七人の侍(1954年日本)

言わずと知れた黒澤 明の代表作の一つとも言える名作時代劇。

1954年度ベルリン国際映画祭にて銀獅子賞を獲得し、60年に『荒野の七人』としてリメークされるなど、
国際的に高い評価を得ることになり、黒澤 明の名を世界に轟かせるに至った作品と言っても過言ではありません。

本作で徹底した時代考証に基づいて描くことに決めた黒澤は、地道に図書館に通い詰めて、
歴史書などから侍や百姓たちの生活をデフォルメしたそうですが、僕にはそこまでの知識がないので、
本作で描かれたことがどれだけ現実だったのかは分かりませんが、かなりのこだわりがあったようですね。

残念なことに、保管されていたフィルムの状態が芳しくなく、録音状態も良くはなかったです。
そんな中、最近になって4Kリマスタリングが公開されたりして、次第にナチュラルな状態で観れるようになってきました。

確かに本作は実に魅力的で、お手本のように教科書的な映画だと思います。
後年の映画界に与えた影響は計り知れず、スピルバーグやスコセッシが未だリスペクトを絶やさない名作ですから、
映画ファンであれば一度は観ておきたい作品です。ただ、敢えて言わせてもらうと、最高傑作ではないかなぁ。
黒澤の国際的認知が高まったという意味では出世作ですどね。正直言って、この内容で3時間越えは長いしねぇ・・・。
(もっとも、黒澤は50年の『羅生門』の時点でヴェネツィア国際映画祭などで注目されていましたがねぇ・・・)

まぁ、あまりに有名な名作なのでこういうこと言うと、非難されるかもしれないけど、
本作を越える黒澤の監督作品というのは、他にもあると思う。本作が称賛される理由も、分からなくはないけどね。

この映画を観ていて感じたのは、クレジットとしては三船 敏郎が主演であるようになっていますけど、
映画の本編は三船 敏郎演じる侍が主人公ではなくって、ほぼほぼ完全に志村 喬演じる凄腕の侍なんですね。
と言うか、この映画での志村 喬、素晴らしいリーダーシップを発揮していて、その存在感は神々しくもある。
ラストに侍たちの勝利ではなく、百姓たちの勝利だと尊重する台詞は印象的ですね。この〆方は実にカッコ良い。

ただ、僕が感じたのは、この志村 喬演じる勘兵衛は少々カッコ良過ぎるのですよね。
物静かでありながらも腕っぷしは確かなもので、数多くの争いをくぐり抜けてきたサバイバーであり、
彼の人間性や腕っぷしの強さに魅せられて、弟子入りを希望する者が多くいるということは彼の人徳でもある。
そんな人徳を思わせる日常の立ち振る舞い、そして少々達観したような見地から物事を見つめるあたり、
本作の実質的主役であることは間違いないのですが、個人的にはもっと泥臭いかオヤジ臭くても良かったと思う。

欲を言えば、映画の序盤にある赤ん坊と共に小屋に立て籠もった男を撃退するシーンにしても、
勘兵衛の強さを象徴し、侍たちが彼に心酔するキッカケとなるシーンだっただけに、握り飯のやり取りからしても、
小屋の中と勘兵衛の攻防をハッキリと描いて欲しかった。最後だけ見せるというのは、少々物足りない。

その点、三船 敏郎演じる菊千代の方が良い意味で人間臭いキャラクターで、、魅力に溢れている。

それが原因で主役とクレジットされたのかは知りませんが、子どもが大好きで、どう勘兵衛に近づいたら
彼を動かすことができるのかと考えつつも、上手く行動に移すことができない晩熟(おくて)なところを強調。
しかし、いざ場に慣れて動き始めると、どう野武士たちに対抗すべきなのか戦術的に話しができるわけですね。
この辺は人情味溢れる部分と、野生の勘の如く動き回って、不器用さとは対極するような鋭さを生かして動きます。

そして、映画の後半に菊千代について予想外とも言える真実が発覚する、というのも良いですねぇ。

一見すると、志村 喬が全て“美味しい”ところを持って行っている気もしなくはないのですが、
キャラ的には三船 敏郎の方がインパクトを残すかもしれません。なんとなくチャーミングでもありますしね。
性格的な不器用さを持つ侍を好演しており、他の出演作品と比較しても、より人間らしい愛嬌あるキャラクターだ

映画は三部構成になっています。第1部は百姓のために侍を集めるというエピソードで、
第2部は襲撃してくる野武士たちと闘うための準備、第3部は襲い掛かる野武士たちとの闘いとなります。

当時としては莫大な製作費を投じただけあって、50年代の日本映画のクオリティとしては
群を抜いた壮大なスケールの時代劇と言っても過言ではないと思います。作り手の意気込みも半端ないです。
それだけ当時の黒澤は期待されていた存在だったわけで、力量的にも際立った存在であったのは事実です。

交戦シーンでは、多くのカメラを使ったり望遠で俯瞰したショットを撮影したりと、
多種多様な工夫を凝らしており、それまでの日本映画には無かったダイナミックなアクション・シーンになっている。
有名な話しですが、黒澤は常にジョン・フォードの映画を目指していたので、西部劇をイメージしていたのでしょう。

野武士たちとの闘いで、「種子島」と呼ばれる武器が火縄銃で、この時代としては驚異的な武器だったと思う。
火縄銃自体は15世紀には開発されていたものであり、日本には1543年に種子島に伝来したというのが記録にあり、
戦国時代には既にバンバン使用されていたそうです。しかし、日本では技術進展が遅く、江戸時代に入ってからは
平穏な時代も長く続いたこともあり、確かに日本の時代劇の中では火縄銃よりも、剣術の方が目立つ印象はあります。

でも、この時代は防弾チョッキがあったわけでもないし、火縄銃は驚異的な武器であったのでしょうね。
織田 信長や明智 光秀ら戦国武将も鉄砲隊にいたようで、それまでの剣術が主流の時代に革命的だったのだろう。

特徴的なのは、若い侍と父親に厳しい仕打ちを受ける若い女の子とのロマンスが描かれていることだ。
しかも、直接的な描写に発展しそうな雰囲気を感じさせるアプローチで、この時代としては思い切ったシーンだ。
剣術や馬上の交戦シーンがあり、スケールをデカくアクション・シーンを撮り、ロマンスを描くとは娯楽映画の王道だ。
そう、黒澤は本作で娯楽映画とはどうあるべきなのか、何たるものかを追求したかったのではないだろうか。

この2人のロマンスに関しては、是非クライマックスでも触れて欲しかったのですが、
どこか初々しく接近していく2人を描きつつ、ついに結ばれた2人が娘の父親に見つかるシーンなんかは印象的だ。
これを見て、「お前もやっと男になったか」みたいな他の侍たちの反応は、実に昭和的(旧時代的)ではありますが(笑)、
僕はてっきり、こういう若い侍を敢えて登場させた理由って、悲恋を描きたかったのではないかと思っていたのですが、
決してそのために登場したわけではなく、あくまで選ばれた侍の一人にしかすぎず、特に他意は無かったようですね。

普通に考えれば、たくさんの野武士たちがせっかく苦労して百姓たちが育てた麦を奪いに来るのを防ぐためと、
立ち上がった侍が7人だけとは、いくら屈強な男が集まったとしても、負け戦としか思えないような陣容である。
それだけでは決まらないとは言え、やはり交戦の現実としては数の原理は大きいからだ。それでも挑む姿が尊い。

そんな負け戦でも挑むことを決意する、勇敢な侍たちを集めることに
映画の序盤で時間を使ったことが、本作の新しかったところだったと思う。それまでの映画でここまで序章とも
言える内容に時間を割いて、敢えて物語を拡げようとするアプローチは目新しいものであったと思います。

とは言え、やっぱり正直に白状すると、この映画は長いなぁ・・・と感じる。
無駄が多い映画というわけではないので、具体的にどこを割愛すればいいなんてシーンは無いけど、
クライマックスの野武士の襲撃に至るまでが長い。地道なことの繰り返しを描くせいか、もっと起伏があってもいい。
この辺は同じ黒澤の監督作品でも、後年に撮った『隠し砦の三悪人』ではこういったことを全て解消してるんですよね。

それにしても...未だにハリウッドの多くのディレクターが本作へのリスペクトを表明している。
そんなある種、教科書のように使われている映画が、日本映画に存在しているというのは誇るべきことだと思う。
おそらく、この先にこんな偉大な映画を日本で製作するというのは、相当に難儀で困難なことだと思います。

この頃にもっと技術的に実現可能な映像表現が多くあれば、黒澤は何をどう描いたのだろうか?と想像してしまう。
出来ることが多くは無かったから、逆にシンプルに表現することに良さがあるとも言えるけど、それでも黒澤の映像への
こだわりは凄かったはずで、技術的に可能なことが1950年代に拡がっていれば、もっとスゴい映画が撮れたかも。

しかし、若き日の黒澤は画家志望だったそうなので、この時代のカラー撮影技術自体に疑問を持っていたのか、
頑なにカラー撮影も71年の『どですかでん』まで採用しませんでしたので、安易に最新の技術に迎合しない、
自分の納得がいく映像をフィルムに収める、ということに執着していたようなので、そう簡単ではなかったでしょうが。

一度は観ておきたい映画史に残る名作なのですが...映像は良くなったけど、あとは録音がなぁ〜。。。

(上映時間207分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 黒澤 明
製作 本木 荘二郎
脚本 黒澤 明
   橋本 忍
   小国 英雄
撮影 中井 朝一
美術 松山 崇
音楽 早坂 文雄
出演 三船 敏郎
   志村 喬
   津島 恵子
   藤原 釜足
   加東 大介
   木村 功
   千秋 実
   宮口 精二
   小杉 義男

1956年度アカデミー美術監督・装置賞<白黒部門>(松山 崇) ノミネート
1956年度アカデミー衣装デザイン賞<白黒部門> ノミネート