恐怖の報酬(1977年アメリカ)

Sorcerer

53年に製作された映画史に残る、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーが撮った名画のハリウッド版リメーク。

監督が当時、『フレンチ・コネクション』、『エクソシスト』と神懸かり的な傑作を立て続けに
発表していたウィリアム・フリードキンが担当しただけに期待値も高いところにあったと思うのですが、
さすがに53年の初回映画化作品と比較してしまうと、その出来の差は歴然としていて、正直しんどい。

当時のウィリアム・フリードキンはピーター・ボグダノビッチやフランシス・フォード・コッポラと、
映画会社を共同経営していた時期で、かなりの心労があったようですが、そのおかげで本作は多額の資金が
投入することができ、結果として商業的な失敗を招いてしまいましたが、当時はそれだけ影響力がある存在でした。

私生活ではフランスの人気女優のジャンヌ・モローと結婚し、
映画の製作基盤含めて、フランス映画界との距離感はかなり近かったようですね。

おそらくそれが縁で、本作をハリウッドでリメークするという企画になったのでしょうけど、
映画の前半はパリのロケ撮影含め、どことなくヨーロピアンな空気が漂うサスペンス映画という感じで、
如何に当時のウィリアム・フリードキンがフランスと近い存在だったかということが象徴されています。

しかし、全編白黒映像で得体の知れない恐怖心を煽り、映画全編にわたり異様な緊張感に満ちた
初回映画化作品と比べると、心理描写によるものよりも、直接的な映像表現が増えており、
映画のアプローチが全く異なるもので、ウィリアム・フリードキンなりの個性を出した内容になっている。

旧知の仲であるロイ・シャイダーを主演にキャスティングしたのですが、
映画化当初の企画ではスティーブ・マックイーンとマルチェロ・マストロヤンニで予定していたようで、
仮にそうなっていたら、映画が大きく変わっていたであろうし、なんだか観たかったなぁと思いますね。

本作は北米のみで完全版が劇場公開されたようで、
それ以外の地域では約30分ほどがカットされた、ある種の短縮版が上映され、
この短縮版は観たことありませんけど、完全版から30分もカットしてしまっては、魅力半減でしょうね。

ちなみに本作はしばらく日本でも簡単に観れない状態が続いていましたが、
2013年にウィリアム・フリードキンがデジタル・リマスタリングしたヴァージョンをリリースしたため、
完全版が観ることができるようになり、美しい映像で蘇ったことで、映画に新たな命が灯りました。

映画は初回映画化作品と大きく異なり、ニトログリセリンを運ぶことになる
4人の男たちがどうやって南米の山奥に集まったのかを描くことに、時間を費やしている。

冒頭、パレスチナの過激派グループによるテロを描いたシーンでは、
市街地で派手な爆発シーンが描かれており、なかなかの迫力で見応えがある映画の始まりだ。

これと比べると、主人公ドミンゲスを演じたロイ・シャイダーのエピソードは地味かもしれない。
教会を襲撃して、マフィアの弟を負傷させたとしてマフィアから追われ、南米の貧しい国へ亡命することになる。
実際に追っ手が迫っているかは分からないが、常に誰かから命を狙われている恐怖心と闘っている。

それから、パリに暮らす銀行を経営しているセラーノは、不正融資で実刑を免れるために
妻とのリッチな生活を捨てて南米の貧しい国へ亡命することになり、不衛生な環境で肉体労働に勤しむ。
他のメンバーと比べると、身体を使った労働とは程遠いような感じで、ましてやニトログリセリンを運ぶという、
命からがらのトラックを運転するスキルと度胸もあるとは思えないのですが、その辺はクリアしたことになっている。

そこに、滑り込みで金を得るために、選抜された運転士の1人を殺してでも
割り込んできた殺し屋ニーロを含めて、4人が2人ずつ2台のトラックに別れて、
320km離れたテロ攻撃にあった油田の消火活動を行うために、ニトログリセリンを衝撃爆破して、
その爆風で油田の延焼をストップさせるという強硬手段にでることになるのですが、容易くことが運びません。

ニトログリセリンは1年も前に運ばれて石油会社が所有していたものの、
ほぼ野ざらし状態にあったため、管理されていなかったためか、僅かな衝撃でも爆発する危険な状態でした。

いざ、トラックを出発させるものの、山奥のジャングルを抜けなければならず、
途中の大雨の影響で、ぬかるみが多くあり、また山岳地帯では道幅が狭く、トラックは何度も落ちそうになる。
本作最大の見せ場は、ボロボロになった吊り橋を激流の川を間近にして、トラックごと渡らなければならず、
何度もトラックが横に振られながら、ゆっくりと吊り橋を渡っていくという描写は、この映画のハイライトでしょう。

ただ、さすがにこの描写はやり過ぎだったかと(苦笑)。。。

そもそも、あんなにトラックが横揺れを繰り返していては、
さすがに砂で箱ごと固定していたとは言え、中のニトログリセリンが何とも無いという方が違和感がある。
それから、見るからにボロボロ過ぎる造詣だったためか、あの大きさのトラックを渡らせるという
発想そのものに無理があって、ウィリアム・フリードキンももう少し上手くできなかったものかと思ってしまう。。。

難所を切り抜けたと思ったのも束の間。
次は地元のならず者たちに、食糧や金品目的に襲撃されることもあって、
自然だけではなく人間も行く手を阻む。その連続が、本作の見せ場ではあるのですが、
やはり映画全体のバランスを考えながら、映画を構成することはウィリアム・フリードキン、さすがの技量の高さだ。

そして、映画のクライマックスもウィリアム・フリードキンらしく、暗示するラストになっていて、
彼の監督作品のファンであれば、思わずニヤリとさせられるラストで、しっかり楽しませてくれる。

劇場公開当時、そこそこ話題になっていたと言われる、
タンジェリン・ドリーム≠ェ担当した音楽も、インパクトが大きく、特にエンド・クレジットの音楽が良い。
プログレッシヴ・ロックが好きな人には是非とも聴いてもらいたい音楽で、映画の雰囲気に合っている。

でも、この映画はオリジナルには及ばなかった。
それくらい、初回映画化作品を撮った、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーは偉大だった。そう言わざるを得ない。

やはり長く暗く、時には孤独で時間の経過が遅く感じる、
ニトログリセリンを荷台に載せたトラックのハンドルを握るという、ドライブの中で陰鬱な気分になり、
色々な想いをはせるという描写がほぼ皆無で、どこかサラッと描き過ぎたということに、大きな差が出たでしょう。
あのオリジナルの雰囲気が好きじゃないという人には、むしろ本作の方が合うかもしれませんがねぇ・・・。

僕は70年代のウィリアム・フリードキンは天才だったと思います。
ただ、個人的には本作で彼は全てを“出し尽くした”。そうとして思えない、後年の創作活動ぶりです。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ウィリアム・フリードキン
製作 ウィリアム・フリードキン
原作 ジョルジュ・アルノー
脚本 ウォロン・グリーン
撮影 ジョン・M・スティーブンス
   ディック・ブッシュ
美術 ロイ・ウォーカー
編集 バッド・スミス
音楽 タンジェリン・ドリーム
出演 ロイ・シャイダー
   ブルーノ・クレメル
   フランシスコ・ラバル
   アミドウ
   ラモン・ビエリ
   ピーター・カペル

1977年度アカデミー音響賞 ノミネート