大陸横断超特急(1976年アメリカ)
Silver Streak
68年に『プロデューサーズ』、74年に『ヤング・フランケンシュタイン』で
コメディ映画の演出家・俳優として評価が高まっていたジーン・ワイルダー主演で、
ロサンゼルスからシカゴを結ぶ、超長距離列車内で起きた、殺人事件の真相を暴くべく、
たまたま乗り合わせたサラリーマンの中年男性が、解き明かす様子を描いた、ミステリー・コメディ。
本作はさすがに、プロダクションも資金力があったせいか、
規模の大きな映画になっており、映画のスケール自体も凄く大きく、娯楽映画としての要素が強い。
まぁ、別にジーン・ワイルダーのドタバタ芝居があるというほどでもないのですが、
ヒッチコック調のスリル演出が実に効果的で、おそらくコリン・ヒギンズの脚本も出来が良いのでしょうね。
ある意味でプレッシャーを跳ね除けて、ノー天気に自分の演出に徹したアーサー・ヒラーの一世一代の大仕事。
これは作り手の適性がとても上手くフィットした、良い“化学反応”が起きた好例と言ってもいいぐらいでしょう。
映画は冒頭から、スピード感満点で、犯人グループに近づきながらも、
何度も列車から振り落とされてしまう主人公を描くというのも、なんとも妙な内容なのですが、
この主人公、ただのサラリーマンだけれども、惚れた女性のためであればと、とても執念深いのが面白い。
何せ、ゆっくりでありながらも着実に終着駅に向かって進んでいく汽車に追いつくために、セスナを使うから凄い。
主人公から見れば、偶然、目撃してしまった殺人事件の方が奇妙なのでしょうが、
冷静に見ると、ただのサラリーマンが何度も汽車から振り落とされながらも、
あれやこれやと手を尽くして、まるでゾンビのように列車に再乗車するという構図が、これはこれでホラーかも(笑)。
かつて長距離列車を描いた映画というのは数多くあれど、
ここまでユーモラスかつ、不思議なテイストで描けたミステリー映画というのも珍しい。
これはこれで、ジーン・ワイルダー主演でなければ、到達できなかった妙味なのかもしれません。
そういう意味で、ジーン・ワイルダーの魅力を引き出したコリン・ヒギンズはシナリオは素晴らしいと思う。
個人的には本作のクライマックスにチョット、ビックリしてしまったのですが、
これは劇場公開当時、ビックリした人も多かったのではないでしょうか?
通常の映画であれば、終着駅シカゴへ向けて暴走状態に入ってしまった列車を、
なんとしてでも止めようとする主人公を描くと思うのですが、確かに主人公は止めようと必死なんだけれども、
列車のスピードと共に、まるで映画自体も暴走していくかのように、作り手は一切スピードを緩めずに
大迫力のクライマックスを迎えます。これは時代性もあったのでしょうが、娯楽映画としては驚きの結末です。
それでも、ノー天気なのは変わりませんが、色々と敏感な時代になった昨今では、
おそらくこういった映画のクライマックスは好まれないでしょうし、この時代ならではのラストで、
ある意味でアクセル全開のまま突っ切った演出というのも、アーサー・ヒラーならではなのかもしれません。
かつて『スピード』は勿論のこと、日本でも75年に『新幹線大爆破』という名作があるのですが(笑)、
これらの作品と比較しても、ここまでフィニッシュまで突っ切ってしまった映画というのは、実に珍しいと思いますね。
まぁ・・・ジーン・ワイルダー主演でアーサー・ヒラーが監督、オマケに音楽がヘンリー・マンシーニときたら、
多くの映画ファンなら、十中八九、コミックな映画なのではないかと想像するかと思うのですが、
勿論、コメディ要素が強い映画とは言え、観る前の僕の予想を遥かに上回るほどのエネルギーを持った作品で、
やはりこのクライマックスの暴走感は凄まじく、ジャンルをミックスした娯楽映画として考えても、
どこか突き抜けた、他作品とは明らかに一線を画すような異彩を放つ存在と言ってもいいと思いますね。
映画の途中で主人公の追跡劇に加勢する、黒人男性役でリチャード・プライヤーが出演していますが、
彼のどこか胡散クサい部分が、また本作の魅力に絶妙にマッチしていることは否定できないし、
途中駅で指名手配されている主人公を、検問をすり抜けるために、トイレに入って黒人に変装するのですが、
どこかなり切れずに、ステレオタイプにも妙なリズムをとりながらジーン・ワイルダーが歩く姿の奇妙さも忘れられない。
この時代のアクション映画の悪役としては懐かしい、
金歯の大男を演じたリチャード・キールが登場するのも嬉しいのですが、
残念ながらそこまで持ち場が多いわけではなく、実にアッサリと退場してしまうのがチョット肩透かしかなぁ・・・。
(残念ながらリチャード・キールは2014年に他界してしまいました・・・)
日本でも、今となっては長距離特急列車というのが少なくなってしまって、
かつての北海道は札幌から地方都市を結ぶ、寝台夜行列車というのは数多くあったのですが、
そのほとんどが無くなってしまいました。この流れは日本全国共通の流れとなっており、今や希少な存在です。
今の日本で例えるなら、サンライズ出雲ぐらいでしょうね。
しかし、ゆったりとした長距離列車での旅路は次第に淘汰されるようになり、
凄く残念な現実ではあるのですが...少しずつ時代に合わないものになってしまったのかもしれません。
そういう意味で、本作で登場した“シルバー・ストリーク号”も、
ロサンゼルスからシカゴへ運行されていた長距離列車ですが、これも今はありません。
どうやら1960年ぐらいまでは運行されていたらしいので、本作撮影当時も既に無かったようですね。
映画の序盤でネッド・ビーティ演じる巨漢の男が語るように、当時としてもかなり贅沢な旅路だったようだ。
彼は彼で「長距離列車は、ガタンゴトンという揺れが女性のガードを緩くする」なんて、
おバ●さん丸出し発言していて、主人公をそそのかすのですが、この映画の序盤で物足りない部分があるとすれば、
主人公があまりに簡単に大学教授の秘書といい関係になってしまうことで、ここだけは説得力が無い(笑)。
正直言って、ジーン・ワイルダーってイケメンでもなんでもないのに(苦笑)、
たまたま隣になった女性と、特にキッカケもなく深い仲になるなんて、いくらなんでも話しに無理があり過ぎます。
とは言え、僕は本作、どこか憎めない、愛すべき作品だと思っています。
アーサー・ヒラーの監督作品なので、肩に力を入れずに気軽に観れる作品として、
是非とも多くの方々に楽しんでもらいたい、風化させたくはない、いつまでも大切にしたい一作ですね。
(上映時間113分)
私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点
監督 アーサー・ヒラー
製作 トーマス・L・ミラー
エドワード・K・ミルキス
脚本 コリン・ヒギンズ
撮影 デビッド・M・ウォルシュ
編集 デビッド・ブレサートン
音楽 ヘンリー・マンシーニ
出演 ジーン・ワイルダー
ジル・クレイバーグ
リチャード・プライアー
パトリック・マクグーハン
ネッド・ビーティ
リチャード・キール
レイ・ウォルストン
クリフトン・ジェームズ
スキャットマン・クローザス
バレリー・カーティン
フレッド・ウィラード
1976年度アカミデー音響賞 ノミネート