黄色いリボン(1949年アメリカ)

She Wore A Yellow Ribbon

名匠ジョン・フォードが手掛けた“騎兵隊三部作”のうち第2作目にあたる西部劇。

ジョン・ウェインが退役間近な騎兵隊のリーダーでもある大尉を演じているのですが、
撮影当時42歳という年齢だったことを考えると、当時の彼にとっては相当背伸びしたような役だったのだろう。
でも、老け顔だったということもあってか、イメージ的には実年齢よりも10歳くらい年上の大尉を巧みに表現している。

正直言って、激しい合戦シーンがあるわけでもなく、アドベンチャー心を掻き立てられるような、
ワクワク感がある映画ではなかったので、そこは物足りなさが残ったことは事実なのですが、老境に差し掛かった
最前線に立つ男の生きざまを描いたというコンセプトだけで、本作にはそれなりの価値があったということなのだろう。

しかし、これは当時もオスカーを獲得するなど評価されたようですが、
映画の冒頭から屋外撮影に於けるカメラがとても良い。いや、これはホントに美しいフィルムだと思った。
勿論、マスターテープの保存も良かったのかもしれないけど、光の入れ具合からロケーション、このカメラは抜群だ。
時代経過を価値判断のすべてを占めるわけではないにしろ、本作のカメラは驚くほどに美しく、なんとも形容し難い。

どこか緩慢に仕上がってしまった感があることも否めないのですが、このカメラがそれを補って余りある魅力だ。
ジョン・フォードもこのカメラでこれだけ美しいフィルムにしてしまったのだから、さぞかし満足していることでしょう。

主演のジョン・ウェインが随分と老け役にチャレンジしたという感じですけど、
個人的に興味深かったのは、映画の舞台が西部開拓時代に主人公が退職予定日までに1日ずつ×印を
つけていることで、こういう習慣って昔も今と変わらずあったのかな?と思いましたね。地味にマメな性格なんですね。

これは本作の特徴なのだろうと思うのですが、本作でのジョン・フォードは活劇性よりもドラマ描写に
力を入れている感じがして、胸躍るようなエキサイティングさを持った馬上のアクションがあるわけではありません。
これはジョン・ウェイン自身、退職間近の男を演じたというキャラクターもあったのでしょうが、叙情性を重視している。

と言うのも、この映画では人間同士が激しく闘って、お互いに殺し合う様子を描くことは避けています。
お互いに血を流し悲劇を受けて、復讐を誓うことの繰り返し無益であることを悟ったかのように、主人公は闘いを
止めるべく行動するのですが、一方で同じく退職間近の長く主人公に仕えてきたであろう軍曹にはイタズラ心を見せる。

腕っぷしの強い血気盛んな軍曹を表舞台に出さないようにするために、部下に酒場にいる軍曹を逮捕するよう
指令を下し、複数名で逮捕しに行かせるものの、抜群に強い軍曹に子ども扱いされるかの如く、アッサリとやられる。

この一連でのシークエンスは本作のコメディ・パートとも言える部分であり、
ジョン・フォードとしては珍しいぐらいにコミカルな演出に徹した部分でもあって、チョットしたインパクトがあります。
まぁ、お世辞にも上手いとは言えませんが、それでも当時のジョン・フォードは柔軟にやろうとしていたということですね。
ジョン・ウェイン演じる主人公も、“男気”を見せるキャラクターなのかと思いきや、少々天邪鬼な性格の持ち主でもある。

この辺のバランスを上手く取ろうとしたのだろうけど、結果的に本作はなかなかシックリこなかった。

主人公とは無関係なところではありますが、部下2人が女性の心を射止めようと張り合ったりする
エピソードにそれなりに時間を割いたりしているのですが、これも中途半端な感じで描く意図がよく分からなかった。
この時代の西部劇にありがちなエピソードではあったので、恋愛を描くのであれば、もっとハッキリと描いて欲しい。
この辺はジョン・フォードの不器用さというのが、珍しく表に出てしまった結果だと言われても、否定できないと思います。

この映画のタイトルにもなっている“黄色いリボン”についても、少々言及が甘かったような気もする。

もっとも、“黄色いリボン”自体はアメリカでは家族でもある出征した兵士の無事帰還を願うための象徴とのことで、
地元に女性が残って、闘いに出る男の無事を祈るために、いろんなところに黄色いリボンを付けるということらしい。
それが結果的に、部下2人が中途半端に描かれてしまったことで、なんだか“黄色いリボン”の存在感も弱くなった。

少々、じゃじゃ馬な性格のヒロインも魅力的に描かれていましたけど、彼女の心の揺れ動きも分かりづらかった。
2人の男を手玉に取るかのような行動や態度をとっていて、微妙なんだけど...もっとシンプルで良かったと思う。

たぶん、“黄色いリボン”は戦いに出る男を待つ女性の象徴でもあると思うんですよね。
だからこそ、そういうストーリー展開なのかと思いきや、正直あんまり“黄色いリボン”は目立たないのが拍子抜け。
この辺はジョン・フォードが本作で何をどう描きたかったのかということが、今一つ伝わってこなかったということですね。

こういった部分は西部劇の名作の一つとして扱われる本作でしたから、もっとキチンとしているのかと思ったけど・・・。
クドいようですが、ウィントン・C・ホックのカメラがホントに素晴らしいだけに、こういう部分がスゴく勿体ないんだよなぁ。

それと、やっぱり西部劇らしさという観点からも、もっと活劇性は欲しかった。
合戦らしきシーンはあるけど、どれも緊張感があるわけでもなく、エキサイティングさを感じさせるわけでもない。
結果的には前述した、軍曹がバーで暴れるシーンが最大の見せ場だったかもしれない・・・というのは、なんか寂しい。
ジョン・フォードとジョン・ウェインのコンビであれば、もっと違った形で映画の醍醐味を表現できたのではないかと思う。

一方で、ジョン・ウェインが黄昏るように亡き妻と思われる墓場の前で、優しく語り掛ける姿が良い。
こういう姿を頑張って演じることは、当時のジョン・ウェインにしてはかなりチャレンジングな仕事だったと思います。

そんな老け役にチャレンジし、見事に去り行く老大尉を演じたジョン・ウェインでしたが、
映画の最後には些細なプレゼントが描かれます。できるだけ血を流さずに戦う主人公の部隊は、彼らを急襲した
先住民族を撃退すべく、彼らが持っている馬を遠く開放してしまうことで、反撃させる意欲を削ぐという知能的な戦略。
それで何とか窮地を脱した主人公は、その能力を評価されたのか、クライマックスにチョットしたプレゼントがあります。

おそらく、このプレゼントは賛否が分かれるエピソードでもあったとは思いますが、僕はこれは悪くなかったと思う。
やはり当時の価値観からすれば、このプレゼントは最高の栄誉だと思うし、良い“落としどころ”だったと思います。
まぁ、やるべき任務を果たして、静かに職を辞して去っていく哀愁みたいなものを表現しても良かったとも思うけど・・・。

ウィントン・C・ホックのカメラを何度も触れさせて頂きましたが、繰り返しになりますが...やっぱり美しい。
これこそ美しいフィルムだと言うべきだと思うのですが、フィルム自体の保存状態も素晴らしく、特筆に値する。
屋外撮影シーンにしてもロケーションが素晴らしかったし、それからセット撮影でも美術スタッフの仕事が素晴らしい。
今であればCGを使ったりもするのでしょうが、この時代はお手製で作り上げるしかないせいか、技術が半端じゃない。

この色調の美しさにしても、ジョン・フォードのこだわりと職人肌な部分の表れだったのだろうと思いますね。

まぁ、本作でジョン・ウェインが演じた主人公のシルエットも西部開拓時代の戦う男というよりも、
時代の荒波の中で生き残ってきて、これから人生の次のステージへ向かうことに戸惑いを感じつつも準備する男で
当時、ハリウッドを代表する西部劇のトップスターとして脂の乗っていたジョン・ウェインとしても異色なキャラクターです。

それを名コンビとして知られるジョン・フォードが描こうというわけですから、ジョン・ウェインの表現するものを
壊さないようにと、正しく最高の状態のフィルムで応えようとしていたかのようで、その意識の高さは感じ取れると思う。

繰り返しになりますが...映画は西部劇特有のエキサイティングさというのは、ほぼ皆無と言っていい。
そういう意味では、本作にいつものジョン・フォードとジョン・ウェインのコンビ作のノリを期待してしまってはダメでしょう。
映画の終盤までほぼほぼ動きが無いような映画で、主人公が仕事で“遠征”に出ても、何をやるのか分かりづらい。
一応は、先住民族たちとの攻防に関わることが主人公のミッションなのでしょうが、詳しくは語られませんのでね・・・。

それでもラストの思いもよらぬプレゼントに至るまでに、主人公は目立たぬ苦労を強いられていることは想像できる。

それゆえに、最高の栄誉とも言えることで彼の苦労が報われる瞬間こそが、本作のハイライトなのかもしれません。
さり気なく、そんな瞬間を描いた作品だからこそ、良さが分かる人にはトコトン愛される映画なのかもしれないと思った。
(カメラの素晴らしさ以外の良さに気付けない自分は、まだ青臭いのかもしれませんがねぇ・・・)

(上映時間103分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジョン・フォード
製作 メリアン・C・クーパー
   ローウェル・J・ファレル
   ジョン・フォード
原作 ジェームズ・ワーナー・ベラ
脚本 フランク・S・ニュージェット
   ローレンス・スターリングス
撮影 ウィントン・C・ホック
編集 ジャック・マーレイ
音楽 リチャード・ヘイグマン
出演 ジョン・ウェイン
   ジョーン・ドルー
   ジョン・エイガー
   ベン・ジョンソン
   ハリー・ケリーJr
   ビクター・マクラグレン

1949年度アカデミー撮影賞<カラー部門>(ウィントン・C・ホック) 受賞