シャンプー(1975年アメリカ)

Shampoo

まったくこれは...どうしようもない男を描いた映画だなぁ(苦笑)。

ハリウッドきってのプレーボーイ俳優として有名だったウォーレン・ベイティが、
女にモテるためだけ目的に美容師養成学校に通い、見事、ビバリーヒルズで美容師として働き、
次々と店の客の女性たちと肉体関係を持ち、更に私生活での恋人がいながらも、乱れた生活に終始した結果、
やがて人生最大の修羅場を迎え、ついに目覚めたものの、最後には全員から見捨てられてしまう姿を描いたコメディ。

監督はアメリカン・ニューシネマ期に活躍したハル・アシュビーで、内容は如何にも彼らしい映画だ。
何故か大統領選挙を絡め、社会に対する風刺を交えつつ、若者たちの乱れっぷりを描くというラディカルさ。
ただ、本作はハル・アシュビーの監督作の割りには、訴求しない映画だなというのが僕の本音。あまり盛り上がらない。

撮影当時、私生活でウォーレン・ベイティとジュリー・クリスティが恋人関係にあり、
更に映画の中でラブシーンを演じていたことで当時は話題となったようですが、そもそも論ですけど、
僕にはどうしてもウォーレン・ベイティがモテモテの美容師という設定が、素直に受け入れられなかった。

そりゃ、女性から見ればイイ男なのかもしれませんが、70年代にも彼よりイイ男はいっぱいいたでしょう(笑)。
女性の扱い、言動、どれを取ってもビバリーヒルズのマダムたちを虜にするというのは、かなり嘘っぽい。

僕にはこの映画の前提条件がどうしても素直に受け入れられなくて、
そればっかりが気になって、映画の本編があまりしっかりと頭の中に入ってこなかったのですが(笑)、
ただ主人公のジョージがどうしようもなく、女性関係にだらしない計画性ゼロの男で、改心して一人の女性を愛すると
決めたものの、結果的には身から出た錆であるかの如く、最後は全てを失ってしまう物語なのだというのは分かった。

しかし、一時期は俳優業よりも政治的な発言で目立っていたウォーレン・ベイティなだけに、
大統領選挙の前夜から映画が始まり、共和党のニクソンが圧倒的勝利をする夜に続く物語を
クロスオーヴァーさせながら、ジョージの喪失を表現するというのは、なんとも彼らしい皮肉が込められていると思う。

そもそも、このストーリーとニクソン再選をクロスオーヴァーさせる必要性がありません。
僕はワザと、こういう物語を下地に入れたのではないかと思うし、ウォーターゲート事件の余波に揺れていた頃に
製作された映画なだけあって、ウォーレン・ベイティなりに何かしらの政治的メッセージを込めていると思います。

でも、必要性が無いゆえか、僕にはこういう風刺は余計だなぁと思った。
監督のハル・アシュビーもそういう風刺を込めた描写が好きなディレクターなので人選されたと思うのですが、
半ば無理矢理にニクソン批判を映画の中で展開しようとした結果、必要性を見い出せず、中途半端に終わった感じだ。

選挙陣営の有力者であり、ジョージの独立に出資しようとしたジャック・ウォーデンも、
彼の愛人を演じたジュリー・クリスティも、ジョージのガールフレンドを演じたゴールディ・ホーンも、
ジャック・ウォーデンの妻を演じたリー・グラントも、みんな上手いし、キャスティング自体は絶妙にマッチしてますよ。
でも、これはキャスティングを半ば台無しにしてしまうくらい、強引過ぎる政治的メッセージ性が僕にはダメ。

これだったら、伝記映画としてウォーレン・ベイティが頑張った、81年の『レッズ』の方が遥かに印象が良い。
それは映画のコンセプトと明らかに合っていないと感じるからで、70年代だから受け入れられた作品という気がする。

とは言え、この映画で描かれたのがどこまで実際の雰囲気を込めているのか、
僕は当時を生きていないので分かりませんが、映画の後半で酔っ払ったジュリー・クリスティ演じるジャッキーを連れて
紛れ込んだ若者たちが集うパーティーの描写が、如何にもこの時代のパーティーって感じで印象深いですね。

まるでクラブのように爆音で音楽が流れるのですが、
それが Sgt. Pepper's Lonely Club Band(サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド)だったり、
バッファロー・スプリングフィールド≠フ Mr. Soul(ミスター・ソウル)だったりと、60年代後半のサイケ色全開。
まるでマリファナの匂いでも漂っているのではないかと思えるくらい、雰囲気的には“ラヴ&ピース”そのもの。
正しくこれこそ、抑圧されてきた時代が過ぎ、カウンター・カルチャーとして解き放たれた若者たちの躍動でしょう。

決して健全でも健康的でもなく、現代のコンプライアンスの時代には馴染むわけがありませんが、
ウォーレン・ベイティもこういう時代を駆け抜けた一人であるし、このパーティー・シーンがここまで長いのは珍しい。

いつもなら、チャーミングなゴールディ・ホーンがもっと目立ってはいると思うのですが、
決して彼女が悪いわけではないにしろ、本作はそこまで彼女が目立つというわけではない。
そういう意味では、ゴールディ・ホーンを観たい人には物足りないかも。女優陣では、やっぱりリー・グラントでしょう。
彼女は50年代ハリウッドに吹き荒れた“赤狩り”の被害者ですが、本作で再注目されたことで第一線に帰ってきます。

そんなリー・グラントも67年の『夜の大捜査線』でカムバックを果たしましたが、
本作では冒頭から、暗闇の中でのウォーレン・ベイティとのラブシーンというブッ飛びっぷりからスタート。
ハッキリ言って何が映っているのかが全く分からないというハル・アシュビーのギャグのようなスタートですが、
そもそも67年までレイティング・コードに縛られていたハリウッドですから、当時としてもこの始まりは冒険だったと思う。
(リー・グラントは最後に強烈な“仕草”をかまして、本作から華麗に退場していきます・・・)

まぁ・・・映画の中身が、この始まりのブッ飛びぶりには付いて来れなかったような感じですが、
どうやら本作劇場公開当時、日本でも結構話題にはなっていたようだ。やはり当時はまだセンセーショナルな内容。
ひょっとしたら、それだけでも作り手の狙いは当たったのかもしれません。どこか斜に構えたところがあるので。

モテるためだけに美容師になったなんて、真剣に美容師やってる人から怒られそうだが、
日本の古くからの理髪店もそうだけど、調髪というのは半分コミュニケーション目的の人もいますからねぇ。
理容師さんも美容師さんも、お客さんとのコミュニケーションから得る情報が多いせいか、話題も豊富ですよね。

そういう意味では、単に髪を切ればいいということでも、単に綺麗にすればいいということではなく、
利用客に合った接客をして、ホントの意味でリラックスしてもらって、気持ち良く帰ってもらうというのが本分でしょう。

そう考えると、本作の主人公ジョージはプロ意識のある働きぶりだったかと言われると微妙なので、
やっぱり彼のような人は、改心しなければならないのかもしれませんね。ホントにどうしようもない男ですから・・・。
ビバリーヒルズに暮らす有閑マダムたちから見れば、適度に“遊びやすい男”に映るのかもしれませんね。

個人的にはハル・アシュビーの監督作品って独特な雰囲気と、テンポの作品が多くって好きなんですが、
本作はチョット賛同できなかったなぁ・・・。何を表現したかったのか、今一つ分からない内容になってしまっていて、
正直言って、ウォーレン・ベイティに“乗せられて”監督を引き受けてしまったのかなぁ・・・と心配になった。

個人的には、ウォーレン・ベイティではなく主人公ジョージをロバート・レッドフォードのような
甘いマスクの俳優が演じていれば、人間的にはどうしようもないけど、次々と女性が寄ってくるのは分かるなと、
もっと納得できる映画になっていたのではないかと穿った見方をしていますが、それも無理な話しですね・・・。
でも、そう言いたくなるぐらい、僕にはウォーレン・ベイティの公私混同な映画に見えてならなかったんですよね。

そういう意味では、ジャッキーを演じたジュリー・クリスティは本作のことをどう思っているのだろうか?

選挙当日のパーティーで「飲むなよ」と警告されていたにも関わらず酒飲んで泥酔して、
ジョージ相手に下ネタ連発しまくって、力づくで退場させられるシーンなんてギャグではあるのだけれども、
結構キツいシーンで私生活でウォーレン・ベイティの恋人だったから、本作に出演したのではないかと邪推してしまう。

でもさ、ジョージ的にはゴールディ・ホーン演じる現在の彼女を少しずつ遠ざけようと
邪険に扱っているように見えるんだけど、一体彼女のどこに不満や物足りなさがあるのかが、よく分からないよ・・・。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ハル・アシュビー
製作 ウォーレン・ベイティ
脚本 ロバート・タウン
   ウォーレン・ベイティ
撮影 ラズロ・コバックス
音楽 ポール・サイモン
出演 ウォーレン・ベイティ
   ジュリー・クリスティ
   ゴールディ・ホーン
   ジャック・ウォーデン
   リー・グラント
   ルアナ・アンダース
   トニー・ビル
   スーザン・ブレークリー
   キャリー・フィッシャー

1975年度アカデミー助演男優賞(ジャック・ウォーデン) ノミネート
1975年度アカデミー助演女優賞(リー・グラント) 受賞
1975年度アカデミーオリジナル脚本賞(ロバート・タウン、ウォーレン・ベイティ) ノミネート
1975年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート
1975年度全米映画批評家協会賞脚本賞(ロバート・タウン、ウォーレン・ベイティ) 受賞