スプラッシュ(1984年アメリカ)

Splash

これは80年代のアメリカ社会に於ける、ある種のファンタジーなのでしょう。

幼い頃、家族旅行で訪れたケープ・ゴット(ゴット岬)で、
船から落ちた少年が、溺れかかった海の中で少女に見える人魚と出会い、
そのインスピレーションを持ったまま、成人後に父から引き継いだ事業によりニューヨークで成功し、
再び人魚と再会し、瞬く間に恋に落ちたことから、騒動が巻き起こるコメディ仕立ての恋愛映画。

子役出身の映画監督ロン・ハワードの実質的出世作となった監督作品であり、
これはこれでヒットした要因というのは、なんとなく分かる気がします。

まだまだ成熟した作品とは言い難いような気がしますが、
さすがにロン・ハワードの確かな手腕というのを感じさせる演出は随所にあって、
個人的には映画の終盤に暴走するユージン・レヴィ演じる、自称海洋学者のマディソンが人魚の存在を
世間に知らしめようと躍起になるエピソードが挿し込まれる前までは、楽しむことができました。

個人的にはマディソンのような存在を登場させること自体は良いんだけど、
もう少し控え目に描いては欲しかったかなぁ。チョット、映画の雰囲気を壊しているように見えてしまった。

勿論、コメディ映画としての体裁もあるとは思うのですが、
もう少しトム・ハンクスとダリル・ハンナの恋愛劇を盛り立てる存在であって欲しかったし、
この内容であれば、映画のクライマックスの在り方も違った方が、映画が魅力的になったかもしれない。

でも、本作で描かれたようなラストの在り方にせざるをえなくなったのは、
半ばユージン・レヴィ演じるマディソンが“やり過ぎた”せいもあって、映画の性格上、
作り手が過剰な悪役キャラクターを登場させることを避けざるをえなかったこともあるように感じます。

だから、どうせやるなら、もっと徹底的にマディソンを悪役にするしかなかったと思うのです。
でも、そうは原作の段階でするつもりはなくって、2人の恋愛劇の引き立て役としたかったのでしょう。
そうなのであれば、この映画でユージン・レヴィが演じたマディソンでは、暴走し過ぎだということです。
そこのバランスが、まだこの時代のロン・ハワードにもとれていなかったのかもしれませんが、
厳しいことを言えば、2人の恋愛はアイデアの良さもあって、いくらでも面白く魅力的に描けたと思いますが、
バイプレイヤーの制御をしっかり行うことこそが、ディレクターの力量の示しどころと言っても過言ではない。

そういう意味では、この映画のロン・ハワードの演出は、
まだ脚本に依存した部分が強いというか、シナリオありきの演出に終始してしまっている気がします。

やはり90年代以降の完全にペースをつかんだロン・ハワードはそうではないんでね...
どうしても単純な比較をしてしまうと、本作の注文をつけたくなる部分が目立ってしまいますね。

まぁ、でも・・・本作でダリル・ハンナが演じたヒロインのインパクトはもの凄い(笑)。
さすがにいきなりニューヨークの観光地に、全裸で現れ、堂々と闊歩しているわけですからね(笑)。
いくら映画の撮影だったとは言え、当時、20代前半で映画への出演作数もまだ少なかった中で、
映画のヒロインであっても、こんなシーンから始まる映画に出演とは、かなり勇気がいったと思います。

ただ、この映画、あの彼女の登場シーンがあったからこそ、インパクトが作れたのでしょうね。
あれも含めて、現代のファンタジーです(笑)。だって、20代前半の金髪が美女が全裸で、
突然、昼間の観光地に出現するなんて、いくら自由の国アメリカでもそんなことはありえませんから(笑)。

ひょっとすると、これも男たちの願望の現れというか、
ブライアン・グレイザーらが、仲間内で集まって、「いきなり金髪美女が全裸で登場する映画って観たくね?」
みたいなノリで始まって脚本を執筆して、それを気に入った映画会社が製作支援をしたということなのかもしれません。

それもまた、ダリル・ハンナをキャスティングできたことによって、
見事なまでに映像として観る価値がある映画に昇華させたことに、強い意味を感じますね。
よくあるような、脚本を読むだけで十分に中身が想像できて、むしろその方が面白そうな映画というわけではありません。
この辺はロン・ハワードも、映画のアイデアそのものに助けられながら、見事に具現化させたことに価値がありました。

本作はダリル・ハンナだけではなく、まだ売れない俳優だった、
トム・ハンクスがブレイクするキッカケとなった作品であり、言わば出世作です。
そして、トム・ハンクス演じる主人公のスケベな兄貴を演じた、ジョン・キャンディにしても忘れちゃならない存在感。

こういう映画を観ると、ホントにジョン・キャンディの夭逝が悔やまれますね。
日本ではそこまで知名度の高い役者さんではありませんが、80年代はホントに数多くの映画に顔を出しています。

恋愛映画は終わり方が大事だと思っているのですが、
残念ながら本作はそのラストがそこまで上手くなかった。これはこれでセオリー通りではない、
あくまでファンタジーに徹したラストとして好きな人も多いかと思いますが、僕は別な選択をして欲しかった。

それは何者にも代え難く、そして得難い存在であるからこそ
この映画で描かれる恋愛が尊いわけで、あくまで至上の恋愛であることを貫いて欲しかったですね。
仮に同じ結末に落ち着けたとしても、もう少し違う描き方であっても良かったと思います。

それは映画監督として成熟した90年代以降のロン・ハワードであれば、
そう描いていただろうと僕が勝手に想像しているだけであって、実に勝手な意見ではあるのですが、
見ず知らずの美女から指名されて、いざ警察署に行ってみたら、いきなりキスされてメロメロにされちゃうところから
始まる恋愛を描いた映画であるからには、そんなに簡単に成就する恋愛で終わってもらっては困るのです(笑)。

総じて、そういう部分が制御されておらず、全体的に悪い意味でのラフさもあると思う。

勿論、ファンタジーとして良い側面はあるし、魅力的なストーリーではあるし、
ダリル・ハンナの魅力を存分に引き出した、80年代を象徴する映画の一つであることは認めるんだけれども・・・。

(上映時間109分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ロン・ハワード
製作 ブライアン・グレイザー
原作 ブライアン・グレイザー
原案 ブルース・J・フリードマン
脚本 ブライアン・グレイザー
   ローウェル・ガンツ
   ババルー・マンデル
   ブルース・J・フリードマン
撮影 ドン・ピーターマン
音楽 リー・ホルドリッジ
出演 トム・ハンクス
   ダリル・ハンナ
   ジョン・キャンディ
   ユージン・レヴィ
   ドディ・グッドマン
   リチャード・B・シャル
   シェッキー・グリーン

1984年度アカデミーオリジナル脚本賞(ブライアン・グレイザー、ローウェル・ガンツ、ババルー・マンデル、ブルース・J・フリードマン) ノミネート
1984年度全米映画批評家協会賞脚本賞(ブライアン・グレイザー、ローウェル・ガンツ、ババルー・マンデル、ブルース・J・フリードマン) 受賞