シービスケット(2003年アメリカ)

Seabiscuit

世界恐慌の時代に大活躍した実在の競走馬をメインに、騎手の大怪我や東部地区の名馬との対決、
そして靱帯損傷からの復活劇を、『カラー・オブ・ハート』のゲイリー・ロスが映画化したノンフィクション・ドラマ。

当時、期待の若手俳優だったトビー・マグワイアが主役級ではあるものの、
ジェフ・ブリッジスやクリス・クーパー、ウィリアム・H・メイシーなど渋い役者陣で固めているところも手堅い。

ノンフィクション小説の映画化なので、それなりに制約があっただろうし、
作り手としても難しいところはあったと思うが、相応の見応えがあるドラマではあったものの、
少々冗長な傾向にあることは否めず、特に物語の焦点となる大会レースが終わってからのエピソードが長く感じた。
考え方によっては、詰め込み過ぎということなのかなとは思うが、大会レースが終わっておいても良かったと思う。

正直言って、うがった見方かもしれませんが...映画の作り方のアプローチ自体が、
どうしても映画賞レースに絡むことを想定していた、つまり賞狙いの映画という印象を受けたのは事実で
監督のゲイリー・ロスは『カラー・オブ・ハート』の時点で力があるディレクターであることは分かっていたので、
もっとストレートに映画を撮ればいいのに・・・と思えちゃって、僕の中ではどこか“淀み”を感じてしまいましたね。

実際、日本でも「アカデミー賞最有力!」と鳴り物入りで劇場公開されていましたが、
作品賞含む主要7部門にノミネートされはしましたが、残念ながら1つも受賞することができませんでした。
オスカー前哨戦でもあまり結果を残せなかったので、“ノミニー止まり”の出来だったという評価であったのでしょう。

僕は競馬はやらないので分からないのだけれども、馬術は見る機会があったので
結構間近で馬の走りを見たことがありますけど、馬上での騎手の駆け引きがあそこまで激しかったのかは分からない。
ただ、本来的には馬上で感じるスピード感や恐怖心が足らず、もっと表現できるように工夫して欲しかったですね。
全体的に馬の疾走という観点では物足りず、ハリウッドの技術力を考えれば、もっと上手く出来たはずだと思います。

どちらかと言えば、ドラマ部分の描写に力を入れ過ぎてしまい、こういった部分はほどほどにという感じで残念。
ジョン・シュワルツマンのカメラ自体は良い感じなので、技術的にももっと真に迫った画面に出来たと思うんだよなぁ。

そりゃ、サラブレッドほどではないにしろ、馬術もスゴいスピードで障害を飛んでいきますからね。
障害を飛ぶ際に落馬したシーンも実際に見たことがあるし、飛んだ後にバランスを崩して落馬した人も見たことがある。
本作でも落馬して引きずられてしまうシーンがありますが、実際に見てしまうと「あれは命がけだわ・・・」と実感します。
それくらいの迫力を実際の映像として、本作は表現して欲しかったし、表現させなければならなかったと思います。

なんだか、そういった物足りなさが僕の中で印象に残ってしまった。決して、悪い出来ではないのですがね。
やっぱり、有名なノンフィクションの映画化であったり、有名原作の映画化というのは、難しいことだと思います。
いかんせん、比較対象が事実であったり、小説であったりと、ハッキリとしてしまうのですから。制約もありますしね。

実在した名馬シービスケットは、三冠馬に勝つなど数々の伝説を残し人気を博したそうですが、
映画でも描かれている通り、当時としては致命的と考えられていた怪我を負いながらも、騎手は勿論のこと、
オーナーが雇ったトレーナーらの献身的な日常管理によって、根気よく療養したところ、復帰しているのがスゴい。

サラブレッドなんかは、足を骨折してしまうと、そこからの回復は見込めないことが多く、
安楽死を選択することが多くあるので、シービスケットが起こしたミラクルが如何にスゴいことかが分かる。

それは怪我=廃馬ではないという、調教師の強い信念があったからこそ、シービスケットの怪我の状態を
しっかりと見極め進言したからこそシービスケットのトレーニングが行われ、奇跡の復活劇につながっていく。
どうやら実在のシービスケットは競走馬として引退後、種馬としての余生を送ることになっていたようなのですが、
残念ながら種馬としての余生はそこまで長くは続かず、引退後7年で心臓発作を起こして亡くなったようです。

映画はあくまでトビー・マグワイア演じる騎手ポラードをメインに描くので、
シービスケットの引退後までは描かれませんでしたが、どうせ描くのであれば、そこまで描いても良かったかも。

まぁ、世界恐慌の時代から抜け出るために、全米の人々を盛り上げたものは他にもあったのでしょうが、
おそらく競馬はその中の一つだったのでしょうね。個人的にはあまり知らなかったので、その点では興味深い。
そういう意味では、シービスケットがブレイクして、怪我をしてしまい・・・そして再生するという物語なのだろうし、
それは、世界恐慌という経済的に苦しい時代を耐えしのぎ、人々の生活を盛り上げ再生するということなのだろう。

実際、ジェフ・ブリッジス演じるオーナーにしても厳しい時代であったわけで、
経済的な余裕が大きかったわけではないにしろ、彼なりに新たな希望を得ようと“投資”したということなのだろう。
それは勿論、自分のためではあったけど、大衆のためでもあったわけですね。実業家として、あるべき姿なのかも。

僕がこの映画を観て、率直に感じたのはシービスケットの生涯という観点に於いても、
どこか表層的な感じで、伝説的な名馬としてフォーカスするなら、東部の名馬との対決レースを山場として、
映画を終わらせた方が良かったような気がするし、怪我をしてからの復活劇を描くなら、余生から最期までを
しっかりと描いた方が良かったと思うし、どこか悪い意味で中途半端な印象を受けてしまったということですね。

それから、合わせて言うなら、ジェブ・ブリッジス演じるオーナーの実業家としての実像にも
今一つ肉薄し切れていないし、訴求しないドラマという感じで終わってしまっているのも、これもまた中途半端。
これは同じことが、天才騎手ポラードの描写に関しても言えると思う。作り手がどこに力点を置きたかったのか、
映画全体を通して何を最も強く描きたかったのかが、観ていても定まっていない印象を受けてしまうと感じましたね。

このオーナーに不幸があって、再婚するエピソードもサラッと描いているのですが、
このエピソードも紹介する程度という感じで、敢えて時間を割いて描く必要性があったのかも疑問に思えたし。。。

渋いキャスティングのおかげもあって、それなりの体裁は保っているので、
映画の出来としては及第点レヴェルではあると思うものの、この悪い意味での中途半端さが実に勿体ない。
結局、こういった部分が目立ったために、本作の対外的な評価は高まらなかったのではないかと思いますね。
(おそらく製作会社のドリームワークスとしては、明らかに本作が映画賞レースに絡むことを期待してたと思うが・・・)

全米が知っているシービスケットの栄光を映画化するわけですから、
プロダクションとしても相当に高い期待値を持っていたことは否定できないだろうし、ファンも多かったでしょうね。
過去にシービスケットについては、記録映画などでも取り上げられており、本格的な映画化となった本作は
かなり力の入った企画だったでしょうから、僕はこのレヴェルの映画に収まってしまったことに物足りなさを感じる。

もっともっと、馬のスピード感や馬上での恐怖心を描いて欲しかったし、
ドラマ描写に於いても、これだけの尺の長さの映画になるのだったら、もっと重層的に描いて欲しい。
あれもこれも、つまみ食いするように中途半端に描いてしまったがゆえに、キャスティング頼りの映画になってしまった。

そんな作り手のアプローチのマズさを補うかのように、それぞれのキャストが映画を支えていて、
なんとか見どころのある映画には仕上がったけれども、正直、監督が違えば、もっと良い出来に映画になってたと思う。

本作ではウィリアム・H・メイシー演じる競馬実況を担当するラジオDJの評判が良いようですが、
確かに悪い芝居ではないけど、チョット狙い過ぎというか、キャラクターも含めてカッコ良過ぎな気がした。
まるでコーエン兄弟の映画に登場してくるような雰囲気で当時のラジオの空気感を伝える面白い存在なのですが、
もう少し抑えて表現してくれた方が好感が持てる。そういう意味では、僕は調教師を演じたクリス・クーパーの一択だ。

相変わらず頑固オヤヂを前面に出したキャラクターではありますが、
本作では抑えに抑え、映画を悪い意味でかく乱することもなく、脇でドシッと構えるような芝居で大変良い。
本作のクリス・クーパーはもっと評価されても良かったと思うし、オスカー・ノミネーションも無かったのは意外でした。

しかし...それにしても、大恐慌の荒波にもまれ、一家離散のようにポラードのような境遇で
親と離れ離れになり疎遠となったまま大人になった人は多かったのだろうが、これはあまりに酷な仕打ちだ。
当時のポラードであれば、しっかりと説明すれば理解できただろうし、親としての苦渋の想いを伝えて欲しかった。
それも許さないくらい、経済的に切羽詰まった状況で、悲劇的な展開が目の前に近づいていたのでしょうけど・・・。

(上映時間140分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ゲイリー・ロス
製作 キャスリン・ケネディ
   フランク・マーシャル
   ゲイリー・ロス
   ジェーン・シンデル
原作 ローラ・ヒレンブランド
脚本 ゲイリー・ロス
撮影 ジョン・シュワルツマン
編集 ウィリアム・ゴールデンバーグ
音楽 ランディ・ニューマン
出演 トビー・マグワイア
   ジェフ・ブリッジス
   クリス・クーパー
   エリザベス・バンクス
   ウィリアム・H・メイシー
   ゲイリー・スティーブンス
   キグストン・デュクール
   エディ・ジョーンズ
   エド・ローター
   マイケル・オニール

2003年度アカデミー作品賞 ノミネート
2003年度アカデミー脚色賞(ゲイリー・ロス) ノミネート
2003年度アカデミー撮影賞(ジョン・シュワルツマン) ノミネート
2003年度アカデミー美術賞 ノミネート
2003年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
2003年度アカデミー音響調整賞 ノミネート
2003年度アカデミー編集賞(ウィリアム・ゴールデンバーグ) ノミネート