スピード(1994年アメリカ)

Speed

如何にも、この頃のハリウッド映画の典型例といったアクションだけど、これは何度観ても楽しい。

内容的には、ハッキリ言って、75年の日本映画『新幹線大爆破』のパクり。
だけど、僕にとってはそれはどうでもいい。『新幹線大爆破』と比較しても、遜色ないエンターテイメントだ。
逆にこれだけ『新幹線大爆破』を参考にしてもらって、日本映画界は喜ぶべきだと思う。
(しかし、実際は85年の『暴走機関車』がシナリオの元ネタと主張しているようだ・・・)

それまでは『ブラック・レイン』や『氷の微笑』などのカメラで、
ハリウッドでも売れっ子カメラマンとして有名だった、オランダ出身のヤン・デ・ボンが
満を持してハリウッドで監督デビューを果たしたわけで、めでたく本作は世界的大ヒットとなります。

おりしも僕も劇場公開当時、本作が大ヒットしていたことはよく覚えていて、
確かマクドナルドともタイアップ企画を組んでいたいたはずで、当時は日本マクドナルドも今みたいに
経営が大変な状況ではなかったため、本作とのタイアップ企画も大当たりだったはずだ。

しかし、本作の大ヒットで気を良くしたハリウッドのプロダクションは、
ヤン・デ・ボンと次なる企画を組もうと目論んだのが、当時のセオリーであった大ヒット映画の続編だ。

97年に本作の第2作が鳴り物入りで劇場公開されましたが、これが内容的にも大失敗。
これでヤン・デ・ボンのキャリアは完全につまづいてしまった感じで、残念ながら21世紀は生き残れなかった。
こうして大ヒットの続編が製作され、大失敗してしまうという展開も、当時のハリウッドらしい展開だ。
この被害者はハッキリ言って、ヤン・デ・ボンだけではない(笑)。もう今は、そんなバブリーな時代ではないけど・・・。

映画の焦点は、時速50マイル(時速80キロ)以下に減速したら爆発する爆弾を仕掛けられた、
ロサンゼルスの市街地を疾走するバスを救出しようと飛び乗ったSWAT隊員と、遠隔操作する脅迫犯の攻防ですが、
この手に汗握る攻防だけにスポットライトが当たった映画というわけではなく、映画の冒頭でSWAT隊員のジャックが
何故、脅迫犯から目を付けられるようになったのかを説明する、エレベーターでの駆け引きが描かれるのですが、
この序盤の駆け引きの時点で、十分に緊張感があって引き締まっており、実に上手く構成できていると思います。

もう本作の公開から20年以上の歳月が経過していること自体が信じられないけど、
未だに内容が古びていないことに驚きを禁じ得ないし、何度観てもしっかり楽しめるのが凄いと思う。

徹底して悪党として爆弾脅迫犯を描き通したのも印象的で、
今は亡きデニス・ホッパーの芝居も素晴らしい。これはアクション映画の悪役としては傑出したキャラクターだろう。
特に70年代〜80年代のデニス・ホッパーは恵まれていませんでしたから、本作への出演は大きかったのでしょうね。

この映画は細かなところを、いちいち気にしていたら始まりません。
確かに時速80キロ以下になったら爆発したらバスごと爆破すると脅かされている設定なのですが、
高速道路を失踪するバスの動きを観ていると、正直言って、明らかに時速80キロを下回っているが爆破されない。
特に時速80キロ以上の速度では、ほとんどのカーブが曲がれないはずなんですけどね・・・(苦笑)。

でも、そんなことを気にせずに、堂々と描いているところが凄い。
映画の後半には約15m、未完成の高速道路区間があって、フルアクセルで勢いをつけて、
未完成区間をジャンプして乗り越えようとするシーンにしても、もうメチャクチャで現実性は皆無。

この如何にもハリウッドのプロダクションらしい強引さをやり遂げた、ヤン・デ・ボンは素晴らしかった。
しかし、実は本作は莫大な予算が用意されていた作品ではなかったらしい。本作の撮影現場は苦労したのでしょう。

ハイウェイを時速80キロ以上で疾走するバスの撮影だけでなく、
複数回ある爆発シーンにして随分ともド派手に見えると、実際の撮影現場ではかなり経費節減に努めていたらしく、
映画のクライマックスにはジャンボ機の爆発シーンもあり、いろいろな工夫をしてこういったシーンを撮影したらしい。
今はこういった創意工夫のある映画を撮る映像作家がいなくなってしまいましたから、実に貴重な成功例ですね。

本作の製作費は約3000万ドルでしたが、
97年に製作した続編の製作費は約1億ドルで、興行的に大ゴケしてしまったがために、
全米の興行収入としては、製作費の半分も回収できず、ヤン・デ・ボンは一気に窮地に陥ってしまいます。

本作の精神が残っていれば、続編の大失敗もあそこまでではなかったと思うんですがねぇ・・・。

本作の大成功はヤン・デ・ボンに続編製作のチャンスが与えられただけでなく、
主演のキアヌ・リーブス、ヒロイン役のサンドラ・ブロックが一気に人気俳優へと押し上げ、
特にサンドラ・ブロックは2000年代にかけて、ハリウッドを代表するトップ女優の一人になり、
09年の『しあわせの隠れ場所』ではアカデミー主演女優賞を受賞するまでになる、大成功をおさめました。

クライマックスの地下鉄でのエンディングは出来過ぎな感もありますが、
2人とも大スターに一気に駆け上がったことを考えると、キャスティングにも先見の明があったのでしょう。

次から次へとスリルを連続させるため、息をもつかせぬ映画とは正に本作のことですが、
そういったスリルの要素を次から次へと連続させ、見事に並べることができたことに功績があるのでしょう。
特に序盤はエレベーターでのスリル、中盤はバスでのスリル、終盤は地下鉄でのスリルと見事な展開だ。
その中でも、バスに爆弾を仕掛けられるというエピソードのインパクトが強いだけに、バスのスリルばかりが
注目されがちな作品ではあるのですが、エレベーターにしても地下鉄にしても、なかなか素晴らしい出来です。

当時、既にハリウッドでは映像技術が発達していて、
CGにしても、ある程度の映像表現は可能だったことを考えると、本作のシーン演出の多くは、
CGで表現しようと思えばできたのに、さすがはヤン・デ・ボン、全くCGに頼らず描き通したのは立派でした。

できることなら、こういうエキサイティングな映画がコンスタントに発表される時代になって欲しいんだけどなぁ〜。。。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ヤン・デ・ボン
製作 マーク・ゴードン
脚本 グレアム・ヨスト
撮影 アンジェイ・バートコウィアック
音楽 マーク・マンシーナ
出演 キアヌ・リーブス
    デニス・ホッパー
    サンドラ・ブロック
    ジェフ・ダニエルズ
    ジョー・モートン
    アラン・ラック
    グレン・プラマー
    リチャード・ラインバック

1994年度アカデミー音響賞 受賞
1994年度アカデミー音響効果編集賞 受賞
1994年度アカデミー編集賞 ノミネート
1994年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞
1994年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞