラッド・ピット
   キャサリン・マコーマック
   スティーブン・ディレーン
   ラリー・ブリックマン
   マリアンヌ・ジャン=バプティスト
   デビッド・ヘミングス
   シャーロット・ランプリング