ハングリー・ラビット(2011年アメリカ)

Seeking Justice

どうやら、ニコラス・ケイジが出演を熱望した企画だったらしいけど・・・

一時期はハリウッドを代表するスターの一人として数えられ、
日本でも彼の主演作はヒットが見込まれる作品として、全国的に大々的なロードショーで、
実際にヒットしていたぐらいのネームバリューがあったのですが、00年代後半からはすっかりB級俳優ですね(笑)。

いや、本作にしても彼の出演作品として考えると、チョット映画自体が小粒。
まぁ・・・決してつまらない映画ではないし、十分に楽しめる要素があるにはあるのだけれども、
どうにも映画の中身にメリハリが無く、良い意味での派手さも無い。つまり、セールスポイントがよく分からないのです。

映画はニューオーリンズを愛する高校教師が、オーケストラに所属する妻を強姦され、
大事な顔も負傷させられ、妻が精神的に塞ぎ込んでしまうことに耐えられなくなり、
被害にあった本人だけでなく、家族までもが苦しめられてしまうという状況に目をつけ近づいてきた、
謎の男、サイモンという男から「後で一つだけ頼みごとをするが、金はいらない。お前の代わりに復讐してやる」という、
言葉に乗せられて、サイモンが属する“組織”に犯人への復讐を依頼したことで、“組織”からも警察からも追われる
立場となって窮地に追い込まれてしまう姿を描いたサスペンス・アクションで、なかなかストーリーは面白い。

監督のロジャー・ドナルドソンも、例えば87年の『追いつめられて』のように、
あまり莫大な予算をかけずに面白いサスペンス映画を撮った経験があるだけに、安定した映画に仕上げている。

しかし、やっぱり思うが、この映画、どこかB級な香りがプンプンと漂っている(笑)。
最後まで観終わってしみじみと思ったことが、「これって、やっぱニコラス・ケイジが出る映画じゃないよなぁ」ってこと。

どうやら私生活での散財癖が酷くって、ニコラス・ケイジは映画出演の高ギャラ化は有名で、
1本の出演料が約15億円らしいのですが、同時に彼が抱える借金も半端ない金額らしくて、
片っ端から私財が裁判所に差し押さえられてしまった時期もあったぐらいですから、こういう映画にも出演して、
少しでも借金を返済しないとヤバいのでしょうね。正にこれこそ「背に腹は代えられない」ってことなのかな(笑)。

言いたくはありませんが、どこか映画が安っぽい(笑)。

良くも悪くもご都合主義が横行しているし、だいたい平凡な高校教師なのに強過ぎる(笑)。
逃避行が続くと、すぐに要領良くなっていくし、基本設定として刑事や軍人だというのなら、
この要領の良さは納得できるけど、平凡な高校教師にしてはフットワークが軽過ぎて、少し違和感があります。

確かにこれは映画なので、ある程度のご都合主義は仕方ないと思うのですが、
個人的にはポイント、ポイントでしっかりと観客を納得させられる流れは作って欲しかったですね。

この辺はロジャー・ドナルドソンの手腕にもかかっているところなのですが、
もう少し作り込んだシナリオを用意すべきでしたし、こういう甘さが少しずつ目立ってしまったことが
映画が安っぽく見えてしまう原因になってしまったと思いますね。これは編集の段階でも、気づいたはずだ。

ただ、映画の基本設定自体はそんなに悪くない。
ただ単に作り込みが甘かっただけで、ロジャー・ドナルドソンはあくまで及第点の演出はしていると思う。

と言うのも、ガイ・ピアース演じるサイモンの人間性を少しずつ表現していく過程は上手いし、
主人公にとって不利な状況を積み重ねて、映画の中盤で一気にピンチの局面を作るのもなかなか見応えがある。
これらは『追いつめられて』ほどではないにしろ、一つ一つのシーンが緊張感ある画面になっていて好感が持てる。

そして、アクションのパートにも本作の作り手は力を入れていて、
映画の後半にニューオーリンズ市街地の高速道路のようなところで、主人公が巻き込まれたカー・チェイス、
そして主人公が命からがら逃げ回るシーンで、あやうくトラックに轢かれそうになるシーンなど臨場感満点だ。
おそらく、ほとんどがスタント・シーンだとは思うけど、最近の映画としては出色の出来と言ってもいいと思う。

本作の舞台となっているニューオーリンズと言えば、
アメリカ南部を代表する都市ですが、05年に受けたハリケーン・カトリーナの被害で有名です。

美しい観光都市としての側面でも有名なのですが、
劇中にも登場してきますが、未だにハリケーン・カトリーナの痕跡が残っているようで、
特にクライマックスで描かれた、かつて商業施設だったと思われる大きなモールでの銃撃戦は印象的です。
サイモンも語っていますが、おそらくハリケーン・カトリーナの被害で水没してしまい、修復に多額の費用と時間を
要することが明確になったせいか、そのまま廃墟のようになってしまっている現実に、胸が痛みますね。

何故に「飢えた兎は跳ぶ」というフレーズで暗号化しているのか、
よく意図は分からないのですが、この映画で面白いところは、やはりラストのあり方でしょうか。
あまり露骨に伏線を張る映画ではないのですが、この「飢えた兎は跳ぶ」というフレーズを上手く利用しています。

言ってしまえば、このフレーズはいわゆる“マクガフィン”だと思う。
つまり、本作の本質にとっては、何ら意味を持たない表現。でも、それを上手く利用している。

そこまで出来が良いというわけではないにしろ、及第点レヴェルの映画ではあると思う。
欲を言えば、サイモンの人間性や過去については、もっと言及しても良かったと思う。
サイモンがただのサイコパスなのか、真の気持ちで世直しをしたいのか、不透明なことは映画にとって逆効果だと思う。
ここはハッキリと描かないと、“組織”の構造や目的に一貫性が無く、ある意味で本作のラストにも影響してしまう。

言ってしまえば、チャールズ・ブロンソンの『狼よさらば』を現代版として焼き直したような作品だが、
残念ながら本作には『狼よさらば』ほどの先進性も無く、映画としてのインパクトも劣るとしか言いようがない。

個人的にはニコラス・ケイジも、もっと不器用にもがき苦しむ姿を見せて欲しかった。
主人公のこういう部分を見せておけば、もっと本作の印象は変わっていたと思います。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ロジャー・ドナルドソン
製作 トビー・マグワイア
    ラム・バーグマン
    ジェームズ・D・スターン
原案 ロバート・タネン
    トッド・ヒッキー
脚本 ロバート・タネン
    ユーリー・ゼルツァー
撮影 デビッド・タッターサル
編集 ジェイ・キャシディ
音楽 J・ピーター・ロビンソン
出演 ニコラス・ケイジ
    ジャニアリー・ジョーンズ
    ガイ・ピアース
    ハロルド・ペリノー
    ジェニファー・カーペンター
    ザンダー・バークレイ
    ディクラン・トゥレイン

2012年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(ニコラス・ケイジ) ノミネート