スポットライト 世紀のスクープ(2015年アメリカ)
Spotlight
ボストンの地方紙“ボストン・グローブ”がスクープした、少年・少女を対象とした性犯罪を
長年教会の枢機卿が隠蔽していたという衝撃の事件を、如何に報道するかを描いたシリアス一辺倒の社会派映画。
実際に起きた事件の映画化なだけに、本作が劇場公開後にも賛否があったようですが、
結果的には2015年度アカデミー作品賞を受賞することになり、映画は大成功だったと言ってもいいと思います。
かつての『大統領の陰謀』を思い出させるような作りの映画ではあって、
このお堅い真面目一辺倒な雰囲気も含めて、社会派映画が好きな人にはオススメできますが、
この手の映画が苦手な人は勿論のこと、あまり劇的な展開のない映画にノレない人にとっても楽しめないかも。
監督は俳優出身のトム・マッカーシーで、とても現実味溢れる演出をするという点では、
優れた手腕を持っていることは分かった。ただ、確かにこれは映画として観た時に面白味に欠けるかもしれない。
いや、それが本作の大きな特徴であることは分かっているつもりなんだけど、どこか淡々とし過ぎているようには感じる。
とは言え、これは久しぶりに出来の良い社会派映画を観たなぁという実感はありました。
あくまでスクープするための方策に苦悩するという主旨の映画ですので、明確に悪を追い詰める感覚はありません。
確かにメディアが事件をスクープして、結果的にバチカンを含めて、悪事を働いた神父たちは責任を問われますが、
映画の中で当事者たちが直接的に責任を問われることも、被害者が感情を爆発させることもないという内容なのです。
勧善懲悪を求める声には応えない映画と言ってもいいので、この辺は期待してはいけない。
本質的にはジャーナリストとして、手に負えないくらいの大きさのスクープをどう報道するかにフォーカスします。
キャスティングとしては地味ですけど、2014年の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で
一気に大復活を遂げたマイケル・キートンが“ボストン・グローブ”の編集チームの中でも「スポットライト」と呼ばれる、
少数精鋭の優秀な記者たちが集まるチームのベテラン記者でリーダー格のロビンソンを演じ、高い評価を得ました。
教会を切り盛りする神父とは言え、必ずしも聖人でもなければ善人であるとも限らない。
実は幼児性愛の性的嗜好を持ち、実際に子どもたちが犠牲者となっていたという事例が数多く発生しており、
そんな訴えを聞いた地域の教会をまとめる立場の枢機卿も、加害した神父を転任させたり辞めさせたりしていた。
しかし、問題なのは弁護士を雇って被害者に示談にするように仕向け、不祥事を世の中に発信することはなかった。
それゆえ、加害した神父は事実上、野放しとなり再犯を繰り返していた神父するいたという、呆れた始末。
しかもこの事実をバチカンも把握していたのではないかという疑いまで浮上するのだから、完全に腐敗した組織だ。
こうなれば当然の展開なのですが、“ボストン・グローブ”で取材したのはボストンの神父たちに関わることですが、
実はそんな神父が世界中にいるという衝撃の事実が、後に芋づる式に明らかになり、大スキャンダルになるのです。
被害者である子どもたちのいる家族や本人にとっても、信仰はもの凄く大事な存在だから、
このような性被害に遭ったという事実を、公にしたくないという気持ちも働きやすく、示談になり易いというわけで。
べつに世の中に明るみにすることが全てではないし、必ずしもそれが幸せな結末を迎えるわけではないけど、
現代で言う典型的なコンプライアンスの問題とは言え、これは前代未聞のスクープだったというわけですね。
2001年当時、日本でも本件が報道されていたと記憶していますけど、
日本の教会でそのような被害が当時は報道されなかったせいか、あまり報道が過熱しなかったのですが、
2003年に“ボストン・グローブ”はピュリッツァー賞を受賞するなど、このスクープは大きな反響を呼んだわけです。
本作でも描かれていますが、実は“ボストン・グローブ”は1993年に性加害の疑惑がある20名の神父の
リストを「スポットライト」が受け取っており、これはロビンソンをはじめチームのメンバーが情報を軽視して、
約10年近くにも渡って放置していたということもあり、その間に被害を増長していたと思うと、負い目を感じたはずだ。
過去への反省も込めて紙面で報道したのだろうが、新聞社の内情を察するに、これは勇気のいることだったと思う。
誰だって、自分たちが不利になり得ることを報道することは避けたいだろうし、反対する勢力も強かっただろう。
しかし、当時の“ボストン・グローブ”はそれでも敢えて報道した。この意味はとても重たいものだったと思います。
映画としては、そんな“ボストン・グローブ”のスクープを妨害するような動きが弱いのは物足りないところかな。
やっぱり手強い相手を立てた方が映画は盛り上がる。その点では、相手の手強さがあまり伝わってこない。
人々の信仰を照らし合わせ思うと、バチカンを相手にするということは、確かにとても大きなことではあるのですが、
“ボストン・グローブ”を妨害する動きがほとんど描かれないのが気になった。せいぜい、ロビンソンの知り合いが
彼らの動きを牽制するのが精いっぱいで、それ以上の具体的なアクションを起こしてこないのは、勿体なかったなぁ。
映画のボリューム的にも、もう少し“拡げても”良かったかも・・・と思える部分もあって、
これだけの大スクープを描いた映画なのですから、もっと見応えがあっても良かった。ここが最大の弱点かも。
この辺はトム・マッカーシーの生真面目さからすれば、事実に忠実にと過剰に脚色しないという判断なのかもしれない。
最終的にこのスクープはローマ法王が公式に謝罪する事態にまで発展した世界的なスキャンダルですからね。
それは“ボストン・グローブ”という地方紙の記者たちがスクープしたという事実は、とても重たいものだと思います。
まぁ、報道する側として教会を相手にするということは、単に神父たちやバチカンを相手にするというだけではなく、
被害者家族も含めて信仰を生活の根底にする人々に対する挑戦にもなりかねない、という思いもあったのかもしれない。
それくらいに、巨大過ぎる存在であり、宗教は人々の生活や心に相当に深く、入り込んでいる存在だということですね。
映画の中でも語られていることではありますが、教会はとても身近な存在であり、
“ボストン・グローブ”に勤務する新聞記者の家族でも、信仰心から教会に通う家族が多くいたことでしょう。
だからこそ、恐怖心を感じつつも、報道するにも多くの障害があって、彼らの中でも数多くの葛藤はあっただろう。
本作はジャーナリズムを描いた作品でもあるわけで、見える葛藤にしても見えない葛藤にしても、
そういった厳しい状況に置かれても、如何に報道するかという点にフォーカスして描いているわけですね。
監督のトム・マッカーシーは良くも悪くも生真面目なディレクターなのだろうなぁとは思いましたが、
本作はあくまで社会派映画なのでこの葛藤についても、もっと掘り下げて描いても良かったかもしれませんね。
全く小さな事件とは言えない、世界中に広がることが予想される事件なわけですから、もっと困難があったはず。
その困難を描くからこそ、映画のクライマックスである程度のカタルシスを感じさせる題材だと思うのですが、
そこが少し物足りない。外部からも記者たちの内面にも大きな葛藤があったはずで、それは掘り下げて欲しかった。
途中で大きなテロ事件であったとは言え、「9・11」が発生して事件のスクープが遅れてしまうことも、
当事者である記者たちにとっては、きっともどかしさがあったはずで、風化することを恐れていたはずだ。
そういったジレンマというのを、しっかりと描いて記者たちの矜持を掘り下げていれば、映画はもっと変わったはずだ。
やっぱり、過去に高く評価された社会派映画というのは訴求力のある映画が多かったと思います。
オスカー受賞作品ではありますけど、僕の中では訴求力という点では本作はどこか物足りないというのが本音です。
“ボストン・グローブ”のオフィスでは、まるでカメラが見下ろすかのように、全体を見下ろす撮影があるのは特徴だ。
そう、この映画は結構カメラが良い役割を果たしていると思った。派手な演出やカットがあるわけでもなく、
これ見よがしに撮影技法に偏るわけでもなく、さり気ないのですが、実に良い仕事をしたカメラだったと思います。
また、編集も悪くないと思う。総合的にはトム・マッカーシーは力のあるディレクターだと思いますが、
もう少しずつ足りないピースが埋まれば、もっと器用でスゴい圧倒的な映画を撮る監督になると思います。
過剰にヒロイックに描いたり、扇動的な内容にせずい敢えて淡々と描いたというところだったと思うのですが、
少々、平坦過ぎる傾向に陥ってしまったようにも見え、この手の映画が苦手な人にとってはツラい内容ではあります。
その割りには映画の終わりに訴求するものが弱い。冷静に観ると、これは実にスゴいスキャンダルなのに・・・。
ただ、一方で映画を観終わってから考えたのですが...
トム・マッカーシーはメディアが悪を成敗するという構図に敢えて向けなかったところを見ると、
メディアは宗教ではないとは言え、ジャーナリズムをどうやって貫くかという矜持にフォーカスしたかったのだろうし、
そう思うと、映画の主旨は宗教(教会組織)の腐敗に絡めて、人間の信じる心を描きたかったのかもしれませんね。
(上映時間128分)
私の採点★★★★★★★★★☆〜9点
監督 トム・マッカーシー
製作 マイケル・シュガー
スティーブ・ゴリン
ニコール・ロックリン
ブライ・パゴン・ファウスト
脚本 ジョシュ・シンガー
トム・マッカーシー
撮影 マサノブ・タカヤナギ
編集 トム・マカードル
音楽 ハワード・ショア
出演 マイケル・キートン
マーク・ラファロ
レイチェル・マクアダムス
リーブ・シュライバー
ビリー・クラダップ
ジョン・スラッテリー
ブライアン・ダーシー・ジェームズ
スタンリー・トゥッチ
ジェイミー・シェリダン
モーリーン・キーラー
ポール・ギルフォイル
2015年度アカデミー作品賞 受賞
2015年度アカデミー助演男優賞(マーク・ラファロ) ノミネート
2015年度アカデミー助演女優賞(レイチェル・マクアダムス) ノミネート
2015年度アカデミー監督賞(トム・マッカーシー) ノミネート
2015年度アカデミーオリジナル脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度アカデミー編集賞(トム・マカードル) ノミネート
2015年度イギリス・アカデミー賞オリジナル脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度全米脚本家組合賞オリジナル脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度全米映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度全米映画批評界協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(マイケル・キートン) 受賞
2015年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ロサンゼルス映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ボストン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ボストン映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度シカゴ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ラスベガス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ラスベガス映画批評家協会賞監督賞(トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ラスベガス映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ワシントンDC映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度サンフランシスコ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度デトロイト映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度デトロイト映画批評家協会賞助演男優賞(リーブ・シュライバー) 受賞
2015年度デトロイト映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度インディアナ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度インディアナ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度インディアナ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度インディアナ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度サウス・イースタン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度サウス・イースタン映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ネバダ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ネバダ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度カンザス・シティ映画批評協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度セントルイス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度セントルイス映画批評家協会賞監督賞(トム・マッカーシー) 受賞
2015年度セントルイス映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度フェニックス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度フロリダ映画批評協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ノース・テキサス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ノース・テキサス映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度オクラホマ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度オクラホマ映画批評家協会賞助演男優賞(マイケル・キートン) 受賞
2015年度オクラホマ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞監督賞(トム・マッカーシー) 受賞
2015年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ヒューストン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ヒューストン映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度デンバー映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度デンバー映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度アイオワ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度アイオワ映画批評家協会賞監督賞(トム・マッカーシー) 受賞
2015年度アイオワ映画批評家協会賞助演男優賞(マーク・ラファロ) 受賞
2015年度ヴァンクーヴァー映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 受賞
2015年度インディペンデント・スピリット賞助演男優賞(マーク・ラファロ) ノミネート
2015年度インディペンデント・スピリット賞助演女優賞(レイチェル・マクアダムス) ノミネート
2015年度インディペンデント・スピリット賞アンサンブル演技賞 受賞
2015年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(トム・マッカーシー) ノミネート
2015年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度インディペンデント・スピリット賞編集賞(トム・マカードル) ノミネート
2015年度インディペンデント・スピリット賞音楽賞(ハワード・ショア) ノミネート