お熱いのがお好き(1959年アメリカ)

Some Like It Hot

シカゴの市街地にある倉庫で、偶然、ギャングの殺しを目撃してしまった、
バンドマンである2人の男が女装して女性バンドに帯同し、マイアミへと流れたものの、
偶然、ギャングの集会で追っ手がマイアミに全員集合してしまう騒動を描いた名作コメディ映画。

言うまでもなく、ビリー・ワイルダーとI・A・L・ダイアモンドのコンビによる、
ドタバタ劇の名作中の名作なのですが、製作から50年以上経った今になって観ても、十分に面白いですね。

まぁ正直言って、映画の序盤は少し低調な感じで始まっており、
映画のエンジンがなかなか全開にならないまま進んでしまうのですが、
主人公の2人がマイアミに着いて、トニー・カーチス演じるジョーが本性を出したかのように、
シェル石油の御曹司に扮して、マリリン・モンロー演じるシュガーに近づくエピソードあたりから、
コメディ映画としての魅力を開花させたように、面白くなっていきましたねぇ。

当時、既に世界的に大人気だったマリリン・モンローをヒロインとして出演させておりましたが、
どうやら撮影当時、既にマリリン・モンローの精神的な病いは表面化しており、
精神的に不安定で役柄通り、睡眠薬とアルコールの過剰摂取に溺れていた彼女はトラブルを引き起こしており、
彼女に多くの要求はできなかったようで、ビリー・ワイルダーもかなり頭を悩ませていたそうです。

そういう意味でこの映画は、ジャック・レモンとトニー・カーチスのコンビに依存する部分が大きいのですが、
それにしても最初にカメラにフレームインしたマリリン・モンローはとにかく目立つオーラが放たれていますね。
やっぱりこういうのを観ちゃうと、いかに彼女が特別な女優であったかを痛感させられますね。

ギャングに追われるバンドマンの2人がジャック・レモンとトニー・カーチスなのですが、
2人とも女装が凄く似合っていて、特にトニー・カーチスの女装はよくできている(笑)。
さすがに顔立ちが良いせいか、メイクも素晴らしかったせいか、女装姿までもが美しいですね(笑)。

でも、ジャック・レモン演じるジェリーは金持ちの道楽爺さんにいきなりプロポーズされ、
女ったらしだったジェリーは開き直ったかのように、道楽爺さんを射止めて、リッチになろうとしますが、
一方でトニー・カーチス演じるジョーは、すっかりシュガーに惚れこんでしまったがために、
女装がバレるという危険を冒してでも、シュガーに2役で近づいて、積極的にアプローチします。
映画の中盤以降は、この2人の駆け引きがメインになっており、映画がグッと面白くなりましたね。

この2人の騒動が終結するラストシーンにしても、気の利いたラストで印象的ですね。

特に何を言っても笑顔で、ジョーをクドこうとする金持ちの道楽爺さんを演じたジョージ・E・ブラウンが面白い。
年甲斐もなく(?)、電話越しで「ボクは金があるんだぁ〜」と甘えるようにジョーに話すシーンは傑作ですね。

それとジェリーとジョー、2人のドタバタ劇とクロスオーヴァーするように展開する、
シカゴのギャングの追跡劇ですが、ホテルの一室でバースデーケーキが登場するシーンなんかは、
ギャング映画の定石通りの描写ではありますが、何とも気の利いた演出で良いですねぇ。
このシーンの直前で、ただならぬ空気を感じ取ったかのようなジョージ・ラフトの表情も良いです。

映画のエンジンがなかなか全開にならない映画の序盤の展開の中でも、
長距離夜行列車の寝台車で、ジェリーとシュガーが酒盛りを始めて、周囲の女性陣が気づいてしまい、
ジェリーのベッドに次から次へと女性陣が加わってきて、パーティーになるシーンは悪くないですね。
このシーンにしても、大事にすることは反対していたジェリーとは対照的に、水枕を使ってカクテルを作ったり、
デカい氷を手に入れて、用意良く、洗面所でアイスピックを使って氷を砕いたりと、
やたら精力的に準備するシュガーのエネルギッシュな姿が面白かったですね。
(マリリン・モンローもこのシーンは、まるで嬉々として演じているようで印象的ではありますが...)

本作で初めてジャック・レモンを起用したビリー・ワイルダーは、
本作以降、『アパートの鍵増します』、『あなただけ今晩は』と立て続けにジャック・レモンと仕事を共にします。

確かに本作以前は今一つブレイクし切れていなかったジャック・レモンが
本作での高評価のおかげで、コメディ俳優としての地位を確立していきましたからねぇ。
彼にとっても本作が一つのターニング・ポイントとなる作品であったことは間違いないと思います。

劇中、何度か登場するマリリン・モンローの歌のシーンは注目ですね。
超有名なマリリン・モンローが「ププピドゥ」と言うシーンがあり、これは映画史に残る名シーンですね。

僕は何故かこのシーンを観て、話の内容は全然、異なるのですが、
89年の『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』を思い出しましたねぇ。
バンドの歌い手との恋愛を描いた映画という意味では、『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』は
本作をモデルとしているのかもしれませんね。歌い手を後ろから見つめるという構図が印象的ですね。

何はともあれ、これは名作に相応しい一本と言えるだけの価値があります。

特に映画の終盤の畳み掛けるような展開には、
「コメディ映画というのは、こうやって撮るんだよ」ってぐらいの余裕が感じられますねぇ。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ビリー・ワイルダー
製作 ビリー・ワイルダー
原作 R・ソーレン
脚本 ビリー・ワイルダー
    I・A・L・ダイアモンド
撮影 チャールズ・ラングJr
音楽 アドルフ・ドイッチ
出演 トニー・カーチス
    ジャック・レモン
    マリリン・モンロー
    ジョージ・ラフト
    ジョー・E・ブラウン
    パット・オブライエン

1959年度アカデミー主演男優賞(ジャック・レモン) ノミネート
1959年度アカデミー監督賞(ビリー・ワイルダー) ノミネート
1959年度アカデミー脚色賞(ビリー・ワイルダー、I・A・L・ダイアモンド) ノミネート
1959年度アカデミー撮影賞<白黒部門>(チャールズ・ラングJr) ノミネート
1959年度アカデミー美術監督・装置賞<白黒部門> ノミネート
1959年度アカデミー衣装デザイン賞<白黒部門> 受賞
1959年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ジャック・レモン) 受賞
1959年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
1959年度ゴールデン・グローブ賞主演男優賞<ミュージカル・コメディ部門>(ジャック・レモン) 受賞
1959年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>(マリリン・モンロー) 受賞