麗しのサブリナ(1954年アメリカ)

Sabrina

この頃のオードリーが一番、光り輝いていたような気がします。

映画は身分違いの恋を描いた作品であり、ニューヨークで大企業の経営者である兄弟を中心に
彼らの実家で運転手を務める男の愛娘サブリナが、パリにお菓子作りの留学をして帰国すると、
見違えるほどに洗練された大人の女性に変身していて、それまで見向きもしていなかったプレーボーイの弟が
サブリナに突如として熱を上げるものの、それを快く思わない兄が2人の恋の邪魔をするという恋愛映画だ。

名匠ビリー・ワイルダーお得意のラブコメといった風情ですが、映画史に残る傑作かと聞かれると、
正直、僕はそこまでの出来の映画だとは思わない。ただ、やはりオードリー・ヘップバーンという大きな“武器”を手に
実にテンポの良い語り口で綴った作品であり、彼女をキャスティングできなければ本作の魅力は半減だっただろう。

ただ、敢えて最初に言わせてもらうと、本作は企業経営者の兄ライナスを演じたハンフリー・ボガートが
オードリーとあまりに年が離れている組み合わせで、もっと言えば、弟役のウィリアム・ホールデンも年上になる。
この2人とオードリーがあまりにアンバランスな感じで、もう少し若い方が良かったのではないかと思えてならない。

と言うのも、結局は兄弟でサブリナを取り合うことになるので、
ハンフリー・ボガートがオードリーに本心を悟られずに、如何に彼女の心をゲットするかに執心となり、
どことなく必死に彼女を振り向かせようとしているように観えてしまい、中年のオッサンのひたむきさが哀しい(笑)。

彼が演じるライナスは口では、サブリナに熱を上げる弟のデビッドが会社経営者としての自覚を持つのに
サブリナな存在が邪魔になるので、サブリナにデビッドのことを諦めさせるためにと自分で説得すると言い、
勝手にサブリナを退屈させないようにとデートの計画を立てるのですが、どう見てもルンルン♪しちゃっている。
父親には「嫌々やってるんですよ」と言うも、全くそうは見えず、むしろ楽しそうにやっているところに下心が見える。

弟の代理で一緒にお出掛けしただけだというのに、勝手にキスまでしちゃうのはなかなか受け入れ難い(笑)。
全てが計算づくでやってるとしか思えないけど、ライナスのキャラクターは賛否が大きく分かれてしまう気がします。

当のライナスを演じるハンフリー・ボガート自身がどう思っていたのかも知りたいですね(笑)。
なんだか本作を観る限りでは、どう見てもライナスが最初っからサブリナを口説き落とすために策を練っていて、
デビッドが負傷退場したのを良いことに、横からサブリナを奪い取ろうと画策したように見えちゃって、ノリが軽い。

それを見るからにオードリーとも年が大きく離れたハンフリー・ボガートが演じちゃうものだから、なんだか微妙(笑)。

やっぱりね、このライナス役は貫禄が必要だったのかもしれないけど、ハンフリー・ボガートは年をとり過ぎていた。
そんなハンフリー・ボガートも、実はケーリー・グラントの代役だったというから驚きで、彼もまたオッサンでした。
ライナス役はウィリアム・ホールデンにして、デビッド役をもっと若い役者を配役すれば良かったのに・・・と思いました。

しかし、今になって思えば、主演3人が当時としても信じられないくらいの豪華キャストで、
こんな軽妙なラブコメを演じてしまうなんて、とっても贅沢な企画だったんだなぁと実感させられるし、
そんな贅沢な企画を監督としてまとめたのが、当時は波に乗りつつあった名匠ビリー・ワイルダーというから驚きだ。

後にビリー・ワイルダーはオードリーのことを、57年の『昼下がりの情事』で起用してますが、
映画史に与えた影響としては本作の方が大きいでしょうね。本作は90年代にリメークもされてますしね。

オードリーとの関係は良好だったようですが、有名な話しで、本作の撮影で意見がぶつかってしまい
ビリー・ワイルダーはハンフリー・ボガートと衝突してしまったようで、相当に険悪な雰囲気になってしまったらしい。
ハンフリー・ボガートは元々気難しいところがあって、撮影前の時点でウィリアム・ホールデンと仲が悪かったようで
オードリーの周りも大変な状況だったらしい。ハンフリー・ボガートもウィリアム・ホールデンも大スターでしたからね。

よくある構図ではありますが、兄のライナスは一見すると実直でマジメな会社経営者。
ビジネスのためには冷徹になる性格ですが、日常生活でもあまり楽しみが無さそうな感じで、笑顔も少ない。
だからこそ、サブリナに一旦トキメいてしまうと、もの凄い盛り上がってしまうということなのかもしれませんが、
前述したように、サブリナとなんとか距離を縮めようと必死に“裏工作”をするライナスの姿が、なんとも涙ぐましい(笑)。

一方で、若い頃から徹底した遊び人でガールフレンドが何度も変わっていて、周囲も困っている。
もっとも、年齢を重ねてきてララビー家の事業を継承して欲しい一人であったのに、まったく顧みないように
次から次へと新たな女性に目移りする姿を見て、特に親は心配しているわけで、ライナスも手を焼いている状況だ。

そんなララビー家の空気感を象徴するような、映画の冒頭の写真撮影のシーンは印象的で
このショットは何とも言えない微妙な空気が漂っていて、素晴らしいですね。この肖像も、どこか薄ら寒さを感じさせる。

弟デビッドも典型的な遊び人という雰囲気をウィリアム・ホールデンが醸し出しているのですが、
パーティーで仲良くなった女性と、会場から離れたテニスコートへ行ってシャンパンを飲もうとグラスを
お尻のポケットに入れたことを忘れて、椅子に座ってしまい、グラスがお尻で割れて大怪我をするというドジっぷり。
割れたグラスの破片がお尻に刺さり、一つ一つ医者に取ってもらうという痛々しいシーンがなんとも印象的です。

欲を言えば、サブリナとライナス、或いはデビッドとの恋愛というのは、いわゆる“身分違いの恋”であり、
実業家の大富豪と、その家に仕える運転士の娘との恋というのは、当時としても禁忌に近い感覚だったのだろう。
少しだけそんなニュアンスも描かれていますが、サブリナの父親である運転士フェアチャイルドは微妙な立場なわけで、
愛娘の恋模様を目の前で見せられて、文句の一つでも言いたい状況だったのでしょうけど、雇用主なので言えない。
「自分はサブリナとのデートの話しは聞きたくないです」と言うシーンはありますけど、もっとフェアチャイルドの苦悩は
映画の中で描いても良かったと思いますね。サブリナが洗練されていく過程は上手く描けただけに、これは勿体ない。

でもさ、この映画のオードリーってパリに留学する前の時点で、十分に可愛いんですね。
デビッドやライナスからすると、お子ちゃま扱いだったということなのですが、そこを更に帰国してきてオシャレして、
初めてサブリナの魅力に気付いたというのは、ライナスにしてもデビッドにしても“見る目が無い”ということですかね。

確かにサブリナが帰国してきて、家の近くの駅で父フェアチャイルドの迎えを待つシーンからして、
オードリーのファッション、立ち姿がなんとも眩しく、色男のデビッドがすぐに目移りする気持ちはよく分かる(笑)。

遊び人気質のデビッドからすれば、“身分違いの恋”かどうかは大きな問題ではなく、
本能のままにサブリナを追い求めるわけで、フィアンセがいようが全くお構いなしなので、それがライナスにとっては
邪魔だったのでしょうが、ライナスはライナスでいざサブリナと一緒にいたらすっかり魅了されてしまうオードリーの魅力。

言ってしまえば、映画は途中から三角関係をメインテーマとした内容にシフトしていくのですが、
珍しいのはライナスとデビッドが丁々発止のやり取りでサブリナを取り合うというわけでもなく、実に大人な駆け引き。
まぁ、デビッドが負傷退場していたというビハインドがあるのですが、それでも終盤に少し兄弟ゲンカがある程度。
この終盤の兄弟ゲンカが物足りなくて、あまりに聞き分けが良くアッサリと終わってしまうので、ここもマイナスかな。

しかし、それら物足りなさを補っても余りあると言っていいくらいのオードリーの魅力炸裂の一作だ。
結局はビリー・ワイルダーも彼女をキャスティングできた時点で、本作の成功を確信したのではないかと思う。

現代の感覚で観ると、少々...というか、かなり違和感のあるラブコメであることを否めません。
ですから、あくまでオードリーの“ファニー・フェイス”を楽しむ映画と割り切って観た方が、楽しめるように思います。
僕の中では、『ローマの休日』よりも本作の方がもっと魅力的に映っているという印象で、ホントに輝いていると思う。
(まぁ・・・50年代のオードリーの出演作品は全て、神懸っているくらい輝いていますけどね・・・)

それにしても、ライナスが経営している会社は特殊なプラスチックを開発・製造しているメーカーのようで、
オフィスの椅子にプラスチック板をかけて、秘書や職員を大勢呼んで、プラスチック板の上に乗せて飛び跳ねたり、
防弾テストを実弾使ってやったりしてましたけど、映画の中のこととは言え、これが実用化されたら革命的ですね。

これだけ素材的に柔らかくしなって、割れない硬質系のプラスチック素材って、ホントにスゴいですよね。
ポリカーボネートなど、アクリルの強度の約30倍みたいな素材もありますけど、ポリカーボネート以上に見えました。
オードリーがパリの料理学校で焼いていたスフレなど、ついつい本筋とは関係ないところが気になってしまいました。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ビリー・ワイルダー
製作 ビリー・ワイルダー
原作 サミュエル・テーラー
脚本 ビリー・ワイルダー
   サミュエル・テーラー
   アーネスト・レーマン
撮影 チャールズ・ラングJr
音楽 フレデリック・ホランダー
出演 オードリー・ヘップバーン
   ハンフリー・ボガート
   ウィリアム・ホールデン
   ジョン・ウィリアムズ
   フランシス・X・ブッシュマン
   マーサ・ハイヤー

1954年度アカデミー主演女優賞(オードリー・ヘップバーン) ノミネート
1954年度アカデミー監督賞(ビリー・ワイルダー) ノミネート
1954年度アカデミー脚色賞(ビリー・ワイルダー、サミュエル・テーラー、アーネスト・レーマン) ノミネート
1954年度アカデミー撮影賞<白黒部門>(チャールズ・ラングJr) ノミネート
1954年度アカデミー美術監督・装置賞<白黒部門> ノミネート
1954年度アカデミー衣裳デザイン賞<白黒部門> 受賞
1954年度全米脚本家組合賞脚本賞<コメディ部門>(ビリー・ワイルダー、サミュエル・テーラー、アーネスト・レーマン) 受賞
1954年度ゴールデン・グローブ賞脚本賞(ビリー・ワイルダー、サミュエル・テーラー、アーネスト・レーマン) 受賞