結婚記念日(1990年アメリカ)

Scenes From A Mall

これは当時のウディ・アレンが珍しく、本拠地のニューヨークを出て、
しかも自らメガホンを取らずに、ポール・マザースキーの監督作品に出演したという貴重なコメディ映画だ。

中身的には、ハッキリ言って夫婦喧嘩を延々と描いているだけの物語。
タイトル通り、結婚記念日で夜のパーティー開こうって時に、買い出しに都心の巨大ショッピング・モールに行って、
そこで夫がセラピストである妻に浮気を告白したことから始まる夫婦の亀裂と、予想外の展開となる姿を
ベット・ミドラーとウディ・アレンの2人の会話劇だけで構成したという、ウディ・アレンの監督作品っぽい感じだ。

実際にはニューヨークでロケ撮影されたらしいので、
ウディ・アレンのペース的には影響は無かったのかもしれませんが、ロサンゼルスを舞台にした理由は謎ですね。
ポール・マザースキーらしい心温まる雰囲気があるというよりも、本作はコミカルさだけで押し通す感じですね。

まぁ・・・この2人の会話劇だけで映画を乗り切れるというのは、ポール・マザースキーというより、
ベット・ミドラーとウディ・アレンの名コンビぶりが素晴らしくって、この2人だからこそ成り立ったという感じだけど、
映画の出来としては、これはチョット寂しい。もっとワッと楽しめるエピソードは欲しかった。これでは物足りない。

この2人の感情揺れ動きもとても分かりにくく、実に気性が激しいというか、
得てして窮地に陥った人ってそんなものとは言えど、説明に難しい感情の揺れ動きを力技で表現している。
だから結果としては、声を荒げたりして怒っているという表現をするしかないとなるのですが、映画の流れが掴みにくく、
2人が交互に入れ替わるように感情的になって相手を困らせるという構図になってしまって、悪く言えば節操が無い。

個人的にはベット・ミドラーもウディ・アレンも、2人とも持ち前のキャラクターを生かしているとは思うので、
夫側から見れば、終始、形勢が不利みたいな雰囲気で、防戦一方で映画を進めた方が面白くなったと思う。
ある意味で、ウディ・アレンって“リアクション芸”に近いものがあるので、ピンチのときに慌てふためく姿が面白い。
その面白さをもっと前面に出す映画の方が、コメディ映画としてはまとまりが出たと思うし、最後もまとめ易かっただろう。

この辺は個性的な2人を集めたためか、ポール・マザースキーもやりづらかったのかもしれませんが、
コロコロと2人の形勢が変わって、ある種、理不尽に見えるくらい豹変する態度を繰り返すというのは、
こういうのを楽しめる人もいるのだろうけど、本作が志向したであろう、単純なコメディ映画ではなくなってしまうと思う。

謎の日本人に関する描写があったり、やたらと寿司を食べたりとトンチンカンな部分はありますが、
それを除けば、アメリカのチョット裕福な中年夫婦の夫婦ゲンカをひたすらストレートに描いているだけで、
映画の笑いも、基本的にはウディ・アレンとベット・ミドラーの掛け合いだけで笑いをとっているだけですね。

やたらとパントマイムの男性が何度も絡んできて、ウディ・アレンが思わず殴っちゃうシーンがあるのですが、
このパントマイムの男性については、別に笑いをとりにきているわけでもなく、“和ませ役”という感じですかね。

この“和ませ役”の存在というのは、ポール・マザースキーらしいアプローチですが、
ただひたすら夫婦ゲンカを見せられるだけの映画という時点で、まぁ・・・賛否は分かれるでしょうね。
しかも、ベット・ミドラーとウディ・アレンって、スゲー個性の強い組み合わせだし、その個性をそのまま持ち込んでいる。

良く言えば、彼らが自然体に演じていると言える内容なのですが、
さすがに映画の中盤にある、インド映画をショッピングモール内のシネコン(映画館)で上映中に
ガラガラの客席でイチャつき始めるシーンは微妙(笑)。映画の序盤にも似たようなシーンがあるのですが、
中年夫婦のありのままの姿であるとは言え、お世辞にも絵的に美しいとは言えず、これはどうかと思った(苦笑)。

それからイチャイチャしながら映画館から出てきて、キャビアを食べに行ったりしますが、
結局は再びケンカしちゃうなんて、しょうもないことを繰り返す。この映画は終始、こんな感じで進んでいきます。

そもそもカウンセリングを専門にしていて、著書で相手を尊重する大切さを説いていたからといって、
よりによって結婚記念日の外出先で、自分の浮気を告白するなんて、あまりに自分勝手な論理ではある。
著書の内容からウディ・アレン演じる夫が、勝手に想像していた妻のリアクションとはまるで違うギャップに驚き、
慌てふためくという“芸”はウディ・アレンの十八番という感じもしますが、ここだけ切り取ると夫が悪いでしょう。
勿論、自分の過ちの許しを請うということは勇気いることだとは思いますが、結局は自分が楽になりたいだけですから。

ところが、この妻にも秘密があって、実質的に反撃にあっちゃうみたいな展開で
全くもって次から次へと忙しい展開の映画に転じていくのですが、それでもベット・ミドラーとウディ・アレンの
2人芝居だけで映画を引っ張っていくのだから、そういう意味ではたいした映画なのですが、
ずっと喋ってばかり、しかも内容的には痴話ゲンカばかりなので映画のスケールがえらく小さく見えてしまう。

実際に巨大ショッピング・モールとは言え、映画の舞台としては小さいので、
本来的にはもっと大きく見せた方が映画に魅力が付与されると思うのですが、残念ながらそういう感じではない。
それ故、あっちこっち動き回ってはいるのですが、移動する感覚に乏しい。これは僕は映画として致命的だと思う。

あまり派手に笑わせてくれるシーンはないのですが、ベット・ミドラーの男負けしない
強い性格は観ていて気持ち良いくらいだし、ウディ・アレンは相変わらず神経質な感じで、小さなことをこだわり、
映画の前半でも駐車場のアドレスを延々と呟きながら歩いて、妻に煙たがられるとか、クスリと笑わせてくれる。
こういうのを観ると、主演2人は思いのほか良いコンビネーションで、このキャスティングは正解だったのでしょうね。

ただ、それなのに映画を観終わった後に、そこまでの充実感が無いのが残念でなりませんね。
ポール・マザースキーもコメディ映画を監督した経験はあるのに、この物足りなさはもっとしっかり埋めて欲しかった。

やはりどこかでドタバタした笑いが欲しかったところかなぁ。もっと笑いあり、涙ありな感じで
最後はハートウォーミングな大円卓という映画にしていれば、ポール・マザースキーの得意な展開だと思うんだけど。
まぁ・・・良くも悪くもセオリー通りの映画になってしまうので、それを敢えて嫌ったのかもしれませんがね。

ただ、逆の言い方をすれば、勿体ない映画なんですよね。良い土台はあった映画なだけに。

そもそもウディ・アレンを主演に迎えることは容易ではなかっただろうし、
実際に出演してもらって、ベット・ミドラーと離婚の危機を迎える夫婦を演じてもらって、期待通りの芝居しているし、
もっとハッキリと笑わせてくれて、ホロッとくるエピソードがあれば、映画はそれなりの仕上がりになったはず。
それがこんなに中途半端に出来に終わってしまったというのは、あまりに勿体ない話しだと思うのですよね。

どうでもいい話しですが...本作のウディ・アレンですが、何故か僅かに後ろ髪を縛っている。
この頃の志村けんっぽいのですが(笑)、何故にあんない妙な髪型にしたのか理由がサッパリ分からない。
だけど、見れば見るほどウディ・アレンの髪型に目が行ってしまって、気になって仕方がなかったですね(笑)。

ウディ・アレンの監督作品っぽい作りなんだけど、だからこそ尚更・・・
「これがウディ・アレン自身でメガホンを取っていたら、どんな映画になっていただろう?」と思えてならない。

それにしても、結婚記念日という日が欧米でどういった感覚なのかがよく分からないけど、
この夫婦は友人を招いて、自宅でホーム・パーティーを企画していたというから、日本の感覚とはまた違いますね。
日本の結婚記念日と言えば、夫婦2人、家族で食事をするというのが通例的ですけど、アメリカでは祝ってもらう、
という感覚なのですかね。そのパーティーのためにショッピング・モールで買い物するというのだから、それは大変だ。

プレゼントする習慣もあるみたいですし、なんだか、お金がかかりそうなイベントですね・・・。

(上映時間87分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ポール・マザースキー
製作 ポール・マザースキー
脚本 ロジャー・L・サイモン
   ポール・マザースキー
撮影 フレッド・マーフィ
音楽 マーク・シェイマン
出演 ベット・ミドラー
   ウディ・アレン
   ビル・アーウィン
   ダーレン・ファイアストーン
   レベッカ・ニッケルズ
   ポール・マザースキー