ロマンシング・ストーン/秘宝の谷(1984年アメリカ・メキシコ合作)

Romancing The Stone

今となって忘れられてしまったような作品ですが...
これはロバート・ゼメキスの映画監督としてのベクトルを決定づけた一作として、大切にしたい作品だ。

基本、この企画はマイケル・ダグラスが主導権を握っていたのだろうと思いますが、
それまで『カッコーの巣の上で』のプロデューサーとしての方が有名で、名優カーク・ダグラスを父に持ちながら、
映画俳優としての道を歩みつつも、なかなか自分を売り出すことができていなかったマイケル・ダグラスが、
自ら主演するのにピッタリな役柄に初めて出会えて、見事にヒットさせた作品という位置づけかと思います。

もっとも、この作品はオーソドックスなアドベンチャー映画ではあるのですが、
一つ一つの“仕掛け”がシンプルでありながら、上手い演出も相まってアドベンチャー性に優れ、
映画全体としてもコミカルにテンポ良く一気に見せてくれるので、比較的、万人ウケするタイプの作品だ。

僕はそういう映画も、ある種のプログラム・ピクチャーとしては重要な役割を果たしていると思っていて、
こういう仕事を的確にこなし、そこそこのレヴェルの仕上がりにすることこそ、実は凄く難しいのではないかと思う。

事実、ロバート・ゼメキスは本作で成功したことで自信をつけ、
翌年に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のシナリオと出会い、映画化のチャンスを得ることができました。
つまり、本作での経験が無ければ、そもそも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のチャンスは無かったかもしれないし、
もっと言うならば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をあそこまで面白い作品には出来ていなかったかもしれません。

ロバート・ゼメキスは本作で、ディーン・カンディというカメラマン、
音楽のアラン・シルベストリという強力なブレーンと、初めて出会っていて、
これが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』への伏線になっていることは、紛れもない事実であるのです。

80年代前半あたりから、ハリウッドでも冒険映画が数多く製作されたのですが、
本作はCGバリバリたくさん使うという、最近のロバート・ゼメキスのようなスタンスではないので、
あくまで撮影現場のアイデア満載で、映像技術に莫大な資金を投入せずに撮った作品という感じだ。

つまり、作り手の創意工夫がダイレクトに伝わってくる映像で、好感が持てます。
別に驚くようなストーリーがあるわけではなく、お約束の結末に収まるわけですから、
尚更の映画のアプローチそのものが、映画の出来に直結すると言っても過言ではなかったと思いますね。

本作は80年代は、随分と仲良く映画共演を果たしていたマイケル・ダグラスにキャスリン・ターナー、
そしてマイケル・ダグラスと旧知の仲であったダニー・デビートの初顔合わせとなった作品だ。
本作のヒットを受けて、調子に乗って翌85年に『ナイルの宝石』を撮って、大失敗したのは玉に瑕(きず)だが、
個人的にはその失敗も含めて、彼ら3人のコンビネーションは抜群で、とても合っていたのだと思う。
(個人的には89年のダニー・デビートの監督作品『ローズ家の戦争』は、実は大好きなコメディだ)

ロマンスとアドベンチャーの配分がとても丁度良いバランスなのですが、
カルタヘナへ目指す途中で、ヒロインのジョーンと胡散臭い冒険家ジャックが立ち寄る集落で、
夜のダンス・パーティーへ行くためにジャックが服を買って着るのですが、これがまたスゴいセンスで、
なんだかディスコ・ブームの幻影を追っているかのようなシルエットで、ここはきっと笑うとこなのだと思う。

そこにダニー・デビート演じるドジな小悪党ラルフも絡もうとするのですが、
これが何故か、レストランの客とトラブルになり、終いには女性から容赦なく殴られるという展開が面白い。
ラルフの存在は、半ばお約束ではあるのですが、ロマンスの引き立て役としては最高の仕事ぶりでしょう。

アメリカの人から見ても、さすがにコロンビアは治安が悪く、渡航前は不安に感じるようですが、
そんな地で平然とジプシーのような生活をして、山奥で自由気ままに暮らすジャックは確かにスゴいかもしれない。

常に下心を覗かせながらジョーンに接しているし、宝の存在を知った途端に、
ジョーンよりも宝に気持ちが傾いていることは明白という、ハッキリ言ってどうしようもない男だ。
だからこそ、映画のクライマックスでもジョーンがピンチだというのに、他の映画と違って、
何故だかジャックは海へ逃げようとするワニを抱えるのに必死で、すぐに彼女を助けに行かない(笑)。

いや、こう聞いてしまうと、ジョーンとジャックのロマンスは成立していないように聞こえますが、
そこは上手い具合にロバート・ゼメキスもカバーしていて、ジョーンにとっては自分が勝手に執筆中に
妄想していた“理想の男”のシルエットを、ジャックに重ねるように見えているし、ジャックはジャックで
彼がジョーンと出会う前までの女性に対する目線が、ジョーンの本を読むと変わるという展開が全てを支えます。

この強引さが、本作の魅力であるとも言えるなぁと僕は思っていて、
続編の『ナイルの宝石』も本作のように破天荒というか、支離滅裂な部分はあるのだけれども、
結局をそれを補うものが何一つ描けなくって、映画として完全に崩れてしまったということがありました。

ちなみにコロンビアの山奥の怪しげな田舎町で、金持ちの男の家を訪れて、
FAXを借りるシーンで、登場するのがアルフォンソ・アラウ。彼は後に『赤い薔薇ソースの伝説』で評価され、
映画監督として活躍するのですが、この頃は俳優として活動していました。彼はジョーンの書いた小説のファンで、
何物かにジョーンらが追われていることを悟ると、愛車“ペペ”を運転して、予め敷地内に仕掛けられた、
様々なトラップを繰り出して、追っ手の追跡を交わしていくチェイス・シーンがなかなか面白い。

現実的に考えて、追跡者が地元警察の恐れられる存在であるゾロなわけですから、
このようなことをして、後からどうなるのかと思うと...チョット大変なことになる気がしますけどね・・・。

当時はスピルバーグが『インディ・ジョーンズ』シリーズという、
世界的な大ヒットを遂げた冒険映画があったからこそ、本作の“売り方”は難しかったと思う。
そういう意味では、ロマンスの色を強めて、アドベンチャーとロマンスを上手い具合に両立し、
どちらかと言えば、大人向けの冒険映画に仕上げており、これは結果的に正解だったと思いますね。

そういう意味では、シナリオを書いたのが女流脚本家ダイアン・トーマスということで、
キャスリン・ターナー演じる女流小説家ジョーンを主人公キャラクターに据えたことが、
男の視点だけで映画を進めるということにしなかったことで、他の冒険映画と一線を画すことができましたね。
(残念ながらダイアン・トーマスは本作が完成してすぐに、事故で亡くなったようですが・・・)

ジャックらが追い始める秘宝とされるエメラルドは、一見すると大したものには見えないかもしれないが、
僕はこのエメラルドのヴィジュアル・センス自体は、悪くないと思う。オモチャに入っているというのも良い。

そんなエメラルドの金額はいくらになるのか知りませんが、
そのエメラルドをワニが食べてしまって、人を襲う可能性のあるワニをなんとか捕まえようとするというのも、
よくよく考えれば奇想天外な話しであり、ワニを捕まえたところで、解剖しないと取り返せないでしょうね。

映画のクライマックスはなかなか収まり良く、良い塩梅の心地良さだ。
こういうラストに帰結できるというあたりが、ロバート・ゼメキスの手腕が評価される所以ですね。
上手く全体を見ながら、映画のバランスを整えて製作できたからこそ、こういうテイストを演出できたのだと思います。

結局、続編の『ナイルの宝石』は全くこの辺が上手くできなかっただけに、本作は光りますね。

(上映時間105分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ロバート・ゼメキス
製作 マイケル・ダグラス
脚本 ダイアン・トーマス
撮影 ディーン・カンディ
音楽 アラン・シルベストリ
出演 マイケル・ダグラス
   キャスリン・ターナー
   ダニー・デビート
   ザック・ノーマン
   アルフォンソ・アラウ
   ホーランド・テーラー
   マヌエル・オヘイダ
   メアリー・エレン・トレーナー

1984年度アカデミー編集賞 ノミネート
1984年度ロサンゼルス映画批評家賞主演女優賞(キャスリン・ターナー) 受賞
1984年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>作品賞 受賞
1984年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>主演女優賞(キャスリン・ターナー) 受賞