ローグ アサシン(2007年アメリカ)

Rouge Assassin

サンフランシスコで起こった、チャイニーズ・マフィアと日本のヤクザ組織の抗争に
巻き込まれたFBI捜査官と、両組織の間で悪い奴らを片っ端から殺していく、謎の中国人を描いたバイオレンス映画。

映画の出来はハッキリ言ってイマイチですが、ストーリー自体は面白いとは思いました。
ただ、ジェット・リーもハリウッド進出して久しいですが、彼の役どころもワンパターン化されてきたように見える。
そこに当時、B級アクションのイメージが定着しつつあったジェイソン・ステイサムのコンビですから、
どうしても一級品の映画という印象を与えない。随所に出てくる日本語も吹き替え丸出しだし、なんだか雑な仕事。

何故か日本のヤクザの組長として石橋 凌が出演する機会を得ましたが、
これは意図的にやっているのか、ハリウッドのスタッフがリサーチしてやったことなのか僕には分かりませんが、
日本のヤクザの組長の家で、いきなり部下と本物の日本刀を使って、チャンバラをやり始めるという奇想天外さ。
さすがにあんな危険なことをやってるヤクザはいないだろう。ましてや、組長自身が斬られる可能性もあるのだから。

この組長のヤナガワの娘ということで出演しているのが、モデルとして活躍するデヴォン 青木ですが、
彼女も彼女でまた、どこか強烈なインパクトを残します。反抗的なヤナガワ組のサンフランシスコの組員に
キレた彼女が、素早い動きでケンカ慣れしたところを見せて、「サラダを食べたいの」と凄むヘンテコなシーンがある。
しかも、「ドレッシングはかけないで、添えて」というオチをつけるなど、どこまでマジメに映画を撮ったのかが不明です。

前述したように、ヤクザの連中が喋る日本語も多くが吹き替えなせいか音声も聞き取りにくく、
21世紀に入ってからの映画なので、ハリウッド資本で日本のヤクザの現実を描こうと思えば、いくらでもできるのに
敢えてそうしなかったように見えて、この映画の作り手が一体どこまで真剣に撮っていたのか疑問に思えてくる。。。

映画の冒頭にある、マフィアに命を狙われたFBI捜査官の一家が皆殺しにされるという、
凄惨なエピソードが映画の後半になって利いてくるなど、ストーリー自体はそこそこ面白いのに、これではダメですね。

監督のフィリップ・G・アトウェルはミュージック・ビデオ出身の映像作家とのことで、
本作が映画監督としてのデビュー作でしたが、残念ながら映画の仕事は本作が最初で最後とのことで、
ハリウッドのプロダクションとしても、本作の出来を評価をしなかったのか分かりませんが、後に続きませんでしたね。

どこか安っぽいB級アクション映画ではあるので、ある程度のことは許容しないといけないと思うのですが、
そもそもジェット・リーとジェイソン・ステイサムの2人がそれぞれ、お互いの良さを打ち消し合うかのように
お互いの持ち味を生かし切れないところがツラい。この2人はお互いにアクション映画で活躍してはいますが、
お互いに得意なフィールドが違うのに、無理矢理に共演させられたという感じで、さすがに話しに無理があったと思う。

ジェイソン・ステイサムにいたっては、日本のヤクザを相手にするならと日本語を勉強して、
頑張って瀕死のヤクザに日本語で詰問するという、ヘンテコなシーンに付き合ってくれていて、これはこれで貴重だ。
しかもこれもまた...ジェイソン・ステイサムは頑張って発音したけど、なんだかよく聞き取れない言葉なのが残念。

映画のヴォリューム的には丁度良いんだけど、中身が伴ってこないのはツラいよねぇ・・・。
B級映画として楽しめるのであれば、良いと思うのだけれども、その割りに大掛かりにやろうとしてチグハグに感じる。
正直言って、この辺も映画の規模感と作り手のビジョンが今一つマッチせず、雑な仕事に感じてしまう要因だと思う。

個人的には懐かしのジョン・ローンがチャイニーズ・マフィアのボスとして登場してくるのが嬉しかった。
80年代は『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』、『ラストエンペラー』とアジアを代表するハリウッド・スターとして躍進して、
90年代前半くらいまではトップ・スターになるだろうと思われていただけに、すっかり低迷していたのが残念でした。
本作では久しぶりにここまでの規模の映画で出演したのを観ましたが、どうやら本作以降は映画出演してないですね。

どうせなら、このジョン・ローンももっと前に出てくるキャラクターとして描いて、
ジェイソン・ステイサムと闘ったりして、もっと苦しめる存在であって欲しかった。役柄の割りに、アッサリし過ぎ(笑)。

本作はある意味では、タランティーノの『キル・ビル』シリーズに影響を受けた作品なのかもしれませんね。
派手な音楽はありませんが、ヤナガワ組の描写なんかを観ていると、そう感じます。任侠というより、
ジャパニーズ・マフィアという言葉の方が似合っている感じで、作り手が敢えて劇画調に描いているようにも見える。
ただ、そうであったとしても、この出来はキビしいですよね。もっと、いろんな意味で見せ場を作る必要がありました。

ゆえに、これはあまり注目されずにアッサリとDVDリリースの段取りに流れてしまったのは仕方ないかな。
これを日本全国で拡大ロードショーして、大々的に宣伝したとしてもヒットする予感がしないんですよね・・・。

強いて言えば、ジェット・リーが女性と子どもに弱くて、常に保護する立場みたいな描き方が余計かな。
これはジェット・リーのポリシーなのか分からないですが、妙に彼の出演作品でこういうニュアンスが描かれる。
そりゃ、無意味に厳しくする必要はないし、女性と子どもに弱いのは良いけど、いちいち描かなくてもいい気がします。
本作でもジョン・ローン演じるチャイニーズ・マフィアの妻子との関わりを描くシーンがありますが、どこか既視感がある。

日本のヤクザを描いたハリウッド映画という点では、やっぱり89年の『ブラック・レイン』が際立つなぁ。
あれは日本文化に興味を持っていたリドリー・スコットが撮ったということが大きいのだろうけど、映画も良く出来ていた。

その点、本作はどうしても悪い意味でチープな雰囲気が抜けないし、前述したヤナガワの組長の娘を演じた、
デヴォン 青木が異彩を放つキャラクターなので、彼女をもっと前面に押し出せば良いのに、それもやらずに中途半端。
特にクライマックスのサンフランシスコでの対決シーンに絡ませれば良かったのに、彼女だけまるで蚊帳の外。
しかも、生首が送られてくるのを見て驚くというのも、あまりに唐突なエピソードで悪い意味で“浮いて”しまっている。
本作はこういうせっかくの尖ったキャラクターを生かそうという気がないようで、そうなってしまうとかなり苦しいです。

それならば、ジェイソン・ステイサムとジェット・リーにもっと頑張ってもらうべきでしたね。
正直言って、この手のチープなB級映画って、21世紀に入っても量産され続けているのですが、
そもそもの企画として通してしまう、ハリウッドのプロダクションもどうなんだろう・・・。やるなら、もっと徹底して欲しい。
中途半端に派手なアクションを描こうとしたり、ドラマ性を出そうとしたりするから、結果として映画が中途半端になる。

本作なんかは、監督のフィリップ・G・アトウェルももっと映画の全体をよく考えて構成して欲しかったですね。
正直言って、特徴の無い映画になってしまっていて、作り手自身が何がしたかったのかがよく分からないですね。
それでは、せっかくのキャスティングもシナリオもどんなに優れた“土台”を用意したって、全て台無しにしてしまいます。

何気にケイン・コスギが出演しているのですが、石橋 凌に耳を斬られる役であったことに加え、
せっかくのジェット・リーとの対決シーンで見せ場をもらうも、実際にこの撮影で怪我をしてしまったらしい(苦笑)。
どうせなら、もっとカッコ良い役だったら良かったのですが(笑)...ジェット・リーとの格闘シーンは嬉しかったでしょう。

いずれにしても、この悪い意味でB級映画感丸出しの安っぽさは、どうしても称賛することはできないけど、
ヘンテコな日本に関する描写や訳の分からない日本語を連発しているあたりは、違った意味で楽しめるかもしれない。

ただ、個人的には日本のヤクザの描写はもうチョット真面目にやって欲しかったなぁ。
刀を使って闘ったりしないで、普通に剣道の稽古あたりにしておいて欲しかったし、サンフランシスコで彼らが
出入りする謎の日本料理屋の掛け軸の意味不明な標語なども、いくらなんでも酷過ぎる。ちゃんとしたスタッフが
いたのかすら怪しいレヴェルだし、07年当時のアメリカ現地の日本料理屋だって、もっとまともな日本語だったと思う。

ここまで悪い意味でいい加減な描写を観てしまうと、何故に日本のヤクザを題材にしたのかが疑問に思えてくる。

だいたい、実際に警察やFBIと対決することになった奴で、「戦国時代を思い出すぜ」なんて言っちゃう、
日本のヤクザが一体何人いるのかって話しで、そこに前述したデヴォン 青木も絡んできて、結構なカオスに感じる。

個人的にはジョン・ローンの退場が速過ぎると感じたし、彼の妻子とのエピソードに時間を割くくらいなら、
ジェイソン・ステイサムとジェット・リーの直接対決に時間を割いて欲しい。そこそこ面白い2人のチェイスがありますが、
完全に盛り上がり切る前に終わってしまう感じで、もっとこの追いかけっこで映画を盛り上げて欲しかったなぁ。
これがジェイソン・ステイサムとジェット・リーのそれぞれの持ち味を出し切れずに終わってしまった印象を拭えない。

この2人は後に『エクスペンダブルズ』でも共演してますが、『エクスペンダブルズ』ではお互いに味方でしたね・・・。

(上映時間102分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

日本公開時[PG−12]

監督 フィリップ・G・アトウェル
製作 スティーブ・チャスマン
   クリストファー・ペツェル
   ジム・トンプソン
脚本 リー・アンソニー・スミス
   グレゴリー・J・ブラッドリー
撮影 ピエール・モレル
編集 スコット・リクター
音楽 ブライアン・タイラー
出演 ジェット・リー
   ジェイソン・ステイサム
   ジョン・ローン
   デヴォン 青木
   石橋 凌
   ルイス・ガスマン
   ナディーヌ・ヴェラスケス
   ケイン・コスギ