ニューオーリンズ・トライアル(2003年アメリカ)

Runaway Jury

う〜ん...惜しい。

アメリカ南部の都市ニューオーリンズの裁判所で展開される、
銃犯罪被害者を原告として、銃器メーカーを相手にした民事訴訟を舞台に、
選ばれた陪審員たちの討議を何とかして操ろうと暗躍するベテラン陪審コンサルタントに挑戦する謎の男女。

平気で違法行為にも乗り出し、次第に攻防がエスカレートしていく様子を描いたリーガル・サスペンス。

結論から申しますと、まずまずの面白さでしたね。
本作の監督であるゲイリー・フレダーの映画は97年の『コレクター』を最初に観て、
あまりに粗雑な映画の出来に失望させられましたが、01年の『サウンド・オブ・サイレンス』から本作へと経て、
次第にサスペンス映画の撮り方、そして演出表現が完成されてきたようで、良くなってきましたね。

チョット考えられないぐらいの豪華キャストなのですが、
本作劇場公開当時、少しだけ話題となっていたジーン・ハックマンとダスティン・ホフマンの共演が実現している。

この2人、実年齢では7歳違いで、ジーン・ハックマンの方が年上なのですが、
アクターズ・スタジオ時代から下積み生活に至るまで、一時的に共同生活をしていた過去があるだけあって、
今でも実生活での交友が深いそうなのですが、双方とも約35年にも及ぶキャリアの中で、共演経験はゼロ。
つまりは本作が初共演なわけで、後にダスティン・ホフマンは「(撮影の日は)緊張した」とコメントしている。

さすがにゲイリー・フレダーもその事実を意識してか、同一のシーンでの共演はたった1シーン。
それは映画も後半に差し掛かり、ジーン・ハックマン演じるフィッチに証言者の証言を阻止されたことを
ダスティン・ホフマン演じる原告側の弁護士ローアがトイレまで抗議しに行くシーンで実現している。

良くも悪くも本作の場合は、このシーンが映画最大の見せ場。
それは2大名優の共演という意味だけではなく、実質的な対決という構図を明確化させ、
お互いの流儀を示し合い、宣戦布告させることで双方の攻防をより活発化させた意味でもひじょうに大きい。

本来的には、陪審員たちが主導権を握るべき内容ですから、
12名の陪審員が如何にして評決に達するまで議論したかが大きな焦点となる作品なのですが、
半ば『十二人の怒れる男』みたいな内容になることを避けるためか、陪審員たちの討議をほとんどカットし、
表面化する裁判の裏側での攻防をクローズアップしたことが結果として、弊害をもたらしてしまったと思います。

まぁ正確に言えば、勿論、裏の世界での攻防をクローズアップするのは一向に構わないのですが、
陪審員の中で大きなキー・マンであるはずのニックが如何にして他の陪審員の意見を誘導するか、
そのテクニックや下準備、工作活動といった類いの描写を必要最小限にしたために、映画がどうしても弱い。

おそらくありふれた内容にしたくはなかったのだろうけれども、
こういったニックの活動や発言といったものは、もっとキチッと描くべきだったと思うんですよね。

但し、ニックらの過去、そして工作活動の計画や目的などが、
映画が進むにつれて、徐々に明らかになっていく過程はなかなか良かったと思う。
この手の映画でラストでドンデン返しにしたがるディレクターが多くて、終盤で劇的に展開させることもあるけど、
そうしてしまうと、上手くやらない限り、作り手の作為が嫌らしく感じられてしまいがちだし、
終盤に詰め込んでしまう傾向が顕著になり、映画のバランスを欠くことがありますから、
本作のように映画の前半から、小出しにしながら、タネを明かしていく手法は理想的だと思いますね。

比較的、原告側・被告側の構図も映画の前半から明らかにされており、
やたらにトリッキーなストーリー展開にして、右往左往せず、堂々と物語を語るようで作り手の自信が感じられる。

僕はサスペンス映画として、これが模範的だと思うのです。
トリッキーに語らずとも、2時間たっぷりと楽しませてくれることができるのが、映画というメディアなのです。
僕はこういう部分にこそ、小説を映画化させることの意味を見い出すことができると信じています。

僕は思わず...偉そうにも「なんだゲイリー・フレダー、やればできるじゃん」と思ってしまいました(笑)。

但し、やはり及第点は軽く超えた出来とは言え、傑作になり切れないことにも理由がある。
それは前述した、決して適性とは言えない陪審員の討議の省略、そして画面に今一つ緊張感が無い点だろう。

サスペンス映画の醍醐味と言えば、僕は如何に観客の心を刺激するものの有無だと思う。
それはどんな些細な点でもなり得るとは思っているのですが、本作にはそういった決定打が見当たらない。
せっかく豪華キャストを実現させ、ジーン・ハックマンなんかは見事な悪役像を演じ切っているが、
彼の芝居もまた、映画的なマジックが生まれるような、傑出したキャラクターにはなり切れていない。

1シーンだけでいい、映画で描かれたテーマの本質であるはずの
陪審員の討議を誘導する原告側・被告側の工作活動に絡むシーンで、突出した名シーンが撮れていれば、
おそらく映画の印象はグッと飛躍的に良くなっていただろうと想像されるだけに、ひじょうに勿体ない。

この辺は作り手のビジョンやストラテジー(戦略)が問われる部分ではあるのですが。。。

(上映時間127分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ゲイリー・フレダー
製作 ゲイリー・フレダー
    クリストファー・マンキウィッツ
    アーノン・ミルチャン
原作 ジョン・グリシャム
脚本 ブライアン・コッペルマン
    デビッド・レヴィーン
    マチュー・チャップマン
    リック・クリーブランド
撮影 ロバート・エルスウィット
編集 ウィリアム・スタインカンプ
音楽 クリストファー・ヤング
出演 ジョン・キューザック
    レイチェル・ワイズ
    ジーン・ハックマン
    ダスティン・ホフマン
    ジェレミー・ピヴェン
    ブルース・マッギル
    ブルース・デービソン
    ニック・サーシー
    クリフ・カーティス
    ジェニファー・ビールス
    ジョアンナ・ゴーイング
    ディラン・マクダーモット
    ビル・ナン
    ルイス・ガスマン