ソープディッシュ(1991年アメリカ)

Soapdish

まぁ・・・てんでダメな映画ってわけじゃないんだけど、
これだけの豪華キャストを揃えた作品だというのに、結局はケビン・クラインに頼りっきりな印象ですね。

映画は視聴率に困っている昼メロドラマで長年主演を務めて、数々の賞をもらっている
ベテラン女優のセレステの扱いに困っていたスタッフが、勝手にかつてセレステと恋人関係にあって、
イザコザがあって降板した冴えない舞台俳優をキャストに呼び戻したり、無理矢理なシナリオに書き換えたりして、
セレステにとってツラい撮影現場にするものの、そんなセレステへの嫌がらせが意味を為さない様子を描くコメディ。

主演はあくまでセレステを演じるサリー・フィールドで、彼女はいつも通りの安定感なのですが、
それでもセレステにドラマから“追い出された”ことを今でも恨んでいる、冴えない舞台俳優ジェフリーを演じた
ケビン・クラインの存在感が圧倒的という感じで、映画もすっかり彼の芸達者ぶりに頼りっきりになっている。

個人的にはもっとドタバタ劇が前に押し出されていて、笑わせてくれると思ったんだけど、
予想していたほどは笑えるという感じではなくって、アメリカンなギャグで覆われているという感じでもないから、
これは国際的な笑いの感覚を持っていれば笑えるかというと、決してそういうことではないような気がします。
根本的にゲラゲラ笑わせるというより、ニヤニヤさせたい作品なのだろうけど、どこか不発な感じでイマイチですね。

監督は96年に『素晴らしき日』を撮ることになるマイケル・ホフマンで、ドラマ系の作品の方が得意なようだ。

本作も元々のシナリオ自体は面白いと思うし、アレンジの仕方の問題は大きいのではないかと思う。
正直言って、コメディ映画の経験があるディレクターが撮っていれば、もっと面白い作品に出来たと思います。
そこがとっても勿体なくって、どこかテンポ良く映画を進められていない。もっと全体の流れを生かして欲しかったなぁ。

この豪華なキャストが目を見張るものがあるのですが、前述したようにその中でもケビン・クラインが突出している。
セレステに昼ドラの役を追われてしまった立場で、しがないバーで売れない舞台俳優として活動しているものの、
セレステのドラマから再び復帰をスカウトされたことから、再びセレステへの復讐心を燃やすあたりが面白い。

セレステでのキスシーンでは、開き直って熱烈にキスするシーンからしてクスリと笑えるし、
口八丁手八丁で若い駆け出しの女優ローリーに近づいていこうとする姿も、なんだかケビン・クラインらしくて楽しい。

こうして豪華なキャスティング、抜群の役者を主演級に据えながらも、
どこか冴えないコメディ映画になってしまったというのは、やはり作り手に問題があったと言わざるをえないと思う。
脚本の段階で問題があったのかもしれないが、これはあまりに工夫の感じられない作りになってしまっている。

会話劇のスピード感を生かして、映画全体をもっとテンポアップして欲しかったし、
昼ドラのプロデューサーを演じたロバート・ダウニーJrに、もっと物語をかき乱す存在になって欲しかった。
キャシー・モリアーティ演じるドラマ出演者で看護婦を演じていたモアヘッドにしても、どこかクセ有るのは良いけど、
彼女に関するエピソードにつくオチはあまりに酷い。もう少し上手い収束のさせ方ができなかったのかと疑問に感じる。

ハッキリ言って、この辺りは作り手のセンスの問題もあるのかもしれません。
現代の感覚なのかもしれませんが、少し意見の分かれそうなプロットなので、もっと手堅い選択肢もあったと思う。

確かに主演にサリー・フィールドというのは地味なコメディ映画のようにも思えるけど、
ただ彼女は彼女で、彼女なりに出来ることを頑張りました。本作のケビン・クラインとまともに比べられるのはツラい。
それくらい、80年代後半から90年代初頭にかけてのケビン・クラインって、僕はスゴい役者だったと思うんですよね。
やっぱりオスカーをもらった、88年の『ワンダとダイヤと優しい奴ら』で演じたオットー役なんて、最高でしたからね。

日本でも、以前は昼ドラ枠ってありましたけど、今ではすっかり無くなってしまいましたね。
アメリカでは通称“ソープオペラ”と呼ばれていて、数多くの昼ドラが製作されていますが、熱心なファンも多いようだ。

本作で描かれたような内幕がどれだけ現実世界に存在するのかは分かりませんが、
さすがにモチベーションを今一つ上げられずに仕事をしていて、周囲からの人望もない女優であるセレステが
何十年も昼ドラの主役をはっていて、テレビドラマの賞をいとも簡単に受賞できてしまうというのは、なんとも信じ難い。
確かにネームバリューが幅を利かせることはあるだろうが、さすがにここまで現実は甘くはないだろうと思います。
特にアメリカはテレビ界と映画界は、かつて全くと言っていいほど違う世界でしたが、テレビ俳優を目指す人も多かった。

最後の最後に、そんなセレステを救う立場に回る人がいたというのは、セレステにとっては大きかったでしょう。

そうそう、セレステのマネージャーを演じたのがウーピー・ゴールドバーグで
90年代は数多くのコメディ映画に出演していましたが、本作はどちらかと言えば、控え目な感じだ。
あまり前へは出てこないのですが、それでも映画の中盤に気難しいセレステにお願いされて、
彼女の自尊心を蘇らせるためにとデパートのエスカレーターで、たまたまセレステを見つけたファンになるのが面白い。

現実にこんなことはやってられないでしょうけど、セレステはいつまでも自分をスター扱いして欲しい。
虚栄心というのとは違うでしょうが、スターを“演じ”続けていくためには、定期的なメンテナンスが必要なのでしょう。
マネージャーが一介のファンに扮して、デパートでたまたまスターであるセレステを見つけたという設定で、
大袈裟に驚いて周囲に知らせることで、セレステがチヤホヤされるキッカケを作って、サイン会になってしまう。

通常だと、こういうのは嫌がられると思うのですが、セレステの場合はむしろ注目して欲しいというわけ。
まぁ・・・こんなことを定期的にやって自尊心を保つなんてことやられたら、セレステのマネージャーは大変ですね。
並みの人間では務まらない仕事ですよ。それでも、ウーピー・ゴールドバーグは適役でしたね。アッサリやってのける。

豪華キャストが目立つ作品ではありますが、最も脇で生き生きとしていたのは彼女ですね。
彼女以外にもキャリー・フィッシャーや『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズで注目されつつあった、
エリザベス・シューなどそこそこネームバリューある役者さんが出演してますけど、今一つインパクトが弱いなぁ。

映画はコンパクトでよくまとまってはいますが、終盤の収束のさせ方も今一つ上手くない。
キャスティングも良かったし、どこに不足があるのかと疑問に思うところもあったのだが、“何か”が足りない。
それはもっと、セレステの魅力を描くべきとことで、しっかりやれていないことだと思う。本来的にはセレステは
周囲に憎まれながらも、どこか人間的な魅力があるという風に描かなければ、この物語は成立しないはずだ。

夫婦、親子、それぞれの不和にしても、セレステの人間的魅力があるからこそ収束できるはずで、
残念ながら本作で描かれた姿は、そういったことではないように思える。これは僕は致命的なミスだったと思う。

そこにはエリザベス・シュー演じる若き女優志望の女性がカギを握る存在になるのですが、
観客も彼女も一緒になって、セレステの人間性を見直すような瞬間が欲しかった。それがないから、どうにも弱いなぁ。
あくまでサリー・フィールド演じるセレステが主役にした映画なのですから、最後は彼女に魅了されるくらいでないと。

この辺はやっぱり監督のマイケル・ホフマンが制御すべきところだったと思うし、
どうにもノリ切れないコメディ映画に終わってしまったのは、ディレクターとしての責任は重たいと思いますね。
やっぱり...「違う人が監督だったらなぁ〜」と無意味な嘆きを言いたくなってしまう、出来に甘んじていると感じた。

ちなみにタイトルは“石鹸置き”という意味なのですが、前述したようにアメリカの昼ドラが
“ソープオペラ”と呼ばれていたことからタイトルとして付けられたのでしょうけど、そもそもなんで“ソープオペラ”と
呼ばれたかと言うと、なんと当初のアメリカの昼ドラのスポンサーは石鹸会社が多かったからという理由でした。

きっと、このアメリカの昼ドラの世界観が好きな人には、面白さがピンポイントに伝わる作品なのでしょう。

ただ、個人的にはケビン・クラインに依存してしまった作品のように見えて、
もっとヒロインをしっかりと描いて、最後はハートフルな感覚を演出した方が映画が磨かれたように思います。
製作にハーバート・ロスの名前がクレジットされていたので、ハーバート・ロスに監督してもらった方が良かったなぁ。

とまぁ・・・無いものねだりをしてしまいますが、これはホントに勿体ない作品だなぁという印象ですね。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 マイケル・ホフマン
製作 アーロン・スペリング
   アラン・グライスマン
原案 ロバート・ハーリング
脚本 ロバート・ハーリング
   アンドリュー・バーグマン
撮影 ウエリ・スタイガー
音楽 アラン・シルベストリ
出演 サリー・フィールド
   ケビン・クライン
   ロバート・ダウニーJr
   ウーピー・ゴールドバーグ
   エリザベス・シュー
   キャシー・モリアーティ
   テリー・ハッチャー
   キャリー・フィッシャー
   キャシー・ナジミー
   ゲイリー・マーシャル