シモーヌ(2002年アメリカ)

Simone

10年近くも、映画監督としてヒットに恵まれない主人公のタランスキー。
彼はワガママばかりを通す人気女優を満足させることに嫌気が差し、対立して制作会社から矢面に立たされる。

困り果てたハンクの前にコンピュータ・グラフィックスに関しては一流の腕を持つハンクが現れ、
ハンクはタランスキーにトンデモない大発明が為されたので、2人で一緒に仕事しようと主張し、死んでしまう。

そうしてタランスキーにハンクの遺産として渡ったのは、
一枚のメディアであり、コンピュータ音痴のタランスキーはこのメディアをパソコンに挿入する。
映画はここで架空の女優シモーヌという獲得したタランスキーが売れっ子映画監督になる姿を描いています。

まぁ言ってしまえばコメディ映画なのですが、これがなかなか面白かった。
本作をSF映画と称する論調もあるようですが、僕はもう本作で描かれた事象はSFとは呼べない気がします。
事実、CGで作られたキャラクターとの共演という発想はもう既に実現化されている時代です。
本作が作られた02年頃にも、もう既にあらゆる分野で導入されていたように思います。

SF的な要素はありますが、本作はあくまでストーリーラインを大切にしており、
突飛な発想に“おんぶに抱っこ”な映画ではありません。この辺は『トゥルーマン・ショー』と一緒。
監督は『トゥルーマン・ショー』の脚本家だったアンドリュー・ニコルで、本作もなかなか上手い仕上がり具合だ。

本作なんかも、作られた世界を物語の中心に置いています。
そこに翻弄される人々を描いた映画と言えるのですが、次第にその存在が一人歩きするのが面白い。

特にタランスキーの元妻が言い放った台詞が象徴的で、
「シモーヌはオレが作ったヴァーチャルのキャラクターなんだ!」と主張するも、
「いいえ、違うわ。今のあなたを作ったのが、シモーヌなのよ」...この台詞に凝縮されています。

この映画の一つのキー・ポイントとしてタランスキーがコントロールしていたはずのシモーヌという世界が、
シモーヌの人気が白熱していくと同時に、とてつもないスピードで拡張していくことなんですよね。
そうなると次第にタランスキーもコントロールし切れなくなってしまい、彼が意図しない方向へと動いていきます。
極端な例として、本作ではタランスキーがプログラムしたはずのコメントをシモーヌが発しなかったという
シーンもあり、そういったシモーヌというキャラクターの暴走に対して、タランスキーは苛立ちを覚えます。

そこで様々な偽装工作をし、シモーヌの人気を失墜させようとするものの、
シモーヌが行う一挙一動の全てが無条件で支持される世の中において、何をしても無駄でした。
『私はブタ』という映画をシモーヌ自身が監督したことにして、養豚場で豚と一緒に泥まみれになりながら、
エサに鼻を突っ込ませるというシーンにはレイチェル・ロバーツの女優根性を感じましたねぇ。

あくまで映画の中での設定ではシモーヌはCGで作られたヴァーチャルのキャラクターですが、
実際に彼女を演じたのはレイチェル・ロバーツという女優さんで、彼女は私生活でのアンドリュー・ニコルの妻。
(ひょっとしたら、夫の監督作だったからこそ、養豚場でのシーンを演じられたのかな?)

不思議なもので、誰も信用せず、誰も一緒に仕事しようとは思わなかったタランスキーですが、
シモーヌのおかげでヒットメーカーとなった彼の周囲には、多くの人々が集まるようになり、
タランスキーの言葉に誰も同意するようになり、誰もがタランスキーの言うことを聞くようになります。
でも、それはシモーヌというヴァーチャルなキャラクターによって作られた世界にしかすぎません。
本来的にはシモーヌを操っていたはずのタランスキー自身が、シモーヌに翻弄されるようになってしまいます。

そんなタランスキーを演じたアル・パチーノは今回は叫びまくりの芝居ではありませんが、
肩の力を思いっ切り抜いたコメディ演技で、彼の従来とはまた違った魅力を披露していますね。

ただ、どうなんだろ?
僕がこの映画を観て、ずっと疑問に思っていたことなんですが、
仮に世界中を騙し通せるCGによってヴァーチャルな女優を生み出せたとして、
そのヴァーチャルな女優を映画に登場させることって、そこまで悪なんでしょうかねぇ?

と言うのも、タランスキーは必死にシモーヌの存在を隠し通そうとします。
それは製作会社が激怒することを恐れていたから、尚一層、言いづらくなっていったという経緯もあったでしょう。

勿論、タランスキーは思い上がった役者たちにお灸を据えるという意味で
シモーヌを登場させたという意図はありましたけど、真相を話しづらくした要因は他にあります。
そりゃ確かに契約やギャランティーの話しもありますから、一概に簡単に済む話しではないでしょうが、
例えシモーヌがCGキャラクターであることがバレていても、タランスキーに対する評価は変わらないと思いますね。

まぁ映画の本筋とは関係はありませんが...
いずれにしても本作で描かれたことは、既に絵空事ではなくなってきているように感じます。
ただ、さすがにここまでオペレーションは簡単ではないとは思うけど。。。

ひじょうに面白くって、良く出来た作品と言っていい出来だと思います。
唯一の弱点は映画のオチが付けにくい展開になって、ラストシーンが弱くなってしまったことかな。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 アンドリュー・ニコル
製作 アンドリュー・ニコル
脚本 アンドリュー・ニコル
撮影 エドワード・ラックマン
    デレク・グローバー
編集 ポール・ルベル
音楽 カーター・バーウェル
    サミュエル・バーバー
出演 アル・パチーノ
    レイチェル・ロバーツ
    キャサリン・キーナー
    エヴァン・レイチェル・ウッド
    ウィノナ・ライダー
    ジェイ・モーア
    プルーイット・テイラー・ヴィンス
    エリアス・コーティズ
    ジェイソン・シュワルツマン