スパイ・ゲーム(2001年アメリカ)

Spy Game

これは何度観ても、なかなか面白いサスペンス・アクションですね。

重ね重ね申し上げますが、2012年にトニー・スコットが残念ながら自殺してしまいましたが、
本作のようなクオリティの高いエンターテイメントを撮れる映像作家の喪失は、凄く悔まれます。

おそらく80年代以降のハリウッドでも兄のリドリー・スコットともまた違った意味で、
映画賞レースなどとは無縁の孤高の存在であり、エンターテイメント性と彼独自のスタイリッシュな
映像表現を奇跡的に両立させ、見事な世界観を作り上げていた名匠と言っていい存在でした。

勿論、トニー・スコットの力量もってすれば、不満を感じずにはいられなかった作品もありますが、
広いハリウッドの中で見ても、比較的、当たり外れの落差が大きくない映像作家であったと思います。
ある意味では、トニー・スコット監督作品というブランドは、安心して観れるブランドでもありました。

本作は劇場公開当時、大きな話題となった作品でした。
今の映画産業ではそれも怪しいですが、本作は日本でも全国で拡大上映されており、
押しも押されぬ注目の一作として、日本でもそこそこヒットしていた記憶があります。

本作は何と言っても、ロバート・レッドフォードとブラッド・ピットの共演です。

映画ではフラッシュ・バックで語られるシーンでのみ、2人は共演しているのですが、
やはり彼らはお互いにルックスが似ていますね。本作での共演を観て、あらためて実感させられました。
かつてはブラッド・ピットがブレイクするキッカケとなった、93年の『リバー・ランズ・スルー・イット』で
ロバート・レッドフォードがメガホンを取り、彼がまるで自分の若き日を見るかのようにキャスティングしたのが、
ブレイク直前のブラッド・ピットで、同作品での存在感が話題となり、ブラッド・ピットはスターになっていきます。

そんな2人が8年越しで、やっと同一作品で共演することになったのですから、
当時の映画ファンとしては話題性が無いというわけがありません。映画の中身自体は正直言って、
大衆受けするタイプの作品とは思えませんが、そんな地味な映画で堂々と共演するというのも良い(笑)。

相変わらずトニー・スコットの映画って、スタイリッシュでスピード感満点なのですが、
一方でロバート・レッドフォードはドシッと構えてオフィスで芝居しているのがメインですが、
対照的にブラッド・ピットは戦場など、アクティヴに動き回る役柄でまるで正反対な扱いをしている。
そういう意味では、ロバート・レッドフォードのスタイルはどこかトニー・スコットの演出に相対するものかも。

この2人がアクティヴに絡み合いながら活躍するタイプの映画を期待されると困りますが、
結果的には2人のトーンを正反対に描いた方が、多様な見方ができるので正解だったかもしれませんね。
確かに退職直前のロバート・レッドフォードが戦地に駆け付ける方が、映画に説得力を持たせることはできませんね。

とは言え、もう少し映画全体として緊迫感のある駆け引きはあっても良かったかなぁ。
面白かったという感想に変わりはないのですが、コンゲーム(騙し合い)としての面白さは希薄かもしれません。

また、手に汗握るスリルがあるかと言われると、それにも該当しない感じで、
どちらかと言えば、地味な内容になっていて、ブラッド・ピット演じるビショップの命の緊張というより、
ロバート・レッドフォード演じるミュアーが会議室で、妙に追い詰められていく空気感の方が緊張がある。
この辺は観る前に、本作のどういった部分に期待をかけていたかによって、評価は大きく変わると思う。

たぶん、トニー・スコットの兄貴のリドリー・スコットが撮っていたら、もっと戦地の描写を増やして、
半分、戦争映画のようなノリでブラッド・ピット中心の映画になっていたと思うんですよね。
(まぁ・・・それはそれで観てみたかった気もしますけどね・・・)

欲を言えば、ミュアーをもっと知性感じさせるキャラクターとして描いて欲しかった。
CIAで実績を上げてきたということだけは分かるけど、これでは彼がそこまでのキレ者だったとは見えない。
フラッシュ・バックで描かれるビショップとの関わりを描いたエピソードにしても、どこか行き当たりバッタリに見えるし、
映画の終盤にでてくる「“ディナー作戦” Go!」はいくらなんでも無いだろう(笑)。なんか、カッコ悪い・・・。

そもそも妻との会話という想定で周囲が「“ディナー作戦” Go!」という電話での会話を聞いていて、
「どんな奥さんなんだよ」みたいなツッコミを入れてましたけど、さすがにあの展開であの会話は怪し過ぎる(笑)。
あの「“ディナー作戦” Go!」の言葉に何も疑問を抱かずに、そのまんま流してしまうCIAはダメでしょう。

この辺はトニー・スコットのアプローチの問題もあったかと思いますが、
シナリオ上でもミュアーをもっとスマートに描かないと、映画のスタイリッシュさが際立ちませんね。
私はこの映画、楽しめたけど、観る人によっては表層的で映像表現だけの映画と感じる人もいるでしょうね。

あと、ビショップがベイルートで出会った女性と恋に落ちるという流れも、
もう少し丁寧に描いても良かったかと思います。ビショップも訓練を受けていたはずと考えると、
ハニー・トラップの可能性を理解しながらも、彼女に本気で恋してしまうという割りには、やや唐突な印象を受けた。
どうしてそこまで気持ちが入ってしまったのか、この映画のメインテーマにあっては重要なポイントなはずです。

まぁ、完璧な映画というわけではなく、このように難点は無くはないけど、
個人的にはこれだけ安心して観れるエンターテイメントというのは凄いことと感じるので、
やはりこういう仕事がアッサリできるトニー・スコットの手腕の高さを、もっともっと評価してあげて欲しかったですね。

2時間をやや過ぎるヴォリューム感になっていますが、
映画として中ダルみすることなく、クライマックスまで一気に駆け抜けてしまう勢いもあって良い。

CIAの会議シーンとかでは、少しカット割りがうるさいカメラではあるけど(笑)、
これはトニー・スコットの趣味で仕方ないですね。個人的には好かない映像表現ですけど、
もうこれは諦めるしかないです(笑)。でも、やはりこれが彼なりに映画に勢いを与える原動力なのでしょう。
そういう意味では私は本作にあっては、しつこいカット割りが必要だったのかもしれないと思っています。

尚、この映画、映画会社の“売り方”もどうなのかと思っていて、
少なくとも戦場を舞台にした激しい諜報合戦をメインに描いた映画みたいに思って観ない方がいいです。
この映画の紹介のされ方がそんな感じに見えるんだけど、映画の多くのシーンがCIAのオフィス内で消化されます。

そういう映画を期待してしまった人には、物足りないの一言で終わってしまうでしょう。
こういうのを見ると、つくづく宣伝の仕方も大事だなぁって思います。

(上映時間126分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 トニー・スコット
製作 マーク・エイブラハム
   ダグラス・ウィック
脚本 マイケル・フロスト・ベックナー
   デビッド・アラタ
撮影 ダニエル・ミンデル
音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演 ロバート・レッドフォード
   ブラッド・ピット
   キャサリン・マコーマック
   スティーブン・ディレーン
   ラリー・ブリックマン
   マリアンヌ・ジャン=バプティスト
   シャーロット・ランプリング