スネーク・アイズ(1998年アメリカ)

Snake Eyes

確かこの映画、日本では劇場公開時、「つまらない!」などと不評だった記憶があるのですが、
まぁ...こんなこと言うと、ブーイングかもしれないけど、僕が思うにこの映画...

主人公のリッチーがボードウォークまで追い詰められていくシーンまでは大傑作の風格すら感じさせてます。

ただ、そこからが致命傷とも思える大失態。
エンド・クレジットにある意味ありげな宝石のシーンに至っては話しにならない。

ボードウォークに追い詰められて一悶着あって、
映画が終了なら、おそらく僕はこの映画を傑作と思っていただろう。
しかしその後のワイドショー的な展開と、エンド・クレジットの“お遊び”は全くもって、この映画には不必要。
この辺がブライアン・デ・パルマの弱さというか、一流の映画監督になり切れない部分かな。
まぁ可愛げがあると言えばそれは否定しないけど、いつまでもこんなことやってるようじゃ成長しませんね。

極論、この映画は『羅生門』のようなストーリー展開で進行し、
フラッシュ・バックを視点の違いにより何度も繰り返し、上手く映画のミステリーを成立させている。
決して完璧ではないにしろ、こういった見せ方の面白さは特筆に値すると思いますね。

それだけでなく、公開当時、大きく話題となった冒頭12分にわたる驚異的な長回しが圧巻。
単に一人芝居で12分ワンシーン/ワンカットを実現させたわけではなく、
あくまで多くの登場人物を映してアンサンブルを成立させながら、長回しを敢行するのだから凄い。
一番、多く演じる部分が多いニコラス・ケイジが変なテンションで芝居しているのが若干、気になるけど、
このミスしたくはないとする意気込みがカメラに乗り移ったせいか、凄い緊張感で素晴らしいですね。

まぁ冷静に考えて、無理してまでワンシーン/ワンカットにしなくとも良かった気がするけど、
こういうブライアン・デ・パルマの野心的な部分というのは、もっと評価してあげてもいいかもしれないですね。

半ばデ・パルマがこの長回しをやりたいがために撮った映画という気もしますが(笑)、
誰も取り組まなかった壮大な挑戦に挑み、見事に結実させたデ・パルマは賞賛に値します。
で、肝心かなめの長回しが終わった後もヤル気を失うことなく(笑)、そこそこ健闘していますね。
この長回しのシーンをフラッシュ・バック形式にして見せるなど、長回しの意味が見えてきます。

強いてワンシーン/ワンカットにこだわった理由を探すならば、
カメラの視点を一点のみに集中させるワンシーン/ワンカットを採用することで、
フラッシュ・バックの見せ方に広がりが出ましたね。全て回想シーンでは、冒頭と違った視点から映されます。

まぁニコラス・ケイジもよっぽどトチりたくなかったんでしょうね(笑)。
何回のテイクを要したのか、リハーサルにどれぐらい時間をかけたのか分かりませんけど、
彼一人、異様なハイテンションで演じられていて、半ばヤケになって演じているような気もしますが、
これは彼なりの頑張りと言えるでしょう。それが映画の後半に活きているのだから、価値がある。

だからこそ思うのですが、何故、最後にあんな失態に転じてしまったのか理解に苦しみます。

デ・パルマが映画ファンに支持される理由となるということも分かりますが、
この辺の幼稚さがデ・パルマが一流の映画監督になり切れない理由です。
映画の始めからリッチーが汚職警官であることは明確なわけで、
何故にそこをダメ押しするように映画の最後でワイドショーのように紹介するのか、その意図が分からない。
完全に映画をブチ壊す、本作にとって致命傷となる大失態だったと言ってもいいと思いますね。

映画の姿勢として、この映画は謎解きをメインにはしておりません。
それは映画で描かれる事件の犯人が早々と明らかになっている時点で、
観客に犯人探しをさせることをデ・パルマが放棄してしまっていることは明白だからです。

それよりもこの映画は観客だけに真相を明白にさせた上で、
『羅生門』のように各登場人物の証言内容に微妙な食い違いを作って、
主人公のリッチーが困惑するという点に面白さを見い出しています。
従って、デ・パルマはあくまで映像表現にこの映画の主軸を立てているのですよね。

まぁ安直にストーリー上でこねくり回して面白くさせようとする輩よりも、
本作でのデ・パルマの姿勢の方がよっぽど映画監督としては好感が持てますね。

映画の見せ方としては至極真っ当な見せ方をしており、過去のデ・パルマ監督作と比べると、
彼お得意のヒッチコックへのオマージュだとか、そういった類いの“お遊び”は少ないかと思います。

ちなみにタイトルの“スネーク・アイズ”とは「親の総取り」という意味だそうだ。
どこら辺が“スネーク・アイズ”なのか、正直言って、よく分からないのですが、
事件そのものをギャンブルに比喩しての表現なのでしょうね。もうチョット、良いタイトルもあったと思うけど・・・。

とまぁ・・・全てがダメな映画ではなく、
楽しみ方次第では、この映画のクライマックス付近までは傑作としての風格すら感じさせる出来。

映画ファンの中でも比較的コアな部類に入るデ・パルマのファンなら、この気持ち、分かってくれるかも(笑)。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ブライアン・デ・パルマ
製作 ブライアン・デ・パルマ
原案 ブライアン・デ・パルマ
    デビッド・コープ
脚本 デビッド・コープ
撮影 スティーブン・H・ブラム
音楽 坂本 龍一
出演 ニコラス・ケイジ
    ゲーリー・シニーズ
    カーラ・グギーノ
    ジョン・ハード
    ケビン・ダン
    ルイス・ガスマン
    スタン・ショウ