彼女は最高(1996年アメリカ)

She's The One

95年に『マクマレン兄弟』で映画監督デビューし、
サンダンス国際映画祭でグランプリを獲得したエドワード・バーンズの第2回監督作品。

今回は『マクマレン兄弟』で定評を得たエドワード・バーンズなだけに、
プロダクションからもそれなりに資金を得たのか、キャスティングも含めて規模が大きくなった感じだ。
TVシリーズで人気を博していたジェニファー・アニストンや、ブレイク寸前のキャメロン・ディアスも出演している。

が、映画の出来としてはそこまでの完成度ではなかったかと思う。
『マクマレン兄弟』も低予算で無名キャストばかり集めて、あれだけの物を作ったのだから評価されたのであって、
2回目以降も当然、同じ調子というわけにはいかない。相変わらずエドワード・バーンズ自身で書いたシナリオは、
とっても丁寧に構成されるように書かれていて、彼が映画の中で描きたかったことは、よく分かります。

おそらくストーリー面では、なんでも明け透けに話しては、
衝突を繰り返す兄弟の痴話ゲンカに近いことを延々と綴っているだけなので、賛否両論でしょう。

『マクマレン兄弟』でもそうでしたが、エドワード・バーンズも自分で出演しておいて、
どちらかと言えば、“美味しい”役柄をカッコ良く演じているのだから、なんだかズルい(笑)。
まぁ・・・そんなことはともかくとして、映画の出来としては平凡な感じで、どこか盛り上がりに欠けるかなぁ。
クドいようだけど、『マクマレン兄弟』を観た方なら、エドワード・バーンズがこれくらい普通にできることは分かるはずだ。

ちなみに何故か、日本では本作を恋愛映画であるかのように触れ込んでいますが、
本作全編を観通して強く感じますが、本作は恋愛映画というよりも、男の価値観を描いた作品で。

いや、もっとも...世の中の男たちが全員、あんな風に思っていると思われては困るのですが(笑)、
さすがにエドワード・バーンズが単独で書いたシナリオなだけに、男性的な目線から描かれた内容で、
女性から見ると、また違った解釈があるようでしょうし、共感性は弱いかもしれませんね。

冒頭のトム・ペティの音楽からゴキゲンな雰囲気ではあるのですが、
世界を代表する大都市ニューヨークに暮らしながら、兄はかつての婚約者に浮気された失意から、
約3年間無職で放浪の旅に出て、今はタクシー運転手をやっていて収入が安定しない生活で、
ウォール街で働く弟は、美しい妻との理想的な生活の体裁をとりながらも、実は兄の元カノと浮気している。

幼い頃から張り合いながら大人になってきた兄弟でしたが、
まるで社会的な価値観が異なる大人に成長し、生活スタンスが異なりながらも、
週末にはお互いに実家に行き、船を持つ父親と過ごし、男の論理を強固なものにしていました。

ある意味で、僕には妹だけなので、この映画の兄弟には共感性が無かったのかもしれません。
でも、いろんな言い訳をつけて、妻に対して誠実になれなずウソをつき続ける弟にしても、
出会ったその日に素性のよく分からない女性と、数時間後に衝動的に結婚しようと告白し、
元恋人と偶然再会して、「何かよく分からない感情があった」と平然と告白してしまう兄に共感するのは難しいでしょう。

確かにこの頃のキャメロン・ディアスはスゴい美人ではあるが(笑)、
だからと言って、すぐに感情が揺れてしまうというのは、あまりに納得性が無いでしょう。
なんせ、3年前に婚約をしていたにも関わらず、家に見知らぬ男を連れ込んで裸でいたわけですからねぇ。
なら、如何にキャメロン・ディアスが美人であったとしても、そう簡単に心を開けるものじゃないでしょう。

この辺は、ひょっとしたらエドワード・バーンズの価値観が、許してしまうものなのかもしれません。

この映画は兄弟や父親にとって都合が悪いのか、何度も語られているものの、
実は兄弟の母親が一度もカメラに映っていない。これはこれで上手い演出だったと思いますね。
(ひょっとしたら、当初のシナリオでは描かれていたけど、映画化にあたってカットされたのかもしれませんが・・・)

しかし、アメリカのファミリーの価値観はまた違うのかもしれませんが、
なんでも話し合える親子や兄弟というのも悪くはないけど、映画で描かれたことはチョット違う気がしました。
と言うか、ここまで明け透けに話して、お互いの性生活まで筒抜けという家族関係は、スゲー嫌だなぁ(笑)。
アメリカではこういう家族関係が理想とされてるのかもしれませんが、少なくとも日本人的ではないかと・・・。

おそらく、もっと面白い映画にはできたのだろうと思うのですが、
個人的にはエドワード・バーンズ自身はもっと脇役のキャラに回った方が良かったと思うんですよね。

ある意味で、ダメ男の生きざまを肯定的に描いてる映画であるし、
家族の素晴らしさを謳った作品でもありますけど、エドワード・バーンズ自身が“美味しい”部分を持っていき過ぎる。
だって、弟役のマイク・マッグローンは『マクマレン兄弟』に続いての出演ですけど、なんだかカッコ悪い役柄だ。

社会的なキャリアと地位は築いたものの、結婚生活は大変な状況で、
兄貴の元カノに手を出し、浮気が本気になってしまい、偶然に再会したと聞いた兄貴に嫉妬する始末だ。
髪型ばかり気にする姿をバ●にされ、父と兄貴から口臭が臭いと●カにされ、日常も上手くいっていない。
浮気相手に申し訳ないと思い、若い妻とはいつしかセックスレスになり、妻側からはゲイと疑われる。

ダメ押しなのは、浮気相手との恋が成就しないと悟れば、
すぐに元妻に電話をかけてしまう節操の無さで、これは映画をコメディ的に描いているのだけれども、
ハスキーボイスの兄貴とまともに比較すると、どうしてもこの弟は情けなく映っていることが否めません。

だから、エドワード・バーンズがこの弟を演じたのなら、まだ話しは分かるのです。
ずっと彼のスタンスとして貫いているのですが、恋愛の中心に自分を置くから、どうしてもウガった見方になります(笑)。
当時のエドワード・バーンズはハリウッドでも、かなり期待値が高かったと思うし、俳優としても決して下手ではなかった。

サンダンス映画祭で見い出されただけあって、ロバート・レッドフォードもかなり投資していたし、
当時のハリウッドの情勢を思っても、20代後半でこれだけチャンスを与えられていた存在って、
ほぼ無かったと思うし、これだけ落ち着いた映画を立て続けに撮れていたのだから、実力はかなりのものだったはず。

だからこそ、俳優としてのプライドをかなぐり捨てたかのように情けない役を演じるという姿も、
僕は観てみたかったし、彼が監督としても俳優としても活動のペースが著しく落ちたことには、
こういった従来とは違った方向性にトライする姿が無かったからではないかと、邪推してしまいます。
でも、そう思えるぐらい、エドワード・バーンズは勿体なかった。僕は00年代前半くらいまでは、
もっとスゴい映画監督になるだろうと思っていたし、その素質は十分にあっただけに、殻を打破できなかったのが残念。

まぁ・・・出演しているとは言っても、この映画のジェニファー・アニストンもキャメロン・ディアスも、
そう出演シーンが多いわけではなく、扱いとしては主人公の結婚相手を演じたマキシーヌ・バーンズの方が印象的。

撮影当時、どうやらエドワード・バーンズとマキシーヌ・バーンズは付き合っていたらしく、
彼女もまた、マイク・マッグローンと同様に、『マクマレン兄弟』に続いての出演でした。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 エドワード・バーンズ
製作 テッド・ホープ
   ジェームズ・シェイマス
   エドワード・バーンズ
脚本 エドワード・バーンズ
撮影 フランク・プリッツィ
音楽 トム・ペティ
出演 エドワード・バーンズ
   ジェニファー・アニストン
   マイク・マッグローン
   マキシーヌ・バーンズ
   キャメロン・ディアス
   ジョン・マホーニー
   アマンダ・ピート
   レスリー・マン