結婚の条件(1988年アメリカ)

She's Having A Baby

80年代を代表するヒットメーカー、ジョン・ヒューズが描く、
80年代を生きる若者たちの恋愛から結婚、そして出産という人生に於けるステップを描いたドラマ。

一見すると、サラッと軽く描いた映画のように見えますが、
僕はこの映画、人生にとって凄く大切な瞬間を描いた作品と捉えていて、
また本人たちにとったら、マンネリ化した退屈な日常かもしれませんが、それらの積み重ねこそが
「結婚」の向こう側に存在する“何か”なのだろうと思わせられる、意味深長な映画でしたね。

まぁ結婚する前は、半ば結婚することが目的になっていて、
いざ憧れの結婚生活に入ると、それまでは見えなかったところが次から次へと見えてきたり、
それまでは知らなかったパートナーの意外な側面、それから憧れだけでは語れない、
それまでは予想していなかった現実とのギャップが簡単に埋まらず、主人公カップルはもがき苦しみます。

周囲は彼らの結婚は、決して平坦な道のりを意味しないだろうと
数多くの人々が予想していたようですが、皮肉にも彼らの結婚はその予想通りになってしまいます。

そんな幾多の困難を乗り越えなければならない結婚生活の中で、
夫婦は時にケンカし、時に後悔するときもあるでしょう。しかし、一度は愛を誓い合って結婚した仲、
一見すると無駄とも思える衝突の時間を積み重ねながら、2人は確実に幸せへと向かっていきます。

新郎となるジェイクは一目惚れしたクリスティと結婚することが目的になり、
戸惑いながらも結婚したものの、あまりに無計画な結婚を周囲に咎められ忠告され、
数多くの悩みを抱えたままクリスティとの結婚生活に突入した結果、数多くの誘惑に悩まされることになります。

一方のクリスティは思い描いていたジェイクとの結婚生活が成就せず、
浮気性な側面を見え隠れさせるジェイクに苛立ちを覚え、やがては子供を望むようになります。
ジェイクにはまだ父親となる決心が付いていないようで、クリスティの懇願を素直に受け入れられません。
それゆえか、不妊の原因を調べること自体にも、どちらかと言えば、積極的とは言えず戸惑い続けます。
そんなジェイクの心情を象徴するような、クリスティから妊娠を告げられたときの彼の微妙な表情が印象的です。

今やハリウッドでもベテラン俳優となってしまいましたが、
まだこの頃のケビン・ベーコンはどこか初々しくて、ヒロインを演じたエリザベス・マクガバンとの
新婚夫婦ぶりなど、観ているこっちの方が何故か恥ずかしくなってしまうぐらいの眩しさですね(笑)。

監督のジョン・ヒューズは80年代、実に数多くのヒット作を送り出しましたが、
本作はそこまでのヒットには至らなかったものの、創作活動に勢いがあったせいか、
比較的、小粒な本作にしても十分に見どころのある、質の高い作品だと思いますね。
(ちなみに彼は本作の2年後の90年、特大ヒットとなった『ホーム・アローン』を撮ることになります)

どうもジョン・ヒューズは、自らの年齢と共に自身のカラーを変えていくことに、
上手く対応できずに早逝してしまった印象があるのですが、そんな中でもいつまでもアメリカのティーンの
等身大を映画の中で描き続けるわけにはいかないと、それまでのカラーからの脱却を明確に図った作品が
本作と言えるでしょうし、その意識を強く感じさせるように、主人公カップルが結婚してからも、
お互いに苦悩しながら成長していく過程を映しており、これはジョン・ヒューズの姿勢を投影していると思いますね。

おそらく彼がそれまで描いていたティーンの青春は、
既に映画界でその役割を終えたことを実感し、そんな彼らが結婚適齢期を迎え、
実際に結婚したらどのようになるか?というテーマに着目し撮影したのが本作なのでしょうね。

そこで部分的には難しい問題にも触れていて、
例えばジェイクとクリスティの家に久しぶりに古くからの友人デイヴィスが「父親が死んだ」と言い、
家に泊めるシーンで、色男なデイヴィスは夜にクリスティを誘惑するシーンがあって、
それまではまるでデイヴィスを相手にしていなかったクリスティでしたが、肉親を失ったことと、
ジェイクに失望していた部分があってか、デイヴィスの誘惑に乗りかけて・・・というエピソードがあります。

別にクリスティがかねてから望んでいたわけではないだろうし、
まいてや子供を望んでいたというのも、勿論、ジェイクの子供を望んでいたはずだ。
しかし、それでもやはりクリスティの心にもどこか、付け込まれる隙間があったということなんですね。

まぁデイヴィスは昔からの友人であり、ジェイクの親友でもありますから、
クリスティの心にもブレーキはかかり易いのですが、これが違う男だったら・・・と考えると、
あながちクリスティの心にブレーキがかかったか、強烈な問題提起を行うシーンだと思いますね。

ちなみに映画の前半に主人公カップルが訪れたディスコでのシーンがあって、
このシーンではまだクリスティの子供を望む気持ち、そしてジェイクに対する不満が明確になっていないせいか、
クリスティは見ず知らずの男にナンパされますが、アッサリと誘いを断っているのが映されていますね。

こういう風に普段のジョン・ヒューズの監督作品とは違って、
結構、この映画でのジョン・ヒューズは鋭い部分があって、上手いところを突いてくるなぁと思いますね。

いわゆるマリッジ・ブルーを描いたという意味では、先駆的な作品ですね。
特に映画の冒頭の結婚式のシーンで、神父から厳しく誓いの言葉を求められる妄想からして、
ジェイクの苦悩を象徴しているのですが(笑)、それまでは憧れだった結婚が「責任」へと変わる瞬間ですね。
ある意味で、安易に結婚して子作りという風潮に一石を投じる映画になるのかもしれませんね。

それだけに映画のクライマックスは実に静かなものだが、感動的ですらある。
確かに映画のメッセージとして、訴求する力は若干、弱い気がするのが難点ではありますが、
この映画は結婚から出産と、人生に於いてとても重要なステップを、真摯に描けている点では感心します。

そしてジェイクが「責任」を自覚し、クリスティの出産にアタフタし始める姿、
そこから生まれる新たな「責任」、そして喜びを真正面からキチッと描けており、これは感動的な姿だ。

そういう意味で、この映画はジョン・ヒューズにとって大きな収穫だったと思う。
それだけに僕はこの路線でしばらく映画を撮れば良かったのに・・・と思うのですが、
90年の『ホーム・アローン』のメガヒットで、やはり彼自身が作家性に迷いが生まれてしまったのかもしれません。

80年代に於ける、一つの転換期を象徴する作品として再評価を促したい一本。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・ヒューズ
製作 ジョン・ヒューズ
脚本 ジョン・ヒューズ
撮影 ドン・ピーターマン
音楽 スチュワート・コープランド
出演 ケビン・ベーコン
    エリザベス・マクガバン
    アレック・ボールドウィン
    ウィリアム・ウィンダム
    イザベル・ロルカ
    キャスリン・デイモン
    リリ・テイラー
    ポール・グリーソン
    ジョン・アシュトン
    デニス・デューガン