シークレット・ウインドウ(2004年アメリカ)

Secret Window

まぁありがちなサイコ・サスペンスだけど、出来はそんなに悪くないと思う。

10年共に暮らした妻と離婚協議中で、小説家として少し売れたモートの目の前に現れた一人の男。
彼はシューターと名乗るミシシッピ州から来た中年男で、自分の作品をモートに盗作されたと主張し、
既にモートの名前で発表された著作の結末を、シューターの名で再発表しろと迫ります。

3日間の猶予を与えられたモートでしたが、愛犬を惨殺され、
離婚協議中の妻と彼女の不倫相手が暮らす邸宅を放火されたりと、不審な出来事が相次ぎます。
更にモートの周辺では不可解な出来事が相次ぎ、彼は精神的に混乱していきます・・・。

人気小説家スティーブン・キング原作の『秘密の窓、秘密の庭』を
ハリウッドで活躍する人気脚本家デビッド・コープが監督したサイコ・サスペンスなのですが、
映画の結末が比較的、読め易いこともあってか、劇場公開時の評判はイマイチでしたが、
僕はそういう観点を抜きにして考えれば、本作の出来自体はそんなに悪くないと思います。

映画の序盤から、映画の世界観はキチッと作り込まれており、
嫌味ったらしいフラッシュ・バックを除けば、ひじょうに誠実な語り口で好感が持てる。

ありきたりなラストと言えばそれまでですが、ラストへ向けた伏線の張り方も基本に忠実であり、
無理矢理なストーリーテリングにはなっておらず、映画が破綻したりすることはありません。
多少、主演のジョニー・デップのネームバリューに依存した傾向のある作品ではありますが、
それでもデビッド・コープの演出家としての仕事という意味では、無難な出来と言っていいと思いますね。

但し、個人的にはジョン・タトゥーロ演じるシューターの扱いや、
モートと離婚協議中の妻を演じたマリア・ベロらが中途半端に描かれているような感じで、物足りなさはある。
映画のクライマックスでようやっとエンジンがかかったかのように、映画が動き始めますが、
それまでの抑制に抑制を利かせたようなストーリー展開の中で、彼らをもっと活かせなかったものかと思う。
特にシューターを演じるジョン・タトゥーロなんかは、もっとサイコパス風に強く描いても良かったと思いますね。
正直言って、出したり出さなかったりと、どっちつかずで中途半端に感じられてならかったですね。
個人的にはもっとネチっこく、執拗にストーキングするような嫌らしさを強調して欲しかったと思います。

これはマリア・ベロ演じる元妻のエイミーにしても同様。
意味ありげに両肩を出した服装を着て、そんな姿をモートが思わず見てしまう視線から、
モートがまだエミリーに未練があることを匂わせながらも、それを全く活かそうとしないのは残念。

伏線の張り方は基本に忠実で、結果的には活かせているんだけれども、
もっともっと数多くの種まきをした映画なのに、幅を広げることなく、活かさなかったセオリーが多かったのは、
正直言って、感心できませんね。それらはハッキリ言って、映画にとって無駄以外の何物でもないのです。
勿論、映画の中には色々と、思わせぶりなセオリーを作って、映画を大きく揺れ動かすということもありますが、
少なくとも本作はそういった混乱を敢えて作っている類いの映画というわけではありません。

但し、強いて言えば、ミシシッピ訛りから直感させられるというセオリーは悪くない。
これもモートの精神的な部分がひじょうにセンシティヴになっていることの象徴でもあるのですが、
あくまで発想の切り口と限定して考えると、まずまず悪くないセオリーの作り方だと思いますね。

主演のジョニー・デップの魅力に依存する部分が大きい映画ではありますが、
前述したジョン・タトゥーロにしても、マリア・ベロにしても、もっと出来る役者さんなだけに
彼らに十分な持ち場が与えられていないことは残念でならないですね。
せっかくキャスティングという面では恵まれた映画なのに、ここで活かせなかったのは致命的です。

それにしても小説家を主人公にしたという意味では、
本作は『シャイニング』の二番煎じと言われても、正直言って反論できないかなぁ。
特に映画のクライマックスでモートの暮らす小屋の階段でマリア・ベロ演じるエミリーが
後ずさりするシーンなんて、『シャイニング』のホテルの階段でのシーンを思い出しますね。
チョットこの辺はスティーブン・キングの原作にも問題があるのか、もっとアレンジしても良かったですね。
(あのシーンを観て、直感的に「あっ! “シャイニング”だ!」って思った人も多いはず...)

思いのほか、デビッド・コープが無難な映画を撮ったせいか、
チョット拍子抜けしちゃいましたが(笑)、この無難さがおそらく賛否の分かれ道でしょうね。

個人的には映画のクライマックスが予想以上にブラックな結末だったことに
驚いたと言えば驚いたのですが、クライマックスに至るまではもう少し細かく描いて欲しかったかなぁ。
結構な力技でクライマックスへと向かっていくので、少々、雑な印象を受けることは否めないですね。
(とは言え、作り手が目指した方向性は決して悪くないとは思う・・・)

上映時間もかなりタイトであり、サラッと観れてしまうあたりは好印象ですね。
まぁスティーブン・キングの原作があるので、あまり大胆なアレンジをできなかったのかもしれませんが、
もっと大胆にアレンジメントを加えて、映画の優位性を活かした内容になっていれば、
もっと本作の価値は高まったと思うし、原作とはまた違った魅力を出せたと思いますね。
この辺はおそらく作り手に迷いがあったのだろうとは思うけど、このままでは観る人が観れば、
「あっ、これって原作の小説を読んだ方が面白いかも...」と悟っちゃうと思うんですよね。
さすがに観客にこう悟られてしまっては、映画化する意味がないと僕は思うんですよね。

いずれにしても、あまり過度な期待はしないで観た方が得策ですね。
そんなに悪くない出来であるがゆえ、ありがちな映画の枠を脱し切れていませんから・・・。

(上映時間96分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 デビッド・コープ
製作 ギャビン・ポローン
原作 スティーブン・キング
脚本 デビッド・コープ
撮影 フレッド・マーフィ
音楽 フィリップ・グラス
    ジェフ・ザネリ
出演 ジョニー・デップ
    ジョン・タトゥーロ
    マリア・ベロ
    ティモシー・ハットン
    チャールズ・S・ダットン
    レン・キャリオー