サイレント・ランニング(1972年アメリカ)

Silent Running

うわぁ、こりゃまたカルトな映画だなぁ〜(笑)。

特撮監督として名高いダグラス・トランブルが低予算ながらも、知恵を絞りに絞って撮っています(笑)。
70年代前半は特にカルトな内容のSF映画が流行していて、数多くのSF映画が配給された時代なのですが、
その潮流に乗って本作の企画も掲げられ、高いコスト・パフォーマンスを期待されていたみたいです。

しかしながら、いざ上映が始まると、
題材が題材であるがゆえ、映画館の客足は活発とは言えず、かなり早い段階で上映打ち切りとなりました。
最近になって、ようやっと環境問題への脚光が集まるにつれて、本作に対する評価は高まっています。

言ってしまえば、73年の『ソイレント・グリーン』と同様に
かなり早い段階から地球環境問題にメスを入れた作品と言えるでしょうね。
しかも本作の場合は、『ソイレント・グリーン』と比べても遥かに直接的に言及しております。

映画のラストも如何にも70年代の映画らしく(笑)、
とっても絶望的な終わり方で強い問題提起性やメッセージ性を帯びており、ある意味では力強い映画だ。

但し、この映画の大きな難点と言えば...
それはダグラス・トランブルのビジョンだから仕方ないのですが、あまりにチープ過ぎる点だ。
どこがチープだとか、映画の細部を云々しても意味がないぐらい、映画全体がチープ過ぎるのです。
確かに孤独な環境下に置かれた人間というテーマがありますので、「ロボットが唯一の友達」みたいな
内容になるのは理解できますが、一緒にポーカーして喜ぶ姿を事細かに描くというのは、
いくらなんでもやり過ぎではないだろうか(笑)。もっと別なエピソードを作れなかったものかと思えてならない。
(まぁ・・・脚本にマイケル・チミノがクレジットされていますので、かなり個性的な内容なのは免れないけど...)

映画は地球環境保護の提唱もメインテーマとして掲げられてますけど、
もう一つ大きなテーマがあって、これは「全てが同じであること」の恐ろしさですね。

人間の生活は工業性が高まるにつれて豊かになってきたという歴史的な変遷がありますが、
この工業性が高まることに、当然、“標準化”や“平準化”、“均質化”といった言葉が大きなテーマでした。
この映画ではかなり極端な例が描かれてはいますが、人間の存在に於いてまで多様性を否定すると
個性が無くなり、各々の人間が同じになり、異端を認めず、排除する方向へと進んでしまいがちです。

実はこれは環境問題に於いても同様に大きなテーマで、
動植物界が形成する生態系の中で、多様性を維持しながら生態系全体を形成することは、ひじょうに重要です。

映画としては、ひじょうに新鮮で一見すると哲学的なテーマなのですが、
昨今、学術的にも活発化している環境倫理や環境思想の面につながっていくという、希有な内容ですね。
果たして当時、スタッフがどこまで意図して、この話しを考えたのか、僕には知る由もありませんが、
地味に本作は、カルトな内容の中にひじょうに新しいテーマ性を帯びていることは否定できません。

ただまぁ・・・カルト映画に理解ある人でなければ、キツい映画かなぁ〜(笑)。
映画の後半はロボットと一緒に戯れるブルース・ダーンが中心に描かれますので、
正直言って、映画自体がかなり単調になってしまう。残念ながら、盛り上げる箇所が見当たらないんですよね。

映画では、3台のロボットが登場してきて、主人公の心の拠り所になっていきますが、
前述したように一緒にポーカーに興じたり、一緒に庭いじりをしたりと、色々と複雑な動作を伴うシーンがある。
これらのメカがホントにロボット的な動きしかできないものだから、正直言って、かなり動作がノロい(笑)。
この一連のシーンを観ていて、“ロボコン選手権”の決勝戦でも見ている気になったのは僕だけだろうか?

この辺でもチープさが残って、思い切った近未来像を描けなかったのは、
ダグラス・トランブルはあくまで映像として具現化するプロであって、想像する力には長けてないということかも。

あと、もう一点、言わせてもらえば...
劇中、何度か流されるジョーン・バエズの主題歌が、映画のムードに全く合っていない。
当時、“フォークの女王”として人気を博したトップ・ミュージシャンだった彼女なので、
映画の主題歌を担当することは何らおかしくはないけれども、いくらなんでもこのミスマッチは凄い(笑)。
失われた尊い地球環境の象徴である緑地を敬うという意味で、こういった曲が選曲されるのは
ギリギリで理解できるけど(笑)、何も映画のエンド・クレジットでも流すことはないじゃないか!(笑)
映画の印象を決定付ける部分なので、個人的にはここはもっと違う音楽を流して欲しかったなぁ。

まぁあまり多くの場所での撮影シーンがないため、
できるだけ数少ないセットで撮影敢行したことが明白であり、低予算での撮影を強いられたのが分かり、
どうやら撮影期間もかなり短期間で設定され、全く予算をかけられない企画だったようです。

そのせいか、出演者も4人しかおらず、キャストにもお金がかかっていない映画だ(笑)。
そういう意味では映画のラストシーンが象徴するように、孤独を描いた映画でもあるんですよね。

ところどころ撮影テクニック上の気になるところがあって、
ズーミングがあまり上手くないところですね。特にズームアウトが不自然なシーンがありました。
それだけに映画のラストも気にはしていたのですが、特撮シーンでは上手くいっていますね。
このラストのズームアウトはまるで突き放すかのような客観性があり、強いインパクトがありますね。

繰り返しになりますが...やっぱり、こういう映画のラストって、70年代丸出しだなぁ〜(笑)。

(上映時間85分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ダグラス・トランブル
製作 ダグラス・トランブル
    マイケル・グラスコフ
脚本 デリック・ウォッシュバーン
    マイケル・チミノ
    スティーブン・ボチコー
撮影 チャールズ・F・ホイーラー
特撮 ダグラス・トランブル
音楽 ピーター・シッケル
出演 ブルース・ダーン
    クリフ・ポッツ
    ロン・リフキン
    ジェシー・ヴィント