恋愛適齢期(2003年アメリカ)
Something's Gotta Give
これはジャック・ニコルソンとダイアン・キートンだからこそ、出来た映画ですね。
若い女の子としか付き合わないポリシーの老プレーボーイであるレコード会社のオーナーが、
ガールフレンドの実家で軽い心臓発作を起こしたことをキッカケに、回復するまでの間、ガールフレンドの母親が
一人で暮らす実家で過ごすことになり、次第に真実の愛を見つめ直すことに目覚める姿を描いたラブ・コメディ。
監督は『ハート・オブ・ウーマン』などのヒット作で知られる女流監督ナンシー・マイヤーズで、
ダイアン・キートンとは何本かの映画で一緒に仕事しているだけあって、ダイアン・キートンのことはよく分かっている。
それに安心してか、本作ではビックリしちゃったのですが・・・(笑)、
映画の途中に寝る前にキッチンに向かおうとして、誤ってダイアン・キートン演じるエリカの部屋に近づいてしまった
ジャック・ニコルソン演じるハリーが、全裸で歩いていたエリカを目撃してしまうというシーンがあるのですよね。
このシーンでダイアン・キートンはホントにヌードになっていて、よく演じたなぁと思って、ビックリしちゃいました。
対抗するジャック・ニコルソンは入院する病院で薬で朦朧とした状態になってしまい、
お尻丸出しで病院内を徘徊するシーンを演じているのですが、正直、これはダイアン・キートンに軍配が上がる(笑)。
お互いに、言葉は悪いけど...老年期を迎えた男女の恋愛を演じるというわけだったのですが、
先進各国の多くが高齢化社会という社会問題に直面する中で、これはこれで先進的な映画だったということですね。
なかなか無いタイプの映画ではあるのですが、ナンシー・マイヤーズは上手い具合に喜劇として仕上げていますね。
映画としてはそこそこ面白いのですが、正直言って、チョット長いなぁと感じたのも事実。
作り手が描きたいエピソードが多かったのは分かるけど、あまり工夫なくダラダラと描かれた印象も残ってしまう。
もう少しシナリオに表れにくい部分で工夫して欲しかったなぁ。さり気なく気の利いた演出があるというわけでもなく、
派手に笑えるギャグがあるわけでもない。ほぼキャストの魅力に依存したような映画であり、全体に工夫が無い。
とは言え、突如としてピュアな気持ちに触れて、純粋な気持ちでエリカと向き合うハリーとの恋に加えて、
エリカには若くイケメンな医師ジュリアンが積極的にアプローチを仕掛けてくる。このジュリアンを演じているのが、
キアヌ・リーブスというキャスティングもなかなか絶妙で、母と子くらいの年齢差を感じさせる男女の恋愛というのも
あまり映画界では描かれてこなかったテーマであり、確かにストーリー面での目新しさが何よりも勝っているのかも。
若い女の子と短期間しか交際することができない爺という役柄はジャック・ニコルソンにピッタリですが、
失礼ながらも...ああいう風貌でホントにラブコメがよく似合うから不思議ですね。それだけ上手いのだろうけど。
前述したように本作はダイアン・キートンがかなり頑張っているので、彼女の功績がデカいけれども、
逆の言い方をすれば、本作の彼女の相手役をできたのはジャック・ニコルソンくらいと言えるくらい、ハマっている。
しかもお互いの息もピッタリで、過去の共演作を調べたのですが、81年の『レッズ』くらいだったんですね。
強いて言えば、この2人がお互いに惹かれ合っていく過程は少し急ぎ過ぎた印象は残った。
あれだけいがみ合っていたのだから、お互いの主義主張や価値観も大きく異なるがために、本音はどうであれ、
一旦対立してしまったところを立て直すというのは、相当なエネルギーを要することであり簡単なことではないと思う。
この2人が惹かれ合って、熟年期の恋を燃やすというためには、2人が距離を縮める過程はホントは重要だったはず。
まぁ、ナンシー・マイヤーズとしてもあくまで2人のドタバタをメインに見せたかったのだろうから、
ロマンスをベースにというより、あくまでコメディを映画のベースに置いたとは思うのですが、もう少しここは丁寧に
描くべきところだったと思うし、やっぱり主人公カップルの存在に説得力が弱いのは恋愛映画としていただけない。
ダイアン・キートン演じるエリカは、50歳を過ぎて劇作家として一人暮らしを謳歌してきましたが、
自分の生活空間を壊すような存在のハリーの優しさに触れて惹かれてしまい、一方では息子ほど年齢差のある
イケメン医師ジュリアンが自分の舞台劇の大ファンであるということをキッカケに随分と積極的なアプローチを受け、
50歳を過ぎて人生の“モテ期”が到来するという奇跡が訪れる。そして心臓発作を起こしたハリーの人生観も変わる。
結局、2人とも人生にとって大きな出来事が起きて、熟年期の新たなステージに進む姿を描くのですが、
実はお互いに新しいステージに進んでいく勇気がなかなか持てない。特にハリーは感情表現が中途半端になる。
そこが女性の強さを感じますね。と言うか、エリカの性格もあるかもしれませんが、女性の方が切り替えが速いです。
これはアマンダ・ピート演じるエリカの娘にも同じことが言えるわけで、当初は彼女がハリーのガールフレンドでした。
最初っからお互いに短い男女関係だと割り切りがあったのかもしれませんが、
年齢が若いと尚更、別れの言葉はアッサリとかけるし、ハリーはハリーでアッサリと彼女の別れの言葉を受け入れる。
でも、ハリーが受け入れたのはエリカがいたから。そんなエリカとの関係がギクシャクしてくれば、2人は疎遠になる。
しかし、そこですぐに切り替えたエリカに対して、ハリーは明らかにエリカのことを引きずっていたから、
自省を促す意味で、自主的に過去に交際した女性たちを片っ端から訪問し、自分のダメさ加減を知ろうとするのです。
なんでそんなことをするのかと言うと、結局はハリーがエリカのことを忘れられず、切り替えることができないから。
どんなに豪快の女性関係を派手にやらかしていても、結局はハリーは子供のように縮こまっているように見える。
この辺の対照的な男女の描き方は、ナンシー・マイヤーズは上手かったと思いますね。
ド派手に笑わせてくれたり、スゴい感動があるわけではないのですが、それでも本作はしっかり楽しませてくれる。
まぁ、誰しも大病すると人生観が変わることがあるとのことですが、主人公のハリーも正にそのパターンだ。
悠々自適に老プレーボーイとして後腐れなく生きてきたつもりでも、相手の女性には傷を負わせていたわけですね。
言ってしまえば、自分勝手な生き方をしていても誰からも公然と文句言われる立場ではなかったことで、
自分自身がいつの間にか“裸の王様”になっていたことに気付き、彼なりに真実の愛とは何かを考えるようになる。
そんな変化にハリーも自分で戸惑ってしまうというのが面白いのですが、死を意識するとそうなるのでしょうね。
ただ、あくまで自分だけがそう感じたのかもしれないけど、熟年離婚ならぬ熟年結婚を描いた作品なのであれば、
もう少しキレイに描いて欲しかったなぁ。老いても尚お盛んだったり、何歳になっても恋をしたいのは分かるけど、
「バイアグラを飲んだ」だの「避妊は必要ないわ」だのと、誰が老年期の男女の生々しいやり取りを観るのはツラい。
(ベッドインする前に血圧測って「これなら大丈夫よ!」くらいで終わらせておけば良かったのに・・・)
年齢は関係ないと言われるかもしれないけど、自分の親世代のこういう会話を楽しめるかと聞かれると、
そうとは言い切れないわけであって、自分にもいずれこういう時期を迎えるために、これはこれで現実なのだろうが、
それでもこれを堂々と映画の中で描いてしまうというのは、チョット同意できないんだよなぁ。偏見かもしれないけど。
若い世代ならいいのかと聞かれると、一概にそうとは言えないけど、それでも映画のテーマとリンクするならいい。
でも、本作はそんな感じには見えず、単純にギャグの一環としたかっただけのようで、少々生々し過ぎると感じられた。
個人的には映画の終盤にある、老眼鏡に関するエピソードは素敵だなぁと思えただけに、なんだかチグハグに映った。
ジャック・ニコルソンがナンシー・マイヤーズの脚本を気に入って出演を決めたらしいのですが、
シナリオ以外の部分ではもう少し工夫して欲しかった作品だ。そして、もう少し映画の尺自体も短くまとめて欲しい。
最後は予定調和な終わり方に落ち着くので、あまり予想外の展開がある作品というわけではない。
だからこそ、もう少し観終わったら気持ちいい内容としてまとめて欲しい。それがラブコメの醍醐味なんだから。
そういう意味では、ジャック・ニコルソンみたいな風貌の役者だからこそ、ラブコメで光るんですよね。
倒れるまでのハリーの生き方も含めて、繊細さをまるで感じさせない粗野な風貌なところにチョットしさ優しさを見せる。
そのギャップこそが彼が若い女の子からも好かれる魅力であって、コメディとして映える役者になるわけですから。
そうであるがゆえに、やっぱりジャック・ニコルソンとダイアン・キートンだからこそ成り立った映画なのでしょう。
ただ、一つだけ...フランシス・マクドーマンドがほぼチョイ役みたいな扱いなのは勿体ない・・・。
(上映時間128分)
私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点
監督 ナンシー・マイヤーズ
製作 ナンシー・マイヤーズ
ブルース・A・ブロック
脚本 ナンシー・マイヤーズ
撮影 ミヒャエル・バルハウス
編集 ジョー・ハッシング
音楽 ハンス・ジマー
出演 ジャック・ニコルソン
ダイアン・キートン
キアヌ・リーブス
フランシス・マクドーマンド
アマンダ・ピート
ジョン・ファブロー
ポール・マイケル・グレイザー
レイチェル・ティコティン
2003年度アカデミー主演女優賞(ダイアン・キートン) ノミネート
2003年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>(ダイアン・キートン) 受賞