スポットライト 世紀のスクープ(2015年アメリカ)

Spotlight

これは近年稀に見るほど、シリアス一辺倒で押し通した社会派映画だ。
なかなか芯の通った骨太な映画で、一分の欲目もふらずに正攻法で最後まで押し通したのは圧巻ですらある。

監督はTVドラマ業界で俳優デビューし、しばらく映画界でも俳優として活動したトム・マッカーシーで、
本作でいきなりアカデミー作品賞を受賞してしまうなど、快挙を成し遂げてしまいました。

映画は教会の存在が大きな都市であるボストンを舞台に、
教会に通う子供たちが、神父たちの性的嗜好の犠牲となった事例が数多く隠蔽されていることを
地元紙グローブの記者たちがスクープするために、地道な取材を展開する姿を描いています。

こういった疑念はボストンの人々の心の奥にはずっとあったようで、
事実、数多くの被害者が発生していたものの、教会で神に誓い続ける人々にとって、
教会を告発することは、自分の宗教を失うことに相当することで、長年、我慢し続けていたという構図のよう。
ところが、神父たちの凶行は実はボストンだけではなく、世界各国の教会で起こっていたことが後に明らかになります。

そのキッカケを作った、このスクープは2001年の冬にあった実話であり、
バチカンを主導組織として世界的な隠ぺい工作を示唆する、これは実は凄いスクープである。

映画はスクープするメディア側からのみ描いているが、感情的な起伏は無く、
ただただ淡々と描かれている。メディアを英雄視する、甘さが感じられるアプローチでもなく、
トム・マッカーシーは客観性を持って、力強い映画に仕上げることに成功しており、これが高く評価されたことは嬉しい。

正直言って、かなり膨大な台詞に満ちた作品であり、
事件の構図が複雑であることから、上映時間の長さ以上に観ていて疲労感を感じる部分はある。
あまりにストレートで硬派な社会派映画なだけに、この手の映画が苦手な人にはオススメできません(笑)。
でも、それでも本作の出来はかなり良いと実感させられます。それぐらい、作り手も手応えのある作品でしょう。

実際にこれはかなりセンセーショナルな内容であり、
ノンフィクションの映画化であるとは言え、バチカンをも問題視する内容であるがゆえに、
よく本作の企画自体が、映画化が実現したものだと感心するが、インディペンデント系の製作会社ならではなのかも。

事件をスクープしたグローブ誌の報道は、2003年にピュリッツァー賞を受賞したものの、
実はグローブ誌はカトリック教会の神父たちの性的虐待という暴挙の事実は、93年の時点で
被害者の代表的存在の男性や弁護士から、20名の加害神父のリストを受け取っていたという事実があり、
グローブ誌は真剣にスクープという形で、このトピックと向き合うことができていませんでした。
ひょっとすると、この約10年間に及ぶ“放置”が原因で、被害者を拡大させていたというバッシングの矢面に
立たされる可能性もあったわけで、グローブ誌はそれまでと同様に報道しないという選択肢もありえた。

そこをマイケル・キートン演じるロビーが、実は加害神父の名簿をもらっていたことを
編集長との会議の場で明かした上で、再発をさせないための報道を行うためにはどうすべきか判断した。
勿論、これは賛否がある行動だとは思うけれども、一歩間違えると自分が、或いは自分の子供が被害者に
なっていたかもしれないとする恐怖心こそが、どのように食い止めるかを考え行動させた原動力でしょう。
(だからこそ、映画の冒頭にロビーが自分の子供を大学まで行かせたことを自慢する台詞に、意味がある)

このマイケル・キートン、ハッキリ言って、『バットマン』シリーズ以外はパッとせず、
すっかりバイプレイヤーとしてもハリウッドで斜陽の存在になってしまったかと思いきや、
本作の前年、2014年に出演した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』に続いて、
高く評価される実に素晴らしい価値ある仕事にめぐり会えましたね。見事な“復活”と言ってもいいでしょうね。

個人的には『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で
オスカーを獲得して欲しかったのでねぇ・・・授賞式当日での本人のリアクションを見れば分かる通り、
おそらく本人にもそうとうな手応えがあったはずで、受賞がならずに、本人もさぞかし残念だったことでしょう。
そうなだけに、立て続けに出演した本作でも、とっても良い存在感でベテラン俳優の風格が感じられます。
本作でもまた、映画賞レースで高く評価はされていたものの、今回はオスカー・ノミネーションすらありませんでした。
(まだまだ分かりませんが、どちらかと言えば、オスカーとは無縁な俳優なのかもしれませんね・・・)

映画の方向性としては、76年の『大統領の陰謀』と似た路線ではありますが、
本作の方がスクープすべき対象が如何なる存在なのかという点で、ハッキリとしている。

そしてスクープを目指す記者たちの姿だけではなく、事件の顛末を含めて、
真のジャーナリズム、そして真の正義について言及するという意味では、優れた力強さがありますねぇ。
この辺は事件のスクープから、10年以上経過してからの映画化というのも、ほど良い間隔だったのかもしれません。

「これは肉体的虐待であるだけではなく、精神的な虐待でもあるのだ」

映画の中でそんな台詞がありますが、
神父による子供たちへの性的ないたずら、性的な虐待とは許されることではありません。
教会に通う子供たちにとって神父たちは、まるで“神”のような存在であり、虐待の事実を告白することもできない。
あまりにショックな出来事に子供たちは、大人になるまで秘密を抱えたまま成長していくしかないのです。
それも、とてつもなく胸糞の悪い過去の忌々しい記憶を内に秘めたまま、誰にも打ち明けられずにいるのです。

これほどまでに強いトラウマに残ることはないだろうし、
全てをウヤムヤにされてしまう以上、抵抗できない失望感が長く苦しめ続けることはないだろう。
子供たちの親も、信仰のために教会へ通わせているために、教会側の隠蔽を容認してしまうケースも多かったようだ。

こういった不条理な出来事に対して、トム・マッカーシーは実に真摯に向き合って描いているし、
メディア側の落ち度についても触れながら、過剰なドラマ性を排除して、ただただ淡々と描いたことは
むしろ本作の大きな武器となっている。そういう意味では、とても地味な作品であり、派手さは全くありません。
アカデミー作品賞を受賞する映画って、いつもどことなく風格があるように感じるのですが、本作は例外ですね。

でもやっぱり、こういう映画こそ大切にしなきゃいけませんね。
いろいろな意味で、本作が高く評価されたことは、映画界に一石を投じたのではないでしょうか?

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 トム・マッカーシー
製作 マイケル・シュガー
   スティーブ・ゴリン
   ニコール・ロックリン
   ブライ・パゴン・ファウスト
脚本 ジョシュ・シンガー
   トム・マッカーシー
撮影 マサノブ・タカヤナギ
編集 トム・マカードル
音楽 ハワード・ショア
出演 マイケル・キートン
   マーク・ラファロ
   レイチェル・マクアダムス
   リーブ・シュライバー
   ビリー・クラダップ
   ジョン・スラッテリー
   ブライアン・ダーシー・ジェームズ
   スタンリー・トゥッチ
   ジェイミー・シェリダン
   モーリーン・キーラー
   ポール・ギルフォイル

2015年度アカデミー作品賞 受賞
2015年度アカデミー助演男優賞(マーク・ラファロ) ノミネート
2015年度アカデミー助演女優賞(レイチェル・マクアダムス) ノミネート
2015年度アカデミー監督賞(トム・マッカーシー) ノミネート
2015年度アカデミーオリジナル脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度アカデミー編集賞(トム・マカードル) ノミネート
2015年度イギリス・アカデミー賞オリジナル脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度全米脚本家組合賞オリジナル脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度全米映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度全米映画批評界協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞(マイケル・キートン) 受賞
2015年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ロサンゼルス映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ボストン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ボストン映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度シカゴ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ラスベガス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ラスベガス映画批評家協会賞監督賞(トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ラスベガス映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ワシントンDC映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度サンフランシスコ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度デトロイト映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度デトロイト映画批評家協会賞助演男優賞(リーブ・シュライバー) 受賞
2015年度デトロイト映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度インディアナ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度インディアナ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度インディアナ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度インディアナ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度サウス・イースタン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度サウス・イースタン映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ネバダ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ネバダ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度カンザス・シティ映画批評協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度セントルイス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度セントルイス映画批評家協会賞監督賞(トム・マッカーシー) 受賞
2015年度セントルイス映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度フェニックス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度フロリダ映画批評協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ノース・テキサス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ノース・テキサス映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度オクラホマ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度オクラホマ映画批評家協会賞助演男優賞(マイケル・キートン) 受賞
2015年度オクラホマ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞監督賞(トム・マッカーシー) 受賞
2015年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度ヒューストン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度ヒューストン映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度デンバー映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度デンバー映画批評家協会賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度アイオワ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度アイオワ映画批評家協会賞監督賞(トム・マッカーシー) 受賞
2015年度アイオワ映画批評家協会賞助演男優賞(マーク・ラファロ) 受賞
2015年度ヴァンクーヴァー映画批評家協会賞作品賞 受賞
2015年度インディペンデント・スピリット賞作品賞 受賞
2015年度インディペンデント・スピリット賞助演男優賞(マーク・ラファロ) ノミネート
2015年度インディペンデント・スピリット賞助演女優賞(レイチェル・マクアダムス) ノミネート
2015年度インディペンデント・スピリット賞アンサンブル演技賞 受賞
2015年度インディペンデント・スピリット賞監督賞(トム・マッカーシー) ノミネート
2015年度インディペンデント・スピリット賞脚本賞(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー) 受賞
2015年度インディペンデント・スピリット賞編集賞(トム・マカードル) ノミネート
2015年度インディペンデント・スピリット賞音楽賞(ハワード・ショア) ノミネート