ローマの休日(1953年アメリカ)

Roman Holiday

名女優オードリー・ヘップバーンの名前を世界に知らしめた大出世作で、
未だにヘップバーンの代名詞として長く愛される名作として人気があり、彼女の代表作となりました。

個人的には、あまりそんなイメージは無かったのですが、
実は本作でヘップバーンはアカデミー主演女優賞を受賞しているわけで、そのインパクトからすれば当然の結果だ。

当初、このアン女王の役にはエリザベス・テーラーをキャストすることが検討されていたみたいですが、
ヘップバーンで素直に良かったと思いますね。本作のヘップバーンは妖精のような雰囲気を持っていますが、
何より彼女の着こなしの映え具合が素晴らしく、ファッション・アイコンとしてのヘップバーンは群を抜いている。

相手役となったグレゴリー・ペックは既にハリウッドでトップ・スターの道を歩んでいましたが、
そんなグレゴリー・ペックの存在感に全く負けない強さが彼女にあって、正にピッタリの女優を見つけたという感じ。
おそらくですが、監督のウィリアム・ワイラーも当時、映画女優として無名であったヘップバーンを知って、
すぐにカメラテストを実施することを決めたそうなので、本作成功のターニング・ポイントだったのでしょうね。

もともと、人間の内面に関わる描写には定評のあったウィリアム・ワイラーではありましたが、
英国王室の王女とアメリカ人新聞記者、それぞれにとって異国の地であるローマを舞台にした、
身分違いの恋を描いた映画という大前提条件があるので、特にヒロインのキャスティングは重要だったのでしょう。

また、悲恋物語というのとも違うとは思うのですが、ストーリー的にも単純ではなく、
映画のクライマックスは何とも言えない余韻が残る、当時の他の恋愛映画とはチョット違った風格が漂うのも良い。
(脚本を書いたダルトン・トランボは“赤狩り”の影響を受けて、当時、公には活動できてませんでした・・・)

世界的な観光地であるローマのロケーションの良さをフルに生かした作品なので、
本作が大ヒットしたおかげで、ローマへの憧れを強く持った人々も、当時は多かったのだろうと思います。
それくらいのインパクトと影響力があったでしょうし、ヘップバーンやグレゴリー・ペックはじめとする主要キャストたちも
実に楽しそうに撮影にのぞんでいるだけに、その雰囲気そのままにローマ訪問の疑似体験をさせるような作品だ。

本作の大きな特徴って、正にこれだと僕は思っていて、キャストたちが実に楽しそうだということ。
50年代以前の映画で、こういう雰囲気を持った映画って、希少な存在だと思う。この雰囲気を作り上げたことで
本作で描かれるローマがただの観光ムードで終わらずに、人々の胸に刻むものがある作品に昇華したのだと思う。
この境地に達したウィリアム・ワイラーの功績がとてもデカいですよ。なかなか、ここまでは出来ないものなのでね。

まぁ、王室・皇族の世界しか知らなかったロイヤリティが抜け出すというのは、現実にある話しだ。
レヴェルはチョット違う話しではありますが、日本でもかの有名な“銀ブラ事件”が起きたのが1952年のこと。
現在の上皇陛下が皇太子であったときに、当時の学友2人と目白の寮から抜け出して、銀座へ繰り出してしまい、
4時間ほど警護が陛下を見失っていたという“事件”で、当時は大きな話題となり、学友は激しく叱責されたようです。

陛下は銀座の喫茶店でコーヒーを飲み、洋菓子やでアップルパイと紅茶を楽しんだそうですが、
日本でも皇室制度について、いろいろと議論がある中ではありますが、やっぱり“普通の世界”を見てみたい、
という欲求はあるのでしょう。言ってしまえば、常に監視されているような生活環境で自由は無いですからね。

確かに生活水準は約束されていて、国民の象徴としての存在を求められているのでしょう。
私たちの生活との違いから、ゴシップや批判に晒されることもあったりはしますけど、葛藤はあるのでしょう。
本作で描かれたアン王女も、多感な年頃ということもあるのでしょうが、やはり外の世界を見たいという欲求を
どうしても抑えられないということなのでしょう。さすがに睡眠薬を打たれて、外で寝ていても保護されたのは
彼女にとってラッキーなだけなので、ご都合主義なところはありますけど、彼女の好奇心がなんとも眩しいです。

僕は本作のこのラスト、とても秀逸なものだと思います。このラストだからこそ、最後に映える。

とてもメルヘンな展開でロマンチックなロマンスを匂わせるのだけれども、
甘過ぎないラストになっていて、現実に一気に引き戻すかのような引き締まったラストで素晴らしい。
脚本の良さもあるのだろうけど、このバランスの良さはウィリアム・ワイラーの感性が冴え渡っていたのだと思う。

まるでシンデレラのように、それまでの夢のような時間の魔法が解け、現実に引き戻されるのですが、
淡い恋の後味を引っ張り過ぎない程度に余韻を残す演出で、正に名画に相応しいラストと言っていいと思います。
どこか後ろ髪ひかれながら、何か言いたげに立ち止まりそうな歩き方をするグレゴリー・ペックが絶妙に上手い!

それから仲間のカメラマンを演じたエディ・アルバートも良い味を出してますよね。
最初は物語を良くも悪くも、かき乱すキャラクターなのかなと思いきや、しっかりとサポートするかのように
ほど良い塩梅でコミカルに演じている。特に映画の後半にあるダンス・パーティーのシーンで大ゲンカになり、
ヘップバーンも暴れている様子を、しっかりとカメラで撮ったりと良い意味でやりたい放題な感じで面白い。

ただ、この“叶わぬ恋”を描いた絶妙なテイストは良いのだけれども、
確かに恋愛映画として見れば、2人が恋に落ちる過程という観点から決定打が無いというのは気になった。
時間をかけて2人がローマを楽しんでいるのは分かるけど、如何にして2人が惹かれ合っていったのかは弱い。
ウィリアム・ワイラーがもっとケアして欲しかったけど、心理描写には長けていても、ロマンスは不得手なのかな?

この物語であれば、やはり2人がお互いに恋愛感情を持って意識し始めるプロセスが重要だったと思う。
それが少々分かりにくくって、最初はアンのことを子ども扱いしていた新聞記者が彼女の正体に気付いて、
今度は自分の商売に有利に働く存在だと気付いて、なんとかスクープをモノにしようとあの手この手で彼女に近づき、
仲間の新聞記者とアンを連れて街へ繰り出したというのに、いつの間にか恋愛感情を持ったのかが不明瞭に見えた。

これは編集の問題もあったのかもしれないけど、もう少し大切に描いても良かったと思う。
何かお互いに惹かれ合うキッカケは欲しかったけど、ローマを縦横無尽に楽しんでいる様子を執拗に描いて、
いつの間にか恋に落ちていた・・・と解釈するしかないのでしょうが、ここは少々、力技だったなぁとは感じました。

そういう意味では、グレゴリー・ペックとヘップバーンという組み合わせが、僕にそう感じさせたのかもしれない。
グレゴリー・ペックと言えば、正にハリウッドの良心とでも言うべき、この時代のハリウッドを代表するスターであり、
本作の時点でヘップバーンとは違いスターであったからこそ、どこか終始、彼がリードしたポジショニングに見える。
それがどことなく態度にも出ているような感じで、彼らが最初っから最後まで、あくまで対等に映っていれば、
もっと2人の恋愛は自然なものに映ったのではないかと思う。まぁ、決してグレゴリー・ペックも悪くはないんだけどね。

本作の撮影でヘップバーンと知り合って、当時はまだ男尊女卑なハリウッドのスタジオに対して、
既にスターであったにも関わらず、自分と並列してヘップバーンをクレジットするように要求したのは、
グレゴリー・ペック自身だったと聞くし、ガンを患い余命僅かだったヘップバーンと交友を持ち続けたのも彼だ。
そう思うと、やはり本作はグレゴリー・ペックの代表作でもあるのだろう。思い入れのある仕事だったのでしょうね。

そんなグレゴリー・ペックが悪いわけはないと思いつつも、アン王女を良く言えば妹のように可愛がり、
悪く言えば子ども扱いしているようにも見えるので、どうしても突如として恋心を燃やすのは違和感があった・・・。

未だにヘップバーンが亡くなったとき、本作がテレビで追悼ロードショーとして放送されていたのを思い出す。
当時の僕は、映画に全然興味が無かったのだけれども、ヘップバーンの死は大きなニュースだったのは記憶にある。
それは本作のインパクト、ヘップバーンが打ち出したファッション・アイコンとしての強さを見れば明らかなことだろう。

余談ではありますが、本作で描かれるローマが今とあまり変わらないような印象を受けるのにビックリだ。
いや、勿論、変わっているところは変わっているけど、当時のイタリアは結構、先進的な国だったのでしょうね。
1950年代前半という時代性を考えれば、かなり洗練された時間が流れる街に映る。戦後間もない頃とは思えない。
決してイタリアが悪いとかそういうことではないのだが、当時の日本はまだまだ戦争の影響が色濃かったですからね。

こういうのを見ると、日本の高度経済成長期がもたらしたものは如何にスゴかったのかが、よく分かる。

(上映時間118分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ウィリアム・ワイラー
製作 ウィリアム・ワイラー
脚本 イアン・マクレラン・ハンター
   ジョン・ダイトン
   ダルトン・トランボ
撮影 フランク・F・プラナー
   アンリ・アルカン
編集 ロバート・スウィンク
音楽 ジョルジュ・オーリック
出演 オードリー・ヘップバーン
   グレゴリー・ペック
   エディ・アルバート
   テュリオ・カルミナティ
   パオロ・カルリーニ
   ハートリー・パワー

1953年度アカデミー作品賞 ノミネート
1953年度アカデミー主演女優賞(オードリー・ヘップバーン) 受賞
1953年度アカデミー助演男優賞(エディ・アルバート) ノミネート
1953年度アカデミー監督賞(ウィリアム・ワイラー) ノミネート
1953年度アカデミー脚色賞(イアン・マクレラン・ハンター、ジョン・ダイトン) ノミネート
1953年度アカデミー原案賞(ダルトン・トランボ) 受賞
1953年度アカデミー撮影賞<白黒部門>(フランク・F・プラナー、アンリ・アルカン) ノミネート
1953年度アカデミー美術監督・装置賞<白黒部門> ノミネート
1953年度アカデミー衣装デザイン賞<白黒部門> 受賞
1953年度アカデミー編集賞(ロバート・スウィンク) ノミネート
1953年度ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞(オードリー・ヘップバーン) 受賞
1953年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ドラマ部門>(オードリー・ヘップバーン) 受賞