スラムドッグ$ミリオネア(2008年イギリス)

Slumdog Milionaire

日本でも00年代に人気を博したテレビ番組『クイズ$ミリオネア』。なんだか懐かしぃ〜(笑)。

あの番組自体も、元々はイギリスの『フー・ウォンツ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア』というクイズ番組の
ほぼ完全コピーみたいな番組で、オリジナル番組は98年に放送開始し、たちまち人気番組になったそうです。

このクイズ番組をモチーフに、インドを物語の舞台に変え、
スラム育ちで経済的に苦しく、親を失い、命の危険と隣り合わせの日々の中で育った青年が、
やがてコールセンターでお茶くみのバイトをして、クイズ番組の回答者として出演することになり、
次々と難問を正解して1000万ルピーという大金をゲットするも、司会者はじめ番組スタッフが青年の素性を疑い、
インチキをして正解しているとして、警察に身柄を拘束され尋問を受けるシーンから、映画が始まります。

国際的にも数々の映画賞で高く評価され、日本でも大きな話題となったヒット作ですが、
『トレインスポッティング』などで知られるイギリス出身のダニー・ボイルが、何故に突如、インドを舞台に本作を
撮ろうと思ったのか、その真意は不明ですが、確かに要点がよく整理されていて、面白い作品に仕上がっている。

ただ、敢えて、最初に述べさせてもらうと、僕の中ではそこまで強く訴求するものは無かった。
2008年度アカデミー賞で9部門に大量ノミネートされ、8部門で受賞するなど国際的にも高い評価を得ました。

まるでミュージック・ビデオを観ているかのような構成なので、映画のスピード感は抜群だけど、
ダニー・ボイルの監督作品としても、スリリングさや内容のヘヴィさという観点からは、どこか物足りない。
最後は陽気に踊って映画を終わらせてしまうあたりは、インド映画らしさを強調したのでしょうが、
個人的にはもっと苦しい状況から抜け出してきた青年の苦難に、重たさがあった方が良かったと思う。

エンターテイメントとしては充実している部分はあるので、そこそこ印象が良い映画ではあるのですが、
アカデミー作品賞を受賞した映画であるというのに、突き抜けるものが無かったという印象で、
満場一致の最高点を与えられる映画かと言われると、僕はYESと言えないところが本作の苦しいところだと思う。

クイズ番組の描写にしても、どこか緊張感が無くて、緩慢な演出に感じられる。
ワザとらしい“ファイナルアンサー?”の顔芸はいらないけど(笑)、それにしても緊張感が無さ過ぎる。
偶然が偶然を呼んで、無学な青年がクリアしていく奇跡というわけですが、クイズ番組ももっと面白く描いて欲しかった。

上から目線ですが・・・この辺がどうしても及第点レヴェルの映画かなという感想に留めてしまう。

確かに長年にわたる青年ジャマールとラティカの恋愛は悪くない描き方だと思うし、
何度もリフレインする駅のホームでラティカを見かけるショットは、脳裏に焼き付けるインパクトが強い。
だからこそ、エンド・クレジットで使われる、主要キャストが踊るシーンは大円卓みたいで映えたのは事実。

この最後のダンス・シーンはダニー・ボイルなりのインド映画へのリスペクトの表れなのかもしれませんが、
どことなくですが、作り手が「インド映画っぽいだろ?」と主張しているかのようで、どこか居心地の悪さを感じた。
ダンス・シーン自体は決して悪いものではなく、むしろ映画のスピード感に合っているので、僕の邪推が余計だった。
でも、そう思わせられるぐらい、僕は本作に観る側が素直になり切れない、欧米の論理が入っているように思う。

劇中にも、一方的に痛めつけられた少年を見て同情したアメリカ人旅行客が
「アメリカを見せてやる!」と言って札束を少年に渡すシーンを皮肉っぽく描いていますけど、
いくら原作に書いてあったとは言え、欧米の映画人が敢えてこのシーンを描くというのは、僕は共感し難いものがある。

素直にジャマールの生い立ちにフォーカスして、クイズ番組で誰もがクリアできない難問を
次々と解いていったというのが、偶然にもジャマールの不遇な生い立ちにリンクする問題であったという、
千載一遇の奇跡が重なってミリオネアになったという奇跡を、もっとストレートに描けばいいのに・・・と思ってしまう。

本作はある意味でファンタジーであり、そこに社会派な要素があるから評価されたのでしょう。
しかし、結果として本作にそこまで突き抜けたものを感じなかった僕にとっては、本作が高く評価されたこと自体、
現代のハリウッドをはじめとする、欧米の映画界の論理や目線が中心的であることの象徴だと感じています。
個人的には本作が登場したこと自体、インド映画界は表向きは好意的に受け止めたのでしょうけれども、
ホントのところでインド人がどう感じ取ったのは分からないし、インド映画界で描きたかった物語だったのではないかと
うがった目線で邪推してしまうので、本作を観終わった後も、なんだかフクザツな気分にさせられてしまった。

映画自体がそこそこ面白く仕上がっているだけに、インドの映画人ははがゆく感じた面もあったのではないかなぁ?

事実、欧米の映画界でインド映画の美味しい部分を“つまみ食い”して、それを賞賛したように見えるという、
僕のうがった見方になってしまったのは、本作の後にインド映画をハリウッドはじめ、欧米のプロダクションが
強烈にプッシュした映画をどれだけ手掛けたのか?という疑問があるからで、後に続かなかったからというのもある。

どうせ取り扱うのであれば、もっと数多くインド映画の魅力について広める努力をして欲しかった。
(とは言え、僕もインド映画をほとんど観ていないので、まったく偉そうなことは言えませんがね・・・)

しかし、どうでもいい話しかもしれませんが...
特に具体的な嫌疑もなく、クイズ番組で誰もクリアできない領域に達したからと言って、
簡単に逮捕されて身柄を拘束されるって、なんだかスゴい話しですよねぇ。オマケに拷問されるし。
クイズ番組の司会者は、自分が目立たなくなることを恐れて、ジャマールに敵意むき出しに差別的発言はするし。

結局、この差別意識というのがジャマールが逮捕される原動力のような気もしますが、
インチキしているから、正解するのだという一方的でムチャクチャな論理で逮捕されちゃ、やってられませんね。

クイズ番組でミリオネアとなったのも、ラティカとの恋もジャマールの運命であったという映画だ。
だからこそ、これは繰り返しになるけどファンタジー映画です。スラムの現実という、社会派な要素はありますが、
これは映画賞ウケを狙った面も否定できず、この映画の骨格はファンタジーです。そうでなければ都合が良過ぎる(笑)。

どうせ社会派な部分を描くのであれば、ジャマールとサリームが“保護”して集団生活させる、
悪徳連中の存在も、もっと観客にとってストレスになるくらいしつこくないと、映画が盛り上がりませんね。
サリームに銃を突きつけられて慌てるレヴェルの悪党では、いくら残酷な儀式のようなことをやる残忍さを描いても、
なんだか中途半端で矛盾したように映ってしまい、納得性に欠けます。これはもっと徹底するべきところでしたね。

まぁ・・・それでも、現地ロケで撮り上げたダニー・ボイルの気合は素晴らしい。
彼も『トレインスポッティング』で一気い注目を浴びましたが、その後のハリウッド進出が微妙な感じになり、
映画監督の立ち位置としてキワどかったと思うのです。それが本作で大成功ですから、大きな足跡を残したわけです。

個人的には劇場公開当時に大絶賛されていただけに、凄く期待していたのだけれども、
その期待に応えてくれたかと言われると微妙だけど、インド映画の“熱さ”について考えるキッカケになりました。
そのキッカケはダニー・ボイルが作ったのでしょう。映画の出来はそこそこだが、突き抜けたものが欲しかったけど。。。

ちなみに映画の序盤で、ムンバイのスラム街の人々がヘリで訪れ、大熱狂する映画スター、
アミターブ・マッチャンは実在の人物で、インド映画界(ボリウッド)では押しも押されぬ大スターだ。
2013年にはバズ・ラーマンの『華麗なるギャツビー』にも出演して、ハリウッド・デビューも飾っています。

50年近いキャリアがあるようで、大ベテラン俳優で一時期は政治活動もしていたそうです。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[PG−12]

監督 ダニー・ボイル
製作 クリスチャン・コルソン
原作 ヴィカス・スワラップ
脚本 サイモン・ボーフォイ
撮影 アンソニー・ドット・マントル
編集 クリス・ディケンズ
音楽 A・R・ラフマーン
出演 デヴ・パテル
   マドゥル・ミッタル
   フリーダ・ピント
   アニル・カプール
   イルファン・カーン
   アーユッシュ・マベーシュ・ケーデカール
   アズルディン・モハメド・イスマイル
   ルビーナ・アリ

2008年度アカデミー作品賞 受賞
2008年度アカデミー監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度アカデミー脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度アカデミー撮影賞(アンソニー・ドット・マントル) 受賞
2008年度アカデミー作曲賞(A・R・ラフマーン) 受賞
2008年度アカデミー歌曲賞(A・R・ラフマーン) 受賞
2008年度アカデミー音響編集賞 ノミネート
2008年度アカデミー音響調整賞 受賞
2008年度アカデミー編集賞(クリス・ディケンズ) 受賞
2008年度全米監督組合賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度全米脚本家組合賞脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
2008年度イギリス・アカデミー賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度イギリス・アカデミー脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度イギリス・アカデミー賞作曲賞(A・R・ラフマーン) 受賞
2008年度イギリス・アカデミー賞撮影賞(アンソニー・ドット・マントル) 受賞
2008年度イギリス・アカデミー賞編集賞(クリス・ディケンズ) 受賞
2008年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞
2008年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞作品賞 受賞
2008年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度全米映画批評家協会賞撮影賞(アンソニー・ドット・マントル) 受賞
2008年度ニューヨーク映画批評家協会賞撮影賞(アンソニー・ドット・マントル) 受賞
2008年度ロサンゼルス映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作曲賞(A・R・ラフマーン) 受賞
2008年度ボストン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2008年度ボストン映画批評家協会賞編集賞(クリス・ディケンズ) 受賞
2008年度シカゴ映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度シカゴ映画批評家協会賞脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度ワシントンDC映画批評家協会賞作品賞 受賞
2008年度ワシントンDC映画批評家協会賞脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度セントルイス映画批評家協会賞外国語映画賞 受賞
2008年度デトロイト映画批評家協会賞作品賞 受賞
2008年度デトロイト映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度サンディエゴ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2008年度サンディエゴ映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度サンディエゴ映画批評家協会賞脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度サンディエゴ映画批評界協会賞撮影賞(アンソニー・ドット・マントル) 受賞
2008年度サンディエゴ映画批評家協会賞編集賞(クリス・ディケンズ) 受賞
2008年度サンディエゴ映画批評家協会賞作曲賞(A・R・ラフマーン) 受賞
2008年度サウス・イースタン映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度サウス・イースタン映画批評家協会賞脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度フェニックス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2008年度フェニックス映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度フェニックス映画批評家協会賞脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度フェニックス映画批評家協会賞編集賞(クリス・ディケンズ) 受賞
2008年度ヒューストン映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度ヒューストン映画批評家協会賞脚本賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞作品賞 受賞
2008年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度フロリダ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2008年度フロリダ映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度フロリダ映画批評家協会賞脚本賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度オクラホマ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2008年度オクラホマ映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度オクラホマ映画批評家協会賞脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度カンザス・シティ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2008年度カンザス・シティ映画批評家協会賞脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度アイオワ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2008年度アイオワ映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度ノース・テキサス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2008年度ノース・テキサス映画批評家協会賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度ロンドン映画批評家協会賞脚本賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
2008年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(ダニー・ボイル) 受賞
2008年度ゴールデン・グローブ賞脚色賞(サイモン・ボーフォイ) 受賞
2008年度ゴールデン・グローブ賞音楽賞(A・R・ラフマーン) 受賞