セコンド(1966年アメリカ)

アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身

Seconds

傍から見れば、何一つ不自由のない裕福な生活をしているように見えた銀行マンが
実は生きることに倦怠感を抱いていて、そんな彼の心の隙間に近づいてきた“第二の人生”を提供する、
秘密結社のサービスに申し込んだことから、トンデモない悲劇へと転じてしまう姿を描いたサスペンス・スリラー。

日本でも職人的なディレクターとして知られる、
ジョン・フランケンハイマーが脂の乗り切った時代に撮影した作品で、まぁ大傑作とまでは言えないが、
日本でもカルトな人気がある理由が、なんとなくではありますが分かる内容で、これは立派なSF映画だ。

やっぱりこういう映画を観ると思うのですが、やっぱりジョン・フランケンハイマーって凄いですね。
アクション映画では秀でた手腕を持っていましたけど、動的な部分が少ない映画でも素晴らしいですね。

残念ながら1985年にエイズで若くして他界したロック・ハドソンも、
特に映画の終盤では、自分の運命を悟り、大きく混乱する大熱演を見せていますが、
手術前の銀行員アーサー・ハミルトンを演じたジョン・ランドルフは50年代、ハリウッドで吹き荒れた、
共産主義者封じ込めである“赤狩り”でハリウッドを追われた俳優だったらしく、久しぶりの映画出演となりましたが、
元々、舞台俳優としての活動は続けていたらしく、大きなブランクは感じさせない上手さでしたね。

映画の冒頭で、ジョン・フランケンハイマーはほとんど前提条件を説明せずに映画をスタートさせるのですが、
これが観客にとって、興味を失わないギリギリのところまで頑張った理不尽さで、凄くバランス感覚が良い(笑)。
たぶん、「一体どういうことなんだろう?」という気持ちが観客の興味を誘っているのですが、
これがあまりに理不尽過ぎると「この映画、訳分かんねぇ」となって、脱落してしまう人、続出だと思うんですね。

本作、危うくそうなってしまうギリギリのところまで頑張った感じで、
少しずつ映画の趣旨を見せていく手法も含めて、本作のジョン・フランケンハイマーはホントに上手い。

まぁ・・・カンヌ国際映画祭でグランプリ(パルム・ドール)にノミネートされたらしいのですが、
正直、そこまでの出来の映画かと聞かれると、それは微妙なのですが(笑)、まもなくその時代を迎えつつあった、
ヨーロッパ映画界でのニューシネマ・ムーブメントを考えると、当時の映画人が如何にも好みそうな雰囲気ではある。
そういう意味で、本作あたりでジョン・フランケンハイマーのスタイルが確立したと言っても過言ではないかもしれない。

この映画、何気に豪華なところがあって、
映画のオープニングの不穏な音楽と、グロテスクな映像表現を施したタイトル・バックは
なんとソウル・バスによるもので、そこから生気の無い目線で主人公を尾行するカットへ続くのは、実にカッコいい。

大勢の人々が往来する駅で、主人公を尾行するのも、尾行者の背後がカメラの視点になるのですが、
尾行者が人間的ではない動き方をしているようで、まるで未知の生物の動きであるかのように描くのも良い。

どれぐらい、撮影当時に計算されたカットだったのかは僕には分かりませんが、
当時のジョン・フランケンハイマーのこういったスタンスはほとんど評価されずに興行的な失敗をしたために、
日本でも劇場公開されたのは1970年に入ってからというのが皮肉な結果ですが、やはり「早過ぎた映画」でしたね。
しかしながら、67年以降のアメリカン・ニューシネマ隆盛、そして70年代入ってからのカルトなSF映画ブームと、
本作以降の映画界の流れを、後になってから振り返ると、本作でやっていたことは極めて先駆的なものでしたね。

ジョン・フランケンハイマーは、62年の『影なき狙撃者』で既に当時としては斬新な映画を
撮っていましたから、本作を撮る上でも野心的なスタンスをとるのは難しいことではなかったでしょうが、
やはり66年当時のハリウッドを考えると、まだまだ本作のような映画は理解されるに難しい時代だったでしょうね。

強いて言えば、破滅的なラストへの処理が本作の課題ではある。
どうしても、難しい部分はあったとは思うけど、映画の前半に比べると後半は勢いに欠ける。
前述したように、ロック・ハドソンは熱演でしたが、もう少し工夫した描き方をして欲しかったかなぁ。
それまで散々、屈折した部分を描いていたにも関わらず、映画のラストは随分とストレートに描いているんですよね。

秘密結社の方法論をストレートに描くよりも、
ここまできたら、もっと複雑な陰謀が絡み合ったような構図にした方が、ミステリアスさも増したかもしれません。

それと欲を言えば、もう少し主人公が人生に張り合いを失っていて、
“第二の人生”にチョットした魅力を感じているというファクターを、しっかり描いても良かったかなぁ。
ある種の憧れにも似た感覚であったであろう、主人公の“第二の人生”を得たいという願望があるからこそ、
本作で終盤、描かれる大きな落とし穴は、映画の中に大きな落差を付けることを目的にしていると思うのですが、
主人公がどれぐらい“第二の人生”を渇望しているのか、もっとしっかり描いた方が、よりこの落差は大きくなったと思う。

ジョン・フランケンハイマーは時に豪快さと繊細を使い分けて演出できるはずなのですが、
本作にあっては、もう少し繊細さがあっても良かったのかもしれません。

どう観ても、異様な光景としか思えないサンタバーバラで行われたワイン祭りでの、
ハレンチ祭りのような騒々しさは印象的なのですが、ああいったシーンは不必要なほどに時間が長いので、
できることであれば、もっと変身前の主人公にスポットライトを当てて欲しかった。その方が、変身後に自宅を訪れ、
かつての妻との生活に思いを馳せる姿でも、もっと訴求するシーンになったと思うんですよねぇ・・・。

最近になって、ようやく某レンタルショップでDVD化されて、
比較的容易に視聴できるようになりましたが、それまでは視聴困難な作品の一つでした(...良い時代です・・・)。

凄い有名な映画というわけではありませんが、
少々の難点はあれど、“早過ぎた映画”としてカルトな人気を誇る一作なだけに、一見の価値ある映画と言えます。
やっぱりこういう不気味な映画は、深夜に観た方が異様な迫力が感じられていいんでしょうね(笑)。

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョン・フランケンハイマー
製作 エドワード・ルイス
原作 デビッド・イーリイ
脚本 ルイス・ジョン・カリーノ
撮影 ジェームズ・ウォン・ハウ
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 ロック・ハドソン
    サロメ・ジェンズ
    ジョン・ランドルフ
    ウィル・ギア
    マーレー・ハミルトン
    リチャード・アンダーソン
    ジェフ・コーリイ

1966年度アカデミー撮影賞<白黒部門>(ジェームズ・ウォン・ハウ) ノミネート