ソフィーの選択(1982年アメリカ)

Sophie's Choice

正直、映画の出来としてはそこまでのものではないと思ったのだけれども、
まぁ・・・大女優メリル・ストリープは気合の入った熱演だし、タイトルになっている“選択”の意味に言及する、
ラスト15分の劇的とも言える展開が、それまでの良くも悪くも平坦だった様相を、一気に変えてしまった。

監督は『大統領の陰謀』など社会派映画で知られたアラン・J・パクラで、
ひょっとしたら彼が手掛けた監督作品の中で、本作が最もドラマ性の高い作品なのかもしれない。

ナチス・ドイツのやってきたことの中でも、最もダーク・サイドな部分かもしれないホロコーストについて描いており、
ヒロインのソフィーは一見すると、明るく立ち振る舞ってはいるが、実は父と夫をナチスに粛清された過去を持つ。
そしてソフィーの恋人であるネイサンは、とにかく明るく陽気でパワフルなファイザー社で働く生物学者だという。
しかし、このネイサンは喜怒哀楽が激しく、ソフィーが浮気をしていると疑っては、叫び散らして大暴れする。

そんなソフィーとネイサンの姿を見て、ある種の憧れと友情を深める作家志望のスティンゴ。
映画はこのスティンゴの視線を中心に構成していて、美しいソフィーの魅力に惹かれながらも、
ネイサン含めた3人の友情を壊さないようにと、共に長く楽しい時間を過ごしながらも、徐々に見せるネイサンの
病的なまでの不安定な感情表現に、次第に違和感を抱きつつも、スティンゴはソフィーのことを見守ろうとします。

しかし、映画が進むにつれて、ネイサンのことに関する秘密が明かされ、
ソフィーも幾つかの身の上話をスティンゴにするのですが、ひょんなことからソフィーの話しの矛盾を知ってしまう。
そうすると、スティンゴの中ではいくら仲が良くて、関係を壊したくはないとしても、2人のことを信じられなくなってくる。

少しずつ、核心に迫ろうとしては遠ざかったり、ネイサンが騒ぎ立てて話しが余計に膨らんだりと、
上映時間2時間30分の間、ずっとホロコーストの真実に言及しているわけではなく、結構、脱線しながら進む。
しかし、本作はその脱線を上手く利用している感はあって、実に上手い具合に全体のバランスはとれていると思う。

とは言え、いくらなんでも映画の中盤あたりまでは僕には散漫になり過ぎたように見えた。
この核心に近づいたり遠ざかったりの繰り返しが、本作の魅力ではあるとは思うのですが、この時間が長過ぎて、
特に中盤までは冗長な傾向にあったと思う。こういうのを観ると、アラン・J・パクラはサスペンス寄りの人と感じる。
中盤まではネストール・アルメンドロスの見事なカメラの色使いくらいしか、見どころがないと言っても過言ではない。

本作が実質的なデビュー作であったケビン・クラインは存在感は確かにあるけど、
登場したときから、ずっとコメディ映画でもないのにオーヴァーアクト気味に映っていて、少々“浮いて”しまっている。
スティンゴ役のピーター・マクニコルも悪くはないんだけど、結局はソフィー役のメリル・ストリープが際立つ感じ。

いやはや、メリル・ストリープは本作で初めてアカデミー主演女優賞を獲得したわけですが、
さすがにそれも納得の熱演ですよ。痩せ細り、健康状態が明らかに悪い姿も、ごく自然に演じ切ってしまう。
どうやら『ディア・ハンター』や『恋におちて』で共演していたロバート・デ・ニーロへの憧れもあったようですがね。

普通に考えたら、このスティンゴだって、いくら田舎から大都会ニューヨークへ出てきて、
初めて仲良くしてくれた階上の住人であったからとは言え、書いていた小説の原稿をネイサンに奪われ読まれるし、
時に感情的になって暴れたり、上の部屋で大声でソフィーを怒鳴ったりするし、挙句の果てにはソフィーに招かれた
ネイサンの書斎にいたところを見つかるとネイサンから激ギレされるし、結構、理不尽なことをされているわけで
それでもスティンゴがネイサンやソフィーとの関係を壊したくはなかった理由を、もっとしっかりと描いて欲しかった。

いろいろな観点から描かれてはいるのですが、結局はスティンゴもソフィーのことをが好きだったわけで、
スティンゴがゴタゴタに巻き込まれても我慢していた理由は、ソフィーが好きで傍にいたかったからでしょう。

そんなソフィーも、ポーランド人として過酷な環境や土地で生き抜き、アメリカへ渡って来ました。
しかし、とてもツラい過去があるわけで、彼女の過去が顕在化してきて、ようやっと本作のエンジンはかかってくる。
彼女が生き残れたことにも理由はあるし、精神不安定なネイサンと一緒にいる理由も、それとなく明らかになります。

やはり、本作が本領を発揮し始めるのは、前述したようにラスト15分間の展開だろう。
これを観て、初めてタイトルになっているソフィーの選択≠ニは、何を意味することなのかが分かる。
この一連のシーンでの緊張感たるや、凡百の戦争映画でも表現できていないくらい、凄まじいものがあります。

子ども2人を連れて列に並ぶソフィーに近づくナチスの兵士。“焼却炉”を前にして、
ソフィーが究極の選択を迫られるエピソードにソフィーが、スティンゴとの恋に積極的になれない理由を描きます。

そう、映画の終盤でスティンゴはソフィーに彼が抱き続けていた恋心を告白するわけなのですが、
ソフィーも彼を拒絶するわけではないにしろ、結局は彼女が心の中に抱え続ける過去のトラウマ的体験から、
どうしても前向きに人生を歩むことに否定的になってしまうわけで、アウシュヴィッツでの強烈な経験が
如何に彼女の人生を大きく左右するものになってしまったかを物語ります。それゆえ、彼女は破滅的な“選択”をする。

正直言って、映画の序盤にも少しだけあったのですが、スティンゴが性欲が強いとか、
なんとか女性経験を重ねようとするエピソードなんかは、映画の流れを阻害しているようにしか見えなかったんだけど、
ソフィーに愛を打ち明け、情欲的になっていく姿はネストール・アルメンドロスのカメラのおかげもあり、とても美しい。
本作のメリル・ストリープは美しく撮られているし、ホントにソフィー役に入れ込んでいたのが、よく分かる熱演だ。

一方のネイサンは情熱的でエネルギッシュに生きる男のように見えるが、実はどこかに影を持つ男。
ソフィーに対しても優しかったり、ツラく当たったりと、精神的に不安定な側面を見せながらも、強引に引っ張り続ける。
結局、「類は友を呼ぶ」とは言いたくはないけど、ソフィーとネイサンは似た者同士で、必然的な関係だったのかも。

一見すると、ソフィーが流れに身を任せてネイサンとの関係に行き着いたかのようなニュアンスにもとれますが、
結局はネイサンと恋仲になり一緒にいたのも彼女の“選択”だし、クライマックスに彼女がとった行動も“選択”でした。

そういう意味では、本作の終盤で描かれるソフィーの2つの“選択”が持つ意味は、とても重たい。
この2つの“選択”を垣間見るスティンゴにとってもツラい経験となるわけですが、どこか散漫な映画の前半から一転、
一気に急転直下したように劇的な展開を持って来る終盤が、全てを持って行く感じで、そういう意味ではスゴい作品だ。

ただ、個人的にはアウシュヴィッツでの出来事をソフィーが告白するシーンで
映画は終わっておいた方が良かったと思う。その方がずっと力強く訴求する映画になったと思うんですよね。
と言うのも、クライマックスの“選択”の方は言葉は悪いですが、映画的には少々ありふれた感じで予想がつく感じ。
ここは結構、大きな差がついたと思う。題材的には、もっと訴求力のある映画になるべきだったと思うんですけど、
尺の長さやテーマの重たさの割りには、あまり映画全体に響くものが無いという感じで、仕上がりが良く見えなかった。

「終わり良ければ総て良し」とはよく言ったもので、本作の場合はネイサンとソフィーの“選択”が余計に映った。
正直言って、この辺が82年当時、作品トータルとしての評価が高まらなかった所以でもあったのではないかと思った。
やっぱり全体的な印象としては、メリル・ストリープがスゴい・・・という第一声になってしまうのが本音でしたからね。

原作もあったため、大きな脚色が難しかったというのもあっただろうが、
もう少し映画的に脚色した方が良かったとは思うんだよなぁ。やはり映画の前半の淡々とした部分よりも、
ラスト15分の劇的な展開の方が良かったところを観ると、アラン・J・パクラはドラマよりもサスペンスが得意だと感じる。

脚本は良いとしても、もっとドラマ描写が上手いディレクターが撮った方が良かったのかもしれません。

読んだことはありませんが、ウィリアム・スタイロンの原作ではもっとネイサンの位置づけは重要だっただろうし、
アウシュヴィッツでの回顧録よりも、スティンゴの目線で語る物語のウェイトが圧倒的に高かったのではないかと思える。
ところが回顧録のインパクトの方が大きくなってしまったのは、スティンゴが受けた衝撃を表現し尽くせなかったから。

見方の違いかもしれませんが、僕はあくまでスティンゴの視点を中心に描いた方が良かったのではないかと思う。

とは言え、クドいようですが本作のメリル・ストリープはホントに素晴らしい。
80年代は彼女の出演作品が軒並み高い評価を得ましたが、本作も動揺ですが彼女が作品の価値を高めている。
別に他の役者の存在感を喰ってしまっているわけではないのですが、全体に調和しながら上手く表現している。
それでいて、映画を安っぽいものにはしないノウハウを持っていた。やっぱり、この時代を代表する大女優ですね。

(上映時間151分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 アラン・J・パクラ
製作 アラン・J・パクラ
   キース・バリッシュ
原作 ウィリアム・スタイロン
脚本 アラン・J・パクラ
撮影 ネストール・アルメンドロス
音楽 マービン・ハムリッシュ
出演 メリル・ストリープ
   ケビン・クライン
   ピーター・マクニコル
   リタ・カリン
   スティーブン・D・ニューマン
   ジョシュ・モステル
   ジョセフ・ソマー

1982年度アカデミー主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
1982年度アカデミー脚色賞(アラン・J・パクラ) ノミネート
1982年度アカデミー撮影賞(ネストール・アルメンドロス) ノミネート
1982年度アカデミー作曲賞(マービン・ハムリッシュ) ノミネート
1982年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1982年度全米映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
1982年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
1982年度ニューヨーク映画批評家協会賞撮影賞(ネストール・アルメンドロス) 受賞
1982年度ロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
1982年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ドラマ部門>(メリル・ストリープ) 受賞