シルバラード(1985年アメリカ)

Silverado

当時の新世代俳優が集まった正統派西部劇。
81年の『白いドレスの女』、83年の『再会の時』などで評価されたローレンス・カスダンが
それまでの路線とは打って変わって、どこか50年代〜60年代の正統派西部劇を思い起こさせる作品だ。

若き日のケビン・コスナーが冒頭から元気いっぱいにハシャいでいる印象で貴重ですが、
映画の序盤で掴みどころがないキャラクターでありながらも、終盤には頼れる存在になっていく
ペイドンを演じたケビン・クラインや、寡黙なガンマンのエメットを演じたスコット・グレンらが渋くて印象的だ。

物語は、姉に会いに行く途中だったガンマンのエメットが、姉の暮らす町“シルバラード”へ向かう道中、
荒野の真ん中で意識を失っていたペイドンを救い、4人の男たちに裏切られ、襲撃されて馬を奪われたことを聞く。
立ち寄った近くの町で、早速、ペイドンを襲った男を見かけ、ペイドンは復讐を果たす。捕まりそうになっていたら、
ペイドンの旧知のコッブが助け舟を出し、“シルバラード”でコッブの仕事を手伝う話しを持ちかけられる。

同じ町で女性絡みのトラブルになって、絞首刑になるところだったエメットの弟ジェイクと対面し、
ひょんなことからジェイクを助ける形になったペイドンは、エメットとジェイクと共に“シルバラード”を目指します。

まぁ、映画を観ていると、やっぱりローレンス・カスダンは出来る映画監督だと分かる。
そうなだけに、返す返すも90年代に入って、何故に映画監督として積極的に活動しなくなってしまったのか・・・。
実力があるし、自分で脚本も書けるし、実力派俳優のキャストを集められるし、そんな映画監督はそうはいないだけに、
なんだか残念です。日本ではそこまで知名度が高くはないディレクターですが、もっと評価されていい人だと思う。

この映画もなかなか良い仕上がり具合なんだけど、
強いて言えば、僕はこの映画のガン・アクションにあまり張り詰めた緊張感みたいなものが無いのは気になる。
主要キャストたちのガン・アクションの撮り方は良いんだけど、なんだか隙だらけの動きの中なので、
逆に敵役のミスショット率の高さが気になって仕方がなく、あれでは撃たれないのが不思議なくらいだ。

それから、少々登場人物が多過ぎて、整理がつかない印象を与えかねないのもマイナスかな。
この辺は脚本の時点でもう少し、映画のポイントを絞って描くことにシフトした方が良かったかな。
特に敵対する勢力の手下たちの人数が多過ぎて、話しの要点がつきにくくなっていたことは否めないと思います。

が、それ以外はまずまず楽しめる。映画の終盤で一気に“やり返そう!”というムードを高めるのが実に上手い。
内容の割りにはアドベンチャー性が高いような気もして、この辺はローレンス・カスダンのシナリオらしさかも。
(彼は81年の『レイダース/失われたアーク≪聖壇≫』の脚本を書いていましたね・・・)

この辺はジョン・ベイリーのカメラも良いからだろう。昼の屋外のシーンが比較的多い映画ですが、
光の採り入れ方など絶妙だ。そして、ジェフ・ゴールドブラムを映すシーンに多くあったが、足に忍ばせる武器を
静かに手で手繰り寄せるシーンも、王道と言えば王道だが、ゾクゾクとさせられる緊張感が漂う良いショットだ。

映画のテンポも悪くなく、2時間を超える内容だというほどの長さは感じさせない。
悪い意味での無駄なシーンが一切ない映画に仕上がっているからこその、このテンポの良さなのでしょう。

さり気なく、ダニー・グローバー演じる黒人ガンマンのマルの存在に人種偏見の歴史を描くのも良い。
実際にこの時代のガンマンたちが、どれだけ違和感なく黒人ガンマンと共に闘うことができたのかは分かりませんが、
スコット・グレン、ケビン・クライン、ケビン・コスナーの3人と並んでダニー・グローバーがいるのは嬉しい。
このスタイルを前面に押し出して描けたこと自体に、ニュースタイルの西部劇というテーマもあったのかもしれません。

そんな中で、酒を求めてカウンターで訪ねたマルがトラブったバーで、
ラングストン保安官がトラブルの解決に来ますが、マルが立ち入ることを肯定しないものの、
バーの主人の肩も持たないという中庸的な態度でくるジョン・クリーズが印象的なのですが、
彼が倒すべき悪党になるのかと思いきや、彼のコミカルな持ち味からか、アッサリと退場してしまうのがチョット残念。

個人的には、このラングストン保安官は映画の終盤あたりで、もう一回見たかったなぁ・・・。

対照的に映画の終盤まで絡んできたコッブを演じたブライアン・デネヒーが素晴らしかっただけに、
逆にコッブを倒すために加勢する存在として登場させるでも、面白かったと思うんですよね。
本作でジョン・クリーズが出演したから、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』にケビン・クラインを誘ったのでしょうけどね。

あと、未亡人となるロザンナ・アークエットはもう少し見たかった。
そう思うと、結構、この映画のキャストの描き方に注文つけたくなる部分は多いのかな・・・(笑)。

TOTO≠フヒット・シングルである Rosanna(ロザーナ)のモデルとなった女優で有名ですが、
本作では開拓民の未亡人となり、ペイドンにやたらと気をかけられていたと思いきやアッサリ恋仲になり、
思いのほかにすぐにペイドンが、エメットに彼女を“譲る”ような形となるという、謎なキャラクターだったのですが、
彼女の心情の揺れ動きなどは、映画を面白くするために必要な要素ではあったので、もっと丁寧に描いて欲しかった。

何より、若き日のロザンナ・アークエットの美貌が眩しいくらいなので、もっと観たかった(笑)。
この映画でのどことなく中途半端な扱いは勿体なく、彼女のファンからすれば、この描き方は物足りないでしょうね。

無名時代のケビン・コスナーが出演している作品として有名ではあるのですが、
本作でのケビン・コスナーは二枚目スターとしての表情というより、どこか軽くてチャラい若者といった感じ。
凄腕のガンマンという設定なのだけれども、どうしても彼が凄腕のガンマンには見えないくらいチャラい(笑)。

彼が演じたジェイクのように、この映画はストイックで厳しさのあるキャラクターはあまり登場してこない。
強いて言えば、スコット・グレン演じるエメットは寡黙なキャラクターではあったが、それでも厳しさは無い。
これがクリント・イーストウッドが監督していれば、全く違う方向性の映画になっていただろうけど、
個人的にはこれはこれで有りだと思う。言ってしまえば、重たい西部劇でなければならないというわけではないのだ。

ローレンス・カスダンの演出は所々、良くも悪くも甘さはあるけれども、
やはり往年の古き良きハリウッドのフォーマットであった西部劇を、80年代に蘇らせたかったのかもしれません。
そういう意味では、僕は本作はもっと評価されてもいいと思います。残念ながら最近は、忘れられた存在ですが・・・。

どうやら、ローレンス・カスダンが幼い頃から兄のマーク・カスダンと一緒に観ていた、
心躍るような西部劇を復活させたくて企画したみたいで、実際に兄弟で脚本を書いたというのだからスゴい。

まぁ、欲を言えば...もっと大胆に編集して上映時間をあと20分くらいはスリムにして欲しかったけど、
どうやら元々は3時間を超える大長編になるところだったらしく、それをカットして、この尺の長さになったわけで
やはりローレンス・カスダンとマーク・カスダンの熱量が多く込められた作品なだけに、カットは難しかったのかな。

ちなみに76年にジョン・ウェインの遺作となった『ラスト・シューティスト』でハリウッドに於ける、
西部劇の歴史の一区切りが決定的なものになったと僕は思うのですが、『ラスト・シューティスト』で
西部劇を終わらせたのはジョン・ウェインとドン・シーゲルです。ドン・シーゲルは言うまでも無く、
クリント・イーストウッドの師匠のような存在ですが、イーストウッドは85年に『ペイルライダー』を撮って、
久しぶりに西部劇を撮りました。奇しくも本作と同時期に製作したのですが、目指していたものは本作も同じでしょうね。

でも、残念ながら90年代以降もしばらくは、西部劇にとっては不遇の時代に入るんだよなぁ・・・。

(上映時間132分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ローレンス・カスダン
製作 ローレンス・カスダン
脚本 ローレンス・カスダン
   マーク・カスダン
撮影 ジョン・ベイリー
音楽 ブルース・ブロートン
出演 ケビン・クライン
   スコット・グレン
   ケビン・コスナー
   ダニー・グローバー
   ブライアン・デネヒー
   ジョン・クリーズ
   ロザンナ・アークエット
   リンダ・ハント
   ジェフ・ゴールドブラム
   ケティ・フラド
   リチャード・ジェンキンス
   ジェームズ・ギャモン
   ジェフ・フェイヒー
   ジョー・セネカ

1985年度アカデミー作曲賞(ブルース・ブロートン) ノミネート
1985年度アカデミー音響賞 ノミネート