シンドラーのリスト(1993年アメリカ)
Schindler's List
93年度アカデミー賞にて12部門でノミネートされ、作品賞含む主要7部門を獲得した伝記ドラマ。
それまではエンターテイメント色強い作品が中心で、何度か文芸路線にもトライしたものの、
決定打を打てていなかったスピルバーグが、シリアスな映画を撮ることができることを証明した力作だ。
3時間を超える超大作ではありましたが、それでも映画では限られた時間内で表現しなければならず、
本作は題材的にもスピルバーグのかなりパーソナルな想いが込められた作品であって、もっと描きたかったことが
多くあったのだろうし、原作の全てを映像化できたわけではなく、言わばダイジェスト版のような感覚なのだろう。
そうなだけに、どうしても賛否が分かれるところはあるだろうし、歴史観も含めて色々な意見があるだろう。
ただ、僕はやっぱり本作はスゴい映画だと思いますし、当時のスピルバーグの一つの集大成だったのだろう。
プロパガンダ映画だと否定的なことを言われましたが、僕にはそこまで強いプロパガンダだとは感じなかった。
スピルバーグからすれば、ホロコーストという繰り返してはならない歴史を表現することは目標だったのだろうし、
同時に映画の中である種の恐怖体験を観客に“体感”させることを、本作あたりから意識的に行うようになったと思う。
勿論、古くは『JAWS/ジョーズ』などで恐怖体験の塊のような映画を撮っていたので、
不思議なことではないのですが、本作のようなシリアスな映画でもそのような感覚を持って描き始めている。
例えば、本作にしても、まるでナチスの兵士たちの勝手な匙加減でユダヤ人が無残に殺害されたり、
幼い子どもが親から離されたり、場合によっては理由もなく子どもですら殺されたりする。正しくカオスである。
それを象徴するように映画の後半にある、女性たちが“間違って”アウシュヴィッツ収容所へ送られてしまい、
最初に身体を洗うために全員を裸にして、シャワー室へ入れるシーンがあるのですが、これがユダヤ人の間でも
おそらく話題になっていたであろう、ガス室送りを予期させるような雰囲気で、部屋内の灯りが一斉に消えて、
中に入れさせられたユダヤ人の女性たちが悲鳴をあげるシーンがある。これこそ、観客にもショックを与える演出だ。
現実はこれよりも過酷だったのだろう。幾人もの罪の無い、未来ある人々の命が奪われた。
いくらドイツ人側に本作の主人公、オスカー・シンドラーのような人間がいても、全体としては無力だったのだろう。
しかも、ナチス・ドイツが君臨する独裁政治下にあっては、おそらくシンドラーのような人間は“駆逐”されたでしょう。
それでも孤独にナチス・ドイツの政策に対抗するかのように、妨害工作やら対抗する方策を尽くしたシンドラーは
真の英雄と言っていい存在なのだろうけど、彼にも善と悪、それぞれの表情があったようで複雑な人間性だったよう。
このシンドラーはドイツ人実業家であり、ナチスの党員だったようです。
当時のドイツ人社会で言う、上流階級の生活を満喫して育ったシンドラーは裕福な生活に溺れ、
戦争に傾倒するドイツ社会に実業家として危惧し、早い段階からナチス党の上層部を“抱き込む”工作活動に勤しむ。
これは自身の事業の根幹を支える工場部門の稼働はユダヤ人の力に頼り切っていたからであり、
会社の経営にもユダヤ人がいたようで、結局は当時のシンドラーからすれば、ユダヤ人は無くてはならない存在でした。
しかし、ナチス親衛隊の気分次第でドンドンと迫害されて、会社から居なくなってしまうことに危機感を抱いて、
シンドラーは多額の金を出して、収容所送りにされる予定だったユダヤ人を“買い戻す”交渉を始めることになります。
これが結果的にナチスによるユダヤ人の大量虐殺から救った男として歴史に名を残すことになります。
勿論、シンドラーにも情があっただろうし、目の前で殺されていくユダヤ人を一人でも多く救うために手を尽くしました。
ただ、この映画を観る限りでは、シンドラーの苦悩があまり強く伝わってこないのは、本作のウィーク・ポイントかと。
まぁ、映画の最後の最後にシンドラーが「もっと...救えたはずだった」と後悔の念を吐露するので、
全く彼の苦悩が描かれていないということではないのですが、ニュアンスとしては良く弱くて、ユダヤ人の迫害ばかりが
目についてしまって、この辺はオスカー・シンドラーの伝記ドラマと言うには、少々アンバランスだったなと思っちゃう。
演じるリーアム・ニーソンがブレイクするキッカケとなった作品ではありますが、
もっともっと彼の苦悩や、ナチス親衛隊から目を付けられていたのだろうから、直接的な危険もあったはずだ。
そういったことが描かれずに、割りとトントン拍子に進んでいき、それどこか収容所の所長とも簡単に仲良くなる。
シンドラーについて緊張感が増すシーンが多くないのは、多少なりとも脚色があって良かったのではないかと思える。
ただね・・・内容的にはかなりタフな映画であることは間違いありません。
映画が始まって、1時間15分程度のところで休憩を挟みますが、ずっと気が滅入るようなエピソードが続くので
確かに3時間以上の上映時間を観るにはかなりの根気と体力が必要な作品なので、これくらいでいいのかも。。。
そう思わせるくらい、延々とナチスによるユダヤ人迫害シーンが続くので、精神的に重たい映画なんですよね。
直視し難い光景を、映像の中では勤めて無感情的に描き続けるスピルバーグの執念のようなものを感じます。
コントラストを強く意識させるモノクロの画面は、名カメラマン、ヤヌス・カミンスキーによる鮮やかな仕事ぶり。
確かにどこかエッジが利いたモノクロで本作の撮影は素晴らしい。そうなだけに映画の冒頭とラストシーンで、
現代のシーンだからと言って、突然カラー映像となるのですが、僕の中ではこれはマイナスに映ってしまったなぁ。
僕は敢えて、本作の場合は全編モノクロ撮影というコンセプトにスピルバーグ自身も、もっとこだわって欲しかった。
きっと本作の撮影で評価されたこと自体はヤヌス・カミンスキーにとっては大きかったのだろうから、尚更のこと。
僕が本作の中で強く印象に残ったのは、映画のタイトルにもなっている“シンドラーのリスト”を作成するシーンで、
雇用しているユダヤ人全員の名前を覚えていて、自分の会社で雇用したい人の名を片っ端からあげていって、
ベン・キンズグレー演じる会計士シュターンに徹夜でタイプさせるシーンは圧巻だ。これはなかなか出来ることではない。
シンドラーはこういったことを重ねたからこそ、いわゆる人徳がある存在であったわけで、
経営者としてこうあるべきと強く思わせられるシーンでしたね。これを描けただけでも、意義はあったのかもしれない。
まぁ、題材は違えど本作はスピルバーグの中では98年の『プライベート・ライアン』への伏線ではあったと思う。
前述したような、観客へある種の恐怖体験を与える映像を作るというスタンスがあったことも共通していますし、
第二次世界大戦という近代史の中で、極めて大きな出来事の最中で起こったこと、人間模様を描くということでも。
スピルバーグにとっては、ある種の使命でもあったように思え、本作は一時的な到達点だったのかもしれない。
そして、その到達点は通過点になり、次の彼の使命は『プライベート・ライアン』であったのかもしれませんね。
なんにしても、オスカー・シンドラーはナチス大虐殺という悲惨な歴史の最中で、
虐殺対象であった1100人以上のユダヤ人の命を救った英雄である。第二次世界大戦後はナチス党員として、
戦争犯罪者としての扱いを受け、厳しい目を向けられたことで事業に失敗し、大変な人生を歩んだようですが、
後に英雄として語られる存在となり、且つ本作が世界的に高く評価されたことで、再びスポットライトを浴びたのです。
そういう意味で、本作が成し遂げた功績はとても大きく、尚且つ、意義深い作品になったのだと思います。
これはスピルバーグの仕事として大きな意義があったということなのだろう。これは、なかなか出来ないことです。
3時間以上ある、かなりタフな内容の映画であるがゆえに、観る前にはかなり覚悟をしておいた方がいいです。
内容も内容なだけに歴史的背景も含めた前情報はあった方が楽しめるでしょうし、体調も整えた方がいいと思います。
感動作と言えば、そうかもしれませんが...どちらかと言えば、胸を締め付けられるような想いに浸る作品です。
収容所の若き所長を演じたレイフ・ファインズはよく頑張りましたね。
生粋のナチス・ドイツを崇拝し、所長としての職責に誇りを持って取り組むものの、どこか屈折した感情を持つ。
部下たちと同様に収容されるユダヤ人を気分次第で殺害する狂気を持っている一方で、気に入ったユダヤ人女性を
自分の家の家政婦として養い、孤独な心を満たす存在として優しさを見せるものの、サディスティックに暴力を振るう。
そんな複雑な感情を持ち合わせながら葛藤する姿は、シンドラーとはまるで対照的な姿だ。
ユダヤ人を嫌悪する士気を高める意味でも、所長自らユダヤ人女性と懇意にしていると
部下たちに悟られるわけにはいかなかったのでしょうが、あの暴力こそが戦争の狂気とも言える表情なのだろう。
(上映時間195分)
私の採点★★★★★★★★★☆〜9点
監督 スティーブン・スピルバーグ
製作 スティーブン・スピルバーグ
ジェラルド・R・モーレン
フランク・ラスティグ
原作 トーマス・キニーリー
脚本 スティーブン・ザイリアン
撮影 ヤヌス・カミンスキー
美術 アラン・スタルスキ
編集 マイケル・カーン
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 リーアム・ニーソン
レイフ・ファインズ
ベン・キングズレー
キャロライン・グッドオール
ジョナサン・カザール
エンベス・デービッツ
マルゴーシャ・ゲベル
1993年度アカデミー作品賞 受賞
1993年度アカデミー主演男優賞(リーアム・ニーソン) ノミネート
1993年度アカデミー助演男優賞(レイフ・ファインズ) ノミネート
1993年度アカデミー監督賞(スティーブン・スピルバーグ) 受賞
1993年度アカデミー脚色賞(スティーブン・ザイリアン) 受賞
1993年度アカデミー撮影賞(ヤヌス・カミンスキー) 受賞
1993年度アカデミー作曲賞(ジョン・ウィリアムズ) 受賞
1993年度アカデミー美術賞(アラン・スタルスキ) 受賞
1993年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1993年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート
1993年度アカデミー音響賞 ノミネート
1993年度アカデミー編集賞(マイケル・カーン) 受賞
1993年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
1993年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(レイフ・ファインズ) 受賞
1993年度イギリス・アカデミー賞監督賞(スティーブン・スピルバーグ) 受賞
1993年度イギリス・アカデミー賞脚色賞(スティーブン・ザイリアン) 受賞
1993年度イギリス・アカデミー賞作曲賞(ジョン・ウィリアムズ) 受賞
1993年度イギリス・アカデミー賞撮影賞(ヤヌス・カミンスキー) 受賞
1993年度イギリス・アカデミー賞編集賞(マイケル・カーン) 受賞
1993年度全米映画批評家協会賞作品賞 受賞
1993年度全米映画批評家協会賞助演男優賞(レイフ・ファインズ) 受賞
1993年度全米映画批評家協会賞監督賞(スティーブン・スピルバーグ) 受賞
1993年度全米映画批評家協会賞撮影賞(ヤヌス・カミンスキー) 受賞
1993年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞作品賞 受賞
1993年度ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞 受賞
1993年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(レイフ・ファインズ) 受賞
1993年度ニューヨーク映画批評家協会賞撮影賞(ヤヌス・カミンスキー) 受賞
1993年度ロサンゼルス映画批評家協会賞作品賞 受賞
1993年度ロサンゼルス映画批評家協会賞撮影賞(ヤヌス・カミンスキー) 受賞
1993年度ロサンゼルス映画批評家協会賞美術賞(アラン・スタルスキ) 受賞
1993年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1993年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(スティーブン・スピルバーグ) 受賞
1993年度ゴールデン・グローブ賞脚本賞(スティーブン・ザイリアン) 受賞