ラッシュアワー(1998年アメリカ)

Rush Hour

この映画は懐かしいなぁ・・・。
と言うのも、劇場公開当時、僕は映画館に行き始めてた頃で、映画館で観た一本だったので。

当時はジャッキーの映画が好きだっただけに、ハリウッドへ渡って世界的なアクション・スターとして
活躍し始めた頃のジャッキーで、これからの活躍が楽しみだった時期で、本作も大ヒットしていましたね。

映画は香港からロサンゼルスの大使館に異動してきた駐在大使が
愛娘を誘拐されたことから、香港時代の部下である刑事を香港から呼び寄せたことを快く思わない、
ロサンゼルスのFBI捜査官が、その刑事を押さえつけるためにロサンゼルス市警に応援を依頼する。
ところがロス市警が派遣してきたのは、口八丁手八丁の騒々しい黒人刑事カーターだった・・・ということを描きます。

英語が達者なジャッキーだからこそ出来たキャラクターでもあった気がしますが、
相変わらずの安定のカンフー・アクションが炸裂するので、その点は安心できるのですが、どうにも映画はパッとしない。

映画自体はそれなりの規模感だし、ジャッキーも頑張っているし、
クリス・タッカーとの一見するとミスマッチとも見えるようなコンビネーションも、意外に妙味を呈していたと思う。
ただ、やっぱりジャッキーのアクション映画というフォーマットがハリウッド・ナイズされたのが、どこか物足りないなぁ。

監督のブレット・ラトナーは97年の『ランナウェイ』でデビューしたディレクターですが、
本作での成功の後、ハリウッドでも第一線で活躍する監督として羽ばたいていくわけで、本作は彼の出世作です。
何気に映画の音楽をラロ・シフリンが担当していたりして、冒頭から「オッ!?」と思わせてくれるのが良い。
悪役を演じたトム・ウィルキンソンも良いし、それなりにしっかりと映画の輪郭を作っているので、キッチリ仕事している。

ただ、これも含めてハリウッドのロジックでアプローチした映画ですので、
それがまだジャッキー持ち前のカンフー・アクションが馴染み切れていなかったのかな。どうも物足りない。
ジャッキーのアクション・スターとしての戦略的なマネジメントもあったと思うのですが、もう一歩足りなかったのかなぁ。
結果として、ハリウッドで十分に知名度を上げることはできましたが、それでも当初、予想していたほどではなかった。
それは、「ハリウッドがジャッキー映画を撮るならこんな感じですよ」という良くも悪くも定型な感じが、出過ぎなのかな。

エンド・クレジットで楽しそうにジャッキーを中心としたNGシーンをオマケのように組み込んだり、
これは香港時代のジャッキーがよくやっていたことなので、ブレット・ラトナーなりにジャッキーをリスペクトして
こういうことを採り入れたのだろうけど、それでも香港時代のジャッキーのアクション映画とは当然同じ感覚ではない。
僕はジャッキーなりの挑戦だったと思うので肯定的に見たいところですが、この辺はファンの間では賛否両論でしょう。

何気に続編が3本製作されましたが、どうやらテレビドラマ化もされたようで、
意外にもアメリカでは本作って、根強い人気があったんですね。さすがにジャッキーは出演してませんが・・・。

90年代は『リーサル・ウェポン』シリーズのヒットの影響なのか、バディ・ムービーが何本か作られましたが、
同じ異人種間のコンビとしても、これまでは白人と黒人というコンビが多く、アジア系と白人はあったかもしれないが、
確かにアジア系と黒人というコンビは、これまでの映画界ではほとんど無かったコンビだったかもしれません。

クリス・タッカーは00年代版のエディ・マーフィというポジションだったのかもしれませんが、
クリス・ロックら同じようなポジションを狙うコメディアンが、揃って映画界に進出してきていた時期ですからね。
どうにも、競争が激しくなったのかクリス・タッカーは映画俳優としては、あまり積極的な活動はしなかったですね。

映画館で本作を観た当時、アメリカでヒットしたという前評判があったせいか、
結構な客入りで、所々、笑い声が上がっていた記憶があります。コミカルなアクション映画という位置づけなので、
いつものジャッキー映画のようにクスクスと笑わせてくれます。ただ、今回は裸になるようなアクションは無し(笑)。
さすがに、ああいうアクションはハリウッドでは撮りづらいのか分かりませんが、色々な裏事情はあったのでしょう。

まぁ、同じジャッキー映画という枠組みで言えば、
実は古くから全米進出のプロモーションをかけて失敗し続けていた過去があったものの、
その過去を払拭するように、95年の『レッド・ブロンクス』が全米No.1ヒットになるという快挙を成し遂げたので、
本作の企画自体もジャッキー主演で映画化し易かったのだろうし、本作も早々と全米でヒットすることができたと思う。

前述したようにブレット・ラトナーなりにジャッキーへのリスペクトと、
過去のジャッキー映画への研鑽を重ねた上で撮った作品であろうということは分かるのだけれども、
冷静な心で観ると、映画の出来としてはそこまで良いわけではないし、どこか良い意味での泥臭さが無くなった。

それは、僕はクリス・タッカーがあんな騒々しいキャクラターだけど、オシャレ過ぎるようにも感じたせいもあると思う。

相棒がそんな感じだと、必然的にジャッキーも相応の身なりで登場しなければならない。
ジャッキーは衣装も利用したアクション・シーンを見せることが多くあるだけに、もっと庶民的な雰囲気でも良かったなぁ。
手錠かけられても、ハンドルごと引っこ抜いて脱出したり、それなりに面白いけど、どこかジャッキーらしさが希薄かと。

持ち前の明るさでジャッキーなりに一生懸命、クリス・タッカーと良い相棒になるよう頑張って、
良い具合のバディ・ムービーではあるのだけれども、ジャッキーらしさはもっと前面に出して欲しかったなぁと思う。

やはりカンフー・アクション自体はハリウッドのプロダクションもウケる確信はあったのだろう。
まるで『燃えよドラゴン』のブルース・リーのブームの90年代版を期待していたのかもしれませんが、
結局はジャッキーの全米進出も本作と『シャンハイ・ヌーン』が成功したくらいで、あまり後が続いていきませんでした。
今やジャッキーはハリウッド・スターの仲間入りを果たしてはいますが、00年代半ばには拠点をアジアへ戻しました。
(しかし、今でも全米ではアジア系の俳優としての知名度は高く、根強い人気があるようだ)

最近は政治的な発言で、香港を賑わせているジャッキーですが、
彼が映画を撮るには、やはり香港市街地や東アジアの市場のようなゴチャっとした環境の方が、
綱渡りのようにスレスレのところを狙うアクション・シーンが映えるのでしょう。やはりハリウッドでは、そうはできません。

おそらく、ジャッキーはずっとハリウッドを目指していたはずと僕は勝手に思うのですが、
理想と現実には、やはりギャップがあったのか、完全にジャッキーの流儀で映画を撮ることはできなかったのでしょう。
それは本作に、かなり過酷で危険なスタント・アクションが無いことを見ても明らかで、スタジオの判断もあるでしょう。

上映時間としては短く、とっても観易い作品だとは思いますが、ライトなジャッキーファンにオススメです。
おそらく長くジャッキーの映画を観続けている熱心なファンには、少々物足りなさがあることは否めないと思います。

僕はジャッキー映画は好きですが、凄く熱心に追いかけているというほどではないにしろ、
そんな自分でさえ物足りなさがあって、どちらかと言えば、本作はジャッキーの夢を叶えた作品として、
応援するために観たという感じになってしまった面はあります。シリーズ化もされたので、この企画は成功でしたしね。

前述したように、本作でブレット・ラトナーが評価されたことで、
彼に大きな企画の作品の監督が舞い込んできたのでしょうし、シリアスな作品も手掛けたことで、
ブレット・ラトナーは映画監督として器用な側面を見せています。確かに本作も、上手い具合に破綻なくまとめている。

キャスティング面で実は本作、脇役がそこそこの知名度を持った役者を多く起用していたんですね。
悪役のトム・ウィルキンソンは本作以降に、名前が売れていきますが、要所で実力ある役者が固めているのは良い。

しかし、爆発物処理班のエリザベス・ペーニャにしても、カーターの上司を演じたフィリップ・ベイカー・ホールも、
爆弾密売人を演じたクリストファー・ペンも、既に故人であるという現実が、なんとも悲しい・・・。

(上映時間97分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ブレット・ラトナー
製作 ロジャー・バーンバウム
   アーサー・サーキシアン
   ジョナサン・グリックマン
脚本 ロス・ラマナ
   ジム・カウフ
撮影 アダム・グリーンバーグ
音楽 ラロ・シフリン
出演 ジャッキー・チェン
   クリス・タッカー
   エリザベス・ペーニャ
   トム・ウィルキンソン
   フィリップ・ベイカー・ホール
   マーク・ロルストン
   ツィ・マー
   ケン・レオン
   クリストファー・ペン