タロットカード殺人事件(2006年イギリス・アメリカ合作)

Scoop

『マッチポイント』で起用し、ウディ・アレンがいたく気に入ったらしい
スカーレット・ヨハンソンを改めてヒロインにキャスティングした、軽妙なミステリー・コメディ。

僕は常日頃から、ウディ・アレンはバカバカしいコメディ映画を撮っていた方が良いと思っていましたが、
本作はコメディ映画ではあるのですが、決してバカバカしい内容の映画というわけではありません。
しかしながら、前作『マッチポイント』とはまた違ったウディ・アレンらしい演出の妙が感じられる一作だ。

今回のウディ・アレンは好き放題やりたい放題って感じで、
映画の途中ではお気に入りのスカーレット・ヨハンソンとマシンガン・トークを展開するなど、
実に楽しそうに映画を撮っているのが印象的な一作で、アッサリと観れる快作と言っていい内容だ。

しかもスカーレット・ヨハンソンの水着姿というサービス・ショットもあったりして、
いろんな意味で観客にサービスしまくる内容で、これはウディ・アレンの趣味全開って感じだ。

おそらくウディ・アレンって“M”な部分があって、
本作なんか観ていると、スカーレット・ヨハンソンに「3つの暗証番号ぐらい覚えられないの?」と
小馬鹿にされる攻撃を喜んで受けているような感じで、これもまた確信犯的に楽しんでいますね(笑)。
ですから、こういう姿を観ていて、不愉快に感じられるという人には向いていない内容です。

でも、まぁ・・・ニューヨークを離れたことは寂しい気もするけど、
これもまたロンドンを舞台にした、小気味良いテンポの良い出来の映画になっているんですよ。
ウディ・アレン自身が演じる手品師シドニーというコミカルなキャラクターを打ち立てて、
上手く映画を動かし続けており、劇的なストーリー展開を持つ映画というわけではないにも関わらず、
これだけ映画がテンポ良く、アクティヴに悪く言えば、落ち着きなく見えるなんて、これは巧妙そのもの。
こういう忙しなさを観ると、つい「おぉウディ・アレンの映画らしい〜」と唸ってしまいますね。

個人的には、こういうウディ・アレン流の遊び心溢れる映画作りが嬉しくって、
以前はウディ・アレンの映画って、あんまり好きになれなかったんだけれども、最近はこういうのが楽しいですね。

そして何と言っても、最高にウディ・アレンらしい皮肉が利いているのがラストで、
トントン拍子で映画が進んでいったにも関わらず、しっかりと一つは“落として”いるのが流石ですね(笑)。
しかも予想外のオチが付いており、それでいながら、決して違和感ある無理なラストというわけではない。

スカーレット・ヨハンソンに徹底してキャピキャピした女子大生のシルエットを作り上げ、
自分は彼女とキチッと掛け合える、持ち味を活かしたようなテキトーなキャラクター。
おそらくウディ・アレンにとっては、最高に楽しい企画だったでしょうね、この映画は(笑)。
何せ、前作の『マッチポイント』は良く出来た映画だったけれども、おそらくウディ・アレン自身が
出演できなかったことが、彼にとって唯一の悔いだったのでしょう。だからこそ、すぐに次の映画を撮ったのです。

一応はミステリー映画としての体裁を保ってはいますが、
ハッキリ言って、たいしたミステリーではなく、そう大きな驚きがある謎ではありません。
言ってしまえば、事件の真相もウディ・アレンにとっては大きな関心事ではなく、
むしろ彼にとってはスカーレット・ヨハンソンが放つフェロモンの方が、大きな関心事だったのだろう(笑)。

イギリス人紳士という設定で、ヒュー・ジャックマンが出演しておりますが、
ウディ・アレンがあまりにスカーレット・ヨハンソンを中心に映画を撮るものですから、
ハリウッドを代表するセクシー俳優であるヒュー・ジャックマンすら霞んでしまっているのが凄い(笑)。
(そういう意味では、映画のヒロインの威力って凄いんですよね。。。)

但し、別に悪く言うつもりは毛頭ないのですが、
いい加減なキャラクターを活かしたウディ・アレンなりのコミカルさが心地良い映画である反面、
かつてのウディ・アレン映画に時折、感じられた鋭さというものが、すっかり影を潜めたのも事実。

そういう意味で、往年のウディ・アレン映画のファンが本作なんかを観て、
つい物足りなさを感じたり、勢いが停滞したように感じられてしまうのも、どだい無理のない話しだとは思う。
確かに、もう今更、彼に『カイロの紫のバラ』のような映画を撮れと言っても、無理な注文だろう。
(ちなみに僕は彼のマスターピースと言われる、77年の『アニー・ホール』の良さが未だに分からない・・・)

ただ、欲を言えば、ヒロインのスカーレット・ヨハンソンには
もっとコメディエンヌとしての魅力を発散して欲しかったなぁ。これは正直言って、マイナス要素。
コメディ・リリーフはウディ・アレンが一手に引き受けてしまっているから、仕方がない話しではあるのですが、
仮にもコメディ映画のヒロインに抜擢されているわけで、もっとコメディ演技に徹して欲しい。
少しドジな性格という設定だけでは、少し彼女の役割として不足だったような気がしますねぇ。

ですから、個人的にはウディ・アレン自身が演じたシドニーという
マジシャンの存在は賛否が分かれるところだと思います。あれを彼自身が演じてしまうと、
映画の中では彼が一番、印象に強く残ってしまいがちで、事実、本作はそのジレンマを抱えています。

次第にロンドンに活動の舞台を移したこと自体が板に付いてきたウディ・アレン。
もう既に70代半ばを迎えましたが、相変わらず映画を製作する意欲には満ち溢れているようで、
個人的にはいつまでも、本作のような軽妙なコメディ映画を撮り続けて欲しいですね。

最近では『ギター弾きの恋』、『メリンダとメリンダ』、『マッチポイント』なんかが良かったけど、
本作は勿論のこと、00年の『おいしい生活』なんてのも面白かったなぁ〜。

ウディ・アレンには是非ともいつまでも末長く、映画を撮り続けて欲しいですね。

(上映時間95分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ウディ・アレン
製作 レッティ・アロンソン
    ギャレス・ワイリー
脚本 ウディ・アレン
撮影 レミ・アデファラシン
編集 アリサ・レプセルター
出演 スカーレット・ヨハンソン
    ヒュー・ジャックマン
    ウディ・アレン
    イアン・マクシェーン
    チャールズ・ダンス
    ロモーラ・ガライ
    フェネラ・ウールガー
    ジュリアン・グローバー