ローラーボール(1975年アメリカ)

Rollerball

“ローラーボール”と呼ばれる、死亡者が発生することも当たり前の危険な競技に
打ち込むスター選手を主人公に、クラブチームのオーナーから引退勧告されたことに奮起し、
引退を誇示するものの、オーナーたちが勝手にルールを変更して、試合を開催することに疑問を抱く姿を描きます。

個人的には結構なカルトSF映画という印象なのですが、正直言って、そこまで面白くはなかった。
監督のノーマン・ジュイソンもいろんなジャンルの映画を撮る器用なディレクターですが、本作は上手くいっていない。

何故か2000年代に入ってリメークもされたのですが、辛らつな言い方をすれば、
リメークするほど魅力的なオリジナルでもないような気がするので、なんでリメークされたのかよく分からない。
内容的には70年代に流行ったSF映画の雰囲気と、この頃に流行った“殺人ゲーム”を題材にするという
映画の基本コンセプトがあるだけで、それ以外には何一つも訴求するものがなく、映画もなかなか盛り上がらない。
(敢えて、ここにも残しておくと・・・このリメーク作もあまり酷い出来で、それはそれでビックリした...)

劇中、大きなインパクトをもたらすのは、クライマックスのシーンであって、
主人公がオーナーの方法論と主張に疑問を持って、反旗を上げるかのようにオーナーが座っている辺りを
目掛けて相手選手にアタックし、殴る蹴るの暴行を加えて、オーナーの目の前で相手選手を文字通り潰して、
最後の最後は相手選手と2対1の争いになり、静まり返った客席からの歓声は無音になる中で、
淡々とトラックを滑り始めるという、なんとも世紀末感漂うラストシーンくらいで、それ以外は印象に残らないかも。

ゲームのルールはあって無いようなもの。プレーヤーはトラックをローラースケートを履いて周回しつつ、
高速でトラック内に放たれる鉄球をキャッチしては、客席寄りにあるゴールに鉄球を入れれば1ゴール。
しかし、このゲームはラグビーのように鉄球を持っているプレーヤーにタックルしてもいいし、何故かバイクに乗っている
プレーヤーもいて、バイクごと体当たりしに行ってもいい。それゆえ、プレー中に何人も命を落としているのです。

しかも映画の途中からは、更にエスカレートしていってしまい、
終いには鉄球の行方そっちのけで、いきなり相手選手に殴りかかって、リンチをして殺害するのも有りになる。
とてもじゃないけど理性的なゲームではなく、いくらエスカレートしたからとは言え、この野蛮さがヤバい。

一応、トラックをプレーヤーと一緒に周る審判もいるのですが、この審判は何を見ているのか分からない。
なんせ、リンチを加えようが、トラック内で意識を失って倒れて動かないプレーヤーがいても、平然と試合続行で
加害プレーヤーに何一つペナルティを課さず、プレーを全く止める気がないのだから、審判がいる意味が無い。

それでも人々は熱狂し、企業のスポンサーが付くという不思議な事態。
本作はそういった、過剰なまでの“ローラーボール”に対する熱狂ぶりを捉えつつ、その熱狂ぶりを利用する
クラブチームのオーナーとの攻防、どんな危険なゲームであっても、試合にかり出される選手たちの葛藤が描かれる。
特に本作の主人公のジョナサンは、“ローラーボール”に疑問を抱くようになり、次第に反乱分子のように扱われる。

もう少し深く追及して、一種独特でどこか異様な風格漂う作品になっていれば、
70年代を代表するカルト・ムービーのような位置づけに収まっていたのではないかと思っていますけど、
今のところは、そこまで深い議論を呼ぶ映画というわけでなさそうですが、作り手がもっと上手いことをやっていれば、
ひょっとすると、70年代を代表するカルト・ムービーとなりえたと思えるだけに、本作にはなんだか勿体ないですね。

言いたくはないけど、主演がジェームズ・カーンというのもシブい(笑)。
彼が時折見せる、何とも言えない感情がにじみ出る表情が忘れられないですね。ただ、キャストも地味過ぎたかも。
ふてぶてしいチームのオーナーを演じたジョン・ハウスマンも悪くはないのですが、あまり掘り下げられることなく
映画が終わってしまうので、強いインパクトは残らない。チームの経営陣が何を守ろうとしていたのかが分からず、
それを敢えてボカして描いて、一種の“マクガフィン”のように描くのであれば、それはそれでいいとは思うのだが、
本作の場合は中途半端に踏み込もうとするので、それならば悪の存在もしっかりと掘り下げて描いて欲しい。

映画の中盤に登場する、東京のチームとの試合に至っては、
謎の日本人に関する描写があって、今では色々と言われるだろうが...これは、もはや“日本”じゃない(笑)。
あまりに突飛過ぎる描き方で、僕は笑ってしまった。このハリウッドのテキトーさが、嫌われるところだろう。。。

とまぁ・・・色々と突き抜けた部分はある映画ではあるのですが、
如何にも70年代のチープなSF映画という雰囲気があるにしろ、このペースで上映時間2時間超えはキツい・・・。
監督のノーマン・ジュイソンも、何をどう描きたかったのかがハッキリせず、かなり試行錯誤して撮っている印象だ。
主人公が「妻を返してくれ!」とチームのオーナーに懇願して、一時的に帰ってくるエピソードに結構な時間を割くが、
僕はこの辺のドラマを無理に描こうとしてないで、もっとシンプルに“ローラーボール”にこだわっても良かったと思う。

これも映画の印象として、悪い意味で中途半端なものとして映ってしまった原因になっていると感じる。

何事も自由というのは大事だと思うけど、何もかもが自由で社会が成り立つのは、
よほど成熟した社会でないと難しいですね。そうでなければ、本作のようにドンドンとエスカレートしていくでしょう。
その成れの果ては、理性が利かず社会的な秩序が無い、ただの無法地帯と化してしまう恐ろしさですね。

主人公のジョナサンはスター・プレーヤーとしてファンからも愛され、チームのオーナーも彼を厚遇していたようで、
謎の引退勧告をするなど、ジョナサンを管理しようとしていましたが、それでもジョナサンの実力は確かなものらしい。
ただ、映画の中でジョナサンのプレーの巧みさは描かれず、彼のスター性がよく分からないのもいただけない。
元々、ジョナサンは心の奥底で反骨心を持つ寡黙なプレーヤーですから、何故、そこまで特別な存在になりえたのか、
映画の中でハッキリと描いて欲しかった。一人だけ突出した存在にすべきではない、と目を付けられたわけですから。

しかし、ここまで露骨ではないにしろ、現実世界でもプロスポーツ界でチームを挙げて、
スター・プレーヤーに仕立てようとする動きは、少なからずとも全ての競技にあることだと思います。
ファンあってのチームではあるので、人気選手がいることが強みになるのは分かるが、あまり露骨にやってしまうと
その“選抜”に選ばれなかった他の選手からすれば、モチベーションを下げることにつながりかねないですからね。

それでもジョナサンが活躍したということは、相当な実力があるということで、それは具体的に見たかったなぁ。
ノーマン・ジュイソンも途中から試合シーンで、球技自体はそっちのけでお互いに殺し合う描写に集中しだしたので
“ローラーボール”という競技自体の醍醐味が何であるかを、しっかりと描くことを放棄してしまったかのようだった。

とは言え、現実にこの“ローラーボール”と似たコンセプトのゲームが
日本でも『日米対抗ローラーゲーム』なるテレビ番組として放送されていたというから、正直言って驚きました。
1972年から3年間放送していたらしいので、80年代にローラーコースターなどがブームになっていましたけど、
実はその前から、こういうゲームが流行っていたのですね。アメリカでは60年代から流行していたようですね。

映画で描かれたのは2018年でした。今は既に2018年は過ぎてしまいましたが、
この映画で描かれたような世界は訪れず、生活の質を上げるツールは登場しましたが、革新的に生活水準が
上がったかと言われると、1975年と比べると、そう大きな変化は遂げていないような気がします。

とは言え、本作で描かれた2018年は麻薬が合法化されたようで、人々の生活が監視され、
それでいて反発するように人々の感情の制御が利かなくなり、“ローラーボール”のような無ルール上等の競技が
人気を博し、人々の潜在的な暴力性が炸裂する世の中となる。印象的だったのは、映画の中盤に描かれる、
大人たちの狂乱に満ちたパーティーのシーンで、いつしたレーザー銃のような銃を取り出して屋外に出て、
ケラケラ笑いながら、木を狙って銃を撃ち始めて、終いには木を焼き落としてしまうというシーンですね。

正直、こんな時代が来なくて良かったのではないかと思います。かなり根深い病的な社会に映る。
それは本作も風刺的に描いている部分であって、ノーマン・ジュイソンも少し突き放したように描いている。

それにしても...“ローラーボール”のトラックに出たら、ほぼほぼ殺されることは分かり切っていることで
相手チームとの殺し合いになるだけなのだから、そもそも試合に出る人がいなくなるのでは?と思ったのですが、
それでも出場するということは、それだけ魅力的なゲームなのでしょう。だけど、これって監督もコーチもいらなくね?

主人公の苦悩も伝わりにくく、個人的には少々、持ち上げられ過ぎの作品な気がします。。。

(上映時間124分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ノーマン・ジュイソン
製作 ノーマン・ジュイソン
原作 ウィリアム・ハリソン
脚本 ウィリアム・ハリソン
撮影 ダグラス・スローカム
編集 アンソニー・ギブス
音楽 アンドレ・プレヴィン
出演 ジェームズ・カーン
   ジョン・ハウスマン
   モード・アダムス
   モーゼス・ガン
   ラルフ・リチャードソン
   パメラ・ヘンズリー
   ジョン・ベック
   バート・クウォーク