セイ・エニシング(1989年アメリカ)

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これは大好きな青春映画ですね。

後に『ザ・エージェント』、『あの頃ペニー・レインと』、『バニラ・スカイ』と
立て続けにヒット作を連発して、ハリウッドでも名を上げたキャメロン・クロウの監督デビュー作で、
青春映画が数多く製作された80年代の中でも、出色の出来の青春映画と言ってもいいと思います。

相変わらずシナリオから丁寧に書かれていて、一つ一つのシーンも大切に撮られている映画で、
キャメロン・クロウもデビュー作から、実に彼らしいスタイルが確立された作風で好感が持てますね。

映画は高校を卒業したばかりの男女の恋愛を描いているのですが、
平凡な気の優しいキック・ボクシングに熱中する青年が、優等生で高校を卒業し、
故郷シアトルを離れて、イギリスの大学へ奨学生として留学することが決定している同級生に恋をし、
卒業パーティーを間近にして積極アプローチをした結果、孤独だった彼女の心に触れて二人は恋に落ち、
彼女がイギリスへ渡るまでの16週間にわたって、二人の時間を過ごすうちに絆を深める様子を描いています。

僕はキャメロン・クロウは好きな映画監督の一人なのですが、
デビュー作の本作の時点から、こういう丁寧な作風が一貫しているというのは、凄く嬉しいですね。

また、この映画はキャスティングも凄く良いですね。
キャメロン・クロウはどの映画でも、こういうキャスティングを大切にして映画を撮っているのが好きで、
本作にしても、若き日のジョン・キューザックをはじめとして、ヒロインのアイオン・スカイも文字通り輝いていますね。

ある意味で現代の“肉食系女子”を彷彿させるようなティーンで、
父親に何故か嬉しそうに、「アタシ、実は襲っちゃったの」と告白するシーンが妙に印象的ですね(笑)。

本作に出演した頃のアイオン・スカイは役柄と同じく、撮影当時18歳ぐらいだったのですが、
しばらく女優業を継続して、映画にも出演していたようですが、ここ数年は目立った活躍がないですね。
どうやら私生活では離婚も経験し、女優業としての現時点のピークは本作ということになりそうです。
少なくとも、本作での彼女はキャメロン・クロウの演出の上手さもありましたが、ホントによく頑張ってるんですがね。

ひたすら、そんな彼女に猛アタックする青年を演じたジョン・キューザックも良いですね。
まだ初々しい感じ全開ですが(笑)、後にハリウッドで活躍する片鱗は見えますね。
(事実、彼は本作の後の『グリフターズ/詐欺師たち』で評価を一気に高めるチャンスを得ました)

あぁ、そうそう。この映画で大きく特徴的なのは、ヒロインの父親の存在で、
これに関してはキャメロン・クロウの強烈な皮肉が利いていて、娘がお熱を上げている青年と別れさせるために、
「ペンを送りなさい。そうすれば、ただのお別れじゃなくなる」と言い放つものの、それが結果的に因果応報になる。
得てして、この手の映画に恋愛エピソード以外でのトラブルはお約束ですが、この映画、結構、良く出来ています。

端的に言うと、とてもシリアスに描いていて、ヒロインの父親を演じるジョン・マホーニーが素晴らしいですね。
特に僅かなシーンではありましたが、あらゆる恐怖と闘うようにシャワーで恐れ震えるシーンは秀逸だ。
僕はキャメロン・クロウがこのシーンを撮れただけでも、本作にはとても大きな収穫があると言っていいと思う。
(個人的にはこの映画のジョン・マホーニーは、賞賛されても良かったと思えるぐらい良いと思う)

80年代と言えば、“ブラッド・パック”の世代に代表される、
青春映画の宝庫であった時代ですが、80年代も後半に差し掛かるとその勢いは衰え始め、
青春映画のブームは一気に冷めてしまうのですが、その中でも本作は突出した輝きを放っていると思いますね。

その大きな理由は、前述したヒロインの父親エピソードが大きいのですが、
それまでの80年代にヒットした青春映画の多くは、映画がシリアスな調子になっても、
モラトリアムのような悩みを抱えていたのは主人公となるティーン世代だったのですが、
本作はチョット変わった観点を持っていて、まるでモラトリアムを中年のオッサンが迎えているかのように、
自らの不正行為が人生を大きく狂わせ、どうしたらいいかよく分からない行き詰まった悩みを、
ティーンの世代ではなく、むしろ大人たちに向けているかのような描写が、意外にユニークだと思いましたね。

そのせいか、映画の終盤でジョン・キューザック演じるロイドが
ヒロインの父親と面会するシーンでは、まるで子供と大人が逆転したかのように見えるのが面白いですね。

でも、この子供と大人が逆転したかのようなシチュエーションの面白さを演出できたのは、
やはり映画の序盤から終始、一つ一つのシーンを大切に積み重ねるという、一貫性を持った作り方を
徹底できたことが大きくって、おそらくキャメロン・クロウの作家性というのは、本作で決定づけられたのでしょうね。

映画の前半から、親の世代と子の世代を対照的に描くために、
ロイドが食事に招かれるシーンを描くなど、地道なシーンを描かなければ、こういう面白さはでなかったでしょうね。

個人的にこの映画で最高に気に入っているのはラストシーンで、
確かにさり気ない出来事ではあるのですが、ヒロインが飛行機恐怖症と闘いながら、
いつ“禁煙ランプ”が消えるかと2人が見つめる姿を真正面から捉えたラストが、僕は最高に好きなんだなぁ。

飛行機恐怖症との闘いを象徴したクライマックスでもあるのですが、
これから始まる新しいイギリスでの生活に対するチョットした不安をも一気に象徴してしまいます。
このラストシーンなんかは、デビュー監督作品としては極めてレベルの高い仕事っぷりだと思いますね。

ちなみにキャメロン・クロウ、本作のあとはグランジ世代の恋愛を描いた『シングルス』が評価され、
『ザ・エージェント』では初めて人生の大きな挫折を味わう大人を描き、ヒットメーカーの一人になります。

そういう意味でも本作の価値というのは、ひじょうに大きかったように思いますね。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 キャメロン・クロウ
製作 ポリー・プラット
脚本 キャメロン・クロウ
撮影 ラズロ・コヴァックス
音楽 リチャード・ギブス
    アン・ダッドリー
出演 ジョン・キューザック
    アイオン・スカイ
    ジョン・マホーニー
    リリー・テイラー
    エリック・ストルツ
    ジェレミー・ピヴェン
    ジョアン・キューザック
    フィリップ・ベイカー・ホール