3人のゴースト(1988年アメリカ)

Scrooged

ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』を下地にして、
幼い頃の気持ちを忘れ、傲慢なテレビ会社社長になった主人公が過去の行いを悔い改め、
かつての純粋な気持ちを取り戻すまでの過程を、やや不条理に描いたハートウォーミング・ムービー。

正直言って、あまり映画の出来自体は良くないとは思うのですが、
何度か観ているうちに、この映画の良さも、それはそれで段々分かるようになってきました。

ビル・マーレーお得意の意地悪というか、性格の悪いキャラクターが賛否分かれるところでしょうが、
映画のクライマックスの大円卓で、なんとなくハートウォーミングに帰結するところで、全てを許したくなる。
ただ、この最後もビル・マーレーが大合唱を映画館で観ている観客を意識して、「次は貴方だ!」と
映画のテーマ曲を歌わせるのですが、これは映画の内容がもっとも面白ければ、もっと盛り上がったかも(苦笑)。

と言うのも、何だか映画の構成が分かりづらいというか、流れが悪くって、
主人公が半ば無理矢理に反省させられるエピソードが、どうにも盛り上がらず、カタルシスに至らない。
そのせいか、映画の最後の大円卓で感情が一気に爆発という感じでもなく、「一緒に歌おう!」という気分にはならない。

主人公は“3人のゴースト”によって、過去を振り返り、今の行いを反省させられるのですが、
確かにこの主人公はホントに嫌な奴だ。これはビル・マーレーが地でやっているかのような芝居で、
他の映画のビル・マーレーの調子を見ていれば、おおむねどんな感じが分かると思いますが、
ある意味で本作もビル・マーレーの真骨頂という感じで、確かに彼がベストなキャスティングだったかと思います。

リチャード・ドナーもSF映画やアクション映画を中心に創作活動してきましたが、
こういうダークな部分のある喜劇というのは、少々ハードルが高かったのかもしれません。
85年の『グーニーズ』がありますが、本作はそれはそれでチャレンジだったのでしょうが、どこか噛み合っていない。

しかし、この映画で驚いたのは、テレビ会社の会長としてロバート・ミッチャムが出演していたり、
テレビ番組で朗読役でジョン・ハウスマンが登場してきたことだ。ちなみにジョン・ハウスマンは本人役です。

ジョン・ハウスマンは73年の『ペーパー・チェイス』でオスカーを獲得した、
玄人好みの俳優ですが、舞台劇出身で映画俳優としての活動を本格的に始めたのは70歳を過ぎてから。
オーソン・ウェルズと出会ってブロードウェイで活躍していただけに、本作のような映画に出演していたのは貴重かも。
(同じ年に『裸の銃を持つ男』にも出演していたようで、結果的に本作は彼の遺作となってしまいました)

それから、映画の序盤にテレビ局近くの路上でストリート・ミュージシャンとして登場してくるのが、
なんとマイルス・デイヴィス、ラリー・カールトン、デビッド・サンボーンというジャズ界のビッグネーム3人で、
通り過ぎるビル・マーレーが「やめろ、下手クソども」と吐き捨てるかのように言うのが、なんともフクザツ・・・。

映画のクライマックスで総括するように、ビル・マーレーが演説するのですが、
少々、説教クサい内容であったとは言え、自分の会社のテレビ番組をジャックして、
過去を悔い改め、クリスマス・イブという彼らにとっては特別な夜の意義を説く結びは、この映画のハイライトでしょう。

クリスマス映画の定番にしたいという作り手の意図は強かったと思うのですが、
日本ではクリスマスが過ぎた頃に、『ダイ・ハード』との2本立てで上映されることが多かったようです。
本作なんかはクリスマスの前に観ないと映えない内容ですし、隠れたクリスマス映画である『ダイ・ハード』と
2本立て上映という扱いは、本作も運が悪いというか、どうしても『ダイ・ハード』に注目がいってしまいますよねぇ・・・。

そのせい、というわけではないと思いますけど、本作は残念ながらクリスマス映画の定番にはなれませんでした。

過去のゴーストと現代のゴースト、未来のゴーストが主人公を導くのですが、
その中でもニューヨーク・ドールス≠フデビッド・ヨハンセンが演じるタクシー運転士に扮した、
過去のゴーストが最もインパクトが強いかな。タクシーを荒っぽく運転して、主人公を幼少の頃から
テレビ会社に勤めて着ぐるみを着て馬車馬のように働き、当時の社長に見い出されるまでを案内します。
やたらと喋り倒して主人公を振り回す現代のゴーストもインパクトありますが、どちらかと言えば過去のゴーストかな。

ゴーストに振り回され、まるで悪夢のように自分の至らぬ点ばかりを見せつけられ、
仏頂面で毒を吐きまくる主人公もさすがに精神的に追い詰められていき、改心する方向に向いていきます。

まぁ・・・本来であれば、自分で「気付く」ということが大切なのでしょうが、
これは御伽噺でもあり、現代に起きた奇跡でもあるという観点からすると、それまで自分勝手に傲慢に生きてきたが、
唯一、生まれ変わるチャンスをもらった「奇跡」を描いたということなのでしょう。あの傲慢さからいくと、
もう自分で「気付く」ことは不可能だったのかもしれません。こんな奇跡が起こる夜が、クリスマスなのです。

現代では、テレビというコンテンツがネット配信などに脅かされており、
また、コンプライアンス意識の厳格化が進み、テレビを取り巻く環境やニーズが大きく変化しています。
本作の冒頭で描かれていたような、ディケンズの古典を語るだけの番組の宣伝に過剰に煽るような演出をして、
誇大広告のように視聴率を稼ごうとする手法は、現代でやったら間違いなくアウトでしょうね。

常に視聴者は“監視”しているに等しく、
かつてとは違って、SNSやネットの掲示板ですぐに拡散される時代ですから、テレビ局も苦慮しているのでしょう。

ただ、明かな転換期です。今も尚、視聴率を狙ったとしか思えない、
過剰な演出が散見され、偏った見地からの報道姿勢、結論ありきの番組構成など、色々と問題提起されています。
メディアは政治の(暴走を)監視する役目があるのはその通りだと思いますが、主要メディアはテレビではなく、
すでにインターネットに置き換わっているのではないかと思います。確かに日本も昭和の時代のテレビは
ある意味でスゴかったですけど、時代の変遷と共に淘汰されるものは淘汰され、磨かれているものは磨かれている。

おそらく多くのテレビ局が危機意識を共有していると思いますが、
これからはそのテレビというメディア自体が、淘汰の対象になりうる時代に突入すると思います。

まぁ・・・テレビというメディア自体が無くなることはないのだろうけど、
他チャンネル時代の中、観たいコンテンツがあるチャンネルにシフトするか、全てネット配信にシフトするか、
少なくとも今まで以上にパイの取り合いになって、視聴率というよりも視聴者の絶対数が問題になるかと思います。

この映画の主人公が現代のテレビ局の社長だったら、どう考え、どう指示していたかが気になりましたね。

ちなみにビル・マーレーの芸風が好きな人は、観るべき作品でしょう。
彼のダークで少々ひねくれた性格を、上手い具合に良く利用した作品で、彼にしか演じられない役柄です。
個人的には『恋はデジャ・ヴ』の次くらいには、彼に合ったキャラクターで良く合っていたのではないかと思います。

映画の出来はそこまでではありませんが、キャスティングでなんとかなった映画・・・という気すらします。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 リチャード・ドナー
製作 アート・リンソン
脚本 ミッチェル・グレイザー
   マイケル・オドノヒュー
撮影 マイケル・チャップマン
音楽 ダニー・エルフマン
出演 ビル・マーレー
   カレン・アレン
   ジョン・マーレー
   キャロル・ケイン
   ジョン・フォーサイス
   ロバート・ミッチャム
   ジョン・グローバー
   ジョン・ハウスマン
   アルフレ・ウッダード
   ジェイミー・ファー
   デビッド・ヨハンセン
   スティーブ・カーン
   リー・メジャース
   マイケル・J・ポラード

1988年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート