ソルト(2010年アメリカ)
Salt
当初はトム・クルーズ主演で製作される予定だった二重スパイの疑いをかけられる、
スゴ腕CIAエージェントを女性に置き換えて、アンジェリーナ・ジョリー主演で描いたサスペンス・アクション。
監督は久しぶりに規模の大きな映画を撮ったフィリップ・ノイスで、どうやら活躍の場をTVに移していたようですね。
映画はほぼほぼノンストップ・アクションと言ってもいいほど、観客に息をもつかせぬほど、
矢継ぎ早に次から次へとアクションを展開させるスタイルで、観る前に僕が勝手に予想していた映画よりは
面白かったのだけれども、正直言って、前半に飛ばし過ぎた印象ですね。ヒロインが“自首”してからは、ほぼ惰性だ。
フィリップ・ノイスが何をどう描きたかったのかは、なんとなく伝わってくる映画なんだけど、
いかんせん映画の途中から「実はこうだったんですよ」の連続で、カラクリを見せるのに一生懸命になり過ぎて、
肝心かなめの映画の中身が置き去りという感じで、どうにも本質から逸れた部分に行ってしまった映画という印象だ。
ヒロインのアンジェリーナ・ジョリーという強力なキャスティングで良かったとは思うのだけれども、
せっかくの彼女のヒロイン像も磨かれずに終わってしまい、それよりもドンデン返しを作ることに一生懸命・・・。
さすがにクライマックスの攻防くらいは、もっと緊迫感を持って描いて欲しかったのだけれども、それも盛り上がらない。
しかも、ここでもドンデン返しを挿し込んでくるものだから、さすがにストーリー自体に説得力を帯びないのがツラい。
さすがにここまで節操なく話しの裏表を入れ替えまくってしまうと、ほとんどが茶番に見えてしまう。
悪く言えば、作り手のご都合主義でしか映画が進まなくなってしまうのですが、それがロシアの大統領も
そのご都合主義に巻き込んでしまうのだから、ある意味では一貫したスタイルではあったのかもしれませんがね。。。
というわけで、僕はこの映画、猛烈なスピード感で突き進んでいく前半は楽しめたのですが、
そこから映画の方向性を明らかにしていく後半は、むしろ全くと言っていいほど楽しめなくなってしまったんですよね。
密室のような取調室に追い詰められたヒロインがそこから相手をかく乱して逃げ出す方法とか、
それなりに見せ場を作っているようには見えるけど、それも映画の終盤のアクションは前半ほどのインパクトが無い。
出だしがあまりに快調過ぎて、映画の後半にかけて失速していったイメージが強く残ってしまうのは失敗でしたね。
後半で良かった部分と言えば、これはこれで賛否両論なのだろうけど・・・
映画のラストの在り方にはチョット驚かされました。これはこれで予想外の終わり方だったのですが、
エンターテイメント・アクションにありがちなセオリーを踏まずに、尚且つ映画を壊さない範囲で自然に終わる。
これって結構難しいことだと思うのですが、紆余曲折を経ながらも本作のクライマックスの展開は悪くなかったと思う。
そうなだけに映画全体を見て、どうにもバランスが悪いというか、前半に“飛ばし過ぎた”のかもしれない。
ヒロインも何故にそこまでして、大きなリスクを冒してまでも夫の所在を知ることにこだわるのか、
映画を観ただけでは伝わらない部分もあるにはあるのですが、それでも執念でCIAの監視下から逃れようとして、
あれやこれやと職業柄、熟知した脱出方法で孤軍奮闘する姿を追い続ける。この前半部分はすこぶる面白い。
よく『ボーン・アイデンティティー』みたいだと言われますが、確かにアクションのスタイルは似ています。
映画の見どころの一つですが、変装したヒロインがCIAに見つかってハイウェイを疾走するトラックの屋根に
乗って逃げていくシーンなんかは、凄まじいまでのスピード感と迫力を持って展開するので、テンションが上がる。
まぁ、冷静に観ればトラックから違う車の屋根に飛び移るなんて、メチャクチャなアクションではあるのだけれども、
こういう演出であってもサラッとやってのけて、観客に有無を言わさず納得させちゃう力強さがハリウッドだ(笑)。
ただ、同時にこういうノリが悪い意味でのハリウッドとして、批判に晒されているのも事実。
この辺は賛否が分かれるところだろうけど、僕は本作のアクション・シーンに関しては総じて悪くないと思っています。
だからこそ、もっとこういう路線でいって欲しかった。下手にヒロインの生い立ちやスパイの構造について描いて、
特に映画の終盤に見せ場を作って欲しかったのに、終盤がほとんど盛り上がらずに終了してしまうのが勿体ない。
この辺はフィリップ・ノイスも90年代は、規模の大きな企画を任されていたわけですから、
もっと映画全体のバランスを考えて構成して欲しかったし、もう少しはクオリティの高い作品を撮れるだけに
実力を持っているディレクターだったので、映画の中盤で息切れしたかのように失速してしまったのは予想外(笑)。
本作を観る限り、作り手は続編を製作するつもりだったのではないかと思える“含み”を持たせたラストでしたが、
本作がそこまでのヒットではなかったせいか、シリーズ化されることはありませんでした。それも仕方ないかな・・・。
(劇場公開当時から監督のフィリップ・ノイスは続編の製作を否定してはいましたけどねぇ・・・)
映画の冒頭からアンジェリーナ・ジョリー演じるヒロインが夫と結婚するキッカケとなった2年前のエピソードから
始まるのですが、これが北朝鮮で捕虜になって拷問を受けるという衝撃的なシーンですが、さすがの女優魂ですね。
捕虜になった彼女を解放するために、夫となる蜘蛛を専門とする生物学者が裏で手を回していたということで、
これがキッカケで彼らは結婚したようだ。これが伏線になっているかと思いきや、そこまででも無いのも微妙・・・。
そういう意味でも、やはり本作の見どころはアンジェリーナ・ジョリーのアクションのみと言っても過言ではないかも。
アンジェリーナ・ジョリーは『トゥームレイダー』などでアクション映画には出演してますので、しっかり演じれますしね。
トム・クルーズでも彼らしく演じただろうとは思いますが、個人的には主人公は女性で良かったのではないかと思う。
ヒロインの同僚でCIAの上司を演じたリーブ・シュライバーが、ヒロインのことを信頼しながらも
いつしか彼女を捜査対象として追わなければならない立場を演じていますが、彼がまた最初っから怪し過ぎる(苦笑)。
あまりに中盤からドンデン返しの連続になるので、映画のカラクリがおおむね読めてきてしまうのも良くなかったかも。
この辺は自然な形で描こうと作り手なりに考えていたのでしょうが、それでもこの上司の描き方は今一つだったなぁ。
スパイをメインに描いたサスペンス映画なのであれば、もっとストイックにした方が良かったかも。
ヒロインが突き動かされる動機が、夫への愛というのも少々無理があると思うし、どうせならもっとスパイとして
彼女のプロフェッショナルな姿を描いて、ヒリヒリするような緊張感ある画面にして欲しかった。なんか似合いそうだし。
まぁ、映画の前半からド派手なアクションを展開している時点で、そういう映画ではないことは明白ですが、
映画の終盤まで前半のアクションのテンションが続かなかったあたりを見ると、スパイのストイックな姿を描いた方が
アンジェリーナ・ジョリーのクールな魅力も生かされたような気がするし、サスペンス映画として盛り上がったと思う。
映画の前半のアクションのテンションを持続することは難しかったでしょうけど、
前半に色々と詰め込み過ぎた部分はあったと思いますね。もっと全体のバランスを考えて構成できていれば、
映画の印象はグッと変わっただろうし、クライマックスに盛り上がりを持って来れば、ラストの印象も良くなっただろう。
さすがにアンジェリーナ・ジョリー主演ということもあって、劇場公開当時そこそこヒットはしましたが、
何故、当時から評判が芳しくはなかったのかは、本編を観てみたら、その理由が分かったような気がします。
どうでもいい話しですが...CIA本部にある取調室に部屋の中にいる人の健康状態が分かるのか、
謎のCTスキャンみたいな機能(MRI?)があって、自首してきた犯人に「肝臓に癌がある」と分析しているのが、
妙にウケた。あれが現実世界で出来たら、凄まじい診断技術上の進歩であり、医師も患者も苦労は無いだろう。
もっとも、あれだけで診断を下していいのか・・・という問題はあるけど。でも、意外に診断するための検査とかって、
苦痛を伴うものだったり、かなり負担を強いられる準備を必要としたりすることもあるので、大変なこともありますからね。
あれが実用化されたら、私たちの生活の水準は格段に上がるなぁと思ってしまいました(笑)。
あとは分析の確度でしょうね。こういうようなものが実用化されるのは、まだまだ遠い未来の話しでしょうけど・・・。
とまぁ、映画の本編とはあまり関係のないところが印象に残ってしまいましたが、
クドいようですが、ヒロインの素性が明らかになる前の、前半に固まっているアクションは総じて見応えたっぷりです。
ここだけでも十分に頑張った作品だとは思うのですが、あらためて映画全体のバランスの重要性を認識させられます。
(上映時間98分)
私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点
監督 フィリップ・ノイス
製作 ロレンツォ・ディボナヴェンチュラ
サニル・パーカシュ
脚本 カート・ウィマー
撮影 ロバート・エルスウィット
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 アンジェリーナ・ジョリー
リーブ・シュライバー
キウェテル・イジョフォー
ダニエル・オルブリフスキー
アンドレ・ブラウアー
2010年度アカデミー音響調整賞 ノミネート