スリーピー・ホロウ(1999年アメリカ)

Sleepy Hollow

これはある意味で、映画のクライマックスで
ジョニー・デップが言った、「新世紀に間に合った」という台詞を言わせたいがための映画ですね(笑)。

18世紀の終わりを迎えたニューヨークを舞台に、
郊外の村にて発生した、首なし騎士による連続殺人事件の捜査するために、
それまでの経験に頼る捜査を否定し続けていたクレーンが、科学的観点からの捜査を進めようとするも、
次第に村の周囲で発生する事件に近づくにつれ、精神的に動揺を深める姿を描いたゴシック・ミステリー。

日本でもヒットした作品であり、
『シザー・ハンズ』で知られるティム・バートンとジョニー・デップのブランド力を誇示した作品ではありますが、
まぁ正直言うと、絶賛するほどの面白さとは言えないかなぁ。確かに安定感ある映画ではあるのだけれども。

と言うのも、敢えて、最初にダメ出しすると(笑)、
主人公が事件の真相を追っていくミステリーが決定的なほどに面白さを引き出せていない。
もっとドキュメンター・タッチにして、観客の視点が主人公の視点と同化しないといけませんね。
少しだけ、突き放したような映し方をしているせいか、どうもミステリーが盛り上がりません。

上映時間も尺として丁度良かったんだけれども、
それでも映画の中盤が少しダレてしまう感じで、どうも時間の遣い方も上手くないですね。

ミステリーが盛り上がらない分だけ、
彩りを敢えて無視して、モノクロな雰囲気を活かした、見事なゴシック感を強調する画面作りと、
対照的に美しい美術を擁して、実に見事なブレーンを集めたことはよく分かるだけに、ポテンシャルはかなり高い。

映画の冒頭から顕著な傾向なんですが、モノクロな雰囲気で押し通す中で、
鮮血の視覚的インパクトが大きくなるんですよね。本作は明らかに、この効果を狙っています。
(映画の冒頭で、赤いロウを鮮血であるかのように描くのが印象的)

だからこそ、もっとティム・バートンはミステリーに力を入れて欲しかったですね。

07年に『スウィーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師』で、
ティム・バートンは再びジョニー・デップと組むのですが、あの作品でひたすら楽しむかのように、
首チョンパを描きまくるのですが、その原型は本作にあると言っても過言ではなく、
さすがに映像作りとしても、残酷描写がそれなりに続くので、この手の描写が苦手な人にはキビしいかもしれない。
(脚本が『セブン』のアンドリュー・ケビン・ウォーカーだということもあるだろうけど・・・)

首なし騎士の由来となる騎士役として、
クリストファー・ウォーケンがカメオ出演していることが、劇場公開当時から話題となっていましたが、
キャスティング面ではかなり恵まれた映画と言っていい。脇役もかなり固い映画ですしね。
(まぁ・・・カメオ出演にしては、随分と出番が多く、存在感も強かったけど・・・)

そういう意味では、主演のジョニー・デップのキャラクター造詣が上手いですね。
周囲から奇異な目で見られながらも、時代の先端を行く科学捜査の有用性を訴えながらも、
所々にドジな部分や、性格的に小心者の側面をのぞかせるという、なんだか憎めないキャラクターで
『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのジャック・スパロウ船長と並ぶ、名キャラクターかもしれませんね。

科学捜査の重要性を説きながらも、結局、最終的には科学捜査にならないあたりも、
ある意味でジョニー・デップが演じる、ドジなキャラクターのモデルとも言えるシルエットですね。

本作はどこかダークで、ブラックな感じがある映画に仕上がっていますが、
これはこれでティム・バートンらしい。良く言えば、彼の映画の特徴が出ていると言っていいですね。
もう少しこのイメージを利用しても良かったと思うのですが、映画の雰囲気作りは悪くないです。
(このイメージを強く押し出して成功したのが、92年の『バットマン リターンズ』だと思うんです)

欲を言えば、アクションというか、もう少し動的な要素は増やして欲しかったかな。
全体的に動きの少ない映画という印象があって、もう少し映画に動きがあった方が良かった。
終盤にようやっと、首なし騎士に追われて、火が付けられた建物から逃げ出すというシークエンスがあるけど、
それ以外はあまり目立ったアクションが無くって、エキサイティングな側面を作れていないのではないかと感じる。

この辺はティム・バートンの設計思想と違うのかもしれませんが、
今更、CG映像ばかり見せられて、観客が驚くという時代ではありませんからねぇ。

前述したようにアクションやミステリーに力を入れない分だけ、首を切られた死体のデザインとか、
首を落とされる描写の凄惨さとか、グロテスクな描写に力を入れたといった感じですね。
ダーク・ファンタジーという観点から考えると、チョット映画の方向性として正しかったのかは、疑問ですね(苦笑)。

ストーリー上の整合もとれない部分があるところはツラいところ。
映画の冒頭で科学捜査の有用性を訴えた主人公が、「では、やってみたまえ」と裁判官から言い渡され、
物語の舞台となる村にやって来たというのに、「新世紀に間に合った」というコメントで映画が終わってしまう。
映画の冒頭で主人公が矢面に立たされた局面は、一体どうなったのかと問いただしたくなってしまいますね。

これだけヴィジュアルに対する、こだわりを感じさせる作品なのですから、
もう少しティム・バートンがしっかり作り込めていたら・・・と思うと、勿体ないですね。
映画の世界観を統一する意味で、エマニュエル・ルベッキのカメラも実に見事だったと思います。

本来的にはカルト映画になる素質があった企画を
ティム・バートンが独自の解釈を入れて、立派なエンターテイメントに昇華させようとしたものの、
どことなく中途半端に終わってしまった映画という印象が、僕の中では強いかなぁ。
でも、その試みは“買いたい”。かつて、『マーズ・アタック!』を撮れた彼だからこそ、チャレンジできたはず。

そういう意味で、最近はこういったティム・バートンのチャレンジが少なくて、寂しいですね。
遊び心がある映画も少なくなってしまい、話題作は何本かありましたが、完全に迷走してしまっていると思います。

本作は全米はじめ、世界各国でヒットし、
90年代後半は『ブレイブ』で監督業に挑戦したり、野心的な活動をしていたジョニー・デップが
人気俳優としての道を歩む、大きな後押しとなった作品になったことは間違いないと思います。

ずっと顔色が悪いジョニー・デップですが(笑)、彼のファンなら必見の一本と言えよう。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

日本公開時[PG−12]

監督 ティム・バートン
製作 スコット・ルーディン
    アダム・シュローダー
原作 ワシントン・アービング
脚本 アンドリュー・ケビン・ウォーカー
撮影 エマニュエル・ルベッキ
衣装 コリーン・アトウッド
音楽 ダニー・エルフマン
出演 ジョニー・デップ
    クリスティーナ・リッチ
    ミランダ・リチャードソン
    マイケル・ガンボン
    キャスパー・ヴァン・ディーン
    イアン・マクディアミッド
    マイケル・ガフ
    クリストファー・リー
    クリストファー・ウォーケン
    リサ・マリー
    リチャード・グリフィス
    マーチン・ランドー

1999年度アカデミー撮影賞(エマニュエル・ルベッキ) ノミネート
1999年度アカデミー美術賞 受賞
1999年度アカデミー衣装デザイン賞(コリーン・アトウッド) ノミネート
1999年度ロサンゼルス映画批評家協会賞美術賞 受賞
1999年度イギリス・アカデミー賞プロダクション・デザイン賞 受賞
1999年度イギリス・アカデミー賞衣装デザイン賞(コリーン・アトウッド) 受賞