セレンディピティ(2001年アメリカ)

Serendipity

これは運命の恋とか、タイトルが意味する通り、偶然の素敵な出会いとかに
共感できる人でなければ、内容的には苦しい映画だ。単に恋愛映画が好き、というだけでハマれる映画ではない。

『パール・ハーバー』のヒロインなどでブレイクしつつあったケイト・ベッキンセールが
初のロマンチック・コメディ映画のヒロインを務めるということで、当時は日本でも話題になっていましたが、
映画の出来としては微妙な感じで、残念ながら彼女がラブコメのメインストリームを歩むことはありませんでした・・・。

相手役がジョン・キューザックというのも、また微妙なキャスティングで(笑)、
この2人は少々ミスマッチ感があった気もしますし、映画の冒頭でたまたま同じものを手に取ったというだけで、
何故にそこまで惹かれ合うように、近くのカフェでデザートを食べに行っちゃうのか、理解に苦しむ展開で
主演2人のロマンスのムードが高まることに納得性を持たせられず、それが何年も続くことにも無理があったと思う。

まぁ、ケイト・ベッキンセール演じるサラの彼氏のラースとかいう謎のミュージシャンが、
あまりに奇異な存在だったので、それはそれとして、ジョン・キューザック演じるジョナサンが一方的に
目の前に迫った結婚から目を逸らそうと(?)、サラの幻影を追いかけ始めるなんて、男の立場から見ても理解不能。

そう、この映画のストーリーは“数年前”のニューヨークというところから始まるわけです。

クリスマス商戦に沸くデパートで、たまたま同じ物を手に取って、話し合いで解決しようとするところに、
中年のオッサンが横取りしかけて来たものだから、女性サラが機転を利かせたことに感心した、
男性のジョナサンがサラのことを何とか知ろうと、近くの“セレンディピティ”というカフェでデザートを食べます。

ガールフレンドへのクリスマス・プレゼントを買いに来ていたはずのジョナサンは、
もうサラに夢中で一緒にスケートまで滑っちゃうものだから、何とかしてサラの素性を知ろうと聞き出そうとします。

しかし、ガードが固いサラは「運命の出会い」を強く意識する女性で、
何かとジョナサンとの出会いに運命性を求めるのですが、ジョナサンはそれに応えることができずに、
結局、イギリスからの旅行滞在中だったサラはイギリスへ帰国し、数年の月日が流れてしまいます。

サラは謎めいたラースというミュージシャンから求婚されるものの、独特な恋人との生活に疑問を持ち、
ジョナサンは恋人ハリーとの結婚を目の前にしながらも、数年前に時間を共に過ごしたサラの存在が忘れられず、
ついには新聞記者の友人の伝手を使って、サラの正体を探り始めるまでに心が流されてしまいます。

そうして、次第に2人の動線はニューヨークで交差するようになるのですが、微妙にスレ違い、
ついにはジョナサンの結婚式当日まで、2人の運命は引っ張られていってしまう・・・という、ある意味でファンタジー(笑)。

僕はこの映画、結局はジョナサンの行動をどう捉えるかによって、映画の印象は大きく変わると思います。
正直、男性である自分の目線から言っても、ジョナサンの行動は理解し難い。いくら気になる女性がいると言っても、
こういう不誠実な振る舞いは、誰も幸せにならないと思っちゃうから。そもそも恋人のハリーには何ら落ち度が無く、
しかも演じるブリジット・モイナハンもキレイな女優さんときたもので、なんであんな軽薄な行動に出れるのか分からない。

僕は別に、恋愛映画に何でもかんでも共感性を求めているわけではないし、
時に支離滅裂な物語であっても、素敵な恋愛映画として成立してしまうことはあると思っているので、
この映画の全てを否定する気はありません。当然、良いところもありますし、見どころがないわけでもありません。

ただ、やっぱり恋愛映画って、映画の定番であるがゆえに否定的な意見が出易いジャンルだし、
何より作り手の映画を撮る上でのバランス感覚を試される、最も顕著なジャンルであるような気がしています。
(みんな、「どうせハッピーエンドなんだから!」という思いを持って、観るジャンルですからね)

そういう意味では、本作を撮ったピーター・チェルソムのバランス感覚は、お世辞にも優れているとは言い難い。
そもそもファンタジックなムードで押していきたいのか、コメディのエッセンスを強調したいのかも分からないし、
サラとジョナサンの恋愛自体もハッキリしないまま映画が進んでいくので、どうにも映画がずっと盛り上がらない。
ピーター・チェルソムがこの映画を通して、何を描きたかったのか、まるでポイントが読み取りにくい映画なんですよね

男女の奇跡的な恋愛を描いているので、ある程度のご都合主義は仕方がないし、
多少の力技でサラとジョナサンを引き寄せるのは仕方がないことだとは思うけど、実はジョナサンの結婚式に
つながる人間関係が凄く身近にあったという展開は拙速な感じに見えてならず、ここはもっとジックリいって欲しかった。

サラとジョナサンが再会するまでのシークエンスとしても、もっと盛り上げることは可能だったでしょう。
だからこそ、ジックリと2人が交差するまでを描いて、ファンタジーとしてもコメディとしても映画を盛り上げて欲しかった。
その方がケイト・ベッキンセールのキャリアとしても、大きなアドバンテージになったと思うんですよねぇ。

残念ながら本作がそこまでヒットしなかった結果だったというのも、
僕は本作以降のケイト・ベッキンセールのキャリアに、ラブコメがほとんど無かったということに影響したと思います。
別に“ラブコメの女王”になる必要はないけれども、トップ女優としてのスターダムを駆け上がるには必要ですからねぇ。

上映時間の尺も90分ととても短いことから、もっと内容を充実させて欲しかったなぁ。
僕にはこの映画を観る限り、当時のケイト・ベッキンセールには恋愛映画のヒロインとしてブレイクする
素質は十分にあったはずと思うし、本作自体ももっと磨けば良い出来になったはずと思えるだけに、とっても残念。。。

そういう意味では、ジョン・キューザックってダメ男の等身大を表現してきた俳優さんの一人だと、
僕は思っているので、彼の持ち味をもっと前面に出す内容にした方が良かったのかも・・・とも思ったんですよね。

だって、ダメ男だからこそ結婚式直前にフィアンセ以外の女性に気持ちがなびくし、
その気持ちを抑えられずに行動に出ちゃうし、フィアンセを悲しませるし、いつもヒネくれたこと言っちゃうわけ。
お約束のように、ジェレミー・ピヴェン演じる新聞記者の友人のような存在がいて、彼は良いように使うのだけれども、
何故かその友人もジョナサンのようなダメ男を友人として愛しているのが分かるし、“悪い人”ではないのだろう。

僕は日常生活でも、この「悪い人ではないんだけどねぇ〜」というフレーズをよく聞きますが、
このフレーズは大抵、マイナスな評価を下している人に対して使うフレーズなので、フォローになってない気がする。
しかし、愛すべきダメ男...それをジョン・キューザックはずっと演じ続けているので、この路線を極めて欲しかった。

きっとそうすれば、今よりはもっと好意的な感想が残る恋愛映画の佳作にはなれたと、思うんだよなぁ。

デパートの店員を演じたユージン・レヴィもインパクトある役どころではありましたが、
レジに入る入らないで執拗にもめるだけ、というのはなんだか寂しい。チョット僕には、狙い過ぎに見えたんだよなぁ。
この辺も、どうせ描くのであればもっと徹底してドタバタさせて、笑わせて欲しい。このままではどこか中途半端。

こうやって、少しずつボタンの掛け違えがあるような映画で、どこか勿体ない。
言いたくはないけれども、例えばゲイリー・マーシャルが撮っていれば、もっと魅力的な映画になっていたでしょう。
それくらい、当時のピーター・チェルソムにはこの手の映画を成功させるノウハウは持っていなかったと思う。

まぁ、確かにこんな偶然にも素敵な出会いというのがあれば・・・と思ったことはありますよ(笑)。
現実にこんなことがあれば、きっと警戒するでしょうけど(笑)。でも、これを具体的な映像で表現してくれる
メディアだからこそ成し得るものを、この映画には表現して欲しかったなぁ。観終わった後の充実感が足りないもの。

余談ですが、カフェの“セレンディピティ”でジョナサンが食べているデザートは、ホントに美味しそうだった。

(上映時間90分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ピーター・チェルソム
製作 ピーター・エイブラムス
   サイモン・フィールズ
   ロバート・L・レヴィ
脚本 マーク・クライン
撮影 ジョン・デ・ボーマン
音楽 アラン・シルベストリ
出演 ジョン・キューザック
   ケイト・ベッキンセール
   ジェレミー・ピヴェン
   モリー・シャノン
   ジョン・コーベット
   ブリジット・モイナハン
   ユージン・レヴィ
   ルーシー・ゴードン