恋におちたシェイクスピア(1998年アメリカ)
Shakespeare In Love
有名なウィリアム・シェイクスピアが『ロミオとジュリエット』の戯曲を書き上げ、
舞台劇として上演する舞台裏で、実は良家の娘ヴァイオラと恋に落ち、2人の許されぬ恋を育む中で
『ロミオとジュリエット』の物語が肉付けされ、出来上がっていくという架空のストーリーを映画化しました。
98年度の映画賞レースで、配給会社のミラマックスの強烈な根回しがあったとか、
当時からいろいろなゴシップがありましたが、それは映画の出来は良いからこそなのだろうと思う。
と、僕があまり歯切れの良いコメントができないなと思うのでは、
正直に白状すると、僕はこの映画、何度観ても好きになれないというか、本作の魅力を感じ取れていないから。
言葉悪く言えば、如何にも賞狙いの映画という、うがった見方をしたくなってしまう風格が漂っていて、
特に映画の前半はどことなく乗り切れないというか、そこそこ映画が盛り上がる終盤までが長く感じられてしまう。
そして、映画はどちらかと言えば、コミカルに喜劇調にやりたかったのだろうけど、
ジョセフ・ファインズ演じるシェイクスピアと、グウィネス・パルトロウ演じるヴァイオラのロマンスが
映画の中盤からは随分とクドい。何度も何度もキスシーンやら、ラブシーンが描かれていますが、
この映画の重たさと比較すると、2人のロマンスに関する描写があまりにクドく、少々不釣り合いな印象が残る。
どうせ、コミカルに描きたいのであれば、もっとトントン拍子で進んでいく軽さがあっても良い。
そこに無理矢理、『ロミオとジュリエット』に重ね合わせるように悲恋な雰囲気を出そうとするものだから、
この映画の作り手はそうとう欲張ったというか、映画全体のバランスを結果として上手くとれなかった印象ですね。
決して退屈な映画というわけではないのですが、シェイクスピアがヴァイオラの正体に迫るエピソードにしても、
舞台劇会場が決まるまでにしても、全体的に悪い意味で時間をかけ過ぎたかな。もっとテンポは大事して欲しい。
そこがどうも、世間の高評価の割りに、僕の中で上手く割り切れないというか、
何度も何度も観たくなるようなドキドキ・ワクワクさせられるような感覚が、この映画には無かったなぁ。
個人的にはシェイクスピアを描いた映画なのですから、もっとシェイクスピアの作家性にも迫って欲しかったし。
そういう意味では、かつての艶笑映画に感覚的には近いのかもしれない。
ただ、その割りに主演2人のロマンスがクドい。映画のテンポが悪いと、見直して欲しい点が幾つかある。
おそらく脚本の出来はかなり良いものなのだろうけど、それ以上に磨かれたものが無かったように思うんですよねぇ。
98年度のアカデミー賞でも大量13部門でノミネートされて、作品賞含む7部門を獲得しました。
同じ年は、スピルバーグの『プライベート・ライアン』が話題になっていましたし、前哨戦では『プライベート・ライアン』が
優勢と報じられていましたので、本作が作品賞を獲得したのは、かなり大きな衝撃を与えたと記憶しています。
どうやら、ミラマックスがアカデミー賞授賞式直前に、アカデミー会員に無償で本作のビデオを送りつけたとか、
色々な裏工作があったらしい・・・ということは、当時の映画雑誌でもゴシップ的に取り上げていた記憶もあります。
まぁ・・・そんな裏工作のおかげというわけではないのだろうけど、そこまでのインパクトは無いなぁ。
この年の映画賞レースでは、コスチューム合戦とばかりにケイト・ブランシェットが
主演した『エリザベス』も高く評価されて、大きな話題となっただけに、正直言って僕は『エリザベス』の方が楽しめた。
勿論、映画のベクトル自体が違うということもありますけど、
映画のコンセプトと演出家のアプローチが合っているのか、ということが最も大きなところでして、
本作は前述したように、そこが僕には合っていない部分があって、それが映画にとって大事なところなので、
余計に尚更、気になって仕方がなかったのですよね。その辺は『エリザベス』の方がしっかりしていると、僕は感じました。
確かに本作でヒロインを演じたグヴィネス・パルトロウは旬な時期でしたね。
さすがに、彼女が演じた“トマス・ケント”はどこからどう見ても男装した女性にしか見えなかったので、
周囲が女性であることに気づかないという設定に、無理があるとは思ったけど(笑)、でも、彼女はよく頑張りましたよ。
高貴な雰囲気を持ち、それでいて役者をやりたいという意志の強さも感じさせる。
当時はブラッド・ピットと婚約していた女優さんというイメージが強かったので、本作で一気にブレイクしましたね。
映画の終盤、準備してきた『ロミオとジュリエット』の上演が禁止され、
別の劇場で上演することになり、再びヤル気を取り戻したメンバーが舞台の練習に勤しみ、
いざ、大観衆を集めて『ロミオとジュリエット』を上演することになる過程は、なかなか上手く描けていて、
映画のクライマックスに向かって、駆け上がっていくように劇がブラッシュ・アップされていく様子がなかなか良い。
そうなだけに、大観衆の前で上演する際も、様々なトラブルに見舞われて、
それでもなんとか劇を進めていき、劇のクライマックスを迎えるところでの高揚感は見事に表現したなと思った。
これが映画の内容とシンクロするように劇も進んでいくので、これが出来たジョン・マッデンはスゴいと思う。
だからこそ、そのベースとなるシェイクスピアとヴァイオラのロマンスの描き方が勿体ない。
もっとトントン拍子でテンポ良く進められていれば、劇のクライマックスまであれよあれよという間に行ったはずだ。
それが映画自体の勢いとも解釈できる部分はあるので、僕の中では終盤に突如良くなったという印象なのですよね。
ただ、残念ながら本作は「終わり良ければ、全て良し」・・・とは言えなかったですね(苦笑)。。。
結局、舞台劇が出来るまでを描いた映画なので、こういう書き上げる途中の苦労を描いたり、
シェイクスピアの知られざる部分を描くみたいところに時間を割くことになったのだろうが、僕はどちらかと言えば、
劇の稽古にフォーカスした方が良かったのではにないかという意見で、これは逆の意見の人もいるだろう。
シェイクスピアが好きな人にとっては、この映画がどう映ったのか・・・という点で疑問はあるのだが、
あくまでフィクションとして見なければなりませんし、変化球な内容の映画ということを理解した上で観た方が良いです。
でもさ...僕は本作を下げるわけではないのだけれども、
やはり『プライベート・ライアン』の凄みの方が、映画界に与えたインパクトは大きかったと思うんだよなぁ。
あれは、スピルバーグにしか出来ない仕事であったのは間違いない。他作品への影響もデカかったからなぁ。
(まぁ・・・この辺がアカデミー賞の監督賞がスピルバーグに渡った理由なのかもしれませんが・・・)
賞狙いな印象を受けたのは、ジュディ・デンチ演じるエリザベス女王の描き方かな。
何もかも、女王が現れれば全員がひれ伏すという“構図”があるので、美味しいところを持って行くかのよう。
「全てお見通しよ」という台詞が象徴していますが、それを都合良く使って解決するというのが、どうにも胡散臭い。
こういう儲け役は、僕はエリザベス女王である必要はないと思うのですが、
エリザベス女王の影響力を利用したかったのでしょうが、この描き方は水戸黄門的で感心しなかったなぁ。
そういう意味では、映画の序盤ではジェフリー・ラッシュ演じるヘンズローを痛めつけていた、
ヘンズローの借金取りフェニマンを演じたトム・ウィルキンソンとかの方が、魅力ある脇役として好印象。
それから、まだ売れ始めのベン・アフレックがこんな贅沢な役で起用されているなんて、チョット驚きでした。
とまぁ・・・キャスティングに関しては抜群にキマった作品ですね。
ただ、個人的にはアカデミー作品賞受賞作としてはチョットなぁと思う。好きな人は好きなのだろうけど。。。
(上映時間123分)
私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点
監督 ジョン・マッデン
製作 デビッド・パーフィット
ドナ・ジグリオッティ
ハーベイ・ワインスタイン
エドワード・ズウィック
マーク・ノーマン
脚本 マーク・ノーマン
トム・ストッパード
撮影 リチャード・グレートレックス
美術 マーティン・チャイルズ
ジル・クォーティアー
衣裳 サンディ・パウエル
編集 デビッド・ギャンブル
音楽 スティーブン・ウォーベック
出演 グウィネス・パルトロウ
ジョセフ・ファインズ
ジェフリー・ラッシュ
コリン・ファース
ジュディ・デンチ
ベン・アフレック
トム・ウィルキンソン
サイモン・キャロウ
ジム・カーター
ルパート・エベレット
イメルダ・スタウントン
1998年度アカデミー作品賞 受賞
1998年度アカデミー主演女優賞(グウィネス・パルトロウ) 受賞
1998年度アカデミー助演男優賞(ジェフリー・ラッシュ) ノミネート
1998年度アカデミー助演女優賞(ジュディ・デンチ) 受賞
1998年度アカデミー監督賞(ジョン・マッデン) ノミネート
1998年度アカデミーオリジナル脚本賞(マーク・ノーマン、トム・ストッパード) 受賞
1998年度アカデミー撮影賞(リチャード・グレートレックス) ノミネート
1998年度アカデミー音楽賞<オリジナル・ミュージカル/コメディ部門>(スティーブン・ウォ−ベック) 受賞
1998年度アカデミー美術賞(マーティン・チャイルズ、ジル・クォーティアー) 受賞
1998年度アカデミー衣装デザイン賞(サンディ・パウエル) 受賞
1998年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート
1998年度アカデミー音響賞 ノミネート
1998年度アカデミー編集賞(デビッド・ギャンブル) ノミネート
1998年度全米映画批評家協会賞助演女優賞(ジュディ・デンチ) 受賞
1998年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
1998年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(ジュディ・デンチ) 受賞
1998年度イギリス・アカデミー賞編集賞(デビッド・ギャンブル) 受賞
1998年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
1998年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞(グウィネス・パルトロウ)<ミュージカル・コメディ部門> 受賞
1998年度ゴールデン・グローブ賞脚本賞(マーク・ノーマン、トム・ストッパード) 受賞