スペース カウボーイ(2000年アメリカ)

Space Cowboys

かつて、82年の『ファイヤーフォックス』で米ソ冷戦の緊張を描いたイーストウッドが、
米ソ冷戦時代の遺物であり、大きな秘密を抱えたソ連の衛星が地球に落下することを防ぐために、
60年代当時の技術を知る、お爺ちゃんたちを訓練して宇宙空間で修理作業をさせる姿を描いたアドベンチャー。

イーストウッドはもとよりトミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ジェームズ・ガーナーと
ベテラン俳優たちがしっかりと脇を固め、時にユーモラスでハートフルなドラマに仕上がっているのも良いですね。

まぁ、正直言って、イーストウッドの監督作品として観れば平均的なレヴェルであると思う。
特別に「これは傑作だ」と称賛するほどの出来だとは思わないし、欲を言えば・・・というところもあったと思う。
NASAの管制センターにしても、宇宙船内の描写にしても、宇宙空間の描写も気合が入ったところを見せてくれる。

スペクタクルな感じは希薄ので、あまり緊張感のあるタイプの映画でもないのですが、
イーストウッドはユーモラスに描いているからこそ、本作で目指したものは純然たるエンターテイメントだったのでしょう。
年老いた宇宙飛行士で、彼らが熟知している「技術」というのが現代では“遺物”となっているという設定が、
映画のタイトルになっている通り、まるで老カウボーイが現代社会の中で活躍する姿とカブるように見える。

例え、宇宙が舞台の映画であっても、どことなく西部劇の様相を呈してしまうのが、
イーストウッドの監督作品の特徴ですが、本作もラストに哀愁すら感じさせる、何とも言えない味わいがある。

欲を言えば・・・というレヴェルではあるのだけれども...
宇宙に出てからの主人公たちの活躍が、あまり大きな困難がなく描かれてしまっていて、
衛星に隠された秘密を知るまでの時間も短くて、全体的にアッサリし過ぎているような気がするのは物足りない。
映画の尺を気にしたのかもしれませんが、個人的には宇宙に出てからの描写に力点を置いて欲しかったけど、
老人たちが宇宙に出るためのトレーニングをNASAでこなすというアイデアの面白さに執着してしまったようで、
どちらかと言えば、宇宙に出るまでの時間のウェイトが大き過ぎるような気がして、ここは何とかして欲しかったなぁ。

まぁ、やっぱり老人たちなので無重力空間での活動は困難を極めるはずと考えると、
宇宙空間に出てからの苦労というのが、もっと前面に出して描いた方が良かったとは思いますね。

それでも、無音の宇宙空間の不気味さ、それでいて月への憧れを胸に
“最終手段”を苦渋の決断するなど、なかなか力強いシーンがあるし、ラストシーンはどこか粋ですらある。
こういうアプローチができるのは、ハリウッド広しと言えど、やっぱりイーストウッドぐらいなのではないかと思いますね。

空を飛ぶということは『ファイヤーフォックス』でイーストウッドが表現していたことでしたが、
正直言って、『ファイヤーフォックス』から18年も経ってから、今度は宇宙飛行をテーマにした映画を撮るなんて、
本作劇場公開当時はかなり意外な出来事だった記憶があります。そのせいか、実は当時はそこまで良い出来とは
思えなかったのだけれども、何度か複数回観るにつれて、本作の醍醐味や良さが分かるようになってきました。

映画の中でも“Ripe stuff”(熟年の乗組員)という言葉で茶化されていましたが、
これは、ひょっとすると83年の映画『ライトスタッフ』のタイトルを意識した言葉なのかもしれませんね。
そういう意味で本作でイーストウッドは、『ライトスタッフ』の“その後”を描きたかったのかもしれないとも思いました。

そういう意味では、エド・ハリスらを起用したかったところなのかもしれませんが、
思えばエド・ハリスは『アポロ13』で管制官を演じており、キャラが完全に被ってしまうので避けたのかもしれないが、
本作では懐かしのウィリアム・ディベインが古株の管制官ジーンを演じていて、個人的には凄く嬉しかったですね。
(エド・ハリスは『ライトスタッフ』にも出演していて、96年の『目撃』でイーストウッドは起用実績があった)

ウィリアム・ディベインは日本では、あまり有名な役者さんではありませんが、
70年代の映画ファンなら、彼の個性を『マラソン マン』、『ローリング・サンダー』などで印象深いはずで、
このような形で再び重要なポストがあたるキャスティングに、思わずニヤリとさせられた人も多いはずだ。

この辺はイーストウッドの人脈と眼力が為せるワザという感じで、それぞれのピースが上手くハマっている。

ドナルド・サザーランド演じる老いても尚、プレーボーイぶりを発揮する爺さんも印象的で、
彼は老眼が進み、裸眼の視力がかなり落ちているわけですが、宇宙飛行士としての要件を確認するための
テストに合格するためにと驚異の“記憶力”を発揮して、オマケに担当の女医さんをナンパする始末。
しかし、そんな女医さんも特製のサングラスを調達してプレゼントするなんて、なんとも素敵なエピソードだ。

そう、この映画はイーストウッドなりに彼と同世代のジジイたちに捧げる夢物語だとも思うのです。
トミー・リー・ジョーンズにしてもドナルド・サザーランドにしても、こうも面白いように彼らより若い女性と
ロマンスを感じさせる仲になることなど、現実的に考えて、そうそうあることではない。それを堂々と描いているのです。

本来であれば、ロマンスの相手役はイーストウッド自身が演じてしまうところですが(笑)、
本作では敢えてイーストウッド本人は一歩後ろに下がるような立ち位置で演じ、彼らに“花”を持たせている。
まぁ、これも含めて本作がイーストウッドなりに老いても尚、夢を追い、恋することの尊さを込めたメッセージに感じる。

そう思うと、本作はなんだか日本の高齢化社会を先読みしたような内容で、
今の高齢者率が高まった現代の日本の方が、ターゲット層を高齢者にすると、フィットするところがあるのかもしれない。

無理にでも映画のラストは、観客を泣かしにかかることはできた内容だと思うけれども、
そこは実にソフトタッチなラストにしているあたりは、如何にもイーストウッドらしい軽妙さだと思う。
この辺は僕はシリアスなタッチの方がイーストウッドには合っていると思う反面、軽妙な演出もこなすのは流石の手腕。
製作当時、イーストウッドは70歳になるところでしたが、本作あたりから再び監督としてギアをググッと上げましたね。

宇宙飛行士としてのトレーニングの日々の中のエピソードで、
若い宇宙飛行士訓練生たちと張り合うようなシーンもありますが、対立構図が行き過ぎないのも丁度良い。
衛星を軌道修正して地球への被害を防ぐという当初のミッションが弱くなってしまうので、あまりしつこく描く必要はない。

しかし、そんな中でもロートルたちも大ピンチを脱する策を講じることができることもあるし、
経験が無い若者が成果を焦って、トンデモないミスをおかしてしまうこともあるかもしれない。
そんなことを、あまり過剰に対立を煽ることなく、殊更にロートルの爺さんたちを美化し過ぎるわけでもなく、
実に良い塩梅で、映画全体のバランスを整えながら、しっかりと見応えのあるSFアドベンチャーになっているのは凄い。

本作で集結したベテラン俳優たちも、2023年現在、残念ながら年長のジェームズ・ガーナーは他界されましたが、
劇場公開から20年以上経った現在も、ジェームズ・ガーナー以外の3人は存命で、しかも引退状態の人がいない、
というのもスゴい話しだと思う。なんせイーストウッドが90歳を超えても尚、自分で映画を撮って主演ですからね。

かつてであれば考えられない長寿社会になったなぁと、あらためて実感させられますが、
本作で描かれた爺さんたちのパワーがあれば、そのうち100歳になっても現役という人がでてくるかもしれませんね。

それにしても...映画の冒頭で若き日の“チーム・ダイタロス”が描かれていますが、
いくら宇宙を夢見ていた自分たちを差し置いて、猿を宇宙飛行のクルーに任命したことが屈辱だったとは言え、
さすがに何機も判断ミスで訓練時に墜落させているようだったら、実際に宇宙へ行くミッションを下すのは
どんな上司であったとしても無理だと思う。自分が上司だったとしても、違うことを考えると思いますもの。

結局、主人公はこの扱いが納得いかず、ずっと文句を垂れているわけですが、
こういう頑固さというか、執念深さというのも復讐劇を果たす西部劇の主人公っぽいのが印象的だ。
それでもやっぱり・・・練習機を墜落させる、クルー同士でケンカするでは、誰も任命しようとは思わないでしょう。

そんな頑固爺さんである、若き日のイーストウッドを演じたトビー・スティーブンスという役者さんが実に上手い。
声は吹き替えだろうが、ヘルメットの内側の表情一つ一つが、若き日のイーストウッドというのに十分な仕事っぷり。

(上映時間130分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 クリント・イーストウッド
製作 クリント・イーストウッド
   アンドリュー・ラザー
脚本 ケン・カウフマン
   ハワード・クラウスナー
撮影 ジャック・N・グリーン
美術 ヘンリー・バムステッド
編集 ジョエル・コックス
音楽 レニー・ニー・ハウス
出演 クリント・イーストウッド
   トミー・リー・ジョーンズ
   ドナルド・サザーランド
   ジェームズ・ガーナー
   ジェームズ・クロムウェル
   マーシャ・ゲイ・ハーデン
   ウィリアム・ディベイン
   ローレン・ディーン
   コートニー・B・コックス

2000年度アカデミー音響賞 ノミネート