恋する遺伝子(2001年アメリカ)

Someone Like You

男女の恋愛事情を、雄牛と雌牛の交配に関する研究に絡めて、
新説を展開するキャリアウーマンの女性が毎日の恋愛に必死な姿を描くラブ・コメディ。

まぁ...正直言うと、こういう映画を観るたびにラブコメの難しさを痛感しますね。

女性受けするという映画会社の判断からか、日本でも多くのラブコメ系映画が紹介されていますが、
痛快な面白さ、充実した内容、完成度の高さなど、それら優秀な点を兼ね備えた作品というのは、実に数少ない。
厳しい言い方をすれば、今の映像作家の多くはラブコメの撮り方を知らないのです。
まったくもって、ラブコメ系映画の面白さのツボを押さえていない作品が目立つのが残念でなりません。

本作を監督したトニー・ゴールドウィンは元々、俳優出身であり、
90年に大ヒットした『ゴースト/ニューヨークの幻』に出演して、存在感を示した役者さんです。
98年の『オーバー・ザ・ムーン』で初めて映画を監督しましたけど、本作は前作を下回る出来で残念ですね。
もっとも、『オーバー・ザ・ムーン』も内容が内容なだけに、あんまり好印象な作品とは呼べませんが。。。

ヒロインを演じたアシュレー・ジャッドも本作の頃がハリウッド女優として、一番輝いていた頃かなぁ。
当時からやたらと似たようなサスペンス映画にばかり出演していた印象が強いのだけれども、
本作のような軽いタッチの映画やコメディ映画なんかにもっと挑戦して欲しかったですね。
本人にこだわりがあるのかもしれないけど、90年代後半はトップ女優となる勢いがあっただけに、
21世紀に入ってからの彼女のウソみたいな低迷っぷりが、あまりに勿体なく感じられてしまうのです。

まだ女優業は続けているみたいだから、ここから盛り返して欲しいなぁ〜。

さりとて、アシュレー・ジャッドはスクリーンで輝いていようが、映画の出来はあまり良くない。
本作にとって致命的とも言えるのは、ヒロインのジェーンとエディの関係を上手くまとめ切れていない点だ。
もっと端的に指摘させてもらうと、2人が惹かれ合うことに、まるで納得性が感じられない。
勿論、男女の恋愛は理屈で説明できるものばかりではなく、必ずしも理由があるものではないが、
少なくとも恋愛映画なのだから、2人の間に恋心が芽生え、それが実るまでの駆け引きは描くべきだった。

とっても残念なことに、本作は2人の恋の駆け引きを省き、
おそらく30歳を超え、結婚適齢期の終わりが見え始めてきたであろうジェーンの恋愛相談を、
大々的に吐露させてしまうことによって、映画の大部分を構成し、また同時にそれで補ってしまう。

さすがに映画で描かれた内容だけで、2人の恋愛を成立させること自体に無理があると思う。
だって、いつまで経ってもエディの気持ちは描かれないし、エンディングも唐突に見えて仕方がない。

それと、僕には理解し難かったのは、
恋愛映画の中で最も面白いと言えるであろう、恋の駆け引きを積極的に描こうとしなかったこと。
これはどう考えたって、一番美味しいところを食べようとしなかったことと同じ。

そんな出来だからか(?)、揃いも揃って邦題も酷い。
確かに家畜繁殖の理論を応用させているから、内容的には間違っていないとは思うが、
いくらなんでも『恋する遺伝子』なんて邦題は、意味の分からない邦題としか僕には思えない。
(申し訳ないが、本作が日本でヒットしなかったのは...この邦題の影響もあると思う)

せっかく原題が付いているのだから、原題の意図を反映させたタイトルを付けて欲しいですね。

そういえば、映画の中でのヴァン・モリソンの曲って、より一段と映えますねぇ。
本作では原題通り『Someone Like You』(サムワン・ライク・ユー)が提供されていますが、
寒空のニューヨーク街角にも、またヴァン・モリソンの歌声がマッチして良い雰囲気になりましたね。

ジェーンに映画の冒頭から近づくグレッグ・キニア演じる同僚のレイが
徹底的に最低最悪な男として描かれているのは良かったですね。やっぱりこれぐらいでないと(笑)。
確かに現実で、こんなことをやられたら女性としては正しく痛手を負うだろうけど、
残念ながら、レイのような男がいるもの事実ですからねぇ。やはり“選球眼”ってのは重要なのかも。
(ちなみに臆せず、レイを演じたグレッグ・キニアは好演と言っていい)

この映画で最大の見せ場はアシュレー・ジャッドがチアリーダーの踊りを披露するシーンだろう。
これが一番の見せ場ってこと自体、悲しいけど、下着姿で始めるもんだから何故かヒヤヒヤしました(笑)。

本作劇場公開当時、当時、売れっ子女優だったアシュレー・ジャッド主演作だっただけに、
あんまりヒットせずにアッサリ上映終了となった記憶があって、当時は「何故だろうか?」と思っていたのですが、
これは実際に映画の中身を観て、分かりましたね。キャスティングを活かせなかった作品の典型例です。
キャスティングって、映画において重要な部分を担っているわけで、満足なキャスティングを実現するだけでも
容易いものとは言い難いだけに、本作なんかはひじょうに勿体ない結果となってしまったと思いますね。

コメディの要素は程良い配合になっておりますので、
あとは恋愛部分をもう少し上手く描けていたら、そこそこ面白い映画になっていたでしょうね。

アシュレー・ジャッドが好きで、好きで仕方がなくって夜も眠れない彼女のファンにだけオススメしたい作品です。

(上映時間97分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 トニー・ゴールドウィン
製作 リンダ・オブスト
原作 ローラ・ジグマン
脚本 エリザベス・チャンドラー
撮影 アンソニー・B・リッチモンド
音楽 ロルフ・ケント
出演 アシュレー・ジャッド
    ヒュー・ジャックマン
    グレッグ・キニア
    エレン・バーキン
    マリサ・トメイ
    キャサリン・デント
    ローラ・レーガン