誰かに見られてる(1987年アメリカ)

Someone To Watch Over Me

なんか、色々と首を傾げたくなる映画だけど...(苦笑)
それでも、これは雰囲気だけは良い。このダルい煙たい画面が、何とも言えない味わいがある。

監督はリドリー・スコット、何と言っても“光の映画”とも言える『ブレードランナー』の映像作家だ。
それまではSF映画専門の色合いが強かったリドリー・スコットですが、本作では本格的なサスペンス映画に
果敢に挑戦し、挙句、不倫の泥沼の恋にハマってしまうダメ刑事の情けない姿を描いています。

リドリー・スコットは本作の後、『ブラック・レイン』を撮っていますから、
彼が映像作家として飛躍を遂げるには必要不可欠な映画が本作であると言っても過言ではないかもしれない。

と言うのも、たいへん乱暴な言い方で恐縮ではありますが...
この映画のストーリーは酷いものだ。僕はストーリーに偏重して映画を観ないよう心がけてはいるが、
正直言って、この映画のあまりに身勝手なストーリー展開には、思わず唖然としてしまった。

勿論、浮気経験のある男にとっては、身に詰まされる話しかもしれない。
ナンダカンダ言って「同情の余地あるけど、主人公の行動は軽率だったな...」と思えるレヴェルならいいけど、
これは映画のラストに、あまりに非常識的な結末に落ち着いてしまうのだから、これが呆れてしまう。
映画のストーリーは常に常識的でなければならないなどと言う気は毛頭ありませんが、
この結末の都合の良さには、僕には強烈な違和感というか、映画をブチ壊しているだけのように思えてならない。

ハッキリ言って、雰囲気だけが良い映画で、そのムードを除けば身勝手さしか残らない内容です。

まだまだサスペンス劇の作り方も上手いとは言えず、
映画の中盤では流れの悪いシーンも見受けられ、リドリー・スコットの手腕もまだ完成されていない。
主人公含めて、登場人物の描き込みにも若干の甘さがあり、上手く機能しなかった面もある。
(特に目撃者の命を狙う殺人犯ベンザの描写が甘くって、何のために執着するのかが分かりにくいかな)

ただ、全てがダメな映画かと言われると、たまに良いシーンがあったりして、
例えば地下鉄に乗る主人公を映したショットなんかは、如何にもリドリー・スコットらしい良い画面だと思うし、
ナンダカンダで映画の後半にある、クレアの家に侵入した殺人犯と対決するシーンも悪くはないと思う。

但し、リドリー・スコットの演出がまだ甘いせいか、ムードだけで押し通せるような力は無い。
これが決定的になるのは、クレアを演じたミミ・ロジャースが決定的に魅力的に映っていないせいかもしれない。
これは個人差があるだろうが、少なくとも僕はクレアに惹かれていくことがまるで必然であるかの如く、
クレアと主人公の間で、ある種のマジック的なものが発生していないことにガッカリさせられたのかもしれません。

2人の男女間に、ある種のマジック的なものが発生していないことの弱さは、
やはり2人の不倫の恋が燃え上がることの説得力につながっていくんですよね。

何か知らないけど、言葉で言い表せないマジックが発生していれば、
主人公には愛する家族があり、クレアも恋人がいるという状況であるにも関わらず、
それらを壊してしまうというリスクを冒してでも不倫の恋を燃え上がらせることに説得力が生まれます。

まだリドリー・スコットにそこまでの技量が感じられないというか、行き当たりばったりな感がありますね。

ちなみに映画のクライマックスの解決は、完全な力技で驚いた。
それまではムードで見せる映画であったにも関わらず、ベンザがシビれをきらしたかのように
無謀にも直接的な行動に出てくるということで、物語は解決へと向かっていきます。
但し、個人的な感想としては、この辺ももっと丁寧に描いても良かったと思うかな。

それにしても、この映画のラストシーンにはある意味でビックリだ(笑)。
僕はやっぱり、このラストのせいで映画がおかしな方向へと狂ってしまったように思えてなりません。

いけないと分かっていながらもクレアに惹かれる主人公。悲しませることは分かっていながらも
妻に自分の浮気を告白、それでも涙ながらに「女性として尊敬している」と言い、家族への愛を口にする。
が、しかし...それでもクレアとの恋愛関係を断ち切れず、同僚が瀕死の重傷を負わされ、犯人を取り逃がす。

息子と会う時間があっても、「オレと飯を食うより、母ちゃんの方が大事なのか〜」と嘆き、
それでもまだクレアと会うことを心の何処で願う毎日という、どこまでも都合の良い情けない主人公。
そうして、映画はクライマックスへと突入していくわけで、正直言って、僕にはサッパリ理解できません(笑)。
思わず、この映画のクライマックスを観て、「なんだ、そりゃ...」と呟いてしまいましたね。。。

主人公の行動や言動が、まるで常識的・倫理的ではないことに加え、
あまりに彼の行動に説得力が無さ過ぎて、とてもいい加減な男にしか見えないのは、大きな痛手だと思います。

冒頭、スティングの主題歌が流れるオープニング・クレジットは悪くないし、
空撮で映されるニューヨーク市街地のスモッグがかかったような映像は、雰囲気満点なセンス。
しかし、ホントにこれだけで映画が終わってしまうから、チョット落胆の度合いが大きいかもしれません(苦笑)。

ただ、こういった映像センスっていうのは...
『ブレードランナー』の系譜と言ってもいいと思うし、『ブラック・レイン』にもしっかりと活かされています。
そういう意味では決して成功した作品とは言い難いが、リドリー・スコットにとっては必要な経験だったのかも。

どうでもいい話しですが...
身辺警護の際は、いくらトイレとは言え、安全確認して行かせないと警護は務まりませんよね。。。

(上映時間106分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 リドリー・スコット
製作 リドリー・スコット
脚本 ハワード・フランクリン
撮影 スティーブン・ポスター
音楽 マイケル・ケイメン
出演 トム・ベレンジャー
    ミミ・ロジャース
    ロレイン・ブラッコ
    ジェリー・オーバック
    ジョン・ルビンスタイン
    アンドレアス・カーツラス
    トニー・ディベネデット