ソイレント・グリーン(1973年アメリカ)

Soylent Green

うわぁ、こりゃ凄いカルトな映画だ(笑)。

映画の舞台は2022年、爆発的な人口増加に伴い、
食糧の供給制限がかかった近未来のニューヨークで、とある殺人事件の捜査を担当することになった、
14分署の刑事ソーンが捜査の過程から、奇跡の食品と呼ばれる“ソイレント・グリーン”の恐るべき真実に
迫るまでを描いた、あまりに前衛的でショッキングでいながら、カルトなSFサスペンス。

確かにこの映画の内容は凄いです。
原作はハリー・ハリソンの『人間がいっぱい』なのですが、
これは予め原作を読まないでこの映画と出会った公開当時の人々は、さぞ驚いたことでしょう。

本作はアボリアッツ・ファンタスティック映画祭でグランプリを獲得しましたが、
とは言え、映画の出来はチョット粗い。でも、僕はそれでも本作には価値があったと思う。

あくまで映画の社会的なメッセージとして、
かなり早い段階から地球環境保護を訴えるメッセージを取り入れており、
また同時に破滅的な近未来像を構築しており、デザインのイメージがあまりに強烈だ。
この辺はリチャード・フライシャーの仕事っぷりも、お見事としか言いようがないですね。
特に屋外のロケ撮影では、カメラのルックにフィルターをかけており、できる範囲での工夫が活きている。

主演のチャールトン・ヘストンも、この頃は本作と似たようなカルトSF映画に数多く出演しておりますが、
そんな彼の出演作の中でも、本作はかなり強い異彩を放つ、インパクトのある作品と言っていいでしょう。

それと同時に本作で印象的なのは、
飽食の時代を迎えた70年代初めの映画であるにも関わらず、
爆発的な人口増加に伴う食糧危機を予見し、そこに大きくクローズアップしている点である。

ありそうで、この食糧危機というテーマがSF映画のメインテーマになっていることは、ほとんどありません。
そういう意味で本作は正にニッチな部分を突いたストーリーであり、原作の偉大さを感じます。
最近では、あまり語られることはありませんが、本作はもっとSF映画の金字塔として称えられるべきと思います。

但し、女性の登場人物を「家具」というように、
あまりに露骨な女性蔑視とも解釈できるニュアンスというのは、チョット賛否両論だろう。
勿論、別に本作が女性蔑視の映画などでは断じてありませんが、これはもっと慎重に描いて欲しかったかな。
(と言うか、かなり微妙な部分なので、無理して映画の中で描く必要は無かったと思う・・・)

何故、ここまでこだわるかと言うと、
映画のクライマックスでソーンは「やがては人間を飼育するようになるんだぁ!」と叫びますが、
女性の登場人物を「家具」として扱っている近未来の姿を描いてしまうことにより、
そんなソーンの嘆きが弱くなってしまうからです。だって、女性を人として扱っていないわけですから。

ソルを演じたエドワード・G・ロビンソンは本作完成直後に他界してしまったがために、
悔しくも本作が劇場公開されたときには既に亡くなっていたそうです。
『キー・ラーゴ』などで実に憎たらしい悪漢を演じていただけに、本作のような役どころだと、
若干のギャップを感じることは否定できないのですが、これは悪くない好演ですね。
特にソーンに20世紀の食文化を伝えるため、ビーフシチューを作り、嬉しそうに食べるシーンが忘れられない。

もう今は2010年ですから、2022年ってそんなに遠い未来じゃありません(笑)。

少なくとも日本では、今現在の情勢を考えるに、爆発的な人口増加など無縁な悩みですが、
食糧危機だけは未だに可能性を残していると思うんですよね。事実、食に関するトピックスは相次いでいます。
地球上に存在する食糧資源という意味でも、生物の生態系との関わりは避けては通れず、
昨今、大きな話題となったクロマグロの漁獲制限に関するニュースなどが、正しく象徴的です。

生物の多様性は薄れ、絶滅危惧種は増える一方です。
気象は大きく変化し、今、地球環境は大きく変化しています。それは当然、食糧事情に影響を与えるわけです。

この映画で描かれた“ソイレント・グリーン”も、
食糧供給が難しくなった時代で如何にして人々が効率良く栄養を摂取できるかに着目し、
スナック菓子のような形状として開発された万能食品という設定であり、これを国が配給するわけです。
これはプランクトンから合成されているとのことで、生命維持に必要な栄養が豊富に含まれているらしい。
結局、これだって地球環境保護を訴える強烈なアイテムなんですね。

そういう意味で本作はカルトなSF映画と言ってしまっては、失礼なのかもしれません(笑)。
そう、実は本作、70年代というかなり早い時代に環境保護を訴えた先駆的な映画なのかもしれませんね。

大群衆を鎮圧するために、群集をショベルカーで制圧していくシーンなんかはイマイチで、
正直言って、本作はパニック描写という点で片手落ちみたいな映画なので、チョット物足りない。
そのせいか画面に緊張感が無く、残念ながらクライマックスも今一つ盛り上がりに欠けたまま終わってしまう。
申し訳ないけど、僕の中でこの手の映画としてパニック描写がイマイチというのは、致命的です。

ですから、そこまで高くは持ち上げることはできないのですが、
それでも本作の先駆性というのは、もっと称賛されてもいいのではないかと思っています。

どうでもいい話しではありますが...そろそろ本作を、誰かリメークしないかな?(笑)

(上映時間97分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 リチャード・フライシャー
製作 ウォルター・セルツァー
    ラッセル・サッチャー
原作 ハリー・ハリソン
脚本 スタンリー・R・グリーンバーグ
撮影 リチャード・H・クライン
音楽 フレッド・マイロー
出演 チャールトン・ヘストン
    エドワード・G・ロビンソン
    リー・テイラー=ヤング
    チャック・コナーズ
    ジョセフ・コットン
    ブロック・ピータース
    ポーラ・ケリー

1973年度アボリアッツ国際映画祭グランプリ 受賞