恋愛適齢期(2003年アメリカ)

Something's Gotta Give

30歳以下の女性としか交際したことがないプレーボーイで有名な、
63歳になるレコード会社の社長と、そんな彼がいつもの気分で20代の女性と付き合おうとしていたところ、
女性の母の持つ別荘で心臓発作を起こしたことをキッカケに、トンだ恋の騒動に発展する様子を描いたラブ・コメディ。

監督は00年に『ハート・オブ・ウーマン』をヒットさせた女流監督ナンシー・マイヤーズですが、
本作の8割方は主演のジャック・ニコルソンの力で成り立っているような映画になっていますね。

これは別に嫌味で言っているわけではなく、
ジャック・ニコルソンという役者の風貌からくるギャップというか、彼の存在感が為せるワザって感じですね。
さすがにナンシー・マイヤーズには大き過ぎる企画というか、チョット酷な企画だったのかもしれません。
映画の出来としてはそこまでではなく、特にラストのまとめ方なんかはあまりに唐突過ぎて上手くないのですが、
やはり主演俳優の力が大きいのかなぁ、最終的には何故か納得させられる仕上がりにはなっていますね。

勿論、彼の恋のお相手となるダイアン・キートンの頑張りも大きく、
劇場公開当時話題となっていた、ヌードも辞さぬ彼女のベテラン女優としてのプライドが、なんだか嬉しくさせられる。

ジャック・ニコルソンは撮影当時、既に60代後半であったものの、
相手役のダイアン・キートンも当時50代後半で、2人が真正面からお互いの個性を衝突し合うのは見物だ。

本作はかつてのハリウッドでは、好んで描かなかったことを描いています。
それは、もう若くはない男女の恋愛であり、言ってしまえば、リタイア後の初老の男女の恋愛です。
多くの方々は60歳を目前にすると、若い頃の恋愛なんて、同じようにはできないと感じているようで、
少なくとも00年代に入る頃までは、あるにはあったけど、こういった年代の恋愛がメインテーマになることはなかった。

それは時代の流れ、価値観の変容ということもあるが、
おそらく彼らのような世代の若々しさを象徴することであり、新しい人生観を描いているに等しいと思う。
これはジャック・ニコルソンやダイアン・キートンだから成立した世界観というわけではないと思う。

年をとったって、いつまでも若い女の子とイチャイチャしたい爺も多いとは思うが、
何より本作のテーマはそうではなくって、同世代の老年期に入った男女の恋愛心。
どうやって相手に入り込んでいくかドギマギし、年をとったからこそいがみ合ったり、機嫌を損ねたりする。

それでも人間とはワガママなもので、例えばダイアン・キートン演じる母親は、
娘が自分よりも年上のプレーボーイを連れ込んだことを快く思わない反面、ショップでイチャイチャしながら買い物をし、
気付けば自分の周りにはそんな同世代の男ばかりで、自分は見向きされず、独りぼっちというのが身に染みる。
「何を今更・・・」という気持ちと、「いつまでも恋したい」とする気持ちの狭間で揺れ動く心情を、見事に表現しています。

こういうところはナンシー・マイヤーズ、さすがだなぁ〜と実感させられるのですが、
やはり何度観ても本作、終盤の結び方がどうにも上手くない。これは映画の魅力を大きく損なうほど。
本来的にはもっと気の利いた脚本にすべきなんだが、少なくとも編集の段階でもっとこの収まりの悪さを修正すべき。

エンド・クレジットのレストランでのシーンは実に微笑ましいですが、
そこに至るまでの経緯を考えると、今一つ説得力の無いシチュエーションというか、
何故に主人公2人が心変わりして、素直に収まってしまうのか、これはもっと説得力ある導き方をして欲しかった。

ダイアン・キートン演じるエリカにとって、予期せぬ恋愛だったと言えるのは、
キアヌ・リーブス演じる医師ジュリアンとの関係だろう。突如として、20歳近く年下のイケメン医師に
自身が劇作家であることをキッカケに、ジュリアンが近づいてくるのですが、エリカがそれまでに経験してきた
展開とはまるで違い、ジュリアンからグイグイ、グイグイと接近し、告白されるという予想外の展開。

こういう予想だにしない恋の展開に、思わず戸惑ってしまうエリカの姿に
年齢を問わず、恋する心の尊さというか、いくつになっても恋にときめく気持ちの瑞々しさが眩しいですね。

とは言え、いざベッドインというときになって血圧を測ったり、
次から次へと年寄りネタが繰り出されるのが、一つ一つギャグになっているのは目新しい。
これまでの映画界であれば、年寄りの男女の恋愛も年相応に描いていたと思うのですが、
本作はまるで若い男女の恋愛であるかのようなウキウキ感も残しながら、現代的な解釈で描いています。
こういうアプローチ自体、かつての映画界では描かれなかったアプローチだと思いますね。

ひょっとしたら、こういう形の恋愛映画はこれからも増えていくのかもしれませんね。

ただ、よく頑張った映画ではありますが、全体的に少しずつ物足りない。
前述した、終盤のまとめ方の収まりの悪さが決定的に足を引っ張ってしまっているのが残念で、
ナンシー・マイヤーズの力量もありますが、もっと強いブレーンがスタッフにいれば、映画は大きく変わっていたはず。

前述したようにジャック・ニコルソンの力が大きな映画なのですが、
こういった難点が積み重なって、彼が出演した本作と同じ毛色の作品『恋愛小説家』には遠く及ばぬ出来。

それはナンシー・マイヤーズと『恋愛小説家』を撮ったジェームズ・L・ブルックスとの経験値の差もデカいが、
やはり映画全体のバランスを意識しながら、どこまで映画をしっかりと構成できるかという力量の差がありますね。
ジャック・ニコルソンもナンシー・マイヤーズの書いた脚本を褒めていましたが、シナリオ以外の差が大きいですね。

ジャック・ニコルソンのような風貌の粗野な男が、ナイーブな側面を見せるからこそ、
そのギャップを楽しませるべき企画だったと思うし、だからこそ彼をキャスティングしたことに意味があるのですが、
作り手がそういったギャップを引き出そうとする流れを作り出せていないですね。やろうと思えば、もっと出来たはず。
(勿論、ジャック・ニコルソンの芝居は彼にしかできない境地で、素晴らしいですけどね・・・)

それと、なんとなく医師ジュリアンを演じたキアヌ・リーブスが損な役回りだったことが気になるかなぁ・・・(苦笑)。

(上映時間128分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ナンシー・マイヤーズ
製作 ナンシー・マイヤーズ
    ブルース・A・ブロック
脚本 ナンシー・マイヤーズ
撮影 ミヒャエル・バルハウス
編集 ジョー・ハッシング
音楽 ハンス・ジマー
出演 ジャック・ニコルソン
    ダイアン・キートン
    キアヌ・リーブス
    フランシス・マクドーマンド
    アマンダ・ピート
    ジョン・ファブロー
    ポール・マイケル・グレイザー
    レイチェル・ティコティン

2003年度アカデミー主演女優賞(ダイアン・キートン) ノミネート
2003年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>(ダイアン・キートン) 受賞