スピード(1994年アメリカ)
Speed
本作が劇場公開されたとき、僕はまだ映画にほとんど興味がなかったのですが...
それでも当時、マクドナルドが「ハンバーガーを食べて『スピード』を観よう!」(逆か?)みたいなキャンペーンを
やっていて、かなり話題になっていたことをよく覚えていて、当時は学校でも話題になっていた記憶があります。
如何にも90年代に作られたハリウッド製アクション映画という感じですが、これは確かに面白い。
巷で噂される日本映画の『新幹線大爆破』とは、確かによく似ているけど、べつに丸々パクリというわけではない。
それまでは『氷の微笑』などの撮影監督として有名であったヤン・デ・ボンの初監督作品で、
おそらく周囲の協力もかなりあったのだろうけど、よく頑張っていると思います。特に悪役のデニス・ホッパーが良い。
映画の最大の見どころは、起爆スイッチが作動してしまい減速も許されないバスが高速道路を疾走し、
キアヌ・リーブスが強引に乗り込んで乗客を助けようとする部分ではありますが、冒頭から一気に突き進む、
オフィスビルのエレベーターで仕掛けられた爆弾を除去して、人命を救おうとキアヌ・リーブスらが奮闘するところから、
最大の見せ場であるバスの乗客を助けるシーン、そして最後の地下鉄での攻防と息つく暇ない圧巻の展開である。
本作が世界的に大ヒットしたため、97年に続編が製作されましたが、この第1作には遠く及びませんでした。
ハッキリ言って、作らなきゃ良かった続編とも思えましたけど、それくらいこの第1作は奇跡的なほどに面白かった。
そんな魅力が詰まった作品と気付いたのも、僕は中学生になってからだったので、ブームには乗り遅れてました(笑)。
本作の中でテロ犯の標的として狙われたエレベーター、バス、地下鉄と密室になり易い空間で
テロに対する克服し難い脆弱性がある乗り物を描いていて、これはこれで面白い発想だと思ったのですが、
やはり警察組織に恨みを持つデニス・ホッパー演じる爆弾テロ犯が、丁度良い庶民的な狂いっぷりで印象的ですね。
本作の世界的な大ヒットは、主演のキアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックの2人をスターにのし上げただけではなく、
斜陽の存在だったデニス・ホッパーも再注目させるキッカケとなった作品となったことでも価値ある一作となりましたね。
爆弾を仕掛けられたバスの昇降口に監視カメラを仕掛けられていて、犯人がずっと見張っているというのもミソ。
人質を化した乗客が降ろされているのを見たら、ステップに仕掛けた爆弾を爆発させると脅迫してきます。
それにひるまずSWAT部隊の隊員としてバスに乗り込み、クレージーな犯人と駆け引きをしながら爆弾を探します。
この上映時間と映画の時間軸をシンクロさせながら、スピード感いっぱいに一気に見せるアクションが実に面白い。
実は本作、製作費4000万ドル以下だそうで当時のハリウッド製アクション映画としては、
製作費が少なく、ある意味では低予算な部類で作られた作品。確かに後半の飛行機の爆発シーンと、
クライマックスの地下鉄が未成線に特攻してくるシーンは派手でしたが、それ以外は派手な爆破シーンやCGは無い。
作り手のアイデアを凝らした撮影現場は工夫の塊のようで、前述の派手なシーン演出に於いても、
限られた予算内で撮影するために、色々なことを利用している。飛行機の爆発シーンは退役した航空機を利用して、
どのみち解体する運命であった飛行機を使い、安全な環境で爆破したことで臨場感ある撮影を可能にしました。
地下鉄が特攻してくるシーンに於いては、暴走する地下鉄はミニチュアを作って映像表現することにして、
地下鉄に模したバスをセットに突っ込ませることで、実際の地下鉄車両を使わずに撮影したそうで、よく考えましたねぇ。
映画の序盤にあるエレベーターに仕掛けられた爆弾を解除しようと主人公らが奮闘するシーンにしても、
派手さはないものの、巧みにカットを割ったりしてスリリングに見せることに成功していて、本作の魅力になっている。
正直、ヤン・デ・ボンがここまでのアイデアマンだったというのは知らなかったし、見事に周囲の期待に応えましたね。
これだけの力量がありながら、どうして本作の後に映画監督として活躍できなかったのかが不思議でなりませんが、
第2回監督作品となる96年の『ツイスター』からは一気に製作費が上がりました。それで堕落してしまったのかな・・・。
キアヌ・リーブスは続編には出演せず、ヒロインを演じたサンドラ・ブロックのみが続編に残りました。
これは劇中、主人公が語っている危機的状況で結ばれた2人の恋は長続きしない、ということを踏襲したわけですが、
やっぱり続編にキアヌ・リーブスが出演しなかったことは正直、痛かったと思う。ジェイソン・パトリックも頑張ったけど。
本作でもこの2人はああでもないこうでもないと、お互いに言い争ったり、協力し合いながら、
なんとかして危機を乗り越えていくという展開なのですが、このヒロインも少々不可解な行動をとってしまう。
特に映画の終盤で地下鉄内での危機を迎える前には、動くなと言われていたにも関わらず救急車から降りたり、
全米が注目していた爆弾テロに巻き込まれた当事者としては、あまりにお粗末な危機感ゼロな行動をとってしまう。
まぁ、だからこそ映画は成り立つのですが、そこに助けに来るスーパーマンな主人公という設定なので、
やっぱりこのヒロインにはSWAT隊員のジャックじゃないとダメなんですね。それくらいインパクトが強いキャラでした。
ジェイソン・パトリックには悪いけど、本作のキアヌ・リーブスは超えられなかったので、そりゃ続編はキツいですよ・・・。
『新幹線大爆破』との類似性を語られ易い作品ではありますが、あくまでスピードを落とせば爆発するという、
脅迫内容の中、事態を解決することの難しさを表現したという点で共通しているだけで、コピー映画ではない。
『新幹線大爆破』では爆弾を仕掛ける犯人を高倉 健が哀愁いっぱいに演じていましたが、本作のデニス・ホッパーは
脅迫されてあたふたする警察組織を見て、嬉々として喜んでいる感じで「さぁ、どうする!」が名フレーズになりました。
警察を挑発するように積極的に交渉してくる姿から、本作は主人公vs犯人という構図をより明白にしています。
この対決構図が本作の大きな魅力となっていることも忘れ難く、これも映画を面白くする一助となっているように思う。
思えば、キアヌ・リーブスとデニス・ホッパーは86年の『リバース・エッジ』でも共演しており、
本作での共演は2回目であり、息はピッタリ。最後の最後まで往生際の悪さを見せるデニス・ホッパーは印象的だ。
そうなだけに、この犯人がアッサリとやられてしまったのは少々予想外で、ここはもっと粘っても良かったかも・・・。
まぁ・・・とは言え、これはエンターテイメント性豊かなアクション映画として、お手本のような作品である。
おそらく当初の脚本では、いろんなエピソードがあったのでしょうが、一切の無駄を削ぎ落した感じも良いですしね。
作り手が本作を通して、観客に何を観て欲しくて、どう感じて欲しいのかが明確になっているのが好印象でした。
多少なりとも荒唐無稽なアクションもあるにはありますけど、それでも見事なノンストップ・エンターテイメントだ。
ヤン・デ・ボンもずっとこの路線で頑張ってくれたら良かったのになぁ・・・。なまじ金があると、どうもダメですね(苦笑)。
正直、未完成の高速道路の途切れている部分を猛スピードで走り抜けてジャンプするとか、
物理法則に反するような現実世界では起こり得ないことを、実に堂々と描いているのも妙に好感が持てる。
あれを乗り越えられるなんてスゴくタフなバスだなぁと感心させられますが、アメリカのバスってタフそうなイメージ。
時代のせいもあるかもしれませんが、日本のそこらの路線バスと比べても、アメリカのバスは実に頑丈そうですね。
しかし、バスって本作のように停車できないのは究極的な窮地になりますけど、
最近は日本でも高速道路やら一般道で火災を起こす事故が、何度かマスコミで報道されているのが気になります。
勿論、かつてもあったことなのだろうけど、今はかつて報道しなかったような事故も、報道されているのかもしれない。
とは言え、車両火災って一歩間違えると犠牲者を出すし、特にガソリンを積んでいるので爆発的に燃えますからね。
テロ対策だけではなく、あらゆるリスクに対策は講じられているのだろうけど、残念ながらゼロリスクは難しいです。
そう思うと、現代のテクノロジーの力を借りて、万が一の事態のための対策をアップデートすることは必須なのでしょう。
そもそも営業車両に監視カメラやら爆弾やらを、簡単に仕掛けられてしまうことが現代では問題になりますからね。
でも、かつての営業所(車庫)は部外者が侵入することに対して無防備だったという事業所もあったでしょうしね。
デニス・ホッパー演じる爆弾魔がどのような手段で仕掛けたのかは分かりませんが、関係者に扮したのかもしれません。
今は一般企業の事業所でもテロ対策が必要と喚起される時代になってきました。
テロにも色々な形がありますけど、自分は食品会社に勤務しているので“フードテロ”というキーワードがあります。
さすがに爆弾を仕掛けられるというのとは違いますけど、故意に危険物を食品に混入させるテロ行為ですね。
結局は無関係な人に危害を加えるという手段を選ばぬテロであるというのは、本作の悪党と本質は一緒なんですね。
(上映時間115分)
私の採点★★★★★★★★★☆〜9点
監督 ヤン・デ・ボン
製作 マーク・ゴードン
脚本 グレアム・ヨスト
撮影 アンジェイ・バートコウィアック
音楽 マーク・マンシーナ
出演 キアヌ・リーブス
   デニス・ホッパー
   サンドラ・ブロック
   ジェフ・ダニエルズ
   ジョー・モートン
   アラン・ラック
   グレン・プラマー
   リチャード・ラインバック
1994年度アカデミー音響賞 受賞
1994年度アカデミー音響効果編集賞 受賞
1994年度アカデミー編集賞 ノミネート
1994年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞
1994年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞