Shall we Dance?(2004年アメリカ)

Shall we Dance?

96年に周防 正行が映画化した、大ヒット日本映画のハリウッド版リメークで、
シカゴで弁護士事務所に勤務する主人公が、突如としてダンス教室で社交ダンスを習う姿をユーモラスに描く。

観る前の僕の勝手な予想とは相反して、これは意外にもそこそこ楽しめる作りであり、
オリジナルの周防 正行の監督作品へのリスペクトに満ち溢れた、とっても好感の持てる作りでした。
物語の舞台設定などは当然オリジナルと異なりますが、映画が目指しているものは基本的に同じものと感じます。

オリジナルもアメリカで劇場公開されて高評価であっただけに、
このシナリオ自体がハリウッドにとっても魅力的なものであり、自分たちで映画化したいとなったのだろうけど、
個人的には日本映画がこういう形でリメークされ、しかも一定のリスペクトが感じられるリメークになったというのは、
凄く嬉しいことで、やはり00年代に入って日本映画の国際的なプレゼンスも違うステージに入ったと思う。

主演のリチャード・ギアも、ダンス教室の先生ポリーナ役のジェニファー・ロペスも、
見事なまでに社交ダンスの世界観にハマっていて、ピッタリ合っている。しかも、姿勢が良いですねぇ!(笑)

自分も、亡くなった祖母がオリジナル作品がヒットしたあたりから、
社交ダンスの教室に通い始めて、ダンス・パーティーで踊ったりしていたので身近に感じる部分もあるのですが、
昔は一部の好きな人たちがやる趣味という印象があって、広く一般化されたものとは言い難かったですから。
本作で描かれたように、平凡なサラリーマンが何を思ったか、会社帰りにダンス教室に通い始めて、
行く行くは大会に出場して、審査員の前で踊るなんてサクセスを描けば、それは社交ダンスもヒットしますよね。

まぁ、甘いマスクのリチャード・ギアのようなオジ様が下心をもってダンス教室に通い始めたのに、
「浮気はしてないよ!」と言い放ったって、あんまり説得力が無いような気がしますが(笑)、
下心から始まったものの、いつしか下心はそっちのけで、上達していく姿を描くことが欧米では新鮮だったのかも。

それは正直言って、オリジナルでヒロインを演じた草刈 民代と、本作のジェニファー・ロペスを比較すれば、
ジェニファー・ロペスの方がフェロモン漂う感じで、色っぽさに惹かれて主人公がダンス教室へ通うので、
下心の強さというのは本作の方が強い気がします。この辺は如何にも欧米の感覚って感じですけど、
それでもすれ違いながら、衝突しかけて、「やっぱり踊りたいんだぁ!」と練習に打ち込む主人公を描き、
少々、冒険したような感覚はありましたが、いきなり大会に出場するなんて、観ていて応援したくなるストーリー展開だ。

この辺のストーリーの建付け自体は、オリジナルとほぼ一緒で、日本映画っぽいニュアンスだ。

賛否はあるかもしれないが、主人公の同僚リンクを演じたスタンリー・トゥッチも頑張っている。
そりゃ、オリジナルの竹中 直人の怪演には敵わないかもしれないが、ラテンを踊る時は妙にカツラにこだわったり、
全身メイクをして野性的なキャラクターを取り繕ったのに、相手から嫌がられるとか、とっても良い存在感だ。
あれ以上、ドタバタとやらかしていたら、逆に映画を壊す存在になっていたでしょうが、その塩梅が丁度良い。

監督のピーター・チェルソムも、『セレンディピティ』などは自分の感覚とは合わなかったけれども、
本作はオリジナルをよく観て、内容を反芻して、オリジナルの面白さ・良さをよく理解したリメークを作りました。
僕は、リメークって決して容易な仕事ではないと思うのですが、これはもっと評価されてもいい仕事ぶりだと思う。

周防 正行が本作の現場に結構介入したみたいな噂が流れていたことを覚えていますが、
どうやら撮影現場でオリジナルを何度もスタッフが観ながら撮影をしていたらしく、それを過剰に脚色されて
ゴシップ化されたらしく、これが周防 正行の指示とも考えにくく、作り手のベクトルがオリジナルと一緒だったのでしょう。

コメディ映画としての側面を持っている作品ではありますが、
これもオリジナルと同様に、過剰に観客を笑わせようとするタイプの映画ではない部分を踏襲している。

おそらく、こういったソフトタッチな部分もオリジナル作品がハリウッドで評価された一因なのでしょうけど、
どうしてもハリウッドでリメークされると、こういう部分はハリウッド・ナイズされてしまいがちですからね。
往々にして、もっとドタバタとギャグっぽくなったり、台詞で笑いをとろうとしたり分かり易いアプローチが入るのですが、
本作はそういった安直さも無くって、笑いのエッセンスもオリジナルの程度とほぼ同じレヴェルで、実に大人しい。

そういう意味では、ハリウッドのプロダクションが自分たちのペースに持ち込もうとはしなかった、
とっても貴重なリメーク作品と言えます。おそらく、こんなことは後にも先にもそうそうあることではないでしょうね。

ただ、欲を言えば・・・という部分がないわけでもない(苦笑)。
最終的な“落としどころ”は妥当なものだとは思うけれども、スーザン・サランドン演じる主人公の妻が
全体的に浅い描写で物足りなかった。オリジナルでもそういう傾向はあったけれども、サラリーマンが真剣に
社交ダンスを習うというアイデア自体の面白さに溺れてしまったように、家庭の描写が本作も今一つに感じる。

毎週水曜に帰宅が遅く、弁護士事務所も定時退社していることを知って、
オンナの勘が働いたのか、夫のジョンが浮気しているのではないかと疑い、探偵まで雇うわけですが、
真実を知り娘と一緒にダンス大会まで内緒で見に行って、突如として駐車場で怒り出すというのは、なんか変だ。

ジョンはチョットした下心があって社交ダンス教室に通い始めたのは間違いないのですが、
結果として浮気ではないと判明し、日常生活では見たことがないジョンが何かに打ち込む姿を見て、
いろんな意味で衝撃を受けたはずで、これは怒りという感情よりも、混乱するという感情の方が自然な気がする。
まぁ・・・夫婦のことなので、感情的になってしまうことはあるだろうが、この場面は少々の違和感があったかな。

その分だけ、ラストに妻の仕事場にタキシードで乗り込んで行くリチャード・ギアという、
なんだか出来過ぎなくらいスイートなシーン演出もあって、そんな違和感も帳消しなくらいの甘さでしたが。。。

まぁ、そういう意味では主演にリチャード・ギアというのは、少々ハンサム過ぎたかもしれませんね。
彼の立ち姿を映画の冒頭から観ていても、ダンスがまるで下手とは思えず、姿勢がとても良いし、
スラッとした素敵なオジ様風のセクシーさで、少しばかりワルいエッセンスも感じられる、なかなかいない中年男性だ。
映画でも語られていますが、彼とダンスを一緒に踊りたいとする世の中の女性は、たくさんいるとしか思えない。
オリジナルで主演を務めた役所 広司はそこまでハンサムとは言えないし、もっとダンスは下手そうでしたからね(笑)。

不釣り合いには思える部分もありますが、ニコラス・ケイジぐらいだったら、丁度良かったのかも・・・。

いずれにしても、これはまるでお手本のようなリメーク作品であり、
こういう形で日本映画がスポットライトを浴びるのは素直に嬉しい。作り手のリスペクトも感じられるし、
現時点では、ピーター・チェルソムの監督作品としてはベストな出来の映画と言っても過言ではないでしょう。

それにしても、冷静に見ると、社交ダンスって結構ハードな競技に見えるし、
ラテンなんて、スゴい汗をかきそうなくらい激しい動きがありますけど、汗っかき体質の人は大変そうですねぇ。

映画でも描かれている、「汗っかきのパートナーとは組みたくない!」を包み隠さず言うのは言い過ぎですが、
生理的に嫌な人はいるでしょうね。相手への気遣いとかもあるでしょうし、汗をかくなというのも無理な話し。
何か対策があるのかもしれませんが、緊張していたりすると、手に汗かいてしまうこともありますからねぇ・・・。

ダンスのパートナーは信頼が大事でしょうからね。心の何処かで嫌な気持ちがあると踊れないでしょうし、
過剰なほどに気を遣う相手とであっても、上手く踊れないでしょう。この辺の塩梅が、とても微妙なところでしょう。

あまり過剰な期待をされるとツラい作品ではありますが、
なんとなく作りました、みたいな中途半端な志しではないことは明らかな作品ですので、
リメークするのであれば、今後はこれくらいの意気込みとリスペクトを映画の中に吹き込んで欲しいですね。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ピータ・チェルソム
製作 サイモン・フィールズ
原作 周防 正行
脚本 オードリー・ウェルズ
撮影 ジョン・デ・ボーマン
美術 キャロライン・ハナニア
衣装 ソフィー・デ・ラコフ・カーボネル
編集 チャールズ・アイアランド
音楽 ジョン・アルトマン
   ガブリエル・ヤーレ
出演 リチャード・ギア
   ジェニファー・ロペス
   スーザン・サランドン
   スタンリー・トゥッチ
   ボビー・カナヴェイル
   リサ・アン・ウォルター
   オマー・ミラー
   リチャード・ジェンキンス
   アニタ・ジレット