スカーフェイス(1983年アメリカ)

Scarface

今となってはカルト映画扱いを受けているくらいですが、これはヤバいくらい面白いですね(笑)。

監督は『キャリー』などで評価され、新進気鋭の若手監督としてブレイクしていたブライアン・デ・パルマで、
まだ脚本家としておキャリアが始まったばかりだったオリバー・ストーンの脚本で綴る、実にタフなフィルム・ノワール。
32年の『暗黒街の顔役』を当時の社会情勢に置き換えたリメークらしく、ハワード・ホークスらに捧げた作品らしい。

さすがに3時間近い上映時間で、終始ずっとアル・パチーノ演じる主人公が大暴れの作品であり、
登場人物ものべつ幕なしに、ずっとスラングを連発するような映画なので、観るのに体力が必要な作品です。

映画はキューバからの移民で、マイアミに流れ着いたアウトローな人生を歩むトニー・モンタナの物語。
彼はキューバでは自称、反政府組織を支えていたそうで、殺しも経験したことがあるようで英語を喋れる。
アメリカへの入国審査もスムーズにはいかず、難民収容施設で暮らすようになるが、相棒のマニーの手引きで
永住権をタテに、カストロに嫌われ政治亡命となり難民収容施設に入ることになった政治犯を殺害する仕事を受ける。

その仕事をやってのけ報酬を得たトニーですが、飲食店の皿洗いに嫌気がさして、
仕事の依頼主のボスである麻薬密売人であるフランクとつながるようなり、フランクに気に入られたトニーは
フランクの愛人であるエルビラに一目惚れ。強引にアプローチするトニーは、強気なエルビラに拒絶されつつも、
フランクとの仕事の中では遣いとして面会した、ボリビアの麻薬王ソーサと強いコネクションを築き、巨額の富を得る。

肥大化していくトニーの存在に脅威を感じるフランクは、手下にトニー殺害を命じますが失敗、
激怒したトニーはついにフランクの持っていたものを全て手中に収め、コカインの輸入とアメリカ国内の販売で
多くの物量をこなし、得た収入を銀行と組んでマネーロンダリングに励み、周囲から目をつけられるようになる。

まぁ、トニーが成り上がった手法が典型的なパターンであるような気はしますが、
彼のトンデモないバイタリティと行動力、決断力が凄まじいわけですが、アル・パチーノは正にハマリ役ですね。

映画は冒頭から残酷描写で、デ・パルマも飛ばしに飛ばしまくる。
元々、ショッキングな描写を施すことがあったデ・パルマですが、本作では更に開き直ってやりたい放題という感じ。

キューバの政治犯を殺害するシーンも、何とも言えない独特な雰囲気を作っていますが、
続くトニーのアメリカでの最初の“仕事”で、麻薬取引に指定された家を訪れたものの、相手から脅迫されて、
シャワー室で電動のこぎりを使った拷問を受けるシーンにしても、あまりに凄惨で目を背けたくなる緊張感が凄まじい。
それだけではなく、拷問されてヘリから吊るされるとか、残酷描写が全開という感じで、苦手な人には向かない作品だ。

重厚感ある作品で、延々とトニーのタフな生きざまを見せられるわけですが、
巨額の富を得て、裏社会で成り上がって実力者として君臨すると同時に、トニーの警戒心や誰も信用しないという
彼の信念はドンドン強くなっていき、得た収入の大半は自宅の警備費用や用心棒への報酬に費やすようになります。

裏切りに次ぐ裏切りという現実をまざまざと見ているだけに、トニーの考えとしては
信じることができるのは己のみという考え方なのだろう。結婚したエルビラですら、彼は信用しなくなります。
この過程が実に生々しく描かれているのですが、その割りに自宅は典型的な大邸宅で成金趣味なんですよね(笑)。

スゴい豪邸だし、謎に美術品に金をかけているし、玄関に大きな泉があったり、
監視カメラも張り巡らせて、多くの見張りをつけ、更に広い庭には虎がいるという典型的な成金趣味なんですね。

そんな彼が妙に惹かれて、ジッち見つめていた標語が“The World Is Yours”(世界は君のもの)。
この言葉はトニーの人生訓であったのか、彼が建てた邸宅のエントランスの泉に燦然と輝いていました。
確かにトニーの向上心と野心の強さの原動力となったのは、こういった標語そのものであったのかもしれません。

ただ、そんなトニーでも異常なまでの執着をしていたのは、幼少期に良い思い出がないせいか、
妹のジーナを溺愛するかのように、事ある毎にお小遣いを与え、美容室を開業させたり、無償の愛を注ぎ込む。
そうなだけにジーナの恋愛にも口を出し、衝動的にトンデモないことをしてしまうことから、トニーは転落していきます。
それに加えて、殺しを命じられても標的に妻や子どもがいると、突如としてブチギレして殺しを拒否する。
人間味ある部分にも感じるが、これらはトニーが過酷な境遇で幼少〜青年期を過ごし、屈折した感情を持つ象徴だ。

この辺のバランスのとり方は、本作はなかなか上手くって、トニーの凄まじく自分勝手な理論でありながらも、
意外な一面を見せられるようで、しかもそれらが物語のポイントになってくるあたりが、さり気なくて上手い。

元々、デ・パルマはそこまで器用なディレクターではないので、オリバー・ストーンの脚本が
そういったエッセンスを上手く取り入れたということなのだろうが、なんとも絶妙なバランスを保っている。

そして、やっぱりこの映画最大のハイライトは、何と言ってもクライマックスの凄まじい銃撃戦だろう。
トニーが仕事せずに裏切ったことに激怒したドラッグ・ディーラーが大人数の刺客をトニーの邸宅に送り込む。
それを察知してか気付かずか、すっかりコカイン中毒になって正気を保てなくなっていたトニーでしたが、
警護の手下たちが次々とやられ、怒りに震えたトニーが怒鳴り声で叫び散らしながら威嚇し、銃をブッ放しまくる。
ここまでくると、まるでホラー映画。トニーがゾンビのように見えてくるほどの不死身さで、異様な光景に見えてくる。

しかし、これが良い(笑)。僕はこのクライマックスの銃撃戦が無ければ、本作の価値は薄いと思う。
銃をブッ放しながら相手を怒鳴り散らして威嚇する姿こそが、トニー・モンタナという男の人生を物語るものなのだ。

どんない撃たれても、血だらけになっても、致命傷を負うまではゾンビのように闘い続ける。
そこで背後から近づいてくる刺客の“ラスボス感”がハンパなく、まるでシュワちゃんの“ターミネーター”のよう(笑)。
こんな映画、少なくとも1983年以前には無かったのではないかと思えるくらい、とても斬新な内容だったと思う。

このクライマックスはトニーが何発喰らっても、全く倒れる気配がなく、それどころか反撃してくるし、
襲ってくる連中は平凡な人間なだけに、トニーだけが異様なテンションで叫びまくってるので、もはや人間ではない。
個人的にはこの細かいことに捕らわれずに、好き放題やってる感が逆に清々しくって、たまらなく好きなんですよね。

しかし...実は本作、劇場公開当時は評論家筋を中心にあまり評判が良くなかったのですよね・・・。
アル・パチーノがキューバ人に見えないとか、色々と否定的な言葉を並べられたそうですが、それでも僕は面白かった。
これほどまでにタフで、観るのに体力を使う映画は数少ない。でも、それをやってのけたデ・パルマはホントに凄い。

欲を言えば、フランクの愛人でトニーがモノにしようとする女性エルビラを演じた、
まだデビュー間もない頃のミシェル・ファイファーはもっと観たかったなぁ。途中退場みたいな中途半端さが勿体ない。
前述した、狂気のクライマックスのアクションでは、全く彼女が絡んでこなくなってしまうのが残念に思える。
まぁ、撮影当時のことを思うと、当時の彼女には少々背伸びをした役だったのかもしれないけど、決して悪くない。

僕は最初にこの映画を観たのは、映画にハマりだした中学生の時でしたが、
このタフでハードな内容に当時はえらく衝撃を受けました。アル・パチーノのムサい迫力にも魅了され、
トニーに憧れはしませんでしたが(笑)、それでも本作の魅力に圧倒され、ナンダカンダで今まで何度か観ています。

勿論、かなりクセと個性の強い映画ですので、好き嫌いはハッキリと分かれるタイプの作品です。
ですので、観る前にある程度の情報を入れて、ある程度の覚悟を持って観た方がいい内容だと思いますね。
言葉は悪いですが、アウトローとして生きることしかできない男の成り上がり人生を描いた作品ですので、
如何にも・・・というストーリー展開で、デ・パルマの監督作ですので何か強く訴求するものがあるわけでもありません。

具体的にどこがどう面白いんだ?と聞かれると、答えに困ってしまう作品ではあるのですが(苦笑)、
長くトニーが成り上がっていって、全てを手に入れたと同時に、仁義を大事にするクセに他人を信用できなくなり、
いろいろと崩壊していく過程を見せられて、最後に非人間的なバイオレンスを炸裂させて終わる、やり尽した感が良い。

まるでデ・パルマもカメラの手前で、「もう、これで出し尽くしたぜ!」と言っているかのようだ。

しかし、どうであれトニーの生きざまを現実論として肯定することは難しい。
まずもって、ドラッグ・ディーラーであるならば、如何にクライアントがヤクで廃人のようになっていくか、
まざまざと見ているはずなのに、自分自身が薬物中毒のように常用している、というのは売人としてダメでしょう(笑)。

(上映時間169分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ブライアン・デ・パルマ
製作 マーチン・ブレグマン
脚本 オリバー・ストーン
撮影 ジョン・A・アロンゾ
編集 ジェラルド・B・グリーンバーグ
音楽 ジョルジオ・モロダー
出演 アル・パチーノ
   スティーブン・バウアー
   ミシェル・ファイファー
   ポール・シェナー
   ロバート・ロジア
   メアリー・エリザベス・マストラントニオ
   フランク・マーリー・エイブラハム
   ハリス・ユーリン
   ミリアム・コロン

1983年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(ブライアン・デ・パルマ) ノミネート