天才マックスの世界(1998年アメリカ)

Rushmore

新進気鋭の若手監督であったウェス・アンダーソンの第2回監督作品。

名門ラッシュモア高校に自身で書いた脚本を母親が高校に送ったことで、
気に入った校長が入学を許可した青年マックスの課題活動に勤しむ日常と、もの凄く変わった初恋を
強烈なユーモアと独特な世界観をもって構成した、ウェス・アンダーソンの評価を一気に上げた出世作。

このマックスは頭脳明晰ではあるのだが、能力を使うところが勉学ではなく、
あくまで演劇などの学校の課外活動が中心で、運動神経も全くないわけではないので、
補欠で出場したりと学校生活はとにかく忙しい。そのせいで(?)、留年しまくり学友たちは全員年下。
彼の性格もかなり独特なので、全く校長の言うことを聞かずに勝手なことをやるものだから、放校となってしまう。

現実に彼のような生徒がいる学校は大変だろうし、学友にいたら楽しいだろうけど、
でも、彼がやろうとすることはあまりに個性的で高度なことだから、スゴい大変な存在になると思う。

かなり映画のアプローチとしても独特なので、随所にスローモーションを採り入れて、
マックスがまるで自分のプライドを誇示するように立ち振る舞うシーンなど、ウェス・アンダーソンの計算高い演出が
マックスの個性を作り上げているようで、この邦題の通り“マックスの世界”を監督が作り出している感じで素晴らしい。
(マックスを演じるジェイソン・シュワルツマンも、そんな個性的な映画の主人公に上手くハマっているが・・・)

全体的に少々クサい演出にも思えるのですが、全てがマックスの描く演劇のような雰囲気があって、
上手く内容と演出がシンクロする感じで、なんとも言えない妙味にある映画だ。この辺はウェス・アンダーソンの
“出し入れ”がとっても上手くて、クライマックスにあるマックスの集大成となる舞台劇の仰々しい演出も面白い。

マックスが自分の学校で上演する舞台劇として『セルピコ』を選ぶ独特なセンスで、
クライマックスの戦争舞台劇が『プラトーン』や『フルメタル・ジャケット』のようなメッセージ性の強そうな内容で
どう考えても高校生が上演するような内容ではなく、舞台装置も火を使ったり随分と派手なのが印象的だ。

マックスはオリビア・ウィリアムズ演じる未亡人となったラッシュモア高校の女性教員に一目惚れして、
まるでストーカーのようにつきまといますが、これも高校生が初恋を前にどのようにアプローチしたらいいのか分からず、
やり過ぎなくらいやってしまうマックスの不器用さを描くわけですが、そこにマックスの独特な性格がプラスされ、
この女性教員も動揺してしまって、挙句の果てには学校理事長のブルームも絡んできて、もう大変な状況になります。

ブルームを演じたビル・マーレーは相変わらず良い具合の脱力感いっぱいですが、
本作でもいい味を出している。しかしビックリなのは、そんなビル・マーレーの個性に負けないくらい、
マックスを演じるジェイソン・シュワルツマンが頑張ったことで、思わず実際にマックスが身近にいたら、
チョット疲れるだろうなぁ・・・と思っちゃいました(苦笑)。でも、そう観客に思わせられるぐらいのハマリ役ですね。

まぁ・・・少々持ち上げすぎかもしれませんが、僕は本作、傑作と称してもいい出来だと思いますね。
ウェス・アンダーソンも当時、無名だったら仕方ないですけど、これが劇場未公開作なのは凄く勿体ないと思う。

キャスティング、そして監督のアプローチも抜群で、それらが見事に機能的に絡み合っている。
本作の後のウェス・アンダーソンの監督作品も何本か観てますが、本作を超えるのは容易いことではないですね。
この作品を超えるインパクトはなかなか出せていないと思います。それくらい、異彩を放つ作品とも言っていいと思う。

これでマックスも、やることやっていれば何も文句言われず、放校になることはなかったのですがね。
でも、彼の有能な力を学生の本分である勉学に向けずに、課外活動に身を投じて、単位を落としまくります。
これでは、さすがに留年しちゃうし、自分のやりたいことだけやって、しかも学校に無断でやれば目をつけられますよね。
この辺はマックスの幼稚なところであり、一方ではこれがマックスという男の子なのだろうけど、能力の一部でも
正しく使う要領の良さがあれば、マックスは社会の第一線で活躍する有能な人材になれると思いますね。

まぁ、ウェス・アンダーソンはそんなチョットだけズレた性格で、独特なマックスを中心に描きたかったのだろう。
なので本作はド派手に笑いをとりにくる映画ではなく、どちらかと言えばニヤニヤさせられるタイプの映画かな。

そして、あくまで自然体に描くことに徹底していて、無理にマックスが成長しようとしないところも良い。
人間が成長するということを描いている映画も勿論良いんだけど、この映画で描かれるマックスはどこまでも
ゴーイング・マイウェイで変わっていくスピードもゆっくりなのが良い。でも、人間ってそんなものだと思う。
急速なスピードで変わるって、とっても疲れることで大きなストレスになるし、これくらいの方が人間らしい。

色々と学んだマックスは精神的にショックを受けて、彼なりに学んだところはあるのですが、
彼なりのペースで少しずつ変わって言う過程を、みんなが見守るという構図になっているのが好印象。
半ば背伸びするようにマックスが変わらざるをえないような状況になってしまうというわけでもなく、
あくまで青春を謳歌するように、マックスなりに自分を貫き通しながら、少しずつ成長していく姿が良いと思う。

こういう構図に、この映画の賢さや知性を感じますね。
そういう意味で、本作のシナリオも良く書けていると思います。他の作品とは一線を画すところかもしれませんね。

マックスがオリビア・ウィリアムズ演じる女性教師に恋していることを知りながらも、
いつしか彼女のことを追いかけるようになる金持ちの会社経営者ブルームが、ほどなく彼女と恋人関係になり、
それを悟ったマックスがブルームに裏切られたと怒り、チョットした復讐にでるというエピソードも面白い。
どこか大人げない争いにも見えますが、よくよく考えればマックスは大人ではないですから、当たり前でしたね(笑)。

ただね、さすがに学校を退職した女性教師の自宅までマックスが乗り込んで行くのは、やり過ぎですわ。
しかも怪我したフリして彼女の部屋にダイレクトに入っているので、あそこまでやっておきながら、
彼女が激怒しないなんて、チョット不思議ですね。あそこまでやってしまうと、まるでストーカーのように見えてしまう。

こういったマックスのブッ飛んだところが炸裂する映画ですので、おそらく賛否は分かれると思います。
しかし、ウェス・アンダーソンの独特な感覚が好きな人にはたまらない作品でしょうし、僕はその独特な感覚を
いろいろな編集技法を駆使して作り上げているように見えて、これはスゴいなぁと感心させられてしまいましたね。

最近はこういうことが出来るディレクターって、ハリウッドでもなかなかいないと思うんですよねぇ。

実際に音楽にザ・フー≠フピート・タウンゼントが参加しているせいもあるけど、
確かにこの映画は感覚的に初期のザ・フー≠フ音楽が、不思議と上手くフィットする。似た衝動を持っていると思う。
ただ、衝動とは言っても、暴動を起こすわけでも喧々諤々と激しい議論をするわけでもなく、どこか掴みどころが無い。
要するに、あまりにウブなマックスがマックスなりに暴走すると、こうなってしまうというストーリーなわけです。

人間ですから、みんな色々な妄想をすることがあるとは思いますが、
でも、これってあくまで妄想だから許されるところがあるわけで、現実に行動に移したら犯罪になることだってある。
マックスは恋愛と課題活動に関しては、その境目を見誤ってしまって、青春の痛い思い出を綴ることになります。

決して居心地の良い映画ではないとは思いますが、ありそうで無かった唯一無二のタイプの作品だ。
やっぱりこんな映画をサクッと撮れてしまうウェス・アンダーソンは、僕はスゴい映画監督なのではないかと思う。

個人的にはルーク・ウィルソン演じる看護師は、もっとメイン・ストーリーに絡んできて欲しかった。
この辺がもっと映画をかく乱するような存在として描かれていれば、もっと映画の幅が広がったかもしれません。
レストランでいくらマックスが酒を飲まされて酔っていたとは言え、あんなこと言われても平然としていられる
大人って、なかなかいないと思います。そうなだけに、映画の後半で影響を与えるキャラクターにしても良かったなぁ。

何はともあれ...少々甘いかもしれませんが、これは一風変わった強烈な個性ある逸品だ。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ウェス・アンダーソン
製作 バリー・メンデル
   ポール・シフ
脚本 ウェス・アンダーソン
   オーウェン・ウィルソン
撮影 ロバート・D・イェーマン
音楽 マーク・マザースボウ
   ピート・タウンゼント
出演 ジェイソン・シュワルツマン
   ビル・マーレー
   オリビア・ウィリアムズ
   シーモア・カッセル
   ブライアン・コックス
   メイソン・ギャンブル
   ルーク・ウィルソン
   コニー・ニールセン

1998年度全米映画批評家協会賞助演男優賞(ビル・マーレー) 受賞
1998年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(ビル・マーレー) 受賞
1998年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞(ビル・マーレー) 受賞