スネーク・アイズ(1998年アメリカ)
Snake Eyes
これは劇場公開当時、不評だった記憶があるのですが・・・
確かに、これは「映画の方から観客を選ぶ」という感じがしますけど、僕は結構面白かったなぁ。
正直言って、デ・パルマの監督作品が好きか嫌いかで、その印象は大きく異なっているのだろうと思う。
90年代に入ってからのデ・パルマの活動は、どことなく冴えない印象が僕の中ではあったのですが、
本作は久しぶりの快作だと思いました。賛否はあるとは思いますが、久しぶりにデ・パルマらしい野心が溢れています。
もう、冒頭の10分を大きく超えるワンカットの長回しからして、実に気合の入った演出と言ってよく、
やたらとハイテンションでリングサイドへ闊歩する刑事リッチーを演じたニコラス・ケイジは気になったけど(笑)、
映画全体としてデ・パルマの「チョット面白いことやってやろう!」という気概が、なんとも嬉しい作品と言っていい。
ただ、敢えて最初に残しておくと...この映画のクライマックスはまったくもって同意できない展開。
個人的にはこの映画で描かれた謎解きというのは、正直あまり映画の醍醐味に強い影響を与えるものではなく、
その内容もどんなカラクリでも良かったと思うのですが、やたらと意味ありげに描くのは過剰で賛同できなかったし、
ヒーローに祭り上げられた主人公リッチーが腐敗していく顛末まで、長々と描く下世話さがスゴく残念だったんですね。
ボクシング会場で起きた国防長官暗殺事件に居合わせたチャラい汚職刑事のリッチーが、
リッチーの友人でもある国務官ケビンと共に、スタジアムの観衆14000人を対象にして捜査する姿を描きます。
まぁ、色々と捜査の過程で真実が明らかになってはいくのですが、ハッキリ言って、真犯人は分かり易いし、
その真犯人の正体も割りと早い段階で明らかになっていくので、作り手としても謎解きに力点を置いていないです。
それよりも真実に迫っていくスリルや緊張感を味わうべき作品だと思うのですが、その緊張感が冒頭の長回しで
シンクロするように乗り移っているのも良いし、リッチーがボコボコされながらも犯人をボードウォークに追い詰める、
映画のクライマックスに至るまでは傑作の風格さえ感じられた。デ・パルマの監督作品では久しぶりの感覚ですよ。
この冒頭の長回し、同じシーンでありながら幾つか別なカメラアングルからフラッシュバックする演出もあり、
どうやって撮影したのかは分からないけど、限られた空間で繰り広げられるワンカット撮影でも、スゴく凝っている。
ニコラス・ケイジのハイテンションな芝居もベターな選択だったのだろうし、短い上映時間で一発勝負な感じで良い。
映画の舞台となるのは、アトランティックシティの熱狂するスタジアムであって、風雨が強まる夜。
外にはマスコミが集まっていて、国防長官が客席にいるものだから、数多くの警察官がスタジアム内に張り込む。
そこでボクシングの試合に賭けを行っている汚職刑事リッチーが、我が物顔でスタジアム内を闊歩する冒頭でして、
内通者や友達を見つけるたびに“ウザ絡み”を繰り返す。思わずドラッグ中毒なのかと疑わせられるくらいです。
ボクシングチャンピオンの控室やらテレビ中継しているカメラの前など、ありとあらゆる場所を歩き回り、
それでいてスタジアム内という限定された空間内のため、階段やエスカレーターなどを使って縦にも移動する。
次から次へと“ウザ絡み”を続けるリッチーをカメラが追い続けるのですが、出演俳優たちも台詞や立ち位置、
一つ一つの動きを間違えると撮影をやり直さなければならないという、プレッシャーと闘う尋常ではない緊張感だろう。
せっかく、それまでは映画のスタートからピリッとした緊張感ある画面で流れきていただけに、
この終盤の構成は脚本段階での問題もあったのだろうけど、すべてを台無しにしてしまったように感じられて残念。
おそらく、このラストのチープさ、B級っぽさも含めて本作の面白さであるのだろうとは思うのですが、
キャリア長く創作活動を行ってきたデ・パルマなだけに、個人的にはこういうレヴェルに留まって欲しくはないなぁ。
93年の『カリートの道』なんかは良かっただけに、コメディでもない本作にいきなりチープさを加える意味も分からない。
それからヒロインとなるべき存在だったはずのカーラ・グギーノは、もっとキチンと描いて欲しかった。
映画の前半から、国防長官が暗殺されるシーンから登場はしてくるのですが、中途半端な感じで彼女の意味が弱い。
これでは彼女が可哀想で、チャラいリッチーだからで片付くのかもしれないけど、ラストのキスも納得感が弱い。
この辺も含めて、デ・パルマには映画の終盤のアプローチを見直して欲しかった。それくらい勿体ない感がいっぱい。
正直、デ・パルマ自身はストーリーを語ることよりも、自分の撮りたいように撮ることくらいしか
興味がなかったのではないかと思うのですが、どうせならクライマックスまで、そのこだわりに徹して欲しかった。
70年代後半のスリラー映画を連発していた頃のデ・パルマとはチョット違う魅力ではあるのだけど、
本作のデ・パルマはここ最近は無かったような引き締まったシーン演出ができていました。少なくとも終盤までは(笑)。
なので、根っからのデ・パルマのファンであれば本作は楽しめるような気がします。ニコラス・ケイジも合っているし。
何より、このスピード感ですね。サクサク、サクサクとエピソードを進めていくし、
一時的にリフレインするパートがあるのですが、それらもクドクドとさせない編集もなんとも快調で素晴らしい。
久しぶりにデ・パルマの映画に若々しさを感じさせられましたし、実に生き生きして演出しているかのようで嬉しい。
どうせなら、ボクシング・シーンも描いて欲しかったですね。そういう主旨の映画ではないせいか、
ファイトのシーンはほとんど無かったのですが、デ・パルマだったら上手く撮れたはず。チャンピオンがダウンする瞬間を
スローモーションで意味ありげに倒れる際の表情を映すのも、映画の中では良い伏線になってるだけに惜しいですね。
デ・パルマの得意技のオンパレードだったので、これをボクシング・シーンに当てはめたらどうなったのでしょうか?
特にキャストの目線に合わせたカメラなど、臨場感を演出するには最適な撮影であって、
これもデ・パルマらしいのですが、これをリングでのファイトに当てはめれば面白いシーンになったと思うんだけどなぁ。
主人公のリッチー役にはニコラス・ケイジが正しくピッタリでしたね。汚職刑事というキャラクターもあってか、
とにかくチャラいわけですが、いざ自分が捜査の主導権を握れると確信した途端に、前に出てくる安っぽいキャラ。
でも、妙な正義感を出すことがあって、カーラ・グギーノ演じる女性に突如としてキレたり、少し掴みどころが無い。
そんなキャラクターだからこそ、散々ヒーローとして持ち上げられた後に堕落していくのが生々しいけど(笑)、
それでもやっぱりあのラストの転落劇は余計だったなぁ。この余計なことしちゃうのも、やっぱりデ・パルマですね(笑)。
こういうのが無ければ、本作なんかはもっと高く評価されるのにと思えてならないし、映画も引き締まったはず・・・。
まぁ、この転落があるからこそリッチーのキャラが引き立つという意見もあるでしょうけど、
無用な謎解きや、意味ありげに宝石が映されるラストなど、まるで“照れ隠し”のようにデ・パルマが安っぽくしている。
こういうことを敢えてやる演出家の意図が僕にはどうしてもよく分からない。まぁ、これがデ・パルマっぽさなんだけど。
ちなみに脚本を書いたデビッド・コープは、他にも数多くの映画のシナリオを書いている人。
どこまでデ・パルマが口を挟んでいたのかは分からないが、原案に加わっているのでそこそこ口は挟んでいるでしょう。
日本人としては坂本 龍一が音楽を担当したことは嬉しいけれども、あまり目立っていない気がしたのは残念。
と言うか、印象に残らない。それは、映画の出来に左右された面もあるだろうし、もう少し何かしらインパクトが欲しい。
まぁ、こうしてデ・パルマの映画で音楽を任せられるなんて、当時の日本の音楽家としては坂本
龍一くらいでしたから。
だからこそ、本作の良さがお粗末なラストに隠されてしまったようで、これが僕にとっては残念でならないのですよね。
ちなみにタイトルになっている“スネーク・アイズ”とは1のゾロ目を意味する言葉で、
日本の将棋で言う「詰み」の状態を意味するらしい。おそらく、ラストのことを象徴するタイトルなのでしょうし、
主人公リッチーがヒーローになっても結局は転落してしまって、「人生詰んでしまう」感覚を象徴しているのかと感じます。
しかし、それでもリッチーを救う存在があり、それがカーラ・グギーノ演じる女性ということなのかもしれません。
それにしても...決してそういうことではないのだろうけど、デ・パルマの演出も含めて
映画のテンション自体がオープニングの10分を超える長回しがMAX状態で、そこから落ちてしまうように見える。
まさかこの長回しを撮って満足したわけではないだろうけど(笑)、この野心的な演出こそデ・パルマがやるべきこと。
まぁ、あのボードウォークに追い詰めるところで映画が終わっていれば、もっと印象は良かったかもしれない・・・。
(上映時間98分)
私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点
監督 ブライアン・デ・パルマ
製作 ブライアン・デ・パルマ
原案 ブライアン・デ・パルマ
   デビッド・コープ
脚本 デビッド・コープ
撮影 スティーブン・H・ブラム
音楽 坂本 龍一
出演 ニコラス・ケイジ
   ゲーリー・シニーズ
   カーラ・グギーノ
   ジョン・ハード
   ケビン・ダン
   ルイス・ガスマン
   スタン・ショウ