スライディング・ドア(1997年アメリカ)

Slinding Doors

ロンドンで小説家の恋人と同居し、キャリアウーマンとして働くヒロインが
チョットしたことから会社をクビになってしまい、失意のまま乗り込もうとした地下鉄に
“間に合った場合”と“間に合わなかった場合”の2パターンのストーリーを同時進行で描く恋愛映画。

日本でブレイクする直前だった、グウィネス・パルトロウが故国、イギリスで出演した作品で
劇場公開当時、日本でもそこそこ好評だった通り、これはひじょうに巧妙に作り込まれた秀作だ。

監督のピーター・ホーウィットはイギリス出身の映画監督ですが、
一つ一つのシーンを実に丁寧に作り込んでおり、映画作りの姿勢としては好感が持てますね。
ユニークな設定の映画でありながらも、その設定の面白さに溺れていないあたりが良いですね。

グウィネス・パルトロウもこの頃が一番、華のある女優さんって感じがよく出てて、
翌年の『恋におちたシェイクスピア』でのオスカーに輝く活躍を予感させる存在感です。

チョット惜しかったのは、映画の途中で若干、
2つのストーリーが混同してしまったように見えてしまった点かな。
勿論、これはそう感じなかった人もいたでしょうが、無理にクロスオーヴァーさせようとした節があって、
少しずつ整理がつきにくくなってしまい、映画の納得性も弱くなってしまったように感じますね。

往々にして、この手の映画は観客による、辻褄合わせが始まるのですが、
あまり無理にクロスオーヴァーさせようとすると、少しずつ合わない部分が出てくるから、
映画の作り手に於いても、制約が多くなってきて、窮屈な映画作りを強いられたように思いますね。

まぁそもそもが同時進行させるべきか否かという議論もあるのですが、
ひょっとすると、“間に合った場合”と“間に合わなかった場合”のお互いのエピソードを
それぞれもう少しずつ長くしてやって、もう少し落ち着いて見せても良かったとは思いますね。
(全体的にあっち行ったり、こっち行ったりして、忙しない映画に見えてしまったかな)

しかしながら、解釈は数多くできる映画ですし、
映画ファンの間でも、実に多種多様な解釈があることに驚かされる一本でもあります。

“間に合った場合”のエピソードって、アッサリと結末が訪れるのですが、
“間に合わなかった場合”のエピソードはなかなか結末が訪れず、本作のラストシーンでようやっと完結します。
これはひょっとすると、2つのエピソードをバラバラに見せたかった映画ではなくって、
あくまで1つのエピソードが映画の軸になっていて、片方のエピソードはフェイクなのかもしれませんね。
そう思ってみれば、ヒロインが見る現実的な夢を描いた作品という見方もできるのかもしれません。

ところでジョン・リンチ演じるヒロインの小説家の恋人が、
絵に描いたようなヒモっぷりで、ある意味で羨ま...いや、ビックリさせられますね(笑)。
恋人と同棲している部屋のベッドルームに元恋人のリディアを連れ込むあたりも凄いけど、
どんなにピンチな状況に陥っても、言い訳で押し通そうとするズ太さも、ある意味でたいしたもの(笑)。

更に性懲りも無く、リディアからの電話を誤魔化し切れず、
アッサリとヒロインに見破られ、ヒロインを傷つけてしまうあたりはヒモとしては失格ですね。
だから僕にはどうしても分からないのです。どうしてこの男が、ここまでヒモな生活を送れるのかが。
プロのヒモ(?)なら、ここまで完璧にフラれるような展開には、もっていく弱みは見せないだろう。

それともう一つ、ジョン・ハナ演じるジェームズにもチョットした秘密があったのですが、
ここでも彼は必死に弁解し、ヒロインをなだめようと必死になるのです。
でも、これって凄く難しいところだけど...彼の弁解で納得する女性って、どれぐらいいるんだろ?
というわけで、厳しい言い方ではありますが、本作で出てくる男はグズばかりです(苦笑)。

ですから、本作に恋愛映画としての魅力を期待するのは、僕はやめた方がいいと思います。
ある意味ではSF映画が好きな人の方が、よっぽど意外性を楽しめるような気がします。

またリディアを演じたジーン・トリプルホーンも、如何にも性格が悪そうなキャラを
真正面から堂々とストレートに演じており、これはこれで良かったですね。
特に映画の後半で、故意にヒロインを部屋に呼びつけて、嫌味を言うシーンが秀逸です。

どうでもいい話しですが...
“間に合った場合”にしても、“間に合わなかった場合”にしても、ヒロインは駆け込み乗車なんですね(笑)。

最近、日本では人身事故防止のためにホーム柵を設置する鉄道会社が増えていますから、
閉まりかけた扉に強引に身体を入れて、列車に乗り込むなんてことは、不可能になってきています。
あの山手線ですら、ホームドアの設置が実現しましたから、これは全国的な流れとして更に進むでしょうね。

かつては駆け込み乗車の注意喚起はされていても、
ある種の風物詩みたいな人の行動でしたが、こうして次第に過去の遺物になっていくのでしょうね。

まぁグウィネス・パルトロウがヘアスタイルを変えて登場してくるので、
彼女が好きで好きでしょうがない人には、そこそこオススメできる一本ですね。

(上映時間99分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ピーター・ホーウィット
製作 シドニー・ポラック
    フィリッパ・ブレイスウィト
    ウィリアム・ホーバーグ
脚本 ピーター・ホーウィット
撮影 レミ・アデファアラシン
編集 ジョン・スミス
音楽 デビッド・ハーシュフェルダー
出演 グウィネス・パルトロウ
    ジョン・ハナ
    ジョン・リンチ
    ジーン・トリプルホーン
    ザーラ・ターナ
    ダグラス・マクフェラン