サタデー・ナイト・フィーバー(1977年アメリカ)

Saturday Night Fever

70年代後半の空前のディスコ・ブームの火付け役となったジョン・トラボルタの大出世作。

監督は後のアクション映画を中心に定評を得たジョン・バダムですが、本作が監督デビュー作だ。
正直、こういう映画でデビューしたとは意外でしたが、実はかなりシリアスな内容の映画で驚かされました。

長らく観てなかった作品であり、2025年になって初めて鑑賞したのですが、
僕が勝手に想像していた内容の映画とは大違いな内容で、あまりの重苦しく閉塞感漂う雰囲気で
かなりビックリさせられた。ただただディスコで夜通し踊りあかして、“決めポーズ”で「イェーイ!」という映画ではない。

ジョン・トラボルタも本作でのブレイクに始まって、何本かミュージカル映画も含めて出演して、
80年代もスター俳優として駆け抜けるかと思いきや、仕事が減っていき長い間、低迷してしまうことになります。
その後、94年の『パルプ・フィクション』で復活しますが、ディスコでブレイクしたことは忘れられていたかのようでした。

本作も前半では、19歳の主人公が昼間に低賃金でバイトしながら、夜は悪友たちとディスコに通って、
踊りあかしてウサ晴らし。そうしている間にディスコでの踊りが話題となった主人公はコンテストに出て優勝することを
目指してパートナーを探していたものの、やっと見つかった女の子から軽い拒否反応を受けながら、なんとか彼女を
口説いてダンス・パートナーとしてコンテストに出場するための練習することになるなるものの、お互いにぶつかり合う。

ビージーズ≠フナンバーに乗せてジョン・トラボルタらが踊りまくる映画の前半から一転して、
映画の終盤ではコンテストの正体も含めて、次第に映画の様相はドンヨリしていき、暗雲が立ち込めていきます。

個人的にはそんな映画だとは思っていなかっただけに、悪友たちのゲスい一面などが異様に映った。
これは青春映画というよりも、何かしら重たいメッセージ性を持ったドラマであって、ダーク・サイドを描いた作品だ。
主人公の家族の空気の重苦しさもそうですが、どちらかと言えば、低所得な人々の閉塞感漂う日々という感じですね。

主人公の部屋には映画『ロッキー』のポスターや、映画『セルピコ』のアル・パチーノの写真が
貼ってあったりして、当時の世相をの雰囲気をよく出していますが、イタリア系ということを表現したかったのでしょう。

それにしても、この主人公の悪友たちがなんともゲスい連中で、個々には良いヤツなのかもしれないが、
集団心理の恐ろしさなのか悪ノリから、犯罪的な行為に出たり、狂乱に満ちた夜を繰り返すのが異様な光景だ。
映画のラストには更に暴走していき、女の子の友達に最低最悪なことをした挙句、橋の欄干で狂ったように遊ぶ。
ある意味では、社会で虐げられて育ってきた若者たちがどうなってしまうのかという構図と見ることもできるが、
それにしてもこの連中のやっていることは気持ちがいいものではなく、それどころか犯罪で気分が悪くなるレヴェルだ。

そんな連中の本性に気付いた主人公は、クライマックスに目が覚めたように考え直しますが、
少なくともディスコで踊りあかしていた頃のような快活さはないし、現実の深刻さに気づかされたように見える。

だいたいこの主人公も悪友たちの悪行を、まるで放心状態のような表情で傍観するだけで止めようとしない。
オマケに「こんなのを望んでいたのか?」と酷い一言をかけるなど、同罪と言っていいようなことをやってのける。
そうなだけに、このラストを何の疑問も持たずに、素直に受け入れられる人の方が少ないのではないかと思います。

やはり当時のアメリカはベトナム戦争の泥沼化が明確になり、中東情勢も不安定さを増した時期であり、
一つの転換期を迎えつつあった頃であり、やはり当時の世相としても暗いものであったのはないだろうか。
そんな暗雲漂う雰囲気に対して、答えを出していかなければならないとすることが、本作のメッセージなのかもしれない。

しかし、この映画がもたらすイメージからして、その内容のシリアスさのギャップに驚いた人も多かったでしょうね。
それくらい、ビージーズ≠フナンバーに合わせて夜な夜な踊りあかすバブリーな映画なのだと思えちゃうので。
と言うか、僕はそんな映画でも良かったと思うのですが、まるでアメリカン・ニューシネマの後遺症なのか、
映画が進むについて、映画がドンドン深刻になっていくのがあまりに重た過ぎる。序盤とのギャップがスゴいですよね。
そのせいか、あまりの変貌ぶりに映画全体のバランスがあんまり良くないなぁというのが、僕の正直な本音ですね。

だって、映画のオープニングなんて、主題歌でもある Stayin' Alive(ステイン・アライヴ)に乗せて、
躍動感を持ってジョン・トラボルタがニューヨークの街を、自信満々に闊歩する姿から始まるんですよ。
そりゃ、これはどんなスゴい映画になるんだって、ワクワクさせられました。これは最高のオープニングだったと思う。

ところが映画が進むにつれて、ドンドン様相が変貌してしまい、映画のバランスが崩れていってしまう。
そこには僕の中でずっとあったのだけれども、確かにジョン・トラボルタの踊りはスゴくてマネできないけれども、
真の意味で「いや、これはホントにスゴいわ」と度肝を抜かされる踊りとまでは、いかない臨場感だったからだと思う。

これは正直言って、撮り方の問題もあったのではないか。相手役のカレン・リン・ゴーニイだって、上手い。
「これはディスコ・クイーンになれる!」とは思わせられるけど、でも、実際に“ディスコ・クイーン”ばりかと言われると、
そこまでではないのではないだろうか。冷静に観ても、主人公が感じていたようにプエルトリコ人カップルの方が
圧倒的に上手く見えたし、一度でもいいから主人公の踊りが圧倒するシーンが欲しかった。最後に1テイクでもいいのだ。

それゆえか、せっかく暗雲漂う雰囲気のドラマに転調していったのに、この映画にカタルシスは感じられない。
ただただ、周囲に“踊らされていた”自分に気づき打ちのめされた、というだけで終わってしまうには、あまりに勿体ない。

監督のジョン・バダムはテレビ界出身のディレクターで、前述したように80〜90年代はアクション映画を
中心にヒット作を何本か手掛けており、僕の中でも手堅い映画を撮るなぁという印象のディレクターなのですが、
後年の彼の監督作品と比較すると、少々平坦に撮られた感が否めない。特にダンス・シーンはもっと圧倒して欲しい。
やっぱり、この映画はブームの火付け役であって、もっとパイオニアのような輝きを放つ作品なのかと思っていたから。

そして、ヒロインにしてもどことなく性格が難しい感じで、ステータスを気にする感じで賛否が分かれるだろう。
やたらと有名人と一緒に仕事をしたことを自慢してきて、話し相手(主人公)を軽蔑している感じがやたらと鼻につく。
主人公はそれでも良かったのかもしれないが、普通に考えて、ああいう対応をされたら印象は最悪なものだろう(笑)。

繰り返しの感想になりますが・・・これはお世辞にも後味の良い映画とは言えません。
コンテストに優勝して、めでたし・めでたしという映画でもなく、コンテストの幻影に気付き失望する感覚も強いです。

宗教観に縛られたり、様々な抑圧的な環境に悩む若者たちが描かれている印象ですが、
それでもラストに彼らが行った悪行は取り返しがつかないことだし、破滅的な行動をとることも褒められたものではない。
それゆえ、自業自得感が強い映画になってしまい、どうにも映画との嫌な距離感をずっと感じずにはいられなかった。
こうなってしまっては、本作が本来的に果たすべき役割はしっかりと果たすことができなかったのではないかと思う。

ディスコって、よくよく見たら社交ダンスみたいでビックリした(笑)。
ヒロインの練習場が社交ダンスの練習場みたいな雰囲気で、“決めポーズ”を入れるあたりもソックリですね。
これが当時の若者たちの専売特許のようにブームになっていたというのだから、何が流行るか分からないですね(笑)。

ただ、80年代後半のようなバブリーな雰囲気のディスコとは、まだ程遠い雰囲気の違いがあって、
本作で描かれるディスコは少々陰気臭い。まぁ・・・同じニューヨークでも、マンハッタンの空気ではないだろう。

そういう意味では現代で言う、格差社会というテーマ性を内包した作品と言えるのかもしれない。
ただ、僕ならステータスにこだわり日常会話でも見下されるなんて、いくらダンス・パートナーとして組んでも、
自分が主人公と同じ立場だったら、ハッキリ言って嫌ですね。それくらい、このヒロインはアクの強いところがある。

だからこそ、ジョン・バダムももっとヒロインを魅力的に描くアプローチであって欲しかったですね。
もうアメリカン・ニューシネマ期ではなかったはずなのに、最後の最後に影を落とす手法も少々ミスマッチ。
本作はスタローンの『ロッキー』のようにアメリカン・ドリームを体現する映画であっても良かったのではないかと思う。

どうでもいい話しですが...映画の後半にあるボコボコにやられた友人の復讐をするために、
プエルトリコ人のガレージに主人公らが突撃しに行くシーンがありますけど、あれだけの騒ぎを起こしておいて、
警察沙汰にもならないというのは、なんだか不思議に映る。しかも、それが人間違いかもしれない・・・とは酷いオチ。

とまぁ・・・この連中、とにかくメチャクチャなんですよね。それに同調する主人公も褒められたものではない。

(上映時間119分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョン・バダム
製作 ロバート・スティグウッド
原作 ニック・コーン
脚本 ノーマン・ウェクスラー
撮影 ラルフ・D・ボード
音楽 ビージーズ
   デビッド・シャイア
出演 ジョン・トラボルタ
   カレン・リン・ゴーニイ
   バリー・ミラー
   ジョセフ・カリ
   ドナ・ペスコウ

1977年度アカデミー主演男優賞(ジョン・トラボルタ) ノミネート